表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白 桃   作者: 藍月 綾音
桃 25歳 ⅩⅣ
75/79

さっぱりして出てきた頃には、部屋中にいい匂いが漂っていた。あれ?なにか作ってくれてたのかな?

そっとキッチンを覗きみると冬馬はもういなかった。


何処に行ったんだろ。


髪を拭きながらリビングにはいっても冬馬の姿は見当たらない。

ソファに座って髪の毛を拭いていると段々悲しくなってくる。


恐かったのに。心細かったのに。

あんな冷たい態度とることないじゃないか。

だいたい、あんな時に足が痺れてたのだっていけないんだよ。私の馬鹿。

タオルを被って泣きそうになっていると、後ろから抱きしめられる。


冬馬の息遣いが頬に当たった。


もう怒ってないのかな。


「ごめん。俺が悪かった。無事で良かったって思ったのに」


ギュッと腕に力が入る。私もその腕をキュッと両手で握った。

ふと安心してしまって。涙が零れる。


「ほんとに恐かったよ」


「うん。迎えに行くのが遅くなってごめん」


しばらくそいうしていた後にボソリと冬馬が耳元で囁いた。


「桃、いい匂いがする」


「は?」


なにをいいだすんだと思って冬馬を振り返るとそのまま唇が重なった。


「ん」


なんども重なり合ううちに、ソファの上に膝立ちになり冬馬と抱き合う。

冬馬が傍にいることを確かめるように、力をいれて冬馬の体を抱きしめて深くなってきたキスに身を委ねる。

ちゃんと迎えに来てくれた。見つけてくれた。きっと青山さんと私を間違えなかったんだ。


あっ、青山さんどうなったんだろう。


ちらりとそんな事を考えたけれど、今は冬馬のキスのほうが大事だった。

まるで熱に浮かされているような熱いキスに頭の芯が蕩けていくような気がする。

体中の熱が上がっていって、冬馬の余裕がない様子に、やっぱり心配をかけたんだと胸が痛んだ。

名残惜しそうに唇が離れると、コツンと額をくっつける。至近距離に冬馬の瞳が揺らめいていた。


「お腹空いたろ。作ったから食べろよ。その間に風呂入ってくるから」


「冬馬は?」


まだ、一緒にいてほしいのに。その思いが声色にでて、普段からは考えられない甘えた声が出てしまった。

冬馬の目が細められて、そっと唇が触れ合う。


「じゃ、待ってて。詳しい話も聞きたいし、シャワー速攻で浴びてくるからさ。昨日から風呂入ってないんだよ」


「ん。わかった」


「…………………で、放してくれないと入れないんだけど」


やんわりとそう、言われてもさ。だからさ、いや、自分でもこんなキャラじゃないことはわかっているんだよ。だけど、離れたくないっていうか、不安というか。

くすりと冬馬が笑うとそれは嬉しそうに私を抱きしめる。


「いいなぁ、甘える桃。レアだな、レア。普段からこれぐらい甘えてくれたら俺、もっと幸せになれるんだけど」


「五月蝿い。冬馬が冷たくするからだよっ!恐かったのに、冬馬ともう会えなかったらどうしようかと思ったし、子供のことも不安だったのに。馬鹿っ」


「そうだよな。本当にごめん」


心配をかけたのは分かってはいるのについ文句を言いたくなってしまう。心の中で謝りつつ、一度出てしまった言葉は止まらなかった。


「昨日の夜は一晩ゴミ袋の山の物凄く臭い部屋で寝たんだからねっ!!今朝になって青山さんがいなくなってやっとあの部屋に出してもらえたんだから。ゴミ袋だったし御飯は食べれないし、最悪すぎて寝ることしかできなかったんだよ」


「ん」


「それに、壁一面に私の隠し撮りされた写真貼ってあるし、昨日は健吾さん意味全く分からないし、冬馬はいないし、一人だけど子供は守らなくちゃだし」


冬馬が私の頭を撫で始めた。私は冬馬の胸に顔を押し付ける。


「最初は殺されたらどうしようとか、冬馬心配してるだろうなとか、恐いとか、気持悪いとか、臭いとか、っっ兎に角っ!冬馬の馬鹿っ!・・・・・ずっと待ってたんだから」


「ごめんって。行ったらベットの上で膝枕してるから、なんかムカッときてたし、その上桃があいつの事悪い人じゃないとか言うから」


「しょうがないじゃん、御願いされたんだから。冬馬は嫌だろうけど、こっちは必死だよ?何時間あの体制でいたと思うのよ。あんな状況でもないかぎりしないよ」


どんだけ我慢したと思ってるんだよ。健吾さんは悪い人じゃないとは思うけど、いつ気が変わるか分からない恐怖はあったのに。


「それに、ストーカーって聞くとどっかの誰かさんを思い出しちゃうんだよ」


「はっ?あいつストーカーなのかよ。って、桃の?」


驚いたように言う冬馬に私が驚いた。青山さんからなにも聞いていないのかな?


「え?あっ、うん。ずっと私の事追いかけてたみたい。隠し撮りした写真とか山ほどあったし、私の事よく知ってたし」


「桃、それは悩まずに警察に通報するところだろ」


「だって、そんな事いったら冬馬も通報しなきゃならなくなるじゃん」


「だから、俺はストーカーじゃない。予備軍だ。ついでにアレはストーキングじゃなくて、声をかけられなくてタイミングをはかってただけ」


慌てる冬馬に少し笑いが漏れた。


「だって、秋也も春くんもまゆちゃんも冬馬にストーカーされたのかって心配してたよ?」


笑いながらそういうと、冬馬は私の頭の上に顎を乗せた。


「あのなぁ、だから予備軍なんだろ。自覚はあるんだよ。俺の愛は重たいって。だから色々自重してるだろう?」


・・・・・・自重って、なにが?

なんだか聞いちゃいけない、つーか聞かないほうが幸せなような気がしなくもなくもないんだけど。


あっ脳内変換でミスが出てる。私、動揺してる?


「俺は叶うなら、・・・・・・あくまで叶うならだぞ?桃が何処でなにをしてるとか、誰と会って何を話したのかとか、今日の昼ご飯はなにを食べたんだとか、どうでもいいことを何でも知りたいんだよ。本当ならここに閉じ込めて外に出るときは俺つきもしくは美鈴つき。俺も仕事しないで二人で家出のんびりだらだらするっていうのが俺の理想」


うわっ!駄目人間の理想だよ。


「だから、盗聴器も隠しカメラも我慢してるだろ」


・・・・・・・ごめん冬馬意味がまったく分からない。それ、我慢するとこなの?ねぇ、私のプライバシー何処にあるのさ。


「引くなよ。あくまで理想。俺の欲望つーか願望?ソレを押し付けちゃいけないって分かってる。根底にはいつもずっと桃が幸せであればいいってのが第一条件にあるんだ。だから桃の嫌がりそうな事はしない」


そう言ってキュッと腕に力を入れて顎をどけると私の顔を覗きこんだ。


「桃の幸せが一番。誰かに狙われるって分かってたのに一人にして悪かった。愛してるよ」


もう一度優しいキスがおりてくる。

ストーカー予備軍でも、まぁ、いいんだよね。ぶっちゃけ私の事好きだってことだから。

いきすぎたことはしないからさ。


「あっ、でも明日からはGPSのチップもって歩けよ。もうこんなの嫌だからな」


えっ?GPS??マジで?


「もう、こんな思いはごめんだよ。携帯のGPSなんて電源きられたり持っていかれたらおしまいだろ。一応社長婦人なんだし」


・・・・・なんか、こう、いつでも何処でも居場所がわかってラッキー的な想いが伝わってくるような気がするんだけど。


「・・・・・そっか、一緒に風呂はいろう。そうしよう。そうしたら離れなくて済むし、イチャイチャできるし」


唐突にいいこと考えた的に嬉しそうに冬馬が言から思わずその体を引き離そうとしたけれど、思いのほか冬馬の腕には力がはいっていた。


「ちょっと、私今上がってきたばかりだから」


「風呂につかっておけばオッケー。桃も幸せ。俺も幸せ。ついでにベビーも幸せ。一緒にはいらない手はないだろ」


ひょいっと私を抱え上げるとさっさとお風呂場にむかってしまう。


「ちょと、冬馬っ!本当に恥ずかしいっ!無理っ!」


「恥ずかしいとか却下。夫婦なんだし。智から聞いてるぞ相楽の趣味。だから聞かない相楽がよくて俺が駄目とかないから」


・・・・・・っ!!

馬鹿っばかっ!智の馬鹿っ!!

余計な事ばっかり冬馬に吹き込んでっ!


「ま、嫌がってもその気にさせるけど?もう決めたし」


だから、なんでたまにそんなに強気になるのよ。もうっ!


「その気にさせるって、どうやってよ」


苦し紛れにそう言うと、冬馬は嬉しそうに口元を緩ませた。


「知りたい?実行しようか?」


本当に強気なんだから。てか、余計な事いったかも私。


冬馬は嬉しそうに脱衣所の洗面台の上に私を座らせると問答無用で唇を重ねる。

先ほどから何度もキスをしているせいで体中が熱を持っているのに。

私が弱いってわかってて耳を攻めるんだ。

いつの間にか体の線を撫で始めているし。

熱くなった吐息を漏らしながら、抵抗しようにも力が入らない。


その気ってそっちのその気なのっ!!お風呂に一緒に入るとかそっちじゃないのっ!!

クタッと冬馬に身を預ければするすると服を脱がされて気付けばお風呂に沈められていた。


しまった、こういう事か。

私なんでこんなに冬馬の攻撃に弱いんだ。

なに素直に服脱がされてるのよ。ばかじゃないの。本当に。

そう思いながらもなんだか、まぁ、いいかとお湯に身を任せた。


冬馬がシャワーを浴びる音を聞きながら、お湯をすくう。


桃も幸せ、俺も幸せ、ベビーも幸せか。


うん、それがやっぱり理想だよね。こうやって冬馬には一杯いろんなものを与えられている。

なんだかんだ言っても、今日冬馬と離れたくないのは本音だし。

私どんだけ冬馬に依存してきてるんだって話なんだけど。

ヤバイ、冬馬がヤバイと思ってたけど私がやばいのかも。

ギャーっ無理っ!絶対私が私じゃなくなってる。


新たに気付いてしまった自分にブレーキをかけたいと思いつつ。私はその日一晩中冬馬と蕩けるような夜を過ごしたのだった。


いや、完全に冬馬に転がされてるよ私。


読んで頂きありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ