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疑問に思うより、早くヤンキーっぽいお兄さんは大きな声をだした。
「チィース!!特上五人前!毎度」
毎度じゃねぇ!玄関に置かれたのは寿司の桶。
五人前って、特上ってと言う前に領収書が差し出された。
「しめて、12500円っす」
お兄さんがちょっと恐くて頼んでないって言えなかった。
弱いぞ自分。思わずなけなしの一万円札と五千円札渡しちゃったよ。
これはアレだよね。
嫌がらせの一環だよね。
ホント、地味に嫌な事するなぁ。
玄関に広がる、ピザの匂いと大きな寿司の桶をみながら大きな溜息をついた。
ところが、それだけじゃなかった!!この後、他の寿司屋三件とピザ屋一件。ラーメン屋二件が続いてやってきた。
流石にお財布が持たないし、食べきれもしないから、こちらは全部丁寧に頭を下げて持って帰ってもらった。
しょうがないよね。本当に家は頼んでないんだもん。
途中で拓海が来てくれて、一緒に謝ってくれたから良かった。
お店の人も、結構渋々って感じだったからさ。
私が女とみて、強引におしつけようとした人もいるし、ホントにこの嫌がらせしてる奴はいい性格してるよ。
やっと、一息ついてリビングに戻ると美鈴が難しい顔をして頭を抱えていた。
「どうしたの美鈴、なんか豪華な夕飯が来たからご飯食べよう?」
問いかけると美鈴は泣きそうな顔をして私を見た。
「この人たち、ちゃんと犯罪だって分かってやってますぅ。あちこちの海外サイトを経由してアクセスしてますぅ。やっぱり一人じゃないみたいなんですけどぉ」
綺麗に整えた髪の毛をガシガシとかき回すと、早瀬をキッと睨んだ。
「なんでもっと早く連絡してきてくれないんですかっ!!さくちゃん先輩のピンチなのにぃ!!」
おっ、完全に八つ当たりか。
私は美鈴の頭を撫でてお礼を言った。
「ありがと、美鈴。やっぱり無理な事もあるから。でも色々ありがとう。仕方がないから他の方法考えるよ」
すると、キョトンとした顔をで私をみた美鈴はすぐに微笑んだ。
「やぁだ、さくちゃん先輩。大丈夫ですよぅ。今、ネット仲間に頼んで追跡中ですぅ。明日には相手の正体を突き止められますから安心してくださいよぅ。それに、さくちゃん先輩の個人情報を乗せた闇サイトは全部美鈴スペシャルを送りつけましたから」
「さっきから気になってたんだけど、美鈴スペシャルってなに?」
すると、得意げに美鈴は胸を張る。
「コンピューターウィルスですぅ。美鈴が作ったんですけど、そのサイトだけ攻撃して使い物にならなくなるウィルスですよぅ。そこのサイトのメインとサブまでトコトン破壊しますから安心してくださいね。しかも、他に移る心配皆無の安全ウィルスでぇす」
ウィルスまで自作できるの?!美鈴凄いや!!
「美鈴ありがとう。色々力になってくれて」
感謝を込めてそういうと、美鈴は私を見て微笑んだ。集中して作業をしてくれていたからか、少し疲れた顔をしている。
「いいんですよぅ。特上のお寿司いただきますからぁ。それでチャラですぅ」
「よし、それじゃぁお茶入れるね。男の人達はお寿司じゃ足りないだろうから、ピザも食べて。あっ、拓海、牧と総司を呼んであげてよ。流石に量が多すぎるからさ」
パソコンを片付け始めた美鈴達を見てからキッチンへお茶を淹れに入ってお湯を沸かすと冬馬が先ほどの紅茶のセットを持ってきた。
「あぁ、ありがとう。ソコに置いておいて後で洗うから」
本当にまめな男だね。これはまゆちゃんの教育の賜物だろうね。
私がティセットを洗い始めると干してあった布巾を手に冬馬は私の隣にたつ。
「いいよ、手伝う。PCの片付け終わったし」
ん?なんか不機嫌?と少し思ったけれど丁度いいからお礼を今のうちに言っておこう。
「今日は本当にありがとう。休みなのに来てくれて。それにさっき智からかばってくれてありがとう。嬉しかった」
ちょっと照れるけれど、ちゃんと言葉にしなければ伝わらないしね。
「いや、なんかなんの力にもなれなくてごめん。結局俺役立たずだったし」
冬馬を仰ぎみると悔しそうに顔を歪めていて、胸の奥がきゅぅと鳴る。
やだ、今眼鏡かけてないのに。
このなんとも言えない、やるせない表情に胸がキュンとなる。
「そんなことないよ。本当に嬉しかったし、感謝している、そんな顔しないでよ」
元気をだしてもらおうとして、手が塞がっていたので、体当たりをして冬馬を押した。
「なんだよ、痛いだろ」
冬馬も私を体で押す。
「なんか私が悪い事したみたいじゃん」
そう言ってまた押し返して、また押されてをしばらく繰り返すとどちらともなく笑いが漏れた。
「ホント、イヤになるくらい桃は変わらないよな」
「なにそれ、大人っぽくなって女らしくなったでしょうが」
「相変わらず、ストレートで素直だなって事だよ。それが桃のいいところ。それより、朝の事ってなんだよ」
あぁ、そういえば冬馬達には言ってなかったかも。
「んー、朝起きたら玄関前に大量の生ゴミがちらばってたんだよ。労力いるでしょ?」
「なにそれ、酷いな。じゃぁ、今日は散々だったんだな」
カップを拭きながら冬馬は、私を労るように言ってくれる。
ちょっとだけ照れ臭くなって、もう一度冬馬に軽く体当たりをした。
「なに照れてんだよ。そういう可愛い顔するなって」
かっかっ!!だから、天然タラシは!
何も言えなくなってしまい、丁度沸き上がったお湯に助けられて、私は緑茶を淹れる事にした。
シュンシュンと音をたてて、台所が湯気で暖かくなる。
不意に今の私の心と一緒だと思った。
早瀬や美鈴、智に冬馬。
人の優しさや思いやりに触れて、じんわりと心が暖かくなった。
一人じゃないって、こんなにも優しい気持ちになれる。
一時期、どうしようもなく孤独感に襲われた時期があった。
拓海が帰ってこなくて、そんな時は『S』のメンバーも寄り付かなくて。
普段にぎやかなこの家も、静まりかえって余計に淋しく感じた。
仕事が終わって、食べてもらえるかも分からない食事を作る。
冷めていく食事を前に、拓海に電話をすることもできなくて。
そんな時が一番、あぁ一人だなと思った。
外食で済ませればいいのに、拓海が帰ってくるかもしれないと思うとそれもできなくて。
夜更けに冷めていくご飯を眺めていると、無理やり明るい気持ちに持っていかなければ遣り切れなかった。
それが、今日は大勢の人がいてそれも皆私の為に来てくれていて。
確かに散々で、悪いことが重なった日ではあるけれど。
こうやって、心配してくれて、駆けつけてくれる人がいる事を知った嬉しい日でもあるよね。
これなんて言うんだっけ?
そうそう、災い転じて福となる?
そんな気持ちだよ。
「桃、これドコにしまえばいい?」
気づけば冬馬は拭き終わったティーセットを重ねて持っていた。
「あぁ、ありがとう。テーブルの上に置いておいてくれれば後で片付けるから。お客様なのに手伝わせてしまってごめんね」
緑茶の缶を出しながらそういうと、冬馬はふと目元を緩ませた。
「俺の中で桃は家族のくくりだから」
さらっとそういうと、ティーセットを置いてリビングに戻ってしまった。
え?あれ?今のどういう意味なの?
家族って言った?
冬馬の言葉にちょっと動揺しながら私はベランダからなかなか戻ってこない拓海のことを気にかけていなかった。
相手の思う壺にはまっていたことに全く気づかなかったんだ。
◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇
私は結局、携帯の番号もメールのアドレスも変えることにして、どうせならと新規でとスマートフォンにしてしまった。
美鈴の一言で私の心配はあっけなく解消されたんだ。
「携帯の下四桁なら選べますよぅ。連番じゃない限り融通ききますからぁ、ためしに聞いてみればいいじゃないですかぁ」
と言われ翌日すぐに携帯ショップに相談に行ったんだ。
もう何年も、携帯の機種変えてなかったからね。
カルチャーショックだよ。
自分じゃ若いと思っていたのにっ!!なにこの、携帯の進化!!
スマホを片手に、がっくりとしてしまった。
世の中便利になりすぎている気がするんだけどなぁ。
しまった、この発言自体がおばさんかもっ。
「さくちゃん先輩、聞いてますかぁ?」
美鈴の声で我に返る。
そうだった、美鈴から報告聞いているんだった。
今日は、月曜日。早速、土日で分かったことを教えてくれるというので、美鈴と早瀬と冬馬でランチにきているのだ。
「ぜぇんぶ、男の人達でしたね。片っ端からアダルトサイトに登録を繰り返していた人が七人いましたけどぉ、さくちゃん先輩憶えはないですかぁ?」
わたされたリストには、名前と住所、それに電話番号まで記されいる。
「すごい、ここまで分かるの?!う~ん、知っている人はいなけれど。なんで私の写真持っていたんだろ?」
写真の一言で思い出しのか、冬馬の顔が赤く染まる。
思い出すなっつーの。
思わずテーブルの下で脛を蹴り上げた。
「って、桃っ!!」
非難の声を上げる冬馬を無視して、リストを美鈴に返す。
「一応、その人たちのパソコンは当分使えないように美鈴スペシャルお見舞いしておいたので懲りたと思いますよぅ?」
「ありがとう、美鈴。」
流石だ!美鈴。
「なんだかぁ、PCのメールとかでは怪しいものはなかったんですよぅ。携帯のメールで連絡取り合ってたんですかね?」
「そっちはひと段落としても、昨日も今朝も生ゴミの嫌がらせはあったんだろ?こっちも問題だよな」
早瀬が大きな口でとんかつにかぶりついた。
私も味噌汁とすすりながら頷く。
今日は、近くの定食屋さんに来ていた。
うちの会社の女子はめったに来ないから。お洒落なイタリアンとかカフェとか好きな人のほうが多いからね。
サラリーマン御用達の定食屋にはめったに足を運ばない。
私と美鈴は安さに引かれて、常連だけど。だって、390円で定食が食べれるんだよ?
しかも、美味しいときた。これを逃すなんてとてもじゃないけど出来るはずもなかった。
「ん~、美味しい!!冬馬、とんかつ一枚頂戴。私の鶏肉一個あげるから」
ひょいと皿の上に鶏肉をのせれば、冬馬も私のお皿にとんかつを乗せてくれた。
柔らかくてここのとんかつも好きなんだけど、カロリーがね。
まだ、お昼だからね。
でも、食べたいじゃん。
「お前の話しだろうが、ちゃんと聞けよ」
と早瀬が言えば、
「桃は本当になんでも美味しそうに食べるよね?」
と冬馬が微笑む。
あっ、冬馬が早瀬に殴られた。
「だから、話を逸らすなっての」
・・・・・・・・・ごめんなさい。
「そっちは、玄関にセンサーライトをつけてみようと思ってるんだ。玄関前に立ったら明るくなるやつ。寝ないで見張るのは無理だと気づいたし」
どうしても眠くてね。睡魔に勝てないのですよ。
「あぁ、それもいい手かもな。それじゃ、その後も経過も忘れずに教えろよ?」
早瀬は、食べ終わった食器をまとめながらそう言った。
相変わらず早食いだよ。
「あっ、そだ。さくちゃん先輩っ!一生のお願いです!智さんとデート取り付けてください!!」
突然美鈴が言い出すから、思わず味噌汁を吹きそうになった。
智?って、智?!だって、この間猫被ってなかったよね?
腹の中真っ黒けっけですっ!
って顔にも言動にも表れてたよね?
「なんで?!アレはあんまりお勧めしないよ?それに、超がつく貧乏だから美鈴のお眼鏡に叶うとはとてもじゃなけど思えない」
「あの、俺サドッ気ありますって雰囲気が好きなんですよねぇ。あぁゆう雰囲気醸し出してる男の人を屈服させた瞬間がなんとも言えない幸せなんですよぅ」
・・・・・・・・・SをMに変えるって事でいいんだろうか?
なんかうっとりと頬染めながら言ってるけど、内容は殺伐としてるよね?
自分はSを凌ぐSですって言ってるんだよね?
・・・・・・待てよ。
そうか、美鈴に智を任せればあの腹黒さも少しは良くなるのかもしれない。
ちょっと光明が見えて、私は美鈴の手をとった。
「よろしくお願いします!アレ、何とかしてください」
「桃、智売ると後で恐いぞ」
すっかり智と仲良くなってしまった冬馬が呆れたように言う。
「冬馬は知らないからっ!智ってば私の事パシリだと思ってるからね?都合よく使われてるから私っ!!」
その日、私は早速美鈴と智の間をもつべく智に連絡したのだった。
読んで頂きありがとうございます。次回投稿は二話同日投稿になります。お気をつけ下さい。




