66 なんか、見破ったぁ!
「いなかった、とな?」
翌日、俺は報告のために学園長室に来ていた。
今この部屋には俺、学園長の他にも黒龍討伐に向かったナルシスト達もいる。ちなみにレンテはついて来ると言ってきかないので、コートの姿になって俺が着ている。
「はい、何とかアースドラゴンは倒せたんですけど、洞窟の最奥部まで行っても黒龍だと思われるモンスターはいませんでした」
今着ているコートが黒龍ですなんて言えるわけ無いから適当に誤魔化す。
「君はあの農村級を1人で倒したのか!?」
ナルシスト達が驚きの声を上げる。他の奴らも驚きを隠せないように俺を見ている。
「じゃなきゃ俺は今頃この場にいないだろうな。学園長、黒龍の討伐とはいきませんでしたけど今回はアースドラゴンで勘弁してくれないですか?」
コートのポケット、というかレンテに預けておいてたアースドラゴンの鱗を学園長の机の上に置く。
「ほう、証明部位まで持ってきたか。流石はギルダーじゃな。しかし、任務の達成を認めるわけにはいかぬな」
鱗を懐にしまいながら学園長がそう言う。他の4人は黙ったままだ。
「俺ら全員の力じゃないから、か?」
「理解が早いくて結構。今回の任務のもう1つの目的は諸君のレベルを見ること。どの位の任務なら達成出来るのかを確かめねばならぬ」
そう言うと、他4人が沈んだ顔になる。
おいおい、そんな顔されるとあの場で転移させた俺が罪悪感感じるんだが。
「任務失敗とはいえ、あのままやとオレらが全滅しとったのも事実やしな。ナイス判断やったでジュン、サンキューな。だからそんな顔するなや」
俺も落ち込んだ顔してたのだろうか、グレストが俺に微笑みかける。
「そうだな。ジュン、今回は感謝するぞ」
「学年最下位の割には頑張ったんじゃないかしら?とりあえず、ありがと」
「・・・ありがとう」
続いてナルシスト、マワター、ラステルの順に礼を言われる。
「珍しい事言うなよ。鳥肌が立つだろ」
慣れない人からの感謝に気恥ずかしさを感じ、思ってもいない言葉を言ってしまう。まったく、俺も素直になれきれないな。
「うむ、青春の1ページを刻んでるところ悪いのじゃが、ここで諸君に再度レベルを計るための任務を言い渡す」
学園長が自身の白い髭を撫でながら続ける。
「日は明日午後1時、場所は決闘場にて、2年特別任務隊と闘ってもらう」
「なっ!?2年生の特務隊とですか?もしかしてその中には…」
突然ナルシストが顔面蒼白になりながら叫び出す。
「うむ、『魔科学』も所属しておる」
学園長がそう言った途端、4人の顔色が変わった。
「ん?その『魔科学』って人はそんなにヤバいのか?」
どうやら知らないのは俺だけみたいだから聞いておく。
「ジュン、『魔科学』言うたら現在最もプロミネントギルダーに近い男と呼ばれとる存在やで。前回の武闘大会ではサナトスとあたって負けてしもうたが実力はあのシリチナさんに並ぶっちゅう話や」
グレストが親切にも説明してくれた。
「へぇ、きっと大層強いんだろうな。勝算はあるのか?」
ナルシストの方を向いて尋ねる。また俺だけ残る、もしくは俺も含め全滅ではどうしようもないからな。
「それについては後で皆で集まって話し合おう。ちなみに学園長先生、任務の達成条件は勝利ですか?」
「そうしたいのは山々じゃが、あの『魔科学』がおるパーティじゃからの。ワシが諸君のレベルを把握出来るまで耐えることが達成条件じゃ」
そう言いながら学園長は自身の長い髭を三つ編みにし出した。
・・・って、おい!真面目な雰囲気が台無しじゃねぇか。
「ところで学園長さん、その任務もリーダーはハインウェルなん?」
苦笑しながら唐突にグレストがそう尋ねた。
「いや、前回のリーダーは仮じゃったからの。今回は諸君の中で話し合って決めるとよい。他に何かあるかの?」
学園長が俺たちを一通り見回し、
「それでは解散としよう。諸君は今日1日は自由に使うとよい。あとジュン君、君はここに残りなさい」
一瞬皆が俺の方を見たが何かを言う者はなく、そのまま学園長室を出て行った。
「とんだ猛獣を入学させてしまったもんじゃの」
皆の気配がかなり遠ざかった頃、学園長がそう切り出した。
「何のことですか?」
「これだけ殺気をワシに向けて放っておいてよく言うわい。黒龍のことかの?」
「そうです。聞いた話によると黒龍は討伐に成功したことが無いそうじゃないですか」
レンテはそう言っていたし、間違いないだろう。
「ひょひょひょ、じゃから活動の鈍い今を選んだのじゃが?」
学園長はアースドラゴンの鱗をいじりながら、あくまでも惚けようとする態度を崩さない。
「いや、あの龍窟は高い湿度と出入り口が1つという構造だから気温がある程度保たれてて、外の寒さの影響をほとんど受けていませんでした」
事実、龍窟内のモンスターは活動が鈍ることはなく普通に動けてたしな。
「大した洞察力じゃな。入学試験では頭が弱いものとばっかり思っておったが、なかなか切れ者らしいの」
細い目を僅かに見開き俺を見る。
「伊達にギルダーやってるわけじゃないですから。さて、そろそろいいんじゃないですか?本当は何が目的で俺たちをあそこに送り込んだんですか?」
「お主には知る必要の無いことじゃ、35374。ではワシもお主に聞くことがある。・・・本当に龍窟の最奥部には黒龍はいなかったのかの?」
学園長は呪いを発動させて俺にこれ以上聞いてこないようにさせようとする。
「先程も言ったとおり、黒龍はいませんでした。情報がアースドラゴンと間違えてたんじゃないですかね」
黒龍はいなかったというのは嘘じゃないしな。
「ふむ、そうか。ところでジュン君、そのコートはいつ、どこで手に入れた?」
今度は目を細め、値踏みするような目でレンテを見る。
学園長はレンテについて知ってるのか?
「これですか?これはハリンガルの衣料品店で買った大量生産品ですよ。1年前のこの季節に買いました」
バレるのはあまり都合が良くない気がする。本来ならオルギヌスもバレちゃまずい気がしないでもないが、あれは模造品が横行してるらしいからな。俺のオルギヌスはその1つって事にしておこう。
「ワシが昨年見たときにはそんなコートは無かったはずじゃが?」
「デザインが受け入れられなかったみたいで、2週間くらいであらゆる衣料品店から廃棄されたらしいですよ?俺は気に入ってるんですけどね」
よくもまあ、こんなにペラペラと嘘が出るもんだと自分でも呆れる。
「コートに魔力が感じられるのは?」
学園長がしつこく聞いてくる。
「夏にも使えるように専門の魔術師に気温無効化の魔術をかけて貰ったんです」
そんな魔術があるかどうかなんて知らないが、その魔術師の特別魔法だと言い張れば何とかなるだろう。
「最後に、レンテという名を知っとるかの?」
「三宝の一つでしたっけ?試験勉強でそんな名前が出てきたような…」
思い出そうとするフリをして誤魔化そうとする。
「・・・うむ、ワシからは以上じゃ。退室してよいぞ」
何となく納得してなさそうだが、特に怪しいところが無かったのか、退室を許可した。
「んじゃ、失礼します。・・・そうそう、1つ言っておきますが、学園長の呪いとやらはとっくに見破ったので使わない事をお勧めしますよ?俺は命令されるのは大っ嫌いですから」
ドアノブに手を掛けたところでそう言う。
「何?それはどういう意味じゃ。答えろ35374」
驚きを隠せていない声色でいつもの癖なのか再び命令する。
「だからもう効かないって言ってるじゃないですか。まあ、今回は特別に説明しましょう。学園長の呪いとやらは実は呪いなんかじゃなく、対象の魔力を操る類の特別魔法なんじゃないですか?」
「う、うむ。確かにそうじゃ」
「人は行動するのに極少量の魔力を無意識の内に使っているそうじゃないですか。学園長はそれを制御し、行動を命じていたんです。口封じにしても俺たちに無理やり返事をさせたのも全て自身の魔力に操られてたってところですかね。そこで俺は考えたんです。魔力を使わないで行動すれば関係ないんじゃないかって」
「いや、そんな事出来るはずが…」
「出来るんですよ。俺の生まれ育った所は魔力を使わない生活が出来るように教え込まれてたので」
そもそも魔力なんて無かったんだがな。
「そんな、バカな…」
「信じられないとしてもこれが真実です。では、失礼します」
それだけ言って、茫然自失とする学園長を残して部屋を出た。
・・・いや、まあ、ホントは俺にそんな事出来ないけどね。種明かししちゃうと、レンテを身に付けてるおかげで単に全ての魔法が効かなくなってるだけだ。
大体、この世界にきてからいつの間にか魔力が感じられてたから制御も何も出来ないっすよ。
「まあ、結果オーライって事で」
とりあえず、せっかくの自由日だ。初めての授業でも受けましょうかね。
次回予告
潤「早くもレンテに助けられちまったな~。さて、久しぶりに次回予告らしい次回予告をしようじゃないか。次回は俺の初授業だ。こっちの世界の授業ってどんなんなんだろうな?」