天国にて
「ぎゃあああああ」
ここは天国。生きているとき良いことをした魂たちが、連れてこられる場所だった。
そんな場所に少女の悲鳴が響き渡った。藍色の長い髪を持つツバメみたいに小柄な少女だ。
彼女は頭を抱え、天国だというのに天に向かって叫んでる。
「なんなのよおおお!あいつのせいで死んじゃったじゃないいいい!うぎゃあああああああ」
一通りのけ反って甲高い叫び声をあげた少女は、今度はしゃがみ込んでぶつぶつと呟きだした。
「嫌な予感はしてたのよ。あの王子、私以外に友達いなさそうだもんね。それなのに、どんどん頼みごとしてくるし。世の中の不幸な人間助けたいって、そんなの際限なさすぎって決まってるでしょ」
「あのー」
近くにいた気弱な天使が彼女に声をかけるが、まったく聞こえた様子はない。
「エジプトに渡って、仲間たちと真夏のバカンスを楽しむ予定だったのに。ううっ、美味しい木の実にトロピカルジュース、かりかりのパンの欠片。畑に頭突っ込んでミミズを探して食べなくてもいい極楽生活がパァ!?そんなのって、そんなのってないよね!」
「あのー」
「それもこれも、ぜんぶぜんぶあいつのせいよー!あのお人よし馬鹿王子のせい!」
少女が天使の声に気付く様子はない。しかし。
「もうすぐ、王子さまもここへこられますよ」
天使の口から「王子」の言葉がでた途端、少女はようやく反応を示す。
「げっ、あいつもここにくるの!?」
顔を歪ませ、物凄く嫌そうな表情で。
「こうしちゃいられない。そうだ!」
「それでですねぇ」
「ねぇ、あんた、生まれ変わるにはどっちいけばいいの!最後にいいことしたんだから、生まれ変わる権利ぐらいあるよね!」
天使が何か話そうとするのを無視して、自分の知りたい情報を問い詰める。
「えっと、あっちですけど、その前にですね」
そして天使が一方を指差すと、天使の話が続くのにも構わず走り出した。
「またあんなお人よしにつき合わされたら、命がいくつあっても足りないわ!三十六計逃げるが勝ちね!」
「あの~、ちょっと~、まってください~。あの、あなたと王子に神様が」
少女は天使の言う事なんて聞いちゃいなかった。小さい脚を全力で動かし、天使に教えて貰った生まれ変われる場所まで走っていってしまった。
「あぁ…、いっちゃった~」
ぽつんと残された天使は茫然と呟く。
そこへ一人の美しい青年が歩いてきた。別の天使に連れられた彫像みたいに美しい青年だ。彼は天使だけしか残されてない、その場所を見渡して言った。
「あれ、ツバメさんは?」
それは天界でのお話。