零怪.全てが始まるその日
初投稿という事で、いくつか書いている作品の中から七不思議物を選ばせていただきました。
夏という事もあるので、怪談系がいいかなと。
正直言うと、ほとんど怖くはないんですけどね!
一応、この話だけでも主人公は襲われているので、少しは恐怖を覚えてもらえれば幸いです。
学校の七不思議というものを知っているだろうか。
きっと誰もが学生の頃に耳にした事があるものだろう。有名な話を挙げるとすれば、トイレの花子さんだろうか。トイレの花子さんや歩く人体模型など、様々な所で聞くポピュラーな七不思議もあれば、その学校固有の七不思議というものもたくさんあるだろう。
僕、四ツ谷戒都の通う学校である県立宵闇高等学校にもそのような七不思議がある。それも誰もが知っているような有名な七不思議ではなく、全てが宵闇高校オリジナルの七不思議だ。
僕が宵闇高校に入学してから早一ヶ月が経った。そんなある日、クラスの噂好きが七不思議について語り始めた。察しの通り、宵闇高校七不思議の種類と、それにまつわる話だ。
七不思議一つ目。調理室の首なし男。
七不思議二つ目。忍び寄る影。
七不思議三つ目。渡り廊下の黒猫。
七不思議四つ目。図書室のバラバラ死体。
七不思議五つ目。封じられた隠し部屋。
七不思議六つ目。不幸を告げる鏡。
七不思議七つ目。人気者のナツメさん。
これが僕の通う宵闇高校の七不思議だ。それぞれの七不思議については、また後で説明しようと思う。今はそんな場合ではないのだ。何故なら。
今僕は、その七不思議に遭遇しているからだ。
「クソッ……! 七不思議なんてただの噂じゃないのかよ!?」
あまりの出来事に、僕の思考はまともに働かなくなっていた。僕は七不思議や妖怪といった類の話は好きだったが、まさか本当にこんな状況に出くわすとは思っていなかった。僕はただひたすら、後ろから迫ってくるソレから逃げ続ける事に必死になっていた。
「と、とりあえず何処か隠れられる場所に……!」
僕はひとまず目の前に見えた教室に逃げ込んだ。ドアの前に机を置き、僕自身もその机に体重を掛ける。直後にドアを何度も叩く音が響く。頼りないバリケードだったが、それでもないよりはマシだと心底思った。さっきから走りっぱなしだったせいで、体力は完全に空だ。今ここで、少しでも体力を回復させておきたい。
ふと時計に目をやると、その針は午後四時四十四分で止まっている。いかにもって感じの時間だ。逃げている途中にも確認したが、どうやらこの学校だけが外界とは遮断されてしまっているようだ。おまけに校内には僕以外の人の姿はなかった。携帯電話はもちろん圏外。助けを呼ぶ事もできない。
「それにしても、あれは一体何なんだ!? 冷静に考えてみると、聞いていた七不思議にあんなものはなかったぞ!」
そう、僕が知っている宵闇高校七不思議には、あんな七不思議は存在していなかった。
元々僕は今日提出の宿題をやり忘れてしまっていたため、教室でその宿題を終わらせようと思って学校に残っていた。無事に宿題が終わり、これを職員室に提出して帰ろうと言う時にこのような訳の分からない怪奇現象に見舞われてしまったのだった。だけど、僕の居た教室で起こる七不思議なんてものは存在しない筈だ。
……少し休憩できたおかげか頭が働くようになってきた。今考えてみても、七不思議の中には今の状況に当てはまるものはない。しかし、あの異様な雰囲気はとても普通ではなかった。七不思議以外に何があるというのだ。追いかけてくるという点では、二つ目の七不思議の忍び寄る影かとも思ったが、どうにもそれとも違うようだし……。単に噂に間違いがあっただけという事なのかもしれないという可能性もある。けれどもそれだと対処なんて何もできない。
「……? やけに静かになったな……」
さっきまでは背後のドアを力強く叩かれていたはずだ。まさか諦めてくれたのだろうか。
「とりあえず、外の様子を見てみるか」
いきなりドアを開けようとは思わないが、外の様子を確認しない事には動けない。そう思い、ドアに手をかけた時だった。背後の窓が、甲高い音を上げて割れたのだった。振りかえらなくても分かる。そこには確実に、さっきまで僕の事を追ってきていたソレがいる。
振り返ってはいけない。そうは思っても、体が勝手に動いてしまう。自分の意志とは関係なく、僕は上体を少しずつねじらせていく。振り返る間の時間は、まるで時の流れが遅くなってしまったのではないかというほど長く感じた。体が後ろを向くにつれて、とてつもない恐怖感が僕を襲う。
そうして完全に振り返った時、目にしたのは僕よりも少し年上に見える女性の姿だった。辺りが暗い事もあり僕からはその顔はよく見えなかったが、笑っている事だけは確認できた。辺りの異常な雰囲気のせいもあってか、僕にはそれがとても不気味な笑みに見えた。
目の前の女の子が、一歩ずつ歩を進めていく。その歩みは、とてもゆっくりに見えて速くも見えた。彼女と僕の距離が、どんどん縮まっていく。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
僕は、死にたくなんかない!
……少女が僕の目の前までやってきた。
ここまで来ると流石に諦めが付く。思えば短い人生だった。そんな事を考え彼女を見つめると、彼女と目が合った。すると彼女はこう言った。
「やっと捕まえた」
「……あぁ、捕まっちゃったよ」
意思の疎通が可能な事に最後の最後で気付いた。どうせ言っても聞いてくれなかっただろうが、こんな事なら最初から話しかけておくべきだったか。
「あら、怖がってないの? 普通に話しかけてくるなんて」
「普通に怖いよ。もう諦めているだけさ」
抵抗できるならしたい所だけど、相手は訳の分からない怪奇現象だ。抵抗した所で勝てる訳もない。
「ふふっ。それでは観念してください」
「あぁ、もう一思いにやってくれ」
流石にもう逃げる事なんかできない。誰かが僕の勇姿を語り継いでくれると嬉しいな。七不思議と真っ向から対話した男がいたと。
「それではいきますね」
まだ高校生になって一ヶ月だったけど、それなりに楽しかった。新しい友達も出来た。クラスにもすんなりと馴染む事が出来た。
「今日からあなたが七不思議です」
女の子がそう言い、彼女の顔が見えたと同時に、彼女は僕の額に向けてデコピンを放った。直後、僕の意識は闇へと落ちた。
「はっ!?」
目が覚めると、僕はさっきまで宿題を進めていた教室にいた。どうやら宿題を終わらせている最中に寝てしまっていたらしい。
「って、ヤバイヤバイ! 宿題終わってないよ!」
寝ている場合なんかじゃなかった。早く宿題を終わらせて職員室に持っていかないと。そう思い目の前の机に置かれているペンを握り、宿題であるプリントに手を掛けた。
……あれ? 何で宿題が終わっているんだ? さっきまで寝ていたはずなのに、おかしいな……。
けれども、終わっているのなら好都合だ。どうせ宿題が終わった安堵感で寝てしまったのだろう。せっかく早くに終わらす事が出来たのに、寝てしまって時間ギリギリになってしまうなんて、我ながら情けない。
「それにしても……」
頬を伝う汗を腕でぬぐい去り、僕はさっきまで見ていた夢の事を思い出す。
「なんだかすごくリアルな夢だったなぁ。妙に体も疲れてるし」
それにしても、夢とはいえ馬鹿げてる。七不思議なんて本当にある訳ないじゃないか。話として聞く分には面白いとは思うが、まさか存在している訳がない。
「っと、早く宿題を出さなきゃな」
宿題提出の期限は今日の午後五時だ。時計を見ると、時刻は午後四時四十四分。夢の中で見た時間と同じとは。変わった偶然もあるもんだな。
「さてと、長居は無用だ。さっさと宿題を提出して帰ろう」
僕は荷物をまとめて教室を出た。夢の事が少し気になるけど、それは明日にでもあいつに聞けばいいだろう。どうせただの夢に違いないけど念には念をだ。
「ふふふ……」
彼女は戒都が教室から出ていくのを見ていた。自身の後任となる少年。本来なら役目を引き継いでしまえば、それっきり関わりは持たないつもりだった。しかし、彼を追いつめた時、冷静に自分と会話を交える事の出来た戒都に、彼女は少し興味を持った。
「それではまた明日。戒都くん」
そう一言言うと、彼女はくるりと後ろに振り返り、階段を静かに降りていった。
僕はこの時はまだ気付いていなかった。今日を境に、僕の高校生活がこうも変化してしまうという事は。
いかがでしたでしょうか?
戒都が襲われているシーンに、少しでも恐怖感を感じてもらえれば、今回は成功という事になります。
とはいっても、あまり怖くない襲われ方なんですけどね(笑)
書き溜めがあるので、なるべく早い内に次回を上げたいと思います。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!