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今日からあなたが七不思議  作者: 蒼峰峻哉
最初の夏休み編
20/36

拾玖怪.夏が来る

新章突入です。

「あっつい……」

 蝉が鳴いている。日差しも刺すような暑さだ。まだ七月だと言うのにこの暑さ。確かに七月と言えば夏だし暑いのは分かるんだが、例年に比べてこの七月は猛暑だと言うじゃないか。暑いのは苦手だ。寒いのも得意じゃないけど。

「それにしても……」

 すっかり雰囲気の変わった街並みや行き交う人々を眺めれば、もう夏が来たと言う事を強く実感できた。

「時間の流れは早いものだなぁ……」

 もう宵闇高校に入学し、七不思議の統括者になってから三ヶ月強経った。ここまであっという間だったな。

 高校最初のテストはまあまあの結果だった。スタートは上々だったと言うところかな。

「おっす戒都! なーんか難しい顔してるけど、考え事か?」

「そんなに難しい顔してないと思うけどね。きみが普段どれだけ考えてないかがバレるよ」

「何だと!?」

 僕のクラスメイトであり友人の遠坂晃一と織内啓人がやってきた。晃一が啓人にディスられているのはいつもの事だ。ちなみに啓人は学年トップレベルの頭の良さを持ち、逆に晃一は学年最低レベルの頭脳を持っている。

「おい戒都。今なんか失礼な事考えてねぇか?」

「いやなにも」

 勘の鋭い奴だ。

「いやー、それにしても早いものだね。もう明日から夏休みかぁ」

 そう、そうなんだ。今日は終業式。明日からは遂に夏休みがやってくる。

「夏休みか……。何しようかな」

「おっ! それなら海とかどうよ?」

「いいね。山とかもいいんじゃない?」

 そんな話をしているうちに学校へと辿り着いた。

「最初は教室にいきゃいいんだっけ?」

「あぁ、そこから体育館に移動だな」

 僕達三人は昇降口で靴をしまう。すると後ろから誰かに声をかけられた。

「おはよう戒都。それに遠坂と織内も」

「おぉ、おはよう鴇矢」

「よぉ! 今日も辛気臭ぇ顔してんな」

「おはよう須木塚」

 話しかけてきたのは須木塚鴇矢。バンダナを巻いた赤っぽい髪の少年は自分に自信を持てないと言う性格をしている。

 鴇矢は晃一の一言を真に受けて、やっぱりそうかなぁとぼそぼそ言い始めてしまった。少し面倒な性格をしているが、彼自身の能力は非常に高い。大抵の事は始めてでもそつなくこなしてしまうだろう。ただ本人にその自覚がないのは罪と言えるかもしれないが。

 鴇矢は七不思議、クナシの器の人間だ。最初に襲われた時は本当に死ぬかと思ったな。容赦がなかった。

「あぁ……。なんか夏休みが不安になってきた。オレちゃんと夏休みを過ごせるのかな……」

「大丈夫だって。僕達も居るんだからさ」

 どうしてここまでマイナス思考なのか分からない。もっと気楽に考えてもいいと思うけど。もしかして近くに居る人間の不安を全て肩代わりでもしてるのかな。

 そうそう、七不思議の器達七人と零奈さんは、僕を通じて晃一や啓人と知り合っている。いつの間に女子達と知り合ったんだとか色々言われたけど、今は皆仲良くやってくれているようでなによりだ。

 そんなこんなで、鴇矢は僕達とクラスが違うので途中で別れた。すると次はオールバック気味に髪を固めた眼鏡の少年、鷹実儀人と顔を合わせる事になった。

「おや、三人ともお揃いですか。おはようございます」

 僕達に気付いた儀人は中指で眼鏡の位置を直しながら挨拶をした。僕達もそれに答え挨拶を返す。相変わらずの丁寧な口調。生徒会長でもやっていそうな真面目そうな容姿と性格の持ち主の儀人だが、これでも七不思議チェレンの器に選ばれた少年。真面目なのは事実なのだが、結構無茶な事をやらかしたり色々と黙認したりしている。

「皆さん、おはようございます。お揃いでどうしたんですか?」

「おはよう夏織」

「おはようございます、夏織さん」

 次いで黒髪ロングの清楚な美少女、七不思議リカの器である杉原夏織がやってきた。夏織も儀人に似て、とても真面目なんだが楽しむ事第一なので何をしでかすか分からない。

「そういえば聞きそびれてたんだけどさ。二人ってテストどうだったんだ?」

「僕は学年一位でした。頑張った甲斐がありました」

「わたしは二位ですね。次は負けませんよ?」

「…………マジかよ」

「ちなみに俺は三位だったよ」

 今この場に学年トップスリーが揃っていやがる……。

 そんな会話を五人で会話を交え、僕と晃一、啓人の三人は儀人と夏織と別れて教室に入る。するとそのすぐ後に扉ががらりと音を立て開かれた。

「全員席につけ。ホームルームを始める」

 入ってきたのは瀧江愛生先生。僕の所属する一年四組の担任を務める若手の先生だ。冷め切っているとまで言われるクールな性格とは裏腹に、可愛らしい声と童顔が特徴的な先生。実は怖い物が非常に苦手だと言う事が僕達七不思議メンバーにバレてしまっている事を、彼女はまだ知らない。

 そんなこんなで、出席確認をするためのショートホームルームが始まるのであった。




 ショートホームルームが終わり、僕達は終業式が行われる体育館へ移動する事となる。その後、諸連絡や配布物を受け取るために再度教室に戻って来なくてはならないのは億劫(おっくう)ではある。

「やっほー戒都! 今から移動?」

「おはよ。……あれ、三バカが揃ってるのね」

「晃一はともかく、僕と啓人はバカではないだろ」

「そうだよ多々乃。失礼しちゃうな」

「お前ら俺には失礼だとか思わねぇの?」

 今から体育館に移動しようと言うところで、後ろからやってきた七不思議ライの器である紫乃坂茜と、七不思議フーカの器である多々乃愛沙に声をかけられた。元気溌剌(げんきはつらつ)天真爛漫(てんしんらんまん)がキーワード。七不思議メンバーの元気印が、この高校生にしては小柄な体格をした茜だ。一緒に居るだけで自然に元気になってしまうような、不思議な少女である。あっちこっちに落ち着きなく走りまわったり、後先考えない性格から色々と厄介事を持ってくるトラブルメーカーでもあるのだが……。

 対して愛沙は、まるでモデルのようなすらっとしたスタイルと女子にしては高い身長が特徴的。美人なのだが、何だか眠そうな目つきの悪さと、本人の辛辣な性格や毒舌が原因で誤解を生みやすい。だけど本当は気遣いの出来る優しい少女。今日も小さなアホ毛がゆらゆらと揺れている。

「……なに? なに見てるの?」

「いや、愛沙っていっつも茜と一緒だよな。やっぱり小さい物とか可愛い物が好きだから――」

「こんなところでなに言ってんだ!」

「痛いっ!」

 殴られた。僕がなにをしたって言うんだ。

 ……あ。そういえば、愛沙はこの事を人に知られるのを嫌っているんだったっけ。晃一と啓人がその事を知らないのをすっかり失念していた。

「ごめん愛沙。すっかり忘れてた」

「分かればいいよ。まったく……」

「なぁ、なんの話――」

「黙ってろ」

 ……まぁそうなるでしょうね。




 体育館に到着した。愛沙と茜は自分達のクラスの列へと集まっていった。僕達も同じように自分のクラスの列に並ぶ。まだ始まるまで時間があるようだし、列に並んでぼーっとしていると、ふと横から肩を突っつかれた。

「ん?」

「おはよう戒都くん」

 肩を突っついてきた犯人は爽やかなイケメン、笹織悠一だ。七不思議カガトの器として頑張ってくれている彼は、藍色の瞳と髪が印象的なイケメン。性格もイケメン。彼に微笑まれた女性は即落ちるとまで言われるイケメン。これで男らしさも兼ね備えている、男からも好かれるイケメン。完璧すぎるので女子は告白する事を遠慮するイケメン。そのせいで自分はモテないと勘違いしているイケメン。そこだけは腹立たしいと、男子一同が思っている。

「どうしたんだ?」

「来週の何処か空いてるかな? 実は親の知り合いに海の家を経営している人がいるんだけど、そこの手伝いを頼まれちゃって。人手が足りないから戒都くんにもお願いしようと思ったんだけど」

「構わないよ。どうせ予定もないからね。でもそれなら、折角だから皆も誘ってみようか?人数がいるに越した事はないし、どうせなら皆で海を楽しみたいし」

「それがいいね。鈴音ちゃんも来るよね?」

「もち」

 いつの間にか悠一の隣にやって来ていたのは柳鈴音。七不思議ナツの器だ。彼女はイギリス人と日本人のハーフ。日本人離れした金髪と碧眼は生まれつきの物と言う訳だ。小柄ながら胸が大きいのを、同じ小柄仲間の茜が悔しがっていた。普段は無口で口数の少ない彼女だが、とある事になると急に饒舌になるのだが、それが――。

「スイカ割り。海の家。かき氷。海の事以外にも色々あるけど、どれも日本の素晴らしい文化。三年前に日本に来てから何度体験しても飽きない」

「ほんと、日本文化の事になるとよく喋るのな」

「当然の事。当たり前の事。戒都はまだわたしの知らない日本の事、色々と教えてくれるから素晴らしい」

「あはは、好かれてるね戒都くん」

「そうなのかな……? まぁ悪い気はしないけど」

 普段からもう少し口数が多ければ、もっと意思疎通も楽なんだけどな。ま、そこは僕が頑張るしかない。

「お前ら……。さっさと並べ」

 僕の後ろから瀧江先生の声が聞こえた。これはマズイ。ちょっと怒ってるよこれ。僕は二人をさっさと帰してから、なにくわぬ顔で列に並び直すのだった。




 終業式が終わり、ついでにクラスでのホームルームも終わり。この後部活で集まる用があるらしい晃一と啓人とは別れ、僕は一人昇降口にやってきた。

「……ん?」

 向こうに居る黒髪でスタイルのいい、どこか掴みどころがないと言うか不思議な雰囲気の少女は――。

「あら、戒都くんじゃないかね。もうホームルームは終わったのかな?」

「えぇ、今から帰るところなんですけど」

 黄泉零奈。先代七不思議の統括者にして僕の先輩、宵闇高校の三年生だ。いつも僕達を振り回しまくる、人の迷惑は一切考えない人だが、面倒見のいい先輩ではある。不思議なカリスマ性や、僕達の前――特に僕以外が相手の時は人当たりがよくて性格もいいので生徒から人気が高い。自分の事はほとんど話さない上に、謎めいた行動が多いせいでどことなく怪しい雰囲気を放っている先輩だが、基本はいい人だ。

「……で、零奈さんはなにやってるんですか?」

 この付近にある私立小学校の制服を着た女の子を弄くり回している、まごう事なき僕の先輩に不審な目を向けて言った。

「ほれ戒都も来おったんじゃ! さ、さっさと離さんか!」

「……その声は」

「あっはは。だって玉藻ちゃん可愛いんだもん」

「わざわざ尻尾と耳を隠して、そんな服を着て、なにやってるんだよ玉藻……」

 零奈さんに弄ばれていたのは、最強の妖怪の一角、九尾の妖狐の中でもトップに立つ大妖怪玉藻だった。僕の父、四ツ谷眞人の知り合いで、その義理で七不思議達の手助けをしてくれている妖怪なのだが、何故こんな姿で学校に来ているのだろうか。

「人間社会に溶け込むには、この格好が都合いいのじゃ。それなりに気にいっておるのじゃぞ? ほうれ、愛くるしかろう」

「はいはい……。それでなんで学校に?」

「たまたま学校の近くを歩いていたところを、零奈に捕まったんじゃ……」

 なるほどね……。そいつはお気の毒に。

「それにしても、もう夏休みだねー」

「本当ですねぇ」

 長いようで短い数ヶ月間だった。

 零奈さんから統括者に任命され、それぞれの七不思議とその器と出会い、肝を冷やされた。統括者としての仕事として、始めて七不思議達を従えて人を驚かせた。結局大した事はしなかったけど、編纂作業もやった。そして今、一つの節目である夏休みを迎えようとしている。

「して戒都くん。夏休みのご予定はもう決まっているのかな?」

「えぇ、一応は。来週、悠一の親御さんの知り合いが経営している海の家の手伝いに行く予定です。皆も誘って予定が空いている時に行くつもりですよ」

「なるほどなるほど! 海かぁ海はいいねぇ! もちろんわたしも行くからね!」

「儂も行くぞ!」

「はいはい」

 僕の――いや、僕達の最初の夏が。

 ――――夏が、来る。


「夏だ! 海だ! 水着だ!」

夏休み始まってすぐ。戒都達は海にやってきた。

悠一の親の知人が経営する海の家の手伝いをしに海へやってきた戒都達は、手伝いをしながらも海を満喫していた。

そんな中、戒都達を振り回す零奈が、新たな厄介事を持ってくる気配が?


次回、『拾玖怪.波打ち際の器達』

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