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今日からあなたが七不思議  作者: 蒼峰峻哉
七不思議遭遇編
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拾壱怪.玉藻談話

 玉藻に襲われた日から三日が過ぎていた。今日は日曜日。学校は休みだが、僕は学校のすぐ目の前にやって来ていた。だが校門を潜る事はせず、僕はそのまま学校の前を通り過ぎる。僕の目的地は宵闇高校のすぐ隣にある小さな神社。僕がここを訪れる理由。それは玉藻に襲われた三日前、帰宅後に電話した父さんの伝言による物からだ。その内容を振り返ってみよう。


「父さん! 玉藻の件、どういう事だよ! 第一、俺は父さんが初代統括者って話も聞いてないぞ!?」

「そりゃそうだ。だって言ってないし」

「それが問題だって言ってんだよ!! 何で言わなかった!」

「どーせ誰かから教えられる事になるだろ? 現に玉藻の奴から聞いて来たんだし」

「相変わらずだなお前は!!」

「父親に向かってお前とは何だお前とは」

「…………はぁ。分かったもう良いよ。正直こうなるのは分かってたし」

「あー、そうだ。三日後の日曜日に宵闇高校の隣になる神社に行け。そこで玉藻が俺の事とか色々話してくれる事になってるから」

「またあんたは勝手に決めやがって……。分かったよ行けば良いんだろ?」

「んじゃそう言う事で。まだ仕事が残ってるからじゃあなー」

「あ、おい!」


 ――こんな感じだった。

 相変わらず適当な父親だ。あれで大学の教授なのだから信じられない。

 ため息交じりで軽く悪態をつくと、目的地である神社に辿り着いた。ここにあの幼女妖怪、九尾の妖狐の玉藻が居るとの事だが……。


「……居た」

 賽銭箱(さいせんばこ)の上に堂々と座り込む幼女の姿が一つあった。腕を組んだ状態で暇そうに欠伸(あくび)をした彼女は、僕の姿を見ると頭に生えた狐耳をぴょこんと立てて賽銭箱から飛び降りた。

「やっと来おったか戒都。待ちくたびれたぞ」

「悪かったよ玉藻。それじゃ、さっそく話してほしいんだけど」

「やー! 遅れちゃってごめんよ!」

 僕が玉藻に話しかけている最中に、背後から女性の声が響いた。聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこにはお約束と言っても良いだろうポニーテールの女性の姿があった。

「何でここに居るんですか、零奈さん……」

 同じ宵闇高校に通う三年生の先輩であり、先代の統括者でもある黄泉零奈がそこには居た。正直なところ、何故ここに彼女がやって来たのかが分からないのだが……。

「玉藻ちゃん久しぶりー! 元気してた?」

「カッカッカ、元気じゃったぞ零奈」

 玉藻と零奈さんが何やら親しげに話しだした。僕にはいまいち状況が理解できなかったのだが、もしかしてこの二人は以前から知り合いなのか……?

「あの、二人の関係は一体?」

「わたしが統括者をやっていた時にお世話になったんだよー」

「零奈だけではないぞ。儂は今までの統括者全員のサポートをして来ておるのじゃ」

「そうだったのか……。でも何でそんな事を」

「ま、彼奴の後輩に当たるのじゃ。なら儂が手を貸してやらんとのう。それに儂が協力して作ってやった力じゃ、儂がしっかり管理せねば」

 彼奴とは僕の父、四ツ谷眞人の事だろう。楽しそうに笑って言った玉藻から察するに、父さんと彼女の関係は良い物だったようだ。でなければ何のメリットもなしに、この大妖怪が七不思議なんて物に手を貸してくれるとも思えない。父さんと玉藻の間には、確固たる絆があったのだろう。それにしても、統括者の力は玉藻が作った物だったのか……。確かにこんな力、父さんだけがどう頑張ったって作れる筈もない。

 そんな事を考えていたところ、危うくここへやってきた本来の理由を忘れてしまいそうになる。僕は父さんに言われ、玉藻に今回の件についてや諸々を聞きに来たんだ。

「それじゃ、本題に移ろうかのう」

 ちょうど玉藻が話を戻してくれた。玉藻の隣に零奈さんも立ち、腕を組んでこちらに目を向けてきた。

「簡潔に話そう。儂がお主を襲ったのは先日話した通り、お主の統括者としての力を試す為じゃ。これは代々の統括者全てに行っている」

「恒例行事ってやつだね」

「目的は至極簡単じゃ。統括者の適正を調べる。要は統括者をやるに相応しい者かどうかを見極めているのじゃ」

「それはどうしてなんだ?」

 僕の質問に、再び玉藻が答えた。

「元々妖怪や幽霊と言った者に干渉する力が極めて高かった眞人が作り出した統括者の力は、それなりに大きな物でな。稀にその力を扱い切れずに暴走させてしまう者もおるのじゃよ。そう言った事を未然に防ぐ為に、あの様に襲って力を視るのじゃ。後は統括者の力を使って悪さをしようとする者を見極める為でもあるのう。後継者は代々統括者自身が決めておるのでな。余程の切れ者でもない限り、選ぶ相手の心の内までは見えて来ぬものじゃ。じゃが、儂は人の心を見透かす事が出来る。何か良からぬ事を考えておる者やその傾向がある者は一目で分かる」

「なるほど……。それで僕は――」

「先日伝えた通り、文句なしの合格じゃ! 流石は眞人の息子よのう。統括者としての資質も彼奴以来の物じゃし、何よりお主の心は雲一つない青空の様に澄んでおる」

「でしょー? わたしの審美眼(しんびがん)に間違いはないのだ!」

 玉藻と零奈さんに真っ正面からベタ褒めされて流石に恥ずかしかったが、それと同時に僕が彼女達から大きな期待を寄せられているのだと言う事も理解した。

 最初はなし崩し的に任せられた統括者の任だったが、僕はそれを楽しいと感じている。今思えば僕はずっとこんな非現実を望んでいたのかもしれない。何故なら父さんの影響もあり、昔から妖怪や都市伝説が好きだった僕には、初めて零奈さんに七不思議の説明を受けた時に願ってもないチャンスだと思ってしまったから。

 彼女達の期待にそぐわない様に頑張らなければ。僕は気持ちを引き締め、これからの統括者としての仕事を頑張っていこうとひそかに誓った。

 ――――その時異変は起きた。

「……あらら。これはもしかしなくても、七不思議の仕業だね」

 明らかに先ほどまでと空気が変わっていた。重苦しく、胸を圧迫されるような。そんな空気感だ。

「みたいですね……。でもここは学校の外ですよ?」

「外とは言っても此処は学校のすぐ隣じゃ。七不思議によっては此処まで干渉してくることも可能じゃろう」

「でも何で姿を現さないんだ?」

「多分試してるんじゃないかな? 当ててもらうのを待ってるんだよ」

 また面倒な事を……。だけど文句を言っても仕方がない。分析を始めよう。

 今回の七不思議は、七不思議の中でも能力の融通が効くタイプの者だろう。先日現れた『不幸を告げる鏡』なんかがそうだ。今回も彼の仕業だろうか。

 ――いや、それはないな。

 今ここには彼が出て来られる媒体となる、僕達の姿を映す物が何もない。零奈さんが鏡なんかを持っているかもしれないが、持っているだけでは『不幸を告げる鏡』は出て来られない。媒体となる物がしっかりと誰かの姿を映す事の出来る状態でなければ、『不幸を告げる鏡』は姿を現す事が出来ない。よって彼の仕業ではないことが証明される。

 なら残されているのは――。


『時間切れ』


 虚空に誰かの声が響いた。



七不思議の能力により、一人孤立させられた戒都。

戒都を襲う七不思議。

その過激な行動に戒都は冷や汗を流す。

残された七不思議は三体。

一体何者の仕業なのか――――。


次回『怪奇遊戯』

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