壱怪.七不思議の統括者
修正版です。
行間がなく、見辛いという意見を多く頂き、自分もそう思っていたところなので書き直させていただきました。
話自体には変更はありませんので気にせず読んで頂けると幸いです。
「おはよう」
朝、僕はいつも通り学校に登校した。昨日の夢の事は後で聞くとして、僕は中学からの親友に挨拶をする。
「よ! ちゃんと宿題は間に合ったのか?」
「あぁ、間に合わせたよ」
髪をワックスで整えたこの金髪の男は遠坂晃一。僕とは中学の時からの付き合いのある友人だ。
「そういえば、織内はまだ来てないのか?」
「さっきまでいたぞ。そろそろ戻ってくると思うぜ?」
「呼んだかい!?」
いきなり話に割って入られた。少し驚いたが、待つ手間が省けたと思うべきか。
「おはよう、啓人」
一見女子に見間違えるような外見をした眼鏡の男。こいつがクラスの噂好き、織内啓人。七不思議の話も、こいつから聞いたものだ。噂好きの名は伊達じゃなく、様々な噂を仕入れては広めるといった行為を繰り返している。その種類は、七不思議のようなものから生徒の話や先生の話、はたまた校外の話などなど数多くのものがあった。
「それで、どうして俺を探してたんだい? 何か聞きたい噂話でもあるのかな」
「まぁ、そんな所だよ」
「で、聞きたい事ってのは?」
それはもちろん。
「七不思議の事についてなんだけどさ」
「七不思議か! ちょうど新しいネタが入った所なんだよね」
どうやら期待が持てそうだ。
「七不思議の中に夢に関係するものってないかな? この間聞いた通りならないんだろうけど、もしかしたら間違いでもあったのかなって思ってさ」
「いや? そんな話は聞いた事がないな」
となると、あれはただの悪夢だったと言う事か?
「それならいいや。ありがとう」
「いやいや、俺が仕入れてきたネタを聞いてけよ。面白いぜ?」
ふむ。まだ時間もあるし聞いてもいいだろう。退屈はしないと思うし。
「また織内の噂話か? 俺にも聞かせろよ」
さっきから黙っていた晃一が話に乗ってきた。どうやらタイミングを見計らっていたらしい。
「分かったよ。それで、新ネタってのは何なんだ?」
「ふっふっふー。聞いて驚け! 何と七不思議には幻の八つ目があるらしいんだ!」
「八つ目、だって?」
それは確かに驚いた。完全に初耳だ。七不思議には八つ目がある、という話がある学校も存在するのだろうが、この学校もその中に含まれているとは。
「でもよぉ、それって普通の七不思議よりも胡散臭くねぇか?」
晃一の意見には僕も同意だ。七不思議自体も胡散臭いが、幻の八つ目があるなんて尚更胡散臭い。どうせ昔この学校の生徒だった誰かが、七不思議の噂を聞いて興味半分で造ったものなんじゃないか?
「いや、七不思議自体もそうだが、この八つ目も目撃情報が多数あるんだぜ?」
「もっとしっかりとした根拠がなきゃ信じられないよ」
「俺もだなぁ。その手の話は嫌いじゃないけどよ」
まぁ、良い時間潰しにはなったんじゃないかな。また何かネタが入ったら聞きたいもんだ。
「そうだ、その八つ目ってのはどんな話なんだよ?」
「え? それはだな……」
「おい、もったいぶんじゃねぇよ」
「分からないんだ!」
「何だよそれ……」
肝心な所が分からないんじゃ信憑性は薄い。やっぱり八つ目なんてないんだろう。啓人が必死に弁解しようとしているが、時間はそれを待ってくれない。ホームルーム開始のチャイムが鳴ってしまった。それと同時に担任の先生が教室に入ってきた。残念ながら、話はここまでだ。
「よし、席に付け。ホームルームを始めるぞ」
先生の言葉を聞いた啓人は、悔しそうな表情を浮かべながら自分の席へ戻っていった。悪いとは思うけど、流石にあの情報だけで信じろと言われても厳しいところがある。
そんなこんなで、また今日もいつもと変わらない学校生活が始まった。
億劫な午前中の授業を終え、昼休みに入った。
大抵の生徒は購買に昼食を買いに行くが、僕は一人暮らしをしている自炊派なのであの混雑の中へ入っていく必要もない。ちなみに晃一と啓人の二人は、戦場こと購買に行っている。僕は二人が帰ってくるのを待ってから昼食を取る予定だ。
「遅いなぁ。いつにも増して購買戦争が激しいのかな」
正直、限界が近い。目の前に食べ物があるのに食べる事が出来ないなんて、これは何という拷問なのだろうか。
僕が空腹と自身の欲望を相手に戦っている時、教室のドアが空けられた。やっと帰って来たのか。そう思いドアの方向へ振り向くと、そこに立っていたのは晃一でも啓人でもない、僕より少し年上に見える女の子だった。同じ制服を着ているし、同学年には見覚えがないのでやはり先輩だろう。むしろこの時間に部外者が入ってくるなんて滅多にない。
黒髪ロングを後ろで結びポニーテールにしている彼女は、よく見るととても整った顔立ちをしていた。晃一なんかはよく、この学校は女子のレベルが高いと言っているが、彼女はその中でもトップレベルだとすら思える。スタイルもとてもよく、恐らく学校内でもかなり人気がある人なんじゃないか。
彼女は僕の方を見ると、綺麗に澄んだ黒目をこちらに向けて近付いてきた。
「キミ、四ツ谷戒都くんだよね?」
「は、はい。そうですけれども」
何で僕の名前を知っているんだ?
「少し時間、あるかな?」
「別に構いませんけど、まだお昼食べてないんですよね」
タイミング良く腹が鳴る。恥ずかしさを覚えていると、彼女はくすりと笑った。
「それならわたしもご一緒するから。場所を移しましょう」
「え、いいんですか?」
「えぇ、だから行きましょう」
彼女はそう言うと、微笑みながら僕を見てきた。
「喜んで」
男って悲しい生き物だな。こんな笑顔見せられたら、断れる訳ない。
え? 二人はどうするのかって? 気にしなくていいんじゃないかな。
僕等は教室から屋上へとやってきた。普段は屋上の鍵は空いていないのだが、彼女が鍵を借りていたらしく、それを使って屋上へ入る事が出来た。
「うん、ここなら人も来ないし、ゆっくり話が出来るかな」
「あのー、話をするのはいいんですけど、僕まだあなたの名前聞いてないんですけど」
「あ、そうだった。ごめんなさい」
彼女は本当に忘れていたという表情を見せた。意外と抜けている人なのだろうか?
「わたしはここの三年生の黄泉零奈。零奈さんって呼んでね」
「は、はぁ」
零奈と名乗った女の子は、両手の人差し指を頬に当てて、少し前のブリっ子系アイドルみたいなポーズを取ってそう言った。可愛いからいいものの、正直痛さは拭えなかったがそれを言葉に出すほど僕も愚かじゃない。
「それで、零奈さん。話っていうのは一体?」
「そうだなー。何から話そうか」
割と複雑な話なのだろうか。僕は零奈さんとは初対面だったし、どんな話なのかは見当がつかない。
それにしても……。初対面とはいってもどこかで見た事ある気がするのが不思議だ。どこかで会っているのだろうか。
「よし、決めた! やっぱりあのセリフを言った方がいいよね」
セリフというのが何なのかは分からないが、どうやら考えがまとまったらしい。数秒の間、辺りに沈黙が訪れる。僕は少し緊張していたらしく、思わず唾を飲んでいた。
「今日からあなたが七不思議です」
………………は?
唐突すぎる発言に、僕は思わず全身の動きを固めてしまっていた。
意味が分からないといった様子で固まる僕を、零奈さんは心底楽しそうに笑った。というか、何で零奈さんがそのセリフを知っているんだ? あれは僕の夢の中での話じゃ……。
いや待てよ。何処かで見た事あると思っていたけど、よく見るとあの夢に出てきた女の子とそっくりじゃないか! も、もしかしてあれは……。
「ご名答。あれは夢なんかじゃなくて、現実に起きた事だよ」
どうやら全部口に出してしまっていたようだ。零奈さんは微笑みながらそう言った。
「あ、あの、あれが夢じゃないって……? それならあれは一体何だったっていうんですか? あんな異常な現象、夢としか思えないですよ」
「戒都くんも知ってるでしょ。あれはこの学校に伝わる七不思議の一つだよ」
仮にあれが現実だったとした時、その答えは確かに僕の頭に真っ先に思い浮かんだ。けれども、それは違うはずなんだ。何故なら。
「あんなの、僕が知ってる七不思議にはない現象でしたよ!?」
「あはは、当たり前じゃない。あれは七不思議であって七不思議ではない、幻の八つ目なんだから」
それは今朝、啓人が話していた七不思議であって七不思議ではない、幻の八つ目の事に違いない。まさかあの話は本当だと言うのか? そもそも七不思議は単なる怪談、創作話に過ぎないんじゃないのか?
「な、何ですかそれ。そんなの信じられる訳が。そもそも七不思議が本当にあるなんて」
「でも、実際に起きた事だよ? 七不思議に関わる怪奇以外に、あれが説明できるのかな? それにキミの言う夢に出てきたわたしはここにいるし、お望みならキミが夢って呼んでる光景を一から言い当ててもいいよ?」
「仮にそれが出来たとしても、偶然だって可能性が」
「そんな偶然あると思う?」
……零奈さんの言う通りだった。こんなに都合のいい偶然、ある訳ない。信じがたい事だが、認めるしかない。昨日の出来事は夢ではなく、本当に僕が体験した出来事だったという事。そして七不思議は、幻の八つ目は確かに存在すると言う事を。
「……分かりました。信じます。それで、話っていうのは、それに関係する事なんですね? それと、今日から僕が七不思議だっていうのは一体」
「そのままの意味だよ。今日から君は七不思議に、正確には八つ目になりました。おめでとう!」
「ありがとうございます、って何ですかそれ!? 全然意味が分からないんですけど」
僕が今日から幻の八つ目だって? 一体どういう事なんだそれは。
正直分からない事だらけで、頭の整理がついていない。
「んー、やっぱり簡単には飲み込めないか。それじゃあ、お弁当でも食べながら、一からしっかりと教えてあげましょう」
零奈さんはそういうと、自分が持ってきていた弁当箱を開けた。中身はとても手が込んでいて、正直とても美味しそうだった。
僕はまだ動揺を隠せないでいたが、それに続いて弁当箱を開けた。零奈さんの弁当を見てから自分の弁当を見ると、なんだか全然美味しそうに見えなかった。今回の弁当は少し自信があったんだけどなぁ……。
そんな僕をしり目に、零奈さんは話を進めていくのであった。
「それじゃあ、まずはこの宵闇高校の七不思議について話していこうかな」
「は、はい、よろしくお願いします」
いつになく僕は緊張していた。こんなに可愛い先輩と一緒にお昼を食べているから、というのも緊張の原因の一つではあるが、やはり一番の原因は自身が置かれている異常な状況に対する緊張だ。
零奈さんの話を聞けば、そのすべてが分かる。そう思うと、僕の中には恐怖とは別に少しの好奇心も湧いてきた。
「この学校には、調理室の首なし男、忍び寄る影、渡り廊下の黒猫、図書室のバラバラ死体。それに封じられた隠し部屋と不幸を告げる鏡、人気者のナツメさんっていう七不思議があるのは知っているよね」
「えぇ、それがどんな七不思議なのかも一応知っています」
「それで、この七不思議を管理するために、ある話が造られたの。それが幻の八つ目」
「管理っていうのは?」
僕には、その言葉の意味がよく分からなかった。
「そのままだよ。七不思議を管理、統括するのが役割」
「何でそんな事をする必要があったんですか?」
七不思議なんてものを管理する必要があるのか?
「それは七不思議が形を変えずに存続していくためよ」
「それは一体……?」
「この世界には、七不思議以外にも妖怪とか様々な噂が存在しているわ。それは全て、本当に実在するの。それらは人から忘れられていくと、力が弱まっちゃうんだ。妖怪クラスならいつの時代でも有名だし、そういう本なんかもたくさん出てるからあまり影響はないけど、七不思議とか都市伝説みたいな噂話レベルの怪奇じゃ、力も弱いし簡単に消えちゃうの」
いまさらっと妖怪が実在するとかとんでもない事を言ってたよな。この際何を言われてもちょっとやそっとじゃ驚かないが。
「まぁ、理屈は分かります。確かに時間が経てば、狭い範囲内でしか伝わっていない七不思議の存在なんて忘れられて、そんな話なかった事になるでしょうね」
七不思議なんてもの、語り継ぐ人がいなければすぐに忘れられてしまう。同じように、七不思議があったという事実も忘れられていくだろう。そうなれば確かに、七不思議の存在は消えてしまう。
「七不思議側としてもそれは避けたいのよ。だからたくさんの人に語り継いでもらうために、伝わる話のように人を襲うんだけど」
七不思議側も消えないように必死なんだな。ただ未練とかを晴らすために人を驚かしているのかと思っていた。怪奇現象にも事情ってものがあるのか。
「ここで戒都くんに質問です!」
「は、はい!」
「例えば七不思議達がやりすぎちゃったり、話通りに事が進まなかったりした場合、七不思議はどうなると思う?」
「それは、話が変わっちゃうんじゃないですか? 今まで通りの話では伝わらない訳だし」
「その通り。つまり、変に話が広まっちゃうと、七不思議達も形が変わって、今までのものとは違う七不思議になっちゃうんだよね」
なるほど、それだと七不思議達の存在は消えてしまったも同然だ。今までとは別の七不思議になってしまうのだから。
「だから、そういう事が起きないように。七不思議達を管理する必要があったの。その役割を持っているのが幻の八つ目って訳」
「それについてはよく分かりました。それで、さっき僕に言った僕が八つ目になるっていうのはどういう意味なんですか?」
これが一番の疑問だった。選ばれるというのは、一体どういう意味なのか。この話が伝わっているという事は、八つ目は確かに存在していてその役目を果たしているのだろう。ならば何も問題ないはずだ。第一、ただの人間が七不思議をまとめるなんて、荷が重過ぎて出来る訳がない。
「これについても、詳しく説明しなきゃね」
「はい、よろしくお願いします」
「さっきも言った通り、七不思議みたいな狭い範囲でのみ語り継がれるような話は力が弱いんだよね。だから、いくら話が伝わっていても少しずつ、存在が薄れていっちゃうんだ」
なんていうか、本当に大変だな。いくら頑張って噂を広めた所で、結局は消えていってしまうなんて。何だか七不思議が可哀想になってきた。
「それで、七不思議達も考えたんですよ。どうすれば消えないで済むかなーって。で、遂にその方法を思いついたの!」
起死回生の一手と言うやつか。七不思議達も頑張って考えたんだな。
「その方法っていうのが、力が弱まって消えちゃう前に自分の意識と七不思議としての能力を人間に渡して、その人に次の七不思議をやってもらおうって事!」
「なるほどー、ってえぇ!?」
いやいやいやいや、何だよそれ。めちゃくちゃとんでもないな! というか、そんな事可能なのか!?
「まぁ、驚くよねー。わたしも初めは驚いたもん。三分で慣れたけどね」
「早すぎませんか!?」
いくらなんでも順応性高すぎるだろ。こんな簡単に慣れられるもんじゃないって普通なら。
…………何だか、早くも折れそうだよ僕。
「それでね、実際にこの方法を試してみたら上手くいっちゃったのよ。それから代々、力が弱まってくる三年を目安に世代交代を繰り返してきたの。もう二十年以上続いてるみたいよ」
さっきの話を聞いて色々と不安な僕を無視して、零奈さんは淡々と話を続けていく。
「そんなに長く続いているんですか……。意外と歴史の長い七不思議なんだな」
正直、ここ数年の内に出来たものかと思っていた。どこの学校の七不思議も、これぐらい歴史があるのだろうか。
「んで、八つ目の説明なんだけどね。主な能力としては七不思議達への命令権と、指揮権。後は少しなら怪奇現象を起こせるよ」
「まぁ、予想通りですね」
零奈さんに襲われた時、辺りの様子は明らかに普通じゃなかった。もしかしたら他の七不思議が力でも貸していたのかもしれないが、やはりある程度なら不思議な現象が起こせるようだ。少し使ってみたいかもしれない。
「わたしが去年まで、八つ目として七不思議を管理していたんだけどね。こっちも力が弱まってきちゃったから、世代交代を行ったという訳なの」
「え? もう引継ぎって終わってるんですか」
「そうだよ。戒都くんを襲った時にデコピンしたでしょ。あれで能力の移行は完了しましたー」
「そんな簡単に出来ちゃうものなんですか!? しかも適当な方法ですね!」
「七不思議なんてそんなもんだよー」
「そうなんですか……」
納得するのもどうかと思ったが、この人を見ていると本当にそんな感じに思えてしまう。
「あ、ちなみに言っておくけど、他の七不思議と違って八つ目は、引き継がれるのは能力だけだからね。初代八つ目はただの人間だったから、意識を引き継ぐ必要もなかったの」
「へぇ、初代は人間だったんですか」
意外な話だった。八つ目と言われてはいるけど、ほとんど他の七不思議と変わらないものだと思っていた。
「そ、たまたま七不思議全部と遭遇して意気投合しちゃったただの人間。彼が七不思議達をまとめ上げていたから、いつからか八つ目の噂が出来て、今に至るという訳」
「変わった人もいるもんですね。怪奇現象と意気投合するって……」
「一応言っておくけど、選ぶのは誰でもいいって訳じゃないんだよ? 初代がそうだったように、妖怪とか七不思議とかと仲良くなれそうで、統率力がある人を選んでる訳だし。つまりは戒都くんも変わり者って事」
「否定させていただきます。僕はいたって普通ですよ」
僕のどこが変わっているというんだ。どこからどうみてもただの高校生だというのに。
「その割には随分落ちついてるように見えるけどなぁ。やっぱり順応性高いでしょ?」
「そんな事ないですよ。諦めているだけですよ、こうなった以上はもうどうしようもないし」
選ばれてしまった以上は逃げ切れないだろう。それなら無駄に抵抗するよりも、諦めた方が得策だと思う。幸か不幸か、さほど危なくはないようだし。
「わたしがあなたを襲った時もそんな事言ってたよね。戒都くんって結構適当で面倒臭がり屋なのかな」
「人聞きの悪い事言わないで下さいよ。……それに乗りかかった船ですし」
これは昔からなんだが、僕は頼み事を断るのが苦手だ。おまけにその相手が怪奇現象そのものの力を持った人が相手なんだ。しかも、可愛くて先輩というオプション付き。
「あ、そういえば聞きそびれている事があった」
「ん? 何かな」
「あの、結局八つ目の名前って何なんですか?」
重要な事を聞きそびれていた。やはり呼び名と言うものがなければ、なにかと不都合な場合も多い。初対面の人には自分の名前を名乗るように、まずは名前を知らなければ。
「あぁ、ごめんごめん。まだ話してなかったね」
零奈さんは笑いながらそういうと、一瞬だけとても真剣な顔になった。そして直後、突然笑いだす。
「え、どうしたんですか」
全く訳が分からない。どうしていきなり笑ったんだ?
「いや、真面目に話してみようかなって思ったんだけど、真剣にって柄じゃないからさ。思わず笑っちゃった」
普段どんだけ真面目じゃないんですかあなたは。説明の間もやけにハイテンションで楽しそうに話していたけど、一瞬ですら真面目になれないのか。
「もういいですから、とりあえず話してください」
僕はため息を一度ついてそう言った。正直疲れる人だ。何とか付いていけるように努力しよう。
「いやー、悪いねぇ。あ、名前はシンプルに七不思議の統括者って呼ばれてるよ」
「またサラッといきましたね……。思わず聞き逃す所でしたよ」
「気にしない気にしない! さてと、もう話す事はないかな。戒都くんから質問とかはない?」
「えぇ、特にないです。なんか、ありがとうございました。丁寧に教えてくださって」
「いいっていいって。暫くはわたしもお手伝いするから、困ったら何でも聞いてね」
なんだかずっとふざけているような人だけど、やっぱりいい人そうだな。困ったらしっかりと相談しよう。
「それにしても、初めとキャラ変わってません?」
「そう? やっぱり慣れてきたからかな? 戒都くんも今日からの状況になるべく早く慣れてね」
言われて思い出した。僕はただ八つ目に選ばれただけではないんだ。八つ目に選ばれるという事は、七不思議の統括者になったという事。これは明日から大変そうだな。今のところはまだまだ慣れる気はしない。この手の話は好きだけど、僕はそんなに肝の据わった人間でもないのだ。
「あ、他の七不思議達もしっかりと引継ぎが完了してるから、その内挨拶に来ると思うよ。七不思議なりの流儀でね」
……それってあれか? もしかして僕は、七不思議達に襲われるのかな。
「襲ってくるって事ですか」
「まぁ、そうだろうね。先代の七不思議達が選んだ人達だから、レベル高いと思うよー」
やっぱりそうか。ていうか、何で地味に脅してくるんだ。
嫌だなぁ、この学校の七不思議ってどれも怖いんだよ。僕は怖いのとかあんまり得意じゃないんだから、お手柔らかにお願いしたいものだ。ふと思ったけど、七不思議の統括者なのに、七不思議に襲われるのか。頼りなくはないか?
「それじゃ、もうすぐお昼も終わるし、今日はこの辺で。またね、戒都くん」
零奈さんは食べ終わった弁当箱を片付けると、僕に笑顔を見せながら手を振って走っていった。
「なんていうか、嵐みたいな人だったな」
僕は弁当箱を片付けながらそう思った。いきなり現れたかと思ったら、僕の日常を見事にぶっ壊していった。
けれども、やはり観念するしかないだろう。それに、僕としてはこんな状況に巻き込まれて少しワクワクしている。自分の好きな怪奇現象達に、こんなに近い位置で関われるようになるなんて、考えてもいなかった。当然不安と恐怖はある。しかし、それと一緒に好奇心があるのは否定できない。
「よし! 考えていてもしょうがないし、何事も行動だ」
僕はそう言うと、誰もいない虚空を見上げた。
「七不思議のみんな、これからよろしく!」
僕はそう叫ぶと、暫く空を見上げたまま硬直していた。
すると、どこからか声が聞こえた気がした。はっきりとは聞き取れなかったけど、よろしくと言っていたような気がする。
今日この瞬間から、僕の第二の高校生活が始まるのであった。
いかがでしたでしょうか。以前よりは見やすくなったのではないかと思います。
内容自体は全く変わっていないので、特に混乱する事もなく読めたんじゃないかなと思います。
それでは三話でお会いしましょう!