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白 桃   作者: 藍月 綾音
プロローグ
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プロローグ

秋風が吹く季節だった。

どうしても、こらえきれなくて。

つらくて、つらくて、顔を見ることすらつらくなっていた。

会えば笑わなければと思い、笑えば彼女の顔が頭をよぎる。


友達じゃ満足できなかった。

好きが大きすぎて、彼女になりたかった。

彼女がいる、彼の隣で笑うことがつらくなっていた。


だから、私は逃げたんだ。


もう、彼の口から彼女の話を聞くことに耐えられなかった。


私は自分のことしか考えていなかったのだと思う。


子供だった。


言い訳だったら、その一言で済む。


けれどそれは、彼を傷つけた言い訳にはならないと思う。


空が茜色に染まる時間。

近所の高台で、町を見下ろしながら私は電話をかけた。

初めて、私を女の子扱いしてくれた人。

初めて、男の子を意識した人。初めてづくしで、私の中に彼の思い出は溢れかえっている。


けれど、とうとう私は彼の特別にはなれなかった。


いや、特別にはなれたのか。

私の望んだ特別ではなかったけれど。友人として、私は確かに特別だった。


あの頃、彼は誰よりも近くにいて、誰よりも私を理解しようとしてくれていたと思う。


数回のコールで、彼、風間 冬馬はいつもの優しい声音で私の名前を呼んだ。


「桃?どうした?」


その時間に私が電話をかけることは少なかった。

その声を聞いただけで、涙が溢れてきて嗚咽がしばらく続いたんだと思う。


「桃?大丈夫?なにかあったのか?泣いてないで、今いるところを教えてよ。すぐに行くから」


冬馬は優しいから、私になにかあれば駆けつけてきてくれる。

だから、勘違いをしてしまったんだ。もしかしたらって。


それまでも、私が話しだすまで、電話を切らずにじっと待っていてくれた冬馬に何度救われたか解らなかった。


「あのね」


「うん」


「あのね、やっぱりつらいの。二人の事大好きだけど、やっぱり応援できないし、冬馬ともう、友達じゃいられない」


私は一気に言い切った。もとから冬馬の話を聞く気は無かったから。

冬馬には、彼女がいた。私は必要がない筈だった。

黙ってしまった冬馬に、私は続けて自分の言いたいことを言った後に一方的に電話を切った。


「友達でいいなんて、嘘だった。もう、冬馬と話すことがつらいの。冬馬の口からあの人の話を聞きたくない。だから、友達やめさせて」


勢いよく切った携帯を見つめたまま私はしばらくそこにいた。

遠くから聞こえる子供達の声や、TVの音をボンヤリと聞きながら。

茜色の空が星空に変わるまで。

流れた涙が乾くまで。


私の恋心はそこで終わったはずだったのに。


次の日から、私は彼を避けて避けて避けまくった。

携帯も、着信拒否設定にしてしまったくらい徹底的に。

その日まで、学校で彼の隣に私がいない日はなかった。私の隣はポッカリ穴が開いたみたいにスースーした事を覚えている。


そう、ごめんねも、ありがとうも、その時の私には言えなかったんだ。


最初に私の手を離したのは彼だったから。


それでも、私はその二言を言わなかったばっかりに、ずっと後悔し続けている。

そう、何年たっても後悔している。

卒業式、冬馬が私を見ていたあの悲しそうな瞳が頭の中にこびりついているんだ。


今、私は考える。


彼は私にとっていったいどんな存在だったのだろうかと。


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