都会のみみず
少女が都に入ると、そこは何やらざわついた様子だった。
都会の人間と言えば国で最もいい街に住んでいるのに表通りでは無関心に歩くだけ、活気づいているのはたいてい旅人と商人の集まる区画と決まっているが、今日はなんだか様子が違う。
そこかしこで固まり話しているのは、どうみても旅装の人間たちではなかった。シミひとつない毎日洗ったあとのある服装は、都会に住んでいる人間の特徴である。
人の流れに乗りながら、こそこそと聞き耳を立ててみると。
「今日…広場で…」
「…正午に陛下から発表が…」
都会の人間は声を抑えて話すので聞き取りにくかったが、つまりはそういうことらしい。
何かのお触れがあるということだろう。
昼前には都に乗り込むつもりだったので、少し道草を食ったとはいえ時間があった。ただし、荷物はもうどこにもない。
本来ならこれから、少しでも高く売るため、お客と売る時期を見極めようとしていたところだったが、もうそんなことしなくてもいいようになってしまった。
「はぁ…何かいい儲け話が転がってないかしら…」
少女はため息をつきながら、大通りから外れていき、用水路の沿いに植えてあった木の陰にしゃがみ込んだ。日差しの強い時間帯、特に最近は日照りが続くせいで夏でもないのに熱い。
時間的にもどこかの店に立ち寄って、屋根の下でお昼でも食べたいところだが…、稼ぎの当てが無い以上、お金はあんまり使いたくないのだ。特に都会の店は高いと聞くし。
少女は一緒に木陰で涼んでいたみみずを、なんとなくつまみ上げる。
「今でも食べれるのかしら…?」
少女がそう呟いたせいか、みみずはうねうねと暴れだした。単に彼女が掴んでぶらさげているせいかもしれないが。
スズメだったときの主食はみみずだが、人間である今、食べてお腹を壊さないかはわからない。第一、たくさんあるから食べてただけで、特に味が好きだったわけではない。
「トロピカルジュース、甘い木の実、さくさくのパン…」
人間になった今でも、それらの食べ物にはまだまだ手が届きそうになかった。
翼で半年かけて飛んでいった距離は、今やこの手で登っていかなければならない経済状態の壁になった。
結局、みみずは逃がしてやりうたたねをしていると、日は丁度真上にのぼっていた。
正午である。
大通りを見ていると、そこかしこにあった固まりがほどけて、歩き出す人の流れができていた。たぶん、王様の発表を聞きに行くのだろう。
少女もお尻の土を、はらい立ち上がった。
こんなに大きく周知されることが、儲け話に繋がるとは思えないが、情報は抑えておくに限る。
情報の伝達する速度にも差がある。ある人は一日で知った情報を、他の人は一か月後に知ることもある。情報は直接(さらに上をいくなら『事前に』)聞くのが一番である。
小さな空腹を抱えた少女は、人の波に乗って広場へと向かうことにした。