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今日からあなたが七不思議  作者: 蒼峰峻哉
統括者の仕事編
16/36

拾伍怪.初仕事、始動

更新遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 僕が統括者になってから月日は流れ、六月に突入した。先月の半ば頃、七不思議全員との邂逅(かいこう)を果たした僕は、今日、数人の七不思議メンバー達を招集した。

 集まってもらったのはこの三人。

「話があるとの事ですが、一体何でしょうか?」

 髪型や服装をピシッと整え眼鏡をかけた、生徒会長の様な真面目な雰囲気の少年。宵闇高校七不思議の二つ目『忍び寄る影』の器となった鷹実儀人。

「急に呼び出しなんて、何かあったの戒都―!」

 ブライト・ゴールドの瞳を輝かせ、ブラウンのショートカットが良く似合う天真爛漫(てんしんらんまん)な小柄な少女。宵闇高校七不思議の四つ目『図書室のバラバラ死体』の器となった紫乃坂茜。

「呼ばれたのは僕達三人だけなんだ」

 清涼感のある藍色の髪と瞳を持ち、誰もが認める完璧爽やかイケメン。宵闇高校七不思議の六つ目『不幸を告げる鏡』の器となった笹織悠一。

 僕はこの三人に、放課後僕の元へ来てほしいと呼び出しをした。突然の呼び出しに三人とも多かれ少なかれ戸惑っている様子だ。

「まずは集まってくれてありがとう、三人共」

 僕の言葉に頷く三人。

「今日集まってもらったのは理由はだな。……そろそろ僕達の仕事に取り掛かろうかと思ってさ」

 それを聞いた三人の目の色が変わる。普段賑やかな茜も、この瞬間は静かになった。

「まずは儀人、茜、悠一の三人から始めたいと思うんだが……。問題ないかな?」

「愚問ですね」

「いよっしゃー! 遂にこの時が来たー!」

「うん、楽しみだね」

 三人共、即答で了解してくれた。まぁ当然と言えば当然なのだが。

「早速だが明日決行予定だ。作戦は今から伝えようと思う」

 真剣な顔付きで僕の事を見つめる三人。……悠一だけは爽やかな笑みを崩していなかったが。

「さぁ、僕達の怪奇を始めよう」




 翌日。遂に作戦決行の時がやってきた。今は昼休み。僕は今回の参加者三人と一緒に最後の確認を行っていた。

「分かっていると思うが、僕達は今日から本格的に動き出す。お前達には一番手を飾ってもらう訳だが……。ここが重要だからな?」

「大丈夫ですよ。僕達に任せください」

「楽しみだねー!!」

「上手く出来るように頑張るよ」

 うん、この三人なら問題はないだろう。緊張もしていない様子だし、僕を驚かせた時の様に素晴らしい物を見せてくれる筈だ。むしろ一番緊張しているのは僕の方。僕の作戦が上手く機能するのか、そもそも僕の作戦は間違っていないか。不安でいっぱいだ。

「よし、放課後決行だ。僕達今期七不思議の初仕事、絶対に成功させるぞ」

 僕は少し離れたところで人と話している、とある男を見つめて宣言する。

「ターゲットは、あいつだ」




「たっくよー。戒都の野郎も織内の野郎も、俺を置いてきやがって……」

 放課後の校内を独り、昇降口に向かって歩くワックスで髪を固めた金髪の少年、遠坂晃一はそんな不満をポツリと零した。彼は四ツ谷戒都の親友であり悪友。彼と共に高校入学後、織内啓人とも仲を深めた彼は、部活がない日では久々に一人で帰宅しようとしていた。

「啓人は部活だろーが、戒都の奴は何処に消えやがったんだよ……。教室で待ってるって言っといたのに、まるで来る気配がねぇ」

 ぶつぶつと愚痴を吐きながら、晃一は足早に昇降口へと向かっていた。彼の在籍する一〇四教室は東棟の二階にあるため、昇降口にはそれほど時間はかからずに到着する。少しの間考え事をしているだけで辿り着く程度の距離だ。だが、今日は何かが違った。階段を下りて昇降口へと歩き出した辺りから、一向に先に進んでいる感覚がないのだ。

「……廊下ってこんなに長かったか?」

 異変に気付いた晃一はその場で立ち止まり、辺りを見回し始めた。彼はそこでさらなる異変に気が付く。自分以外に人の姿が見当たらないのだ。

「何だよこれ……。一体どうなってるってんだ……?」

 晃一の頬に冷たい汗が流れる。

 そして、彼が後ろを振り返った時だった。

「うおおっ!? な、何だこれ!?」

 そこには真っ黒な影の様な、人型のマネキン状の物体があった。晃一は突如現れたその物体に驚き、思わず後ろに飛び退く。生気の感じられない無機物の様なその物体は、全く動くことなく佇んでいた。

「き、気味悪ぃぜ……」

 後ずさりながらそれを見つめていると、何とその物体がもう一つ生まれた。それは続けざまに数を増やし、最後は五体にまで増えた。

「何だってんだ一体……。に、逃げた方が良い、よな?」

 困惑する晃一の耳に、声が響いた。

『あなたに不幸が訪れる』

「は……? って冷たっ!?」

 突然、晃一のすぐ近くの水道が壊れ、水が勢いよく吹き出した。晃一はその水を全身に浴びる羽目になる。

「冷めぇ……。偶然、か?」

『あなたに不幸が訪れる』

「この声、気のせいじゃなかったのか!?」

 声の方向に晃一は振り返る。だがそこには水が噴き出し続けている水道と、壁に設置された鏡があるだけだった。

 そこで晃一は気付く。その鏡の中に、男の姿が映り込んでいる事に。いや、写り込んでいるのではない。男は鏡の中に存在しているのだ。

 その時、突如として廊下の照明が音を立てて砕け散った。明かりをなくした廊下を、外から差し込む日光だけが照らす。そんな中でもはっきりと姿が見える五つの影の様な物体と、鏡の中に居る謎の男の存在に晃一の肌が泡立った。明らかに普通でないそれらの存在に対する、本能的な恐怖感が晃一を襲った。

 直後、先ほどまで何の動きもなかった人型の物体達が動き出す。じわりじわりと、晃一に向かってにじり寄り始めた。水場に取り付けられた全ての鏡、窓ガラス、果ては先ほど漏れ出した水によって出来た水たまりにまで、その全てに鏡の中の男の姿が現れ不気味な笑いを見せる。

「くそっ……! 何だよ、何だってんだよおおおおおっ!!」

 晃一は昇降口から外に出る事すら忘れて、一直線に廊下を走りだす。とにかく逃げなければならないと言う考えが、晃一の脳裏に警鐘を鳴らしていた。既に冷静な判断を下せるだけの余裕はなく、晃一の頭の中は逃げる事だけでいっぱいになっていた。

 そうして彼が辿り着いたのは図書室。晃一は後先考えずにその中に飛び込んだ。

 そう、彼は知らなかった。自分はまんまと此処へ誘導されていたと言う事に。

「ちくしょう……。どうして俺がこんな目に合わなくちゃならねぇんだ……。そ、そもそも俺は何に襲われてんだぁ?」

 壁に背を預けながら肩を上下させる晃一は自問する。脳裏をよぎったのは以前啓人が話してくれた七不思議だった。そんな馬鹿な。晃一はそう思ったが、仮にこれが七不思議の仕業だとすれば、あの異様な現象全てに説明が付くし、今思えば奴らは話に聞いた七不思議の特徴そのままだった様にも思える。

「た、単なる噂話じゃなかったのかよ……。マジで存在してるなんて、笑えねぇ……」

 青い顔をして独り言を続ける。そうでもしないとおかしくなってしまいそうだったのだ。

 その時、何か物が落ちる様な、ぼとりと言う音が晃一の耳に届いた。音が聞こえたのは、彼の位置からは確認が出来ない本棚と本棚の間。晃一はゆっくりとそこに近付き、本棚の間を覗きこむ。

「な、何だよこれ……」

 そこにあったのは紛れもない人間の右腕。

 鮮やかな色をした血を流す腕を直視してしまった晃一は、脂汗を流し後ずさり、目をそむけた。何て事はないただの高校生である晃一にはあまりにもショッキングな現実。ここで錯乱しなかっただけ、彼は強い心の持ち主だったと言えるのかもしれない。

 だが異常な現象はそれだけでは終わらない。

 目をそむけた先、そこには腕と同じ様に血を流す人間の脚が。再度目をそむけるも、そこには左腕が。そして続けざまに何かが落ちてくる音が響き、晃一を取り囲む様に落ちていた腕達が血の尾を引きながら一点に集まり始める。鼓動が早まる。見てはいけないと頭では理解しているのに、体が勝手に動いて一点を目指して動く腕を目で追ってしまった。

 そこに合ったのは――――。

「う、ああっ……!?」

 辛うじて首の繋がっている状態で蠢く、人間の胴体だった――――。

 恨みの籠った恐ろしい目を長髪の間から覗かせ、切断された腕や脚は元の場所には戻る事は出来ず、力なく蠢いている。

「死――殺――」

 ノイズが混じり、何を言っているのか晃一には分からなかったがその声に乗せられた憎悪と怨念だけはしっかりと感じ取る事が出来た。

 声が出なかった。体も金縛りに合ったかの様に動かない。

 目の前に転がる右腕が突然宙に浮く。するとその手の中に突然鋸が現れた。原理は分からなかったが、分かった事が一つある。それは、明確に〝死〟が近付いていると言う事だ。

「恨――呪――」

 鋸が高々と持ち上げられる。それでもなお、晃一の体は恐怖で震える以外に動く事はなかった。

「死死死死死死死死死死死死死死死死死」

「うわああああああああああああああッッッ!!」

 鋸が晃一の頭上に振り下ろされる。そこで彼の意識は途切れた。




「のわあああああああああああああッッッ!!」

「うおおっ!? な、何だよ晃一!?」

 絶叫しながら晃一が飛び起きる。彼は数秒、そのまま硬直するとゆっくりと辺りを見渡し始め、目の前に座っていた少年、四ツ谷戒都の顔を見る。

「あ、あれ? 何でお前がここに……。ってかそもそも何で俺は教室に居るんだよ!?」

「……馬鹿だとは思ってたけど、まさかそこまで馬鹿だったとは思わなかったよ。教室で僕の事を待つっていったのはお前だろ……」

「た、確かにそうなんだがよ。俺はお前が待っても来ねぇから、先に帰っちまおうと思って昇降口に向かってたんだがよ……」

 そこで晃一は何かを思い出した様に目を見開き、戒都に向かってひたすらに言葉を投げつける。

「そ、そうだ! 俺は昇降口に向かってたんだがよ、その途中で訳の分かんねぇ影みてぇなマネキンみてぇなのが出てきやがってよぉ! そしたら次には鏡の中に変な男の姿が出てきてよ! んでもってヤベェと思って図書室に逃げたらそこに腕が落ちてて、それが集まって死体が動いて鋸で俺を殺そうとして」

「うるせぇ!!」

「痛てぇ!」

 言葉も纏まっていない滅茶苦茶な文章を大声でひたすらに言い続けていた晃一の頭を、戒都が爽快な音を響かせ殴った。

「何言ってんのか良く分からないけど、それ夢だろ。お前ここでずっと寝てたって話聞いたぞ。それに、そんなの夢以外にあり得ない話じゃないか」

 それを聞いた晃一は、確かにと言った様子で唸り始めた。戒都はそれを見てため息を一つ付く。

「で、でもよー……。ありゃ夢にしちゃ妙にリアルっつーかなんつーか……」

「……仮にそれが夢じゃないとすれば、お前は七不思議に襲われたんだろうな。多分『忍び寄る影』と『図書室のバラバラ死体』と『不幸を告げる鏡』かな」

「や、やっぱりそうなのか?」

 晃一が青い顔をして言う。普段ふざけてばかりの晃一がここまで怖がっているのは珍しく、戒都は内心面白がっている様子だったが、それも今の晃一には伝わっていない事だろう。

「ま、僕はお前じゃないからどんなものを見たのか分からないけど」

「いや、お前に言われて確信したぞ……! ありゃ間違いなく七不思議だ! あ、明日皆に教えてやらなきゃいけねぇぞ。あんなヤバイ奴らの事知らなかったら危ないぜ!」

「はいはい、とりあえず今日は帰るぞ」

 ぎゃあぎゃあと喚いている晃一の背中を押し、教室を出る戒都。教室を出た少し先には鷹実儀人、紫乃坂茜、笹織悠一の三人が居た。晃一達は三人の横を通り過ぎ昇降口に向かう。すれちがった瞬間、戒都は三人と目が合った。きっと彼等はこんな事を思っていた事だろう。

 〝大成功〟、と。


無事最初の仕事を終えた戒都。

だが、まだまだ彼の仕事は続く。

残りの七不思議は四体。

彼が次に選ぶ七不思議は。

そして次の標的とは。


次回、『第二陣、閉鎖』

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