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金の王子

 広場に着くと、もうそこは人でごったがえしだった。

 都の人間たちから、王国に滞在する貴族たち、田舎の村から上京してきたものたち、そして商人たちも、老若男女、貴賤貧富問わず、この場所に集まっている。

 集まった人々は、みんながやがやと何があるのか予想しあっている。

 人ごみの向こうには、人間の身長ほど高くなった場所がある。きっと、あそこで王様が何かを国民に告げるのだろう。

 少女は人ごみの薄い外側に移動すると、なんとか空いている場所を探しまた地べたに座り込んだ。

「あー、お腹減った」

 胃袋はここ一時間ほど、飽きもせずに空腹を訴え続けている。夜までは何も摂るつもりはないと言っても、聞くつもりはないようだ。しかしまあ、周りを見回してみても、血色の良さそうな人は少なかった。貴族や富豪たちはともかくとして、市民や有象無象の商人たちは、だいたいが頬が細くなっていた。みんな食料高騰の影響を少なからず受けているのだ。

 幸い水筒に水だけは蓄えていたので、乾きに悩まされることは無い。

 そうやって座り込んでぼけーっとしていると、ざわざわとまとまりのなかった喧騒が急にひとつの言葉を紡ぎはじめた。

「王子さまだ!」

「王子だと…?」

「おお、確かに、あれは殿下ではないか」

「きゃー、王子さまよ…!」

 女性の黄色い悲鳴が混じっているのはお約束というべきか。

 どうやら、登場したのは国王さまではなく王子さまだったらしい。

 らしいというのは、少女の目には檀上が見えなくなってしまったせいだった。

 人々が興奮し集団がさらに密集したせいで、小柄な少女はまわりは人垣でふさがれてしまった。立ち上がっても、見えるのは護衛の兵士が天に突きだした槍の穂先ぐらいである。

 しかし現れたのが王子となった途端、人々のこの興奮具合。どうやらその王子というのはかなりの人気モノのようだ。

 ふと、少女の脳裏に、一人のとある『王子』の顔が浮かんだ。

 しかし少女は首を振る。あれはそもそも銅像だったし、前世が王子だったからといって、今世も王子であるとは限らない。私がさっさと逃げたので、生まれ変わった先もたぶん別のところだろう。だいたい、王子だって国の数だけいるのだ。

 そんな状況で同じ王子に会うなんて、どれだけ腐れ縁だというのだ。

 少女は妙な想像を頭から消すと、どんなお触れがあるのか聞くのに集中することにした。

 王子は美しくよく響く声で、広場のものに挨拶する。

「こんにちは、今日はこの場所にあつまって頂いてありがとうございます。今日は国王陛下にかわり、僕が皆さんにとあるお知らせをすることになりました。しかし、これは国王陛下の承認を受けたことです。僕が今から言う事は国王陛下のご命令であると受け取ってください」

 国王陛下の承認を受けたというが、発表するのが王子と言うことは、きっと発案や立案は王子さま主導しているのだろう。

 王子は堂々と(声しか聞こえないが)、自分の言葉を広場の人々に聞かせていく。

「現在、長く続く日照りにより、作物の収穫量が減り、市場の食料の価格が高騰し、大きな問題となっています。わたしたちはこの問題を重く受け止め、特別な法令の制定を含め、国として対処することにしました。

 まず、今回日照りの被害を受けた村へは、この日照りが終わった2年後まで、税の免除を行います」

 まず歓声をあげたのは、上京してきた農村の人々だった。もしかしたら彼らはそんな嘆願を国王に届けようと都に来た人たちかもしれない。そんな彼らの願いは、ばっちりかなえられる形となった。

「次に今回の日照りには原因があると考えられています。それについては、僕の配下の騎士たちが対処を行うつもりです。成功すれば日照りは収まるでしょう」

 これについては、みんな戸惑った声を出した。日照りと言うのは、人災ではなく天災だ。原因も対処も普通はできるものではない。

 では、今回の日照りの原因はいったいなんだというのか。

「最後に、現在、食糧難になりかけている村や家が多数あることが報告されています。よって、この国に備蓄されている麦等を解放し、無料で支給することにします。この備蓄はみなさんを賄う分が、十分に用意されています。ご安心ください」

 これには、まわりの人々が大きな歓声、そして怒号をあげる。

 大きな歓声をあげたのは、都の人々や農民たち。そして怒号をあげたのは、商人たちである。

 彼らの買い占めた小麦は、今やクズ同然となったのである。

「おい、待ってくれ!」

「俺らが買い占めた小麦はどうなるんだ!」

 商人の集団が王子に詰め寄ろうと声をあげる。興奮したヒステリックな声に、王子は冷静に答える。

「小麦については、要望があれば一年前の市価で国が買い取らせていただきます」

 一年前というのは、古小麦がろくすっぽ売れず倉庫に眠ってた頃の価格だ。当然、商人たちがそれで納得するはずがない。

「馬鹿にするな!そんなんじゃ儲けなんてでねぇ!大損だ!」

「ふざけんな!俺たちには商売して、儲ける権利があるんだ!いくら王子だからって、それを邪魔する権利はねぇ!」

 大小の商人たちが礼儀も忘れ、王子に向かって怒号を飛ばす。王子は答える。

「確かにあなたたちには商売をして儲ける権利があります」

「そうだそうだ!」

「食料配布なんてされたら、俺たちの商売があがったりだ!」

 一度は商人たちの言葉を肯定する王子に、商人たちも勢いづく。しかし、その後続けた言葉に、そんな商人たちを黙らせる威圧感があった。

「しかし、今回の日照り以前に、流通してあった古小麦の量は三年間は国民たちを賄える量がありました。わかりますか?本来なら食糧難は、まだ起こりえなかったのです。

 それの値段を高騰させ、貧しい人や農村に暮らす人々に行き渡らせなくしたのはあなたたちです」

 王子の言葉に商人たちは黙り込む。少女の胸にも、その言葉はぐっさりと刺さった。

 買い占めたのが全体でみれば少量とはいえ、買った時期は日照り問題が表面化する以前とはいえ、少女もその高騰の助けをしたのは事実だった。

 そしてあの飢えた老人を作り出したのも、自分たち商人だったのである。

「もし、あなたたちが小麦の価格を何割ほどかあげて、利益を得ていたのなら国はそれを見過ごしたでしょう。しかし実際には、あなたたちは小麦の価格を何十倍、何百倍にも釣り上げ、人々の手の届かないものにしてしまいました。

 あなたたちに儲ける権利があると言うなら、国には国民の命を守る義務があります。今回、国が動かざるをえない理由を作ったのは、あなたたちの行動です。あなたたちがもう少し節操をもって、周りの人々を鑑みて商売をしようとしていれば、決してこんな措置をとることはなかったでしょう。これでも何かおっしゃりたいことがありますか?」

 王子の問いかけに、答えられるものはいなかった。広場は静まり返る。

 やがて静寂の中、ぱちぱちと拍手が響き渡る。それはやがて、大歓声へ変わっていく。

「王子さまー!」

「我らが誇れる殿下ー!!」

「王子さまばんざーい!」

 それが広場に集まった多くの人々の声だった。

 そんなものを見せられては、商人たちはすごすごと退散するしかない。それに聡いものは気付いただろう。自分たちの行動に国民たちが、大きな不満を募らせていたことに。

 もしそれが王子への歓声でなく、自分たちへの怒号として爆発していれば、命すら脅かされていたかもしれない。

 王子の措置は、結果的に自分たちも救っていたのだ。

「まあ、自業自得ね」

 少女も溜息をついて、この場を立ち去ろうと立ち上がった。彼女の場合、国が買い取るより安い価格で売ってしまったわけだが、まあこれも何かのバチだと思って受け入れることにした。

 もっとはやく発表してよなんて、全然思ってない。少ししか思っていない。

 水筒から少し水を含むと、歩き出す。

「さすが金の王子さまね」

「いつ見ても素敵だわ」

 去っていく中、街の女性たちの王子を褒め称える声を聞く。

(ふ~ん、金の王子ね。大層なあだ名だこと)

 少女はなんとなく最後に振り向き、ようやく視界の開けた壇上を見上げた。

「ぶー!」

 そして驚き口から思いっきり水を吹きだした。

 美しい金色の髪に、エメラルドのような緑の瞳、美しい彫刻のような造作。まさに金の王子と呼ばれるにふさわしい神々しい容姿の人間。

 しかし、少女はその姿に見覚えがあった。そう、あの王子である。

 肌こそ金箔ではないものの、顔立ちも瞳の色もほぼそのまんまであった。

(ま、また王子かよー!)

 少女は口から水をぽたぽた垂らし、まわりの人から「何、この子…」という視線を向けられながら、檀上にたたずむ『あの』王子の姿をしばし見つめ続けた。




文章が荒れすぎてますね。

読み難い箇所あったら、ご指摘いただけたら嬉しいです。ほぼ全部でもかまいませんー。

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