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アトライア;VRMMOにおける水棲生物の生態観察記  作者: 桔梗谷 
第一の節 トカゲ落ちる
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 VRMMOとは数多くの小説などで夢想された一種のSFである。それはリアルすぎる質感や感触からもう一つの世界とまで呼ばれる技術であり、ある種科学の到達点ともいえる技術であった。仮想空間内では人体に対する影響は限りなくカットされ、肉体的な損傷を受けることなく様々なことが出来、脳波スキャン、精度を求めるならば全身スキャンといったことをほんの30分足らず行うことによって、第二の自分たる分身が容易に形づくられる。

 こういった技術が欲されたのはまず、軍事や医療といった分野であった。

人体に損傷を与えることなく訓練ができるし、兵器データを取り込ませるだけで模擬戦も実践試験もなんのその。いくらでも、好きなだけ無茶ができると言われ、事実このVR技術が応用された分野は少なからずの発展を見せた。

 また、VR技術というものはその国の技術力を示すとされるようになり、VR技術の発明以後、様々な国が開発合戦を行ってきた。かくいう日本もその一つであり、VR技術の粋を凝らし、リアルな「第二の世界」を作る事に躍起になった。開発競争が進み、どんどん精巧な世界が作られていくにつれ人々は思った。

 「これはあのVRMMOの実現も夢じゃないぞ」と。

 精巧さを増す「第二の世界」が現れるにつれ、その期待を大きいものとなり、人々(主に日本人が)はVRMMOの実現を待ち望むようになった。

 VRMMOとは「第二の世界」である。そこにある意味でのリアリティは存在しえない。そこに存在するのは想像力(妄想ともいう)がすべてを成し、ありとあらゆることが可能となる世界だ。

 そこに立ち上がる国があった。そう日本である。ある意味万人の想像通りであったが、こういったサブカルチャー文化に対しての日本国の異常なまでの執着はある意味で度を越したものがあった。具体的に言うなら、国の予算をぶんどる勢いであった。

 国の威信を示すため、また、これまでの現実の世界の模倣たるVRではなく現実にはありえないことが可能となる新しい新世界を切り開くためと、建前を述べた日本国はその妄想力を爆発させながら、怒涛の勢いでVRMMOを開発していった。

 そして、ついにVRMMO第一弾「セカンドオピニオン」が発売されることとなった……。


 「セカンドオピニオン(通称”セカオピ”)」はスキル制のゲームである。

 プレイヤーたちはキャラメイク時に好きなスキルを選び、好きなプレイスタイルを実現できる。

スキルがキャラクターの能力を表し、レベルといった従来のゲームではおなじみであった概念はほとんど存在しない。スキルレベルを上げることが強くなる方法であると言われている。

 スキルを取得するためにはスキルレベルを一定まで上昇させることで入手するSPと呼ばれるものが必要となる。ただ、スキルもそうぽんぽんと簡単に手に入るものではなく、スキル石やスキルスクロールといったアイテムを入手する必要があるといった、一種のやりこみ要素でもある。

 セカオピではプレイヤーの操作キャラクターとして様々な種族の中から自分の気に入った種族を選ぶことが出来る。これは定番の種族であるエルフや獣人、ドワーフといった種族から、アンドロイドやドラゴニュート、はてはゴブリンまでがいるのだ。これはスタッフが頑張った結果ではあるが、裏話として開発部のエンジニアの一人が「俺、空飛んでみたい」と、唐突にほざいたことがきっかけである。これによって、獣人(鳥)が追加され、さらには空も飛べるなら、と様々な種族とアイテムがさらに追加される運びとなり、開発期間を大幅に延長する羽目になったそうな。それでも、開発開始から実に6年程度しかたっていないことを考えるとやはり、この人間達は変態であると言わざるを得ない。

 そんなこんないろいろなトラブルや技術的問題が様々にもあったにも関わらずここまでの速度でセカオピが完成したのにはひとえに日本全体の妄想パワーが炸裂したおかげであろう。なにせ、政府所有の量子コンピューターを一つ借り上げ、様々な科学者が自分たちのやりたい放題に妄想を好きなだけぶち込んだのである。好きこそものの上手なれとはよく言ったものである。


 さて、このセカオピはとても自由度が高いゲームである。種族は言わずもがな。職業の数は噂ではレア職合わせその数は3ケタを超えるとまで言われている。さすがにそこまでの数は無いにしろより取り見取りの数があることは開発陣からもお墨付きを受けている。そこまでの数がありながら不遇職と呼ばれる職が少ないとされているのがこのセカオピの特徴の一つである。様々な職業が存在しながら、不人気職と呼ばれるものはあれど、不遇職と呼ばれる職が存在しないのがこのセカオピのすごいところだと言われている。ベータ版ではテスターたちが様々な職業や種族について検証を重ねた結果、少なくともどの職も使えないということはない、という結論が下されたことからもそのすごさがうかがい知れるだろう。

 また、このゲームの趣旨のひとつとして、NPCとの交流も目玉とされている。

 政府から借り上げた量子コンピュータをフルに使い人工知能やアルゴリズムの研究者、心理学者にはては哲学者まで引っ張り込んで作られたAIたちはさながら「中の人」が居るかのように振る舞う。

 このNPC達との交流によってもスキルが得られる。ただ単純に敵を倒していくだけといったお使いクエスト的な動きを嫌ったためである。もっといろいろとこの世界を楽しんでほしい。セカオピはそういった願いと想いと妄想が詰まったゲームであるといえよう。 

 そんなゲームに今、一人の少年が足を踏み入れようとしている。


 

 「ふふふ、やった。やったよ。やりましたよ。遂に手に入れちゃったんだよ……」

 そう、怪しげに笑う少年は高嶺新(たかみねあらた)(よわい)17歳にして海に対して強いあこがれを持ついたって普通の高校二年生。彼こそがこの物語の主人公であり、これから約4か月、つまりゲーム内時間にして一年間のセカオピでの過ごし方を我々に見せてくれる一つの可能性なのだ。

 これは彼の約4か月間(いちねん)のプレイを綴る物語である。

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