僕を変えたある出会い 中学生編
「お前、部活辞めれば?一年経っても全然上達しないし。お前なんかいらない存在なんだよっ!」
お前なんかいらないっか…。その通りだよね…。僕なんか生きてても意味ないよね…。頭の良い兄、スポーツ万能の姉、そして比べる価値のない僕。頭も悪いし、運動も中の下。あー、もうどうでもいいや。いっそ死んだ方がマシだ。バイバイくだらない世界…。僕は駅のホームから飛び降りた。電車はもうすぐ来る、すぐに死ねる。
「おい、てめー。何やってるんだ!死ぬぞ!」
あー、誰かが何かを言っている。もう関係のないことだけど…。
ファーーーン
電車の音が聞こえる。どんどん近づいてくる。これで…。
「ん、んー」
「おっ、気づいたか」
ここはどこだ?青空が見える。もしかしてと思って聞いてみた。
「もしかして、生きてる?」
「当たり前だ。俺が助けたんだ」
「僕は駅のホームから飛び降りて、電車もすぐそこだったはず…」
「あー、そうだよ。もうすぐでお前は死ぬところだった」
「じゃ、じゃあ、何で生きてるの?」
「物分り悪い奴だな〜。お前が電車に引かれる前に、向かいのホームにあげてやったんだよ」
彼は呆れ顔で僕に言った。
「何で助けたの?」
「そりゃ〜、あんなとこで事故ったら多くの人に迷惑かかるだろ。他人に迷惑かけるなんて、許されないからな」
「それで、僕を助けた…と」
「そーだけど、何か文句あんのか?」
こいつはバカなのか?あと少しで死ねたのに…。だんだん怒りが湧いてきた。
「人の気も知らないくせに!何で邪魔なんてしたんだ!あれで死ねてたら良かったのに…」
僕が怒った瞬間、バチッと頬を叩かれた。
「簡単に死ぬなんて言うな!生きたくても生きれない奴が、この世界にどんだけいると思ってんだ!」
彼はとても怒っていた。死にたいと思っていた僕に。話したことも、会ったこともなかった僕に対して。
「それに大勢の人の迷惑になるって言ってるだろ!電車が動かなくなったらどうするだ!」
「はい?」
「電車が動かなかったら、通勤、通学に使う人に迷惑がかかるだろ!」
彼はそんなことに自分の命を投げ出して、僕を助けたのか?
「電車が遅れて会社に迷惑がかかったり、遅れた人が怒られたりしたら可哀想だろ!だから、他人に迷惑かれるな!」
「ご、ごめん」
何か途中からわけがわからないことを言われた気がしたが…。一応謝っておいた。
「とにかく、死ぬなんて俺は許さない。わかったか?」
「わ、わかりました」
「は?聞こえん!」
「わかりました!」
「よろしい。あっ、学校に遅刻する。じゃあなっ」
そう言って彼はかけて行った。
はー、死ぬつもりだったのに、全然知らない奴に助けられるし、怒られるし、ホントもうイヤッ。僕は学校に少し遅刻した。
「おい、咲映。遅いぞ。もう少し早く学校に来い」
「すみません」
「もういい、席につけ。今日は転校生が来る。じゃあ、入って」
「どんな奴かな〜」
「やっぱ、可愛い女子でしょっ」
「いやいや、かっこ良い男子に決まってるって」
クラスの奴等が期待をそれぞれ口にしていた。僕には関係ないことには違いないのだが。
「おっはよーごさいまーす。俺は隣町から引っ越して来た秀希でーす。これからよろしくっ」
「きゃー、かっこ良い〜」
「チッ、男子かよ…」
男女ともそれぞれの反応をしていた。
「じゃあ、秀希くん。咲映の隣に座ってくれ」
「はーい。って、あれ?お前駅のホームから飛び降りて死のうとしてた奴じゃん」
その時初めて転校生の顔を見た。そいつは朝、自殺を邪魔した奴だった。
「な、何で君が?」
「だから、転校して来たの。わかった?」
「は、はい。わかりました」
「良かったな秀希くん。知り合いがいて」
「はい」
転校生の話題でガヤガヤしながら、ホームルームは終わった。
「おい、咲映。放課後職員室に来い」
当たり前だ。クラス全員に自殺しようとしたとこがばれたのだから。
「はい」
この町は幸来市。そして僕は幸来中学校に通っている三年生だ。簡単に自己紹介をすると、所属している部活はバスケ部。バスケ部ではイジメられ、クラスでは一人ぼっち。自殺しようとするのもわかるくらい残念な人だ。
放課後になり、職員室に行った。担任から、なぜ自殺しようと思ったのか、その他もろもろ聞かれた。先生だけでどうにかできるものではないだろに。どんなに周りが頑張っても、本人達が変わらなければ意味ないのだ。少し考えればわかることなのに…。無駄な努力をする人達だ。その日は部活を休み、真っ直ぐ家に帰った。
「ただいま」
「咲映、自殺しようとしたの?なんでそう思ったの?理由は何?」
学校から連絡があったのだろう。お母さんが慌てて聞いて来た。
「まーね、でもどうでも良くなっちゃった」
「何かあったの?」
「転校してきた、秀希って奴がもう少しって時に助けたんだよ。さらに、簡単に死ぬなんて言うなって怒られた」
「ふふ、良い子ね。秀希くんは」
「変な奴だと思うけどな」
「とにかく、もう自殺なんてしようとしたらダメよ。私たち家族はそんなこと望んでないんだからね。わかった?」
「わかったよ。もう、しようとしない」
「ただいま〜」
二人ハモってのただいまが聞こえた。兄の俊和と姉の凛だ。二人は双子でとてもそっくりだ。ただ、似ているのは顔だけで、性格や知能、運動能力は全く違う。それぞれに不得意の部分があるが、お互いに助け合っている。僕から見ても羨ましいほどだ。
「ご飯できてるわよ〜」
「はーい」
また、ハモっていた。ずっと一緒にいるが、弟の僕ですら毎回感心してしまう。やっぱり双子は兄弟とは違うものなのだろうか。
「やったー。唐揚げだ。いただきまーす」
凛はとても女子とは思えないほどよく食べる。それなのに全く太っていない。どうやったらそんな体になるのだろう。
「いただきます」
俊和はみるからのガリ勉だ。本当に良く勉強ができる。その兄から勉強を教えてもらって、成績が伸びない僕はなんなんだろう。
「お、今日は唐揚げか。欣未の料理はいつも旨そうだ」
「もう、将雄さんったら」
お父さんは普通のサラリーマンだ。お母さんもどこにでもいそうな優しい人だ。こんなに普通な家庭で過ごしている。
「ごちそうさま」
「咲映、もう良いの?」
「うん、あんまり食べる気分じゃないんだ」
今日は色々なことがあり過ぎた。早く風呂入って寝よう。
「咲映〜、ご飯よ〜」
「んっ、ん〜。もう朝か」
「早くしなさい。学校遅れるわよ〜」
「はーい」
すぐに支度をして、一階に降りた。そこには、もう食べ終わりそうな俊和と凛、そして新聞を読んでいる父がいた。母は台所で弁当を作っていた。
「ごちそうさま」
相変わらずのハモりだった。
「咲映、学校に遅刻しちゃダメだよ」
「そうだぞ。それに、もっと早く起きれば、ゆっくりご飯食べれるのに」
「そんなことどっちともわかってるよ」
僕は掻き込むようにご飯を食べ、バタバタと支度をした。急がないとヤバイ、電車に乗り遅れる。乗り遅れたら、遅刻ぎりぎりになってしまう。
「いてきます」
早過ぎて、「っ」が抜けてしまった。それより、今は駅まで走ることだ。幸い、駅までは信号がない、さらに、この時間なら走り続ければ間に合う。と、思っていた時、曲がり角で人とぶつかってしまった。
「いって〜。周り見ろよ。こっちは急いでるんだから」
「す、すみません」
顔をあげたら、そこには天敵がいた。
「あれ?咲映クンじゃん」
「君の名前は確か…」
「秀希だよ」
「ああ、そうだった」
「君も30分の電車に乗るの?」
「うん、そうだよ」
「って、こんなことしてる場合じゃね〜。走るぞ!」
「う、うん」
僕は強引に手を引っ張られながら走っていった。
「ふ〜、なんとか間に合ったな」
「ぎりぎりだったね」
僕たちは電車の中でぜーぜー言っていた。当然だろう。ぶつかってから走り出し、一回も止まらずに電車に乗り込んだのだから。少し経ってから、秀希は話しかけてきた。
「お前の家ってあそこら辺なんだな」
「うん、駅から5分もかからないよ」
「へ〜、いいな近くて。俺なんか30分はかかるぜ」
この時思った。秀希は自転車に乗っていなかった。さらに、走っていた。そっから推測すると…
「もしかして、家からずっと走って来たの?」
「ああ、時間が間に合いそうになかったからな」
当然だという顔をして言う。
「自転車は乗って来なかったの?」
「俺ん家、貧乏だからな。それで安いアパートに引っ越したら、学校も変わったわけ」
「へ〜、そうなんだ」
悪いことを聞いてしまったと思った。そしてもう一つ、こいつの体力は無限かとも思った。
「やっと学校に着いたな」
「うん、あの時はどうなるかと思ったよ」
「まー、なんとかなったからいいじゃん」
「そうだね」
昨日衝撃的な出会いをしたとは思えないくらい、仲良くなっていた。
「咲映クンは、部活とかやってるの?」
「一応バスケ部をやってるよ」
「へー、バスケかー。面白そうだもんな」
秀希は笑顔で言った。しかし、僕は部活の話となると暗くなってしまう。
「楽しくなんてないよ…。部活なんて…」
「え、なんで?」
「昨日僕が何しようとしてたか覚えてるよね?」
「ああ、自殺だろ?」
「そう、自殺。その原因なんだ…」
「なるほどな」
秀希は頷きながら言った。そして少し間を開けてこう言った。
「おし、俺もバスケ部に入る。そして、そいつらボコす」
「こんな時期に入部?そして僕をイジメている奴をボコす?」
「そ、そんなことしてる奴がいるから、自殺しようとするんだろ?だったら、そいつらを更生させればいいじゃん」
「でも、三年の四月だよ?しかも殴ったら恨まれるよ」
「そんなの気にしない。だって、あと一年だろ?」
「そうだけど…」
「それに、そのまま終わるのが俺は許せない」
「でも、秀希には関係ないよ」
「いや、関係あるね。お前がまた自殺なんてしようとしたら、たくさんの人に迷惑かかるからな」
またそこかい!とツッコミたいくらいだった。
「で、でも…」
「俺がやるって決めたんだ。だからやるっ。文句ないだろ?」
「う、うん」
こうして秀希は部活に入ることとなった。バスケ部はどうなってしまうのだろう…。
「今日からバスケ部に入部する秀希くんだ。秀希くんは三年生なので残り少ないが、みんな仲良くやってくれ」
9人の部員ははーいと返事をした。だが、なんで今の時期?や入部する必要なくない?などをこそこそ話している奴もいた。
「おし、練習始めるぞ!」
「はい!」
全員で返事をした。秀希も加わった合計10人で。
僕たちのチームは、大会ではいつも地区予選が突破できないでいた。だから、最近の練習は前より一段と厳しくなり、少しのミスでとても怒られるようになっていた。ミスをした人は、一往復ダッシュをやらされる。ダッシュが終わったら、練習に参加するのだが、ダッシュした後は思考回路も停止しそうなほど、酸欠状態になるのでまたミスをする。そして、負のスパイラルにはまっていくのだ。と言っても、はまっているのはいつも僕だけなのだが…。
「おし、練習終わり!全員で片付けをしろ」
「はい!」
今日もやっと過酷な練習が終わった。僕は一体何往復したことか…。今日もバッチリ負のスパイラルにはまってしまった。ゲーム形式の練習では、イージーシュートを外しまくって、そのチームにとても迷惑をかけてしまっていた。影では、あいつがいるとまともなプレーができない、だからあいつは嫌なんだよと毎回のように言われていた。
「咲映〜、帰ろうぜ」
「うん、すぐ着替えるね」
僕はすぐに着替えて、秀希の方へ向かった。帰り道ではやっぱり部活の話しとなった。
「いやー、練習ハードだったな」
「うん、最近は一段と厳しいよ。でも、秀希は練習終わりなのに、まだ余裕があるように見えるよ」
「まー、前の中学では県大会までは行ってたからな。あれくらいはまだ余裕かな」
「へー、僕たちのチームは予選すら通過できないくらいだから、秀希がうまいなんて知らなかったな」
「俺、ベンチだったからな」
「そうなの?結構上手く感じたんだけど」
「周りが上手過ぎたのさ」
「それはドンマイだね」
「ああ。話題変えるけど、咲映はホントにイジメられてるの?今日見てた限り、そこまでだと思ったんだけど」
「今日はたぶん秀希にみんな注目してたんだよ。だから、僕のミスとかがあんまり目立たなくて、何もされなかったんだよ」
「そんなもんかな〜」
「まあ、先生にはだいぶ怒られたけどね」
僕は苦笑いして言った。秀希もそれに対し、そうだなと答えてた。
大きな交差点に差し掛かった。
「俺、こっちだから。また明日」
と言って秀希は信号を渡った。
「また明日」
と言って僕は手を振った。そしたら、信号を渡り終えてこっちを向いた秀希が、手を振り返した。
僕は少し手を振ったあと家の方へと歩きだした。
あー、今日も全然ダメだったな。みんなに迷惑かけるからあんなこと言われるんだよな。わかってるけど、すぐには上達しないんだよな。努力はしているんだけどな〜などと思いつつ、家に帰って行った。
次の日の朝も僕は走って駅に向かうことになった。昨日のように走っていると、昨日と全く同じことが起きた。
「痛った〜」
「あうっ、すみませ…って秀希じゃないか」
「あれ?咲映じゃん。昨日と同じだな」
笑い合っている場合ではない。電車に間に合わなくなる。少し言葉を交わしただけで、僕たちは走りだした。
「間も無く電車が参ります。黄色い線までお下がり下さい」
この声が聞こえたときはまだホームへ続く階段を登っていた。
「やばいぞ!電車がくる」
「わかってるよ。本当に昨日と同じだ」
やっぱり電車にはぎりぎり間に合った。まさか二日連続でやらかすとは思ってもいなかった。それは秀希も同じだろう。今日もなかなか辛い一日となりそうだ。
「おっしゃー、咲映、部活行くぞ」
「そうだね。行こっか」
もう何人かは体育館でシュートを打っていた。練習が始まる前の自主練だ。
「練習始めるぞ!」
「はい!」
ついに過酷な練習が始まった。
「おい!なんでそんなことができないんだ!咲映、ダッシュして来い」
「はい!」
やっぱり一番始めのミスは僕だった。それからは何度もミスを繰り返すばかり。だんだん部活内の空気が悪くなっていた。
「おい。なんで今のが取れないんだよ。頑張れば取れたパスだっただろ」
「ご、ごめん」
ついにチームメイトからも注意されてしまった。でも、今のは明らかに取れなかったパスだった。
「おい、お前。今のはお前のパスが悪いだろ。俺でもあれは取れなかったぞ」
秀希が僕の気持ちを代わりに言ってくれた。自分で言えるのが一番なのだが、下手なので仕方がないと思っている。
「なんだよ、自分が上手いからって調子に乗ってんじゃねーよ」
「は?事実を言っただけだろ?」
「スタメンじゃなかった奴が口出してるんじゃねーよ。ここでは少し上手いからって」
「それは今関係ないだろ?咲映が下手だからって、自分のミスをなすりつけんじゃない」
「もういいよ。今のは僕が悪いんだよ。頑張れば取れたんだから…」
僕は喧嘩を止めようとした。僕から始まった喧嘩なのだから、あまり前だろう。だか、全然収まらなかった。
「お前はそれで良いのか?」
「よ、良くはないけど…。僕が下手なのが悪いんだよ」
「そうだ。お前が下手だからこっちはみんな苦労してんだよ!お前なんかいなくていいんだよ!」
その瞬間、秀希が健人の顔を殴った。
「痛ってーな!てめぇ、やんのか?」
「お前、くそだな。いなくていい人間なんてこの世にはいないんだよ。例え、そいつがどんな奴でも。頭悪くても、運動できなくても、体のどっかが不自由でも。この世にいない方がいい人間は存在しないだよ」
ついに先生が来た。
「お前らもう喧嘩はやめろ、今日は練習を中止する。いいな?わかったら片付けをしろ」
「はい!」
先生の一言で全員が黙って、片付けをはじめた。そして片付けが終わったあと、秀希と健人は呼び出され、ひどく叱られた。
「あーあ、何で俺が怒られないといけないんだよ。俺は正しいこと言っただけなのに…」
秀希は帰り道でもずっと愚痴を言っていた。最終的には僕にぶつかってきた。
「何で原因をつくった咲映は怒られなかったんだ?くそっ」
「あはは、何でだろうね…」
一応苦笑いしておいた。これ以上刺激してしまったら、とても抑えられそうにない。その後はあんまり会話をしなかった。交差点のところでバイバイと手を振ったくらいだった。
次の日。健人は部活に来なかった。あれだけのことをしてしまったのだから、しょうがないことだと思う。原因は僕なのだが…。それより、平然と部活に来ている秀希のメンタルがすごいと思った。練習もいつも通りこなし、昨日あったことが嘘のようだった。僕もやっぱり通常運転だったので、何回もダッシュをしていた。全く、いつになったら、この負のスパイラルから僕は抜けられるのだろう…
それから約三ヶ月が過ぎ、中学校最後の試合を迎えた。健人はあれから一回も練習には顔を出さなかった。秀希は四月に転校して来たのに、もうスタメンになっていた。健人が抜けた穴だった。
「これに勝ったら県大会だ。お前ら気合い入れていけよ」
「先生そんなことみんなわかってるって」
部長が先生に対してやる気に満ち溢れてると言わんばかりに言った。
「おし、行って来い!」
「はい!」
こうして僕らの試合が始まった。相手チームは県大会常連校。対して僕の学校は県大会など出場したことすらない。だが、今年は秀希がいる。いつもみんなを引っ張ってくれて、120%の力を発揮させてくれる。そのおかげでここまでこれた。あとは全力でやって、目標を果たすだけだ。
前半終了して三点リード。前までの僕たちだったら、あり得ないほどいい試合をしていた。だが、悲劇は突然訪れた。残り三分で試合終了のとき、秀希が派手に倒れた。いつもはすぐに立ち上がって、試合に戻るのだが、今回は何かが違った。とても痛そうにして、足首を押さえていた。
「くっ、ゔぁぁぁぁぁ」
「おい君、大丈夫か?」
慌てて審判が駆け寄った。秀希は僕が見たことのない表情をしていた。感情は表現する方だったが、あれほどまで痛がるのは初めてだった。先生も近寄って、動けるか聞いているようだ。
「二年生二人来て秀希を運んでくれ。秀希の代わりに咲映が試合に出てくれ」
いきなり呼ばれて僕はびっくりした。今まで試合に出たことのない僕が、秀希の代わりに出ることになってしまった。
「わ、悪ぃ。こんな形で咲映に代わるなんて」
「気にしないで。勝ってみせるよ。それより今は自分のことを気にしないと。秀希が、戻ってくるまで耐えとくから」
「ああ、必ず戻る」
初めての試合がこんな形の出場になるなんて…。でも、変わったからにはやるしかない。そしてエース不在の中試合は残り三分からスタートした。点差は六点。まだリードしている。このまま逃げ切って、県大会出場を決める!
「御宅のエースくん大丈夫?って言うかエース不在で勝てると思ってるの?」
「勝ってやる。秀希のためにも」
だが、僕は初めての試合でこの大舞台。完全に飲み込まれていた。体はいうことを聞かず、頭は回らない。何もできなかった。残り三十秒のとき、逆転された。僕のミスからシュートまで持って行かれた。だが、まだ時間はある。ここでいれて守り切れば勝ちだ。綺麗な形でシュートまで持って行き、ゴール下で粘ってなんとか決めた。あとは守り切るだけだ!
「守り切るぞ!」
部長が大きな声を出し、声援も一段と大きくなった。残り十秒。ボールがゴール下まで持って行かれた。そしてシュートを打たれた。
「入れぇ」
「リバウンドォ」
それぞれのチームの声が聞こえた。そしてなんと…、入ってしまった。
「いや、まだだぁー」
秀希が叫んだ。リスタートをし、僕は全力で走った。そしてフリーになり、完璧な速攻が決まった、決まったはずだった…。僕は最後のシュートをミスしてしまった。相手はいなくてプレッシャーとの勝負だった。それに僕は負けた…。
ビーーー
試合終了
僕たちは負けた。いや、正確にいえば、僕のせいで負けた。確実に決めれるはずだったシュートを外してしまったのだから…
「そう落ち込むなって。初めてだったんだろ。そういうときもあるさ」
「いや、僕が決めれば、決めてれば…」
僕は言葉に出しただけで涙がポロポロとこぼれ落ちた。自分のせいで負けてしまった。僕のせいで…
「みんな、お疲れ様。いい試合だったよ。ここまでついて来てくれてありがとう。先生はこのチームでやって来たことを、誇りに思います。三年生の人はもう終わってしまいましたが、私生活に部活で学んだことをいかし、頑張って下さい」
先生は涙を流しながら言った。その場所でみんなは少しの間泣いてしまって動けなかった。そして一番悔しがっていたのが、秀希だった。
「くそっ、俺が怪我さえしなければ、無理して出ていれば…」
「いや、お前のせいじゃない。全員の実力不足だったからだよ」
部長が励ましていた。
「それにお前、歩ける状態でもなかったしゃないか。早く病院で診てもらえよ」
「わかってる。すぐ病院に行くよ」
「先生がこのまま病院へ連れて行こう」
「あ、ありがとうございます」
「親御さんには連絡しておくから」
「わかりました」
「そういう事だ、全員立て。泣くのもいいが、そんな暇あったら前を見て歩き続けろ!いいな?」
「はい!」
「解散!」
これで中学校の部活は終わった。いや、終わらせてしまった。この後悔は一生残るだろう…
「おはよう、ってその足どうしたの?」
秀希はギブスをして学校に来ていた。もちろん、みんなの注目の的だ。
「ああ、あの後病院行ったら、骨折って言われた。あのときは派手に転けたからな」
笑いながら話していた。まさかとは思っていたけど、骨折とは…。なかなかの重症だった。
「だ、大丈夫?」
「んー、大丈夫じゃないね。いろいろと困ってるよ。通学とか」
とても困っているような顔ではなかった。でも、家から駅までは三十分。家は貧乏。とても大丈夫ではないだろう。
「通学とかどうしてるの?」
「車に決まってるじゃん。これで歩いて来たっていう奴がいるかってーの」
「そうだよね。ごめんごめん」
「終わっちまったな。部活」
「うん、僕があそこで…」
言いかけたとき、秀希が
「それは違う。全員のせいだって。俺もお前も部長も先生も、他の部員だって同んなじだよ」
「うん、そうだったね」
秀希はいつも僕をかばってくれる。本人にその気持ちがあるかはわからないが、僕にはそう思える。
「咲映って行く高校決まってる?」
「え?そんなの全然考えてないや」
「じゃぁさ、克明高校にしようぜ。なかなか弱いらしいぜ、バスケ部」
「克明高校?知らないな。バスケ強い高校に行くならまだしも、弱い高校に行くなんて、秀希には勿体無いよ」
「何言ってるんだ。這い上がるのが楽しんだろ?下から上を目指す。上から見たって面白くないよ」
「それもそうだね。おし、僕も克明高校にするよ。一緒に高校でもやろう」
「おう、もちろん!」
「でも、その前に勉強だね」
「そうだな、一番難関だぜ」
秀希は僕よりも勉強ができない。僕たちの今のレベルでは到底行くことができない高校だった。しかし、行くとなったら勉強をしっかりとしなければ。二学期から僕たちは勉強を真剣にやった。それは、今まで見たことがないくらいに真剣に…
入試が終わって、発表の日。
「お、咲映。どうだった?」
「まだ見つけてない。そっちはどうだった?」
「それがなんと………。受かって………」
「タメが長い!どうだったの?」「受かって…ました!」
「おおー、すごいじゃん。あっ、あった」
「ホントだよな?」
「うん、ほらそこ。あの番号」
「おっしゃー、これで高校も一緒にバスケできるな」
「うん、約束だからね。高校では勝つぞ!」
「目指せインハイ!」
「もっと大きく出ようよ〜。ここはやっぱり…」
「「目指せ全国優勝!」」
「だな」
「だね」
こうして僕らは同じ高校へ進学することができた。中学での失敗を高校で取り戻す!僕はこう誓い高校に入学していくのだった…
高校生編も書いて同時に投稿しようとしたのですが、事情により先に中学生編を投稿しました。本当は連載にしようとしたのですが、どこで切っていいのかわからず、短編にしてしまいました…。実際は二つに分かれてます。だから長くなってしまいました。すみません。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。初心者ですので、温かい目で読んでいってください。