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あっ、捕まった。
そう思った瞬間、熱い唇が重なった。
まるで私の心をほぐすように、優しいキスは私を蕩けさせていく。
ちがうのに、こんなの違うのに。
そう思うのに。
自分で体をひねって、冬馬にしがみつくように腕を回してしまい。
冬馬のキスはどんどん深くなって私の中を優しく蕩けさせていく。
「・・・・・・・・・んふ。んんん」
甘い吐息が鼻から抜けていく頃には私はベットに身を沈めていた。
「桃、桃が好きだ。誰がなんと言おうと桃が一番可愛いし、魅力的だよ」
その、甘い吐息が首筋にかかった。
「私、どうしようもないよ?」
「なにが?俺なら桃を一人になんかさせないよ。寂しい思いもさせない。どんな桃でも好きだしね」
色々な所にキスを落としながら冬馬は囁く。
体の芯がどんどん熱くなっていって、頭がボウッとしていく。
「・・・・・・・・・あ、んんっ。ホントに・・・・・・・・・とぅっ・・・まっ……」
体中が蕩けていくような感覚は初めてで、甘えるような自分の声がいつもよりずっと甘くて・・・・・・。
冬馬のキスが、手が私をおかしくさせていく。
クスリと冬馬が笑う。
「桃、もっと・・・・・・」
何が?と聞く前に、冬馬の舌が私の舌を絡め取って、さっきよりもさらに荒く激しいキスが襲ってくる。
頬を両手で包みこまれて、足が絡まって、体が密着して。
冬馬の熱い眼差しが、熱い手が。
本当に何も考えられなくなりそうで。
冬馬の背中に手を回してシャツを握り締める。
いつの間にか、私は自分から冬馬を求めていた。
流されてる自覚がある。
それでも傷ついたこの心を冬馬が慰めてくれそうで。
家族がいなくなってしまって空いた穴を冬馬が埋めてくれそうで。
このまま、身を任せてしまってもいいのかもしれないと思う。
本当は分かっていた。
再会したその日から、間違いなく冬馬に惹かれている。
だって、忘れられなかった。
私を好きだといってくれた。
無意識に拓海とくらべてしまう自分がいたのも分かっている。
冬馬の腕は暖かくてずっと抱きしめていて欲しいと思ってしまう。
しばらく激しいキスが続いたあとに、冬馬は少し身を離して私の瞳を覗き込んだ。
その、熱に浮かされたような表情に男を否応なく感じさせられる。
ゾワリを肌が粟だった。
顔が無駄にいいから色気も半端ない。見つめられるだけで心臓が鼓動を速める。
私の顔を見て妖艶としかあらわしようのない顔で微笑んだ。
途端にさらに大きく心臓がドキリと跳ねた。
「そうゆう桃の声いいね。その顔も。今すぐにでも桃としたい。でも、今は後で桃が後悔しそうだから我慢しておく」
全く、この男は。
本当に厄介だ。
確かにこのまま体を許してしまったら私は自分を許せないかもしれない。
だって、こんなの違うもの。
冬馬とはこんな風に体を重ねたくない。
その気持ちを読み取って、実行してくれる。それが嬉しかった。
どっかの誰かさんでは絶対に出来ない。私の気持ちを優先させてくれた事なんかあったっけ?
駄目、考えちゃ駄目だって。そう思いながらも止めてくれた冬馬に感謝した。
冬馬は啄ばむ様なキスをすると、今度は意地悪そうに微笑む。
「それとも最後までしたかった?」
体に残る熱を振り払うように、私も笑う。
「・・・・・・・・・馬鹿じゃないの?」
けれど、その声は隠しようもなく甘くて。
私達はもう一度、甘く蕩けるようなキスをした。
◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇
ウーウーと携帯のバイブが鳴っている音がする。随分長い事震えてから音がプツリと消えた。
また、いつの間にか眠りに落ちていたみたいだ。
身を起こして、ぼんやりと部屋を見回すと冬馬の部屋は燃えるように赤かった。
もう、夕方か。
重い瞼を擦れば、枕元に私の洋服と下着が畳まれて置いてあるのが目に入った。
・・・・・・・・・・・・くそっ!下着見られら挙句に、洗濯乾燥されて畳まれた。
頭を抱えたくなる。
今日は冬馬に恥をさらしまっくってる気がするよ。
それでも、こんな格好のままじゃいられないからありがたくそれらを身につける。
くるりと見回しても冬馬の姿はこの部屋に無かった。
私の携帯がサイドテーブルの上に乗っていって、今、また震え始める。
携帯を手にとれば、ディスプレイにはまこさんの名前。
まこさんか。
大きく溜息をついて携帯を耳にあてた。
「もしもし?」
『ピーっ!!お前無事か?拓海と喧嘩して家飛び出したって。聞いたからつーか、もっと早く出ろよ!何時間電話かけてると思ってんだよ』
最後はホッとしたように、言われて罪悪感に少し胸が痛む。
「ごめん。ちょっと寝てた。昨日徹夜だったから。心配してくれたの?ありがとう」
『いや、それはいいんだけど、拓海が・・・・・・・・・』
私は慌てて声を出した。
「拓海の話しはしたくないし、聞きたくない。もう無理だから放っておいて」
口早にいうと、まこさんが息を呑むのが分かった。
『・・・・・・・・・俺、詳しくは聞いてないんだけど、ひょっとしてこの間のメイクの人が関わってたりする?』
あぁ、ここにも感のいいのがいるよ。あんまり、話ししたくないっていってるのに。
「まんまと騙されて、そっちに本気になったみたいよ?私は大丈夫だから気にしないで。案外平気なんだ。まこさん達はCDデビューがもうすぐなんだからそっちの心配してればいいいんだよ」
携帯の向こうで赤ん坊の泣き声がする。あぁ、今は自宅にいるのか。
『そんな事言ったってさ、まさか桃、拓海と別れるなんて本気じゃないだろ?』
まこさんが桃って言ったから、私は驚いた。今まで名前を呼ばれたことなんて数回しかないのに。
「本気だよ。もう無理だよ、自分も拓海も許せない。あんな嘘に騙されて・・・・・・・・・、拓海がついていてあげなきゃ駄目なんだって。裏を返せば私は拓海がいなくても平気って事でしょ?」
あぁ、泣きたくない。もう、泣きたくないんだよ。
出てきそうになる涙を堪えて、明るい声を出そうと努めた。
「まぁ?本当に拓海がいなくても私は平気だから拓海が言っているのは正しいんだけど。だからまこさんごめん。兎に角もう無理なんだよ」
『・・・・・・・・・桃、分かった。だからそんな声するなよ。俺達は桃の味方だから、いつでもなにかあったら言ってこいよ』
諦めたような声音でまこさんはそう言って電話をきった。
携帯のディスプレイを見れば、着信履歴が凄いことになっている。
ほとんどがまこさんと拓海だ。
また、携帯が震える。
拓海の名前が表示されていて、私は思わず電源を落とした。
声なんか聞きたくない。
顔も見たくない。
こんな私は嫌いだ。
一人でいると激しく落ち込みそうで私は冬馬を探そうと、寝室と出る。
部屋をでて周囲を見回すと、この間冬馬が言っていた二階みたいだ。
やだ、冬馬私を抱えて階段登ったの?!
自分の体重を考えて、首を振る。
いや、考えちゃいけない。
私の体重なんて、冬馬にはいまさらだって。
階段を探すとすぐにあの螺旋階段がみつかり、私は下を覗き込む。
冬馬は見当たらない。
なんとなく不安になって、リビングに下りるとやはり誰もいない。
冬馬、ドコに行ったんだろう。
買い物?
ソファに腰を下ろして、下を見る。
だから、駄目だって。
そう思っても、下を見れば自然に涙が零れ落ちてきて。
今すこしだけ情緒不安定になっているんだ。
私にゆいちゃんの半分でも可愛さがあればいいのに。
まぁ、あったところで有効活用できる気もしないけど。
だから、私は駄目なんだ。
零れ落ちる涙を止めることが出来ずに嗚咽が漏れる。
別に拓海と別れたくないとかじゃなくて、なんだか言葉にできない辛さが込み上げてきて。
なにが辛いのか良く分からずに涙だけが込み上げてくる。
だって、拓海とはもう絶対に私が無理だ。ゆいちゃんを抱いたかと思うと吐き気がする。
私が無理だと思っているのに。
なんでこんなに辛いんだろう。
訳もわからず涙が出てくる。
私は身を丸めて啜り泣いた。
遠くで扉の開く静かな音がした。
しばらくして、リビングの扉が開くと冬馬が買い物袋を持って立っていた。
泣きながら顔をあげると、冬馬が心配そうに顔をゆがめて荷物をその場に置くと私の隣に座って肩を抱き寄せてくれる。
「・・・・・・・・・・・・辛かったよな。ちゃんと気の済むまで泣けよ。いくらでも泣いていいから」
私を胸に抱き寄せて、背中を優しく撫でてくれる。
泣いてもいいと言われて、私はさらに衝動が込み上げきてもう、なにがなんだかよく分からなくなってしまって大きな声で堰をきったように泣いた。
この時ばかりは、いつもの冷静に自分を分析する自分はどこかに隠れてしまって。
とにかく、泣いて、泣きまくった。
そんな私を、ずっと抱きしめてくれた冬馬に感謝しか言葉が出てこなくて、私はずっとごめんなさいといいながら泣いていた。
ひとしきり泣いて、だんだん嗚咽がおさまってくると、冬馬は私の頭にキスと落とす。
「桃の靴買ってきたんだ。一人にしてごめん。しばらく家に泊まるといいよ。部屋もあまってるし、しばらくは桃を一人にしておけない」
顔を上げると、冬馬は笑ってハンドタオルで私の顔を優しく拭う。
「桃、鼻水でてる」
そういわれて、恥ずかしくなってしまって顔を隠そうとすると冬馬は不思議そうに私の両手を掴んだ。
「隠さなくたっていいよ。ほら、桃は鼻水垂らしてても可愛い」
んな訳あるかっ!!
あっ、ちょっと浮上したかも。
「いいよ、一人でも大丈夫」
鼻づまりの声しかでないよ。
「大丈夫じゃないだろ?俺が少し買い物に出てただけで泣くくせに」
「なっ!違うよっ!!冬馬が居ないから泣いてた訳じゃないってば!!」
そう言ってるのに、冬馬は私を抱く腕に力を入れる。
「俺とのことは落ち着いてから考えればいいから、とり合えず泊まっていけよ。俺がもう大丈夫って思えるまで傍にいて?」
・・・・・・・・・・・・耳元でそんな事囁かないで欲しい。
真っ赤になる自分の頬を自覚しながら、さっきまで泣いていたのになんて自分は現金なんだと思う。
だから、私は気づかなかった。
本当は冬馬が別の心配をしてた事を。
だけど、あんまり一人になりくないし冬馬は色んな意味で信頼出来るし甘えてしまおうか。
「じゃぁ、落ち着くまで甘えていい?」
相変わらずの鼻声で言えば冬馬は笑う。
「桃が甘えてくれるのが嬉しいんだから変な気をつかうなよ」
ガシガシと頭を撫でてくれる。
その行為にも安心感を憶えて、冬馬の優しさに自然と笑みがこぼれる。
辛くたって笑える。
冬馬がいてくれて、本当に良かった。
心からそう思った。
ぐぅぅうぅ?!
安心したらお腹が大きく鳴ってしまった!!
冬馬は思わずといった体で吹き出した。
「朝からなんにも食べてないんだろ、そう思ったから簡単に出来るもの買ってきた。今作ってやるから待ってろよ」
「じゃぁ、その間に一旦家に帰って荷物とってくる。私なんにも持ってないし」
今日は冬馬におんぶに抱っこだな。
だけど、すごく心が救われた。
冬馬のとこに化けて出てくれた兄貴に感謝だ。
「わかった、心配だからすぐに帰ってこいよ?」
ちょっと過保護じゃなかろうか、そう思ったけれど素直に頷いて冬馬が買ってきてくれた靴をおろして私は家に向った。
もう、拓海もいないだろうから、そう思って。
雨はまだ少し降っていた。
私は借りた傘をさして、アパートに帰ってきた。
家の中に入る前に、朝ものすごく散らかしたっていうか手当たりしだい物を投げつけたのを思い出して、溜息をつく。
片付けは明日でいいか。
今日はそんな気分じゃない。
玄関を開けると、部屋は薄暗くて。
拓海が居ない事に、安堵と少しの寂しさを憶えながら私は靴を脱いだ。
リビングに入って電気をつける。
あぁ、やっぱり凄い惨状だよ。なんにも考えずに物なげたからなぁ。
よし、考えない無視だ無視。
片付けは明日、とり合えず荷造りだ。
私は押入れから旅行鞄を取り出して、洋服や化粧品を鞄に積み込み始めた。
後なにが必要かな?と考えをめぐらせていると玄関が開く音がする。
ハッと顔を上げる。
なに?まさか拓海?
出て行ってって言ったのに。
まだ、会いたくない、そう思っているのに。
慌しく靴を脱ぐ音が聞こえて、拓海が寝室に飛び込んできた。
「桃!!よかった!帰って来たんだな?」
安堵したように拓海が近づいてくる。
「桃、俺が悪かった。ちゃんと話をしよう。心配したんだぞ」
けれど、私の手元の鞄を見て顔色を変える。
「桃?どこいくんだよ」
信じられないものを見るように私を凝視する拓海になんの感情もわいてこなかった。
「なにしてるの?出て行ってって言ったよね?もう、ここは拓海の家じゃないよ」
低くて、憎しみが篭った声音が出てくる。こんな声自分でも始めて聞いたよ。
拓海は顔を歪めて近づいてくると私の腕を掴んだ。
それから、縋るように私を抱き寄せる。
やっぱり悪寒が走って、私は全力で抵抗した。
「やだっ!!離してっ!!」
「桃、お願いだから話しを聞けよ」
必死な拓海の声も白々しく聞こえるだけだった。
だって、私を好きだといったその口でゆいちゃんとキスしたんだ。
私に触れたその手でゆいちゃんを抱いたんだ。
「イヤっ離してっっ!!」
叫んだ瞬間に、拓海の動きが止まった。
次の瞬間、なにかに気づいたように体を離した拓海は私の両肩を思いっきり掴んだ。
「桃っ!!お前どこ行ってたんだよ。まさか風間の所じゃないよな?これから風間の所にいくとか言わないよな!」
ギリギリと凄い力で肩を掴まれて拓海の爪が私の肩に食い込む。
「そうだったらなんだって言うのよ。もう拓海には関係ないでしょ、痛い拓海っ痛いから離して」
そう言った瞬間、拓海の中で何かが弾けたみたいに瞳の色が暗く変わった。
「・・・・・・・・・・・・・・寝たのか?」
暗い声音で搾り出すように言われ私は何もいえなかった。
さらに両肩に爪が食い込む。
「寝たのかって聞いてんだよっ!!」
「拓海に関係ない!!」
怒鳴られて、恐くて、それでも思わずそう叫んでいた。
直後に頬に痛みがはしった。
読んで頂きありがとうございます。次話、二話同日投稿になりますが、次頁は暴力表現が入ります。短いですし、話はつながるようにしてありますので、苦手なな方は次頁を飛ばして下さい。
・・・・・・・・・・・・先に謝ります。拓海好きな奇特な方いらっしゃいましたら、ごめんなさい。




