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白 桃   作者: 藍月 綾音
桃 25歳 ⅩⅢ
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3

「青山さんは間違ってる。いくら顔を似せたって私は私。青山さんは青山さんだもの。それに私、そんなに運があるとは思えないけど」


「あるわよ。あんないい男に囲まれて。幸せそうな顔しちゃって。本当は男が好きなんでしょ?一体どんな手を使ってるの?運と媚びでそこまで行ったのよね」


媚び・・・・・・媚びってそんな可愛いものあったら、もうちょっと拓海と上手くやっていかもしれない。


「私これから、ホテルの傍で見つけてもらって記憶喪失になる予定なの。そうしたら細かいこと気にしなくても知らないで済ませられるもの。あぁ、健吾は桃ちゃんのストーカーよ?おかげで色々な情報が手にはいったわ」


記憶喪失に、私になるって整形?

どこの漫画ってかドラマだよ。上手くいくわけないじゃないか。

ひょっとして青山さん少し状況確認が弱いのか??

しぐさや声はまね出来るのかもしれない。だけど、自分の癖や培ってきた人格を隠すのは難しいと思うけど。


冷静にそう思いながら青山さんをよく見る。

確かに背格好や、顔は似ている。

だけど、雰囲気が全然私と違うもの。

ものすごく演技が上手なのかもしれないけれど、青山さんはただの主婦だよね?


「健吾って、旦那さんじゃないの?」


気になっていた事を質問すると、青山さんがくわっと目を見開いた。

やばい、怒らせた!!不動明王のように怖い顔してるよ。


「健吾は私の弟よ。どうしようもない引きこもりのオタク。桃ちゃんって本当にデリカシーがないわよね。毎回毎回顔を会わせると笑いながら旦那がどうしたの、なにやってるのだの!」


・・・・・いやただの世間話だったんだけど。なにかいけなかったのか??


「旦那なんかとっくの昔に女作って出ていってるわよ!会うのなんか昨日のパーティーみたいに伴侶の同伴が必要な時だけ!桃ちゃんに旦那の話をされる度にどんなに屈辱だったか!!」


みるみる顔が赤くなっていく。


私は驚いて二の句がつげられなかった。

私は働いていたから、あんまり近所の人と会う機会もなくて、青山さんとは朝のゴミ出しの時に顔を合わせることが一番多かった。

そんな時に話す話題なんて、ホントに世間一般に通用するような、お天気の話しだったり、旦那の話しだったり。

拓海は旦那だと思われていたってのもあるけど、青山さんに嫌そうな雰囲気は全くなかった。

だから、屈辱的だなんて思われていたなんてさらに考えも及ばなくて。


「あの人は私を捨てたのよ。浮気をした挙句に相手に子供産ませてっ!!なによっ!!私に中々子供ができないからって!!許さない為に離婚なんかしてやらないわ」


ギッと私を睨みつける。


「その口から、旦那の話が出るたびに、なんて無神経なんだろうと思ってたわ。挙句に子供がいるかなんて聞いてきてっ!隣に住んでいればソレぐらい分かるでしょう?!」


・・・・・・・分からないよ。別に監視してるわけじゃないし、朝早くでて、夜遅い生活だもの隣人の家族構成なんか教えてもらわなきゃ分からないんだよ。


「だから、あんたなんてどうなろうと知るものですか。健吾と二人で仲良くして頂戴。私は二度とここにはこなくて済む生活を手に入れるのだから」


醜く顔を歪めて、吐き捨てるようにそういうと私が何かを言う間を与えずに、バタンと扉が勢いよく閉められ鍵がカチャリと閉められる音がした。

ちょっと思い込みが激しいけれど、友好的だった青山さんがそんな事を思っているなんて思ってみたこともなくて。

自分の何気ない言葉で彼女が傷ついていたなんて思いもしなくて。

でも、犯人が青山さんだったのならば納得がいく事もあった。

よく考えれば私が引越し先を教えたのは彼女だけだったから。

拓海の事も気になっていたから連絡先と引越し先は伝えておいたんだ。

他は誰にも言っていない。美鈴と冬馬達兄弟くらいしか知らないはずだった。


けれど、それがなんで監禁にまで話が進むんだよ。あり得ない無いでしょっ!

どうにか抜け出す方法を見つけないと。

臭気が漂うこの部屋で何日も閉じ込められるなんて真っ平ごめんだった。


青山さんが、出ていってしばらくした頃私は空腹といつまでも慣れてくれない悪臭にぐったりとしていた。

また、ガチャリと扉が開き健吾さんが入ってくる。私が起きているのを確認すると手招きをした。


「もう、帰ったから、あんた、こっち」


青山さんが帰ったからってことかな?

助けてくれると言うのだろうか。

いや、それはないか。

それでもこの部屋から出られるのはありがたかった。


苦労しながらごみ袋の上を歩いていく。バランスをとることがとても難しい。

フラフラしていると、見かねたのか健吾さんが、腕を差し出して支えになってくれる。

初めて見る顔は、長い髭に覆われていて、目尻が下がっている目しか見えない。

でも、不思議と怖いとは思わなかった。

私をこんな目に合わせているのに。

最初に謝られたことが原因かもしれない。

しかも、私の腕にをとった瞬間に顔が真っ赤になる。


なにこの人、純朴そうなんだけど。そんなことあってたまるか。私は監禁されているんだよ、監禁をしている相手が純朴なんてあり得ない。


戸惑っている私に健吾さんは、短く切るような特徴的な喋り方で、とつとつと話す。


「姉は、どうせ、すぐに、失敗、する。少しだけ、我慢して」


失敗ってと聞こうとした時に、廊下にでる。あまりの眩しさに目が眩んだ。馴れるために目をとじてやり過ごすとそっと目を開けた。

ごみ屋敷だと思っていたのに廊下には塵一つ見当たらない。思わず部屋の中と廊下を何度も見比べてしまった。


「その、部屋。姉が、用意した。すまない、あの人は、自分の、思った、とおりじゃないと、怒り出す」


そう言って見比べる私の腕をとると洗面所につれてくる。

綺麗に掃除された洗面所は、拓海と住んでいた部屋と同じだ。

着替えがにゅっと差し出された。一目見て新品と分かるそれは白いトレーナー生地のワンピースだった。


「風呂、入るといい」


そうしてパタリと洗面所の扉を閉める。けれど、逃すつもりは無いようで扉の前で腰掛けるような物音が続いた。


・・・・・・今のこの状況で風呂に入れって??


冗談じゃないと思いながらも、体に染み付くような悪臭に眉を顰めるしかなかった。


しょうがない、この匂いを落とそう。


そう思って、浴室を覗く。


あわよくば窓から抜け出そうと思ったけれど、窓の向こうは鉄格子がはめてあるのが透けて見え、窓は開かないように固定されていた。


なにが、少しの我慢よ。

閉じ込める気が満々じゃないかっ!


それでもお風呂の誘惑には勝てず、私はおとなしくお風呂に入ることにしたのだった。


・・・・・・なにが驚くって。


シャンプーもリンスもボディソープも洗顔フォームまで普段使っているものが置いてあったんだ。

その上着替えのワンピースの間に忍ばせてあった下着もサイズがピッタリ。


・・・・・・ストーカーってのはどうかと思ったけど本当かも。


沈む気持を奮い立たせて両手で頬を叩いて気合を入れる。


よし、匂いも取れしさっぱりした。後は健吾さんから事情を聞かなきゃならない。

なんだか、悪い人には見えなかったし。

・・・・・・・ストーカーだけど。


私はそっと洗面所の扉を開ける。すると健吾さんはやっぱり立って待っていた。


私を見た瞬間に目を見開いて、瞬間湯沸し器のように耳まで赤くなる。慌てたように口元を隠すと視線だけで私を案内する。

健吾さんに分からないように、コクリと喉を鳴らして緊張をまぎらわした。

今度は明るくベットやTVが置いてある部屋だ。けれども窓だけは幾重にも後付けの鍵が取り付けあり、逃がさないという意志が感じられた。


「ここ、使って。今、なにか持ってくる。寝てて」


私が中に入ると背後で扉が閉じてガチャリと鍵が閉められる。


……………まぁ、うん、監禁だし。


溜め息をついて、そっとベットに腰かけると部屋のなかを見渡す。ここは前のうちより広い。この、四畳半ほどの部屋はなかったもの。


ベットとTVの他にはキャビネットしかない。生活感がまるでないことに違和感を感じた。

念のためにキャビネットに近寄り開けて見ると、私のお気に入りの本やDVD が沢並んでいた。


だから、なんで知ってるのよ!

冬馬もストーカー気質だって言ってたけどやっぱり本物には敵わないか。

凄いやこれ。


いっそ感心していると、お盆を持った健吾さんが入ってきた。湯気がたっているお皿からいい香りが漂ってくる。

お腹がすぐに反応して、大きく音をたてた。

健吾さんの目が軽くみはられ、私はつい赤くなる。


だって、昨日もらったメロンパンあんなところで食べる気がしなくて、昨日の朝からほとんど食べてないんだよ。

今まで緊張でお腹が空いたなんて思いもしなかったけれど、おいしそうな匂いに食欲が刺激されたんだと思う。

トマトのいい香りがさ。


ベットの上にお盆を置くと健吾さんはお盆を挟んで隣に腰を下ろす。

お皿を私に突き出して、じっと私を見た。


この人、出来るだけ喋りたくないのか?無口ってやつか?


おずおずとお皿を受け取ると、たっぷりのミネストローネだった。

渡されたスプーンで冷ましながらいただく。

びっくりするほど美味しかった。あさりや、ホタテ、えびと、沢山の魚介類が入っていて出汁がよく効いている。

あっという間にそれは私のお腹におさまってしまった。

夢中で食べていたから、横からの視線に気付かず、ご馳走様をしようと健吾さんを見て私は固まってしまった。

だって、健吾さん、めちゃくちゃ緩いっていうか目じりが下がって、頬がゆるんで幸せそうに私をみているんだもの。


「あの、ご馳走様でした」


そっとそう言うと、すっと手が伸びてきてお皿を受け取るとお盆に乗せてすぐに出て行ってしまった。


・・・・・・しまった、びっくりしすぎて話しを聞くの忘れた。

なに、あの幸せそうな微笑?!私、ただ食べていただけなのに。


どぎまぎしつつも、お腹が一杯になれば眠気に襲われる。

座っている場所がベットとなればなおさらで、どうせまだ解放してくれる気はなさそうだし。


あぁ、本当に私図太いなぁ。


そう、思いながら私は眠気にに勝てずにそのまま横になり意識を飛ばしてしまった。


読んで頂きありがとうございます。

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