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今日からあなたが七不思議  作者: 蒼峰峻哉
七不思議遭遇編
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拾弍怪.怪奇遊戯

 突如何処からか響いた声。その声に気を取られていた一瞬の間。気付けばさっきまで僕と一緒に居た零奈さんと玉藻の姿が消えていた。

「なっ……。二人とも何処だ!?」

 忽然(こつぜん)と姿を消してしまった二人を探すも、彼女達の姿は何処にも見えなかった。だが一つ、代わりに見つかったものがある。鳥居の前に、零奈さんでも玉藻でもない少女が立っている。しかも良く見れば、少女は宵闇高校の制服を身に纏っているではないか。迷い込んだ――なんて訳ではなさそうだ。

「あなた、わたしと少しの間遊びましょ」

 少女が不気味な笑みを浮かべてそう言った瞬間、彼女は僕の目の前まで瞬時に移動してきていた。こんな人間離れした動きにこの状況。確実に怪奇の仕業。そして彼女の風貌(ふうぼう)から察するに、恐らく正体はまだ見ぬ七不思議の内の誰かだ。打開策の見つからない今、彼女に付き合ってやるしかない。

「あぁ、構わないよ。一体何をして遊ぶんだ?」

 僕は動揺を悟られぬ様に、余裕を装い彼女の提案に乗るという意志を伝える。

 髪の隙間から覗く藍色の瞳が不気味に光り、少女はくすりと笑った。

「鬼ごっこしましょ。鬼はわたし。十秒経ったら追いかけるから」

 少女が指定してきた遊びは鬼ごっこ。鬼は少女からだそうだ。

「よし分かった。じゃあ僕は逃げるよ」

「楽しませてね」

 僕はまず、神社の後ろに広がる大きな森へ逃げ込んだ。視界の悪い森の中へ逃げ込み、彼女をかく乱させる作戦だ。もちろん僕の方が惑わされる危険性もあるので慎重に逃げなければならない。

(まずは真っ直ぐ森の中を突き進む)

 下手に横道に逸れていくよりも、まずは一直線に突っ走り少女との距離を離すのを優先する。彼女は一瞬で距離を詰めてくる瞬間移動の様なものが使えるが、鬼ごっこ中では勝負にならない為使ってこないと僕は踏んだ。彼女があくまで『遊び』に拘るのなら、『遊び』にならなくなってしまう様な行為はしてこない筈だ。


 だが僕のそんな考えは、この直後に覆される。


 背後から猛烈な風が吹き荒れた。あまりの風力に僕は前のめりに転倒する。

「な、何だ!?」

 慌てて後ろを振り返った僕の眼前には驚くべき光景が広がっていた。

 僕が走って来た一直線の道に沿って、辺りの木や草が薙ぎ倒されていたのだ。僕を襲った強風は、この光景を作りだした現象が起こした余波だった様だ。そしてその先。一直線の道がきれいに開けた森の先には、怪奇の少女の姿が見える。

 ここまで来て僕はようやく事態を呑み込んだ。木を薙ぎ倒してしまうほどの凄まじい烈風を呼び起こしたのが彼女だと言う事に。

「おいおい、勘弁してくれよ!!」

 立ち止まっていても捕まるだけだ。僕は一目散に森の奥へ走りだす。逃げ回りながらも、僕は彼女の正体を探らなければならない。頬を冷たい汗が伝っていくのが分かった。

「少しでいい。まずは彼女の注意を僕から逸らす!」

 右手の甲に紋章(もんしょう)が浮かび上がり発光を始める。僕は統括者の力を用い、僕から見て右手側の木や草を揺らして大きな物音を立てる。すると烈風は音のする方を狙って放たれた。僕は更に陽動をしながら逆方向へ逃げる。

「よし……! これで少しは時間が稼げる。この間に……」

 右手の甲が更に強く輝きだす。統括者の力が僕の中に流れ込み、意識が研ぎ澄まされていく様な感覚が伝わっていく。初めて力を使ったあの時の様に、統括者の力が『本当の僕』を呼び起こす。

「彼女の正体を暴いてみせる!」

 思考が急激に加速する。

 まず浮かんできたのは、彼女が最初に僕の前に姿を現した時の映像。彼女は言った。『わたしと少しの間遊びましょう』と。僕は七不思議の話から『遊び』に何か引っ掛かる物がないか探る。――しかし、七不思議の中には『遊び』がキーワードになっている物は存在しない。だが諦めるにはまだ早い。直接的に関係していなくとも、何か繋がる部分がある可能性は十分にある。

 考えろ。記憶の扉を開け。僕の頭の中を次々と言葉や情景が飛び交って行く。

 『楽しませて』ふとその言葉を思い出した。鬼ごっこが始まる直前、彼女が言った言葉だ。僕は気付いた。『楽しませる』事がキーワードとなる七不思議が存在している事に。その七不思議こそ、宵闇高校七不思議の内でも最も厄介な七不思議。

 宵闇高校七不思議の七つ目『人気者のナツメさん』だ。

 以前宵闇高校にはナツメさんと言う学年・教師と生徒・男女問わずに人気者だった生徒が居たらしい。それこそアニメにしか出て来ない様な完璧な人物だったらしい。

 だがどんな事でも完璧に出来てしまう彼女は、心の底から何かに対して満足をした事がなかったらしい。しかしいつも笑顔を絶やす事のなかった彼女が、そんな事を感じているなど周りの人々は微塵も思わなかった。

 ある日、ナツメさんは不幸な事故で命を落とす。彼女の死を知り悲しむ人々の前に、ソレは姿を現した。死んだ筈のナツメさんと同じ姿をした何かが。彼女はこう言ったそうだ。『わたしを楽しませて』と。彼女は最期の時を迎えてなお、心の底から満足して楽しむ事は出来ず、この世に縛られてしまった。それからと言うもの、突如何の前触れもなく宵闇高校の内外問わずに、宵闇高校に関わりを持った人の前に彼女は現れる様になったらしい。人気者だった彼女は生前、宵闇高校に関係する者なら知らない人は居なかったらしい。だから少しでも関わりがあればその人の前に現れてしまうのだ。そんな彼女の望みはただ一つ。自分の心を満たす事。

 つまり彼女は、何かを楽しみ満足したいのだ。それが今回は僕と『遊ぶ』事を楽しもうとしているというだけの話。例の烈風なんかもこの鬼ごっこより刺激的にさせる為に使ってきたのだろう。要するにもっとぶっ飛んだ事をされる可能性も高い。

 僕に取れる方法はただ一つだ。難しい事を考える必要はない。彼女を楽しませて満足させてやればいい。つまり――。

「とことん付き合ってやるしかないって事か……」

 それが一番難しい事なんだが……。確かに七不思議の中で最も厄介と言われるだけはある。僕の顔も思わず引きつった。

 その後すぐ、背後から爆発音が聞こえてきた時は流石に笑うしかなかった。

更に激しさを増す『人気者のナツメさん』との鬼ごっこ。

彼女の起こすギャグマンガばりのド派手な演出に、戒都は必死に食らいつく。

留まるところを知らない『人気者のナツメさん』の攻撃に戒都は思わず絶叫する。


「し、死ぬ!! 本当に死ぬって!!」


次回 『命懸け接待』


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