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起
「明日は晴れるかしら」
彼女は無表情な能面顔をぴくりともさせずにそう言った。外はザアザアと強く秋雨が降っていて、たった二人で彼女と僕は放課後の教室に残っている。なぜ二人で残っているかと聞かれれば、誰もやらないような面倒事を押し付けられてしまったからだ。
「ねえ、聞いてるの?」
さっきは外を見ていたのに、今度は僕の方を真っ直ぐに見つめて更に一言。雨の音に負けてはいないけれども、聞こえずらいほど小さな声が僕の鼓膜を叩く。
僕は一旦手を止めて彼女の顔をまっすぐに見つめ、こう言った。
「聞いてるよ、てっきり独り言だと思ったから、気にしなかっただけ」
能面顔に微粒子レベルの不満と怒りを浮かべた彼女を見ながら、僕はきっと明日も雨だろうな、と他人事のように思いながら、面倒事を早く終わらせようと手の動きを再開した。