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白 桃   作者: 藍月 綾音
桃 25歳 Ⅶ
35/79

「なんか、変な事がメールに………。今日の5時でどうですかって。ホッホテルで待ち合わせって。淫乱だの、激しいプレイだの。意味がわかんない」


拓海は顔色を変えずに携帯を私の手の中からそっと取り出して震える携帯を開いた。

しばらく無言で操作していてしばらくすると携帯は震えなくなった。

その後もカチャカチャと携帯を操作する音だけが響く。

しばらくしてから拓海が大きな溜息をついた。それから、自分の携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。


「はよ。あぁ?!別れねぇっつーの。馬鹿いうなよな、そんな事より調べて欲しいことがあんだけど。桃の携番とメアドが多分ネットで流れるみたいなんだけど?お前そゆーの得意だろ?じゃ、よろしく」


パチンと携帯を閉じると拓海は私に向き直る。


「聞いてただろ?そゆこと。この携帯は解約したほうがいいと思うけど?」


……………解約?!って解約?

番号に思いいれがあるんだけど。


「解約しないとどうなるの?」


「エロい電話とメールがもれなくついてくるかな?」


拓海は鼻に皺をよせた。


「生ゴミといい、コレといい。なんか悪意を感じるよなぁ。てか、桃の携番とメアド知ってる奴には間違いないと思うけど」


………私が教えるくらいの仲の人って事?

その人が私の事を恨みに思ってるって事なのかな。ゾッとする。知らないうちに恨みを買うことならあるだろうけど、嫌がらせをされるほどの恨みに覚えがなかった。


あぁ、でもさやかがいるな。あと、メールの四人。

だけど私の住所を知っているとは思えない。

そう、冷静に考えれば実はさやかも家を知っているはずはなかった。

よって、生ゴミは本当に心当たりがなかったりする。


拓海もいろいろ恨みを買っていても可笑しくないけど、別れるのか上手そうっちゃ上手そう?でもぁ、あんなメールや電話がくるぐらいだしなぁ。


「桃、考えても仕方ないからご飯食べようぜ?スープとオムレツまた冷めるし」


ふんわりと後ろから抱きしめられてちょっとだけ、そう本当にちょっとだけだけど心が軽くなる気がする。

私を安心させるように、手を握り耳元で忍び笑いを漏らす。


ん?なんか嫌な笑いだよ?


「桃、昨日風呂入ってないし化粧も落としてないだろ。お肌が荒れてるよ。飯食ったら久々に一緒に風呂入ろ。綺麗にしてやるよ」


「ばっ!!昼間っからなに言ってるのよっ!」


「別に、風呂はいるだけだろ。なにが昼間っからなんだよ。目も腫れてるし、ついでにスペシャル美顔マッサージしてやるよ」


そう言って私の頬にキスを落とすと私の脇をかかえて立ち上がった。


「ほら、飯食うぞ。拓海様特製オムレツ感謝して食べろよ」


…………なんかそう言われると感謝したくなくなるよね。


けれども拓海のお陰で私は携帯のことを棚上げすることが出来て美味しく朝ごはんってもうお昼か?を、頂いた。


夕方になろうかという時に拓海の携帯が鳴る。

私達はベットの上でまったりとしていて、私は読書、拓海は作詞をしていた。


「おっ智だ」


携帯をに出ると、ベランダに出てしまう。


絶対、携帯の件なのにっ!!なんで外出ちゃうのよ。

拓海の友達でネットに詳しいのは智と後一人しかいない。

昼の電話の内容から智に電話したのは間違いなかった。

気になりつつも、ベランダに出てしまったので私は本の続きを読むことにする。


けれど、やっぱり集中できなくて私はちらちらとべランダを見ていた。


拓海は楽しそうに笑っていたかと思うと眉を顰めて、真剣な表情になる。

あまり良くない話なんだろうか。

こめかみを揉む仕草に不安を憶えた。

私の携帯は電源を切ったままだ。電源を入れた途端に大量のメールが送られてくるだろう事は想像がついた。

しかも、メールだけじゃなくて着信もあるみたいだし。

本当はすぐにでも携帯の番号をかえる必要があるとは解っていた。


だけど、出来ることなら変えたくはなかった。

本当に偶然なんだけど、携帯の末尾の番号が兄貴の誕生日になっているんだ。

この番号を見せたとき、兄貴と大笑いしたのを憶えている。

どんだけブラコンなんだよって。そんなわけ無いんだけど。

ちょっとした思い出だけど、今は大事な思い出だ。

だから、出来るだけ番号を変えたくなかった。


鳴らない携帯を手にとって、手の中で遊ばせる。

アドレスと変えるのはいいんだけどなぁ。もう、この携帯も古くなったしどうせなら新規で契約してもいいという思いはあるのだけど。そんな事を考えているうちにしかめっ面をした拓海が戻ってきた。


「桃、やっぱりネットに………」


拓海が言いかけたその時に恐ろしく勢いよくチャイムが連打で鳴らされた。

いわゆる、


ピピピピピピピピピンポーン


ってやつだ。


「あんだ?あぁ、いいよ。俺が出る」


立ち上がろうした、私を制して拓海が玄関に向う。


変なチャイムの押し方だし、また悪戯かな?


続けざまに面倒事が起きているせいでそんな風に思った。

本を閉じて、お茶でも淹れようと立ち上がると拓海が私を呼んだ。


「桃、お前に客」


???私?


思い当たる節もなくて、私は慌てて鏡で身だしなみをチェックしてから玄関へ向う。

拓海の向こうに立っていたのは何故か真っ青な顔をした早瀬だった。


「おう」


ぎこちなく片手を挙げる。

スーツに髪を綺麗にセットした早瀬のイメージが強くて、私服の髪を下ろしている早瀬にちょっと驚いた。

なんかいつもより二、三歳は若く見える。


拓海の誰だよ?という視線を片手で制して早瀬の前に立った。


「どうしたの?よく家が分かったね」


驚いて早瀬を見上げると、やっぱりぎこちなく早瀬は笑った。


「おう、お前年賀状送ってきただろ。お前無事なんだな?」


変な確認をする早瀬に疑問を感じながらまずは頷く。


「無事って、なんかあったの?ま、いいや、とりあえず上がりなよ。お茶淹れるから飲んでいって」


「あっあ~と………」


いつもと違って歯切れの悪い早瀬に違和感を覚えて伺い見ると拓海を見ながら微妙な顔をしている。


「あぁ、気にしないであがって。拓海の顔は知ってるよね?」


「あっ、あぁ。今度うちの会社のCMに出てくれる人だろ?」


早瀬はやっぱり疑問顔だ。まぁ、当然だよね。


「拓海、こちらうちの会社で同期の早瀬」


「あぁ、いつも桃がお世話になってます。どうぞ?遠慮なさらずに」


拓海は外面を選んだらしい。いつもとは全然違う丁寧な所作でスリッパを早瀬にすすめた。

拓海はにこやかに笑いながら、先にリビングに入っていく。

後に続こうとして、早瀬に腕を引っ張られた。

バランスを崩して転びそうになったところを早瀬が支えてくれる。


「ちょっと、なんで腕引っ張るのよ。いいから、入りなって」


早瀬はいつものように私の肩に腕を回すと、顔を近づけた。


「おいっ、お前!!この間会ったばっかりの奴家に入れるってなに考えてんだよっ。てか、ヤラレたのか?お前絶対騙されてんぞ?!!いくら男ッ気がないからって、この馬鹿っ!」


小さい声で的外れな怒り方をする。


どうやら、この間の撮影で『S』の担当になった私が拓海に騙されていると思っているみたいだ。


「違うよ。元から知り合いだし。というより3年も前から付き合ってるから大丈夫」


早瀬は私の顔をまじまじと覗きこんだ。


相変わらず、近いって!!


「おまっ!お前彼氏いないって!」


大きな声を出す早瀬を押しやりながら、私は口を尖らせた。


「一言も言ってない。早瀬が勝手に男っ気がないって言って彼氏がいないことにしてたんでしょ。本当に失礼しちゃうんだから」


ソコまで言って、突き刺さる視線を感じて私は顔を上げた。


っっげ!!


リビングから、拓海の突き刺さるような視線に冷や汗がでる。

アレは、怒ってる。間違いなく怒ってる。


とりあえず、早瀬と距離をとってから早瀬を押しやるようにリビングにいれた。

ソファに座らせて、キッチンでコーヒーを淹れる。


……………振り返らなくてもわかるよ、すぐソコに拓海が立ってるからね。多分、すっごく笑顔だからね。


案の定、拓海は私の隣に立つとコーヒーカップを出しながら、小さな声だけど明らかに怒った声音で言った。


「早瀬って奴とあんなに仲が良いなんて聞いてない。なんだよアイツ、桃に触りすぎ」


「は?」


最近本当に、変わったとは思ってたけど。

拓海を見上げると、拗ねたように眉を顰めていた。


「だから、俺、独占欲強いって言っただろ。風間もだけど、桃の周りの男ってなんでそんなにベタベタ触る訳?隙が有りすぎるって分かってんのかよ」


隙?アレが?


早瀬がベタベタしているとは、思っても見なかった。入社当時からあんな感じだし、他の女の子にもよく肩を組んだりしている。冬馬は確かに、スキンシップが激しいと思ってたけど、早瀬は別にあんなものだと思っていた。


「そうかな?あのぐらい普通じゃないの?」


早瀬に聞こえないように、そっと言うと拓海は私の額をペシッと軽く叩いた。


「下心がなきゃしない。そもそも好意をもってなきゃしないぞ。小学生でもベタベタしないだろうが」


「女だと思ってないからでしょ?」


今度はちょっと強く額を叩かれる。痛いって!!


「女と思ってない奴があんな目をするかよ」


低い声で呟く拓海の言葉は私にはよく聞き取れなかった。


「なに?」


「別に、桃は隙が多すぎるから気をつけろって話。自分の事を女だって自覚しろよ」


「ちゃんと自覚してるわよ。生まれた時からの性別を間違えるほど馬鹿じゃないよ」


この時拓海の表情を見た、私の気持ちをなんと表現したらいいのか。

むかつく?それとも、癪にさわる?

とにかく、拓海は私を可哀相な人をみるような目で見たんだ。


「大昔に桃に俺が頭弱いって言われたけど、ホント、桃にだけは言われたくないよな」


シミジミと溜息を吐かれて、さらに言いようのない敗北感というか自分が悪いトコが分からないというか。


モヤモヤするぞ?


「意味が分からない」


わざと頬を膨らませれば、拓海は片手で私の両頬を挟み空気を外へ押し出した。ブホッと変な音がでる。

馬鹿にしたように見下した笑いを私に向けて、拓海は勝ち誇ったように言った。


「男はみんな狼だと思ってろって話なんだよ。俺と風間みたいに変わった趣味じゃなくても女ってだけでいいって奴も山といるんだよ」


あぁ、変わってるって自覚があるのね……って違うでしょ!!仮にも彼女を女じゃないみたいな言い方しないでくれる?


私は丁度淹れ終わったコーヒーと用意していた菓子鉢をお盆にのせて最語に拓海の足をスリッパで踏みつけた。だって、なんだか腹の虫がおさまらなかったんだよ。


読んで頂きありがとうございます。

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