63 なんか、ジメジメしてます
「はぁ…何で俺がこんな事」
俺たちは今、龍窟と呼ばれる洞窟に来ている。
ここに来てから26回目の溜め息だ。
「まあ、言っても仕方ないやんか。サクッと黒龍倒してサッサと帰ろうな」
そう俺を励ましてくれる緑髪の関西弁の人、グレストがこのパーティの中で一番仲が良い。
「そうだな。にしても、居心地の悪い場所だよな~」
俺は手で顔を扇ぎながら言う。
洞窟内は湿度が高くジメジメしており、やたらと蒸し暑い。足元は苔で覆われており、滑って歩き辛い。
「そう思ってるのは皆同じよ!いちいち無駄口を叩かないで!」
そう喚くのは青髪の少女、マワターだ。この少女は成績至上主義者であり、俺の苦手No.1だ。
「あんまし気ぃ悪くせんといてな?あれでも悪気はないはずやから。・・・おっ、少し広い所に出たな。リーダー、ちぃとばかり休憩せぇへん?」
空気が悪くなるのを防ぐためか、グレストがすかさずフォローにまわり、更に話題変換。
そこは広間のようになっており、横幅が2メートル位だった今までとは違い30メートル位ある。天井も暗くてよく分からないが、結構な高さがありそうだ。
「そうだね。隊形の確認もしたいし、一旦休むか。各自周辺の警戒はしておいてくれ」
リーダーであるナルシストがそう言い、俺たちは壁際に集まる。壁際の方が周囲の警戒が楽だからな。
「さて、とりあえず任務の確認からだ。任務は龍窟最奥地にいる黒龍の討伐。この時期の黒龍は動きが鈍くなるらしいが油断は禁物だ。洞窟の構造としては、横の二次型。内部は視界、足場共に悪い。モンスターは爬虫類系統が主でレベルは中級程度。こんなものだな」
ナルシストが現状を踏まえてまとめる。うむ、的確な考察だな。ナルシストという点を除けばコイツも悪いやつじゃないんだけどな~。
「隊形はこのままでいいのかしら?」
マワターが微笑みながらナルシストに尋ねる。俺の時と態度が違いすぎだろ…
「あぁ、この洞窟は通路が狭いからな。先頭にこの中で一番優秀な俺、続いて俺の補佐としてマワター、安全な真ん中にジュン、ジュンの保護としてグレスト、探知魔術が使えるラステルを最後尾として一列縦隊とする。問題ないな?」
サラッと自分の有能さを示して、そう指示した。
「・・・・・」
ショートカットにした紫髪の少女、ラステルが俺のローブの裾を引っ張る。
この少女はほとんど喋らないので、良いやつなのかよく分からないが、マワターよりはまだましだと思う。好感度としては、グレスト>ラステル≧ナルシスト>マワターって感じか?
「ん?どうした?」
裾を引っ張ったわけを聞いてみる。今までも何回かあったが、この裾を引っ張るという行為は用があるときにするみたいだ。
「・・・来る」
ポツリとそれだけ言う。
「来るって何が……あぁ、確かに来てるな」
最初何のことを言ってるか。分からなかったが、すぐにそれの答えが理解できた。
「えっと、作戦の確認中申し訳ないが、モンスターの集団約50体がこっちに迫ってるってラステルが言ってるぞ」
俺はナルシストにラステルが言いたかったのであろうことを代弁する。
「分かった。俺、グレストが前に出るからマワターとラステルは後方援護、ジュンは…邪魔にならないようにしてくれ」
「了ォ解」「分かったわ」「・・・」「ういっす」と、俺たちが同意し、グレストとナルシストが前に、その他が後ろにさがる。
『グォォォオッ!』
咆哮と共に暗闇から体長2メートル位の黒いトカゲが見えてきた。この洞窟ではよく出会う、ライトドラゴンだ。攻撃方法はドラゴンという名が付くだけあって、ブレスによる攻撃が多い。
「雑魚とは言っても奴らは中級モンスターだ。全員、油断するな!行くぞっ!」
ナルシストの声と同時に全員が行動を始める。
「研ぎ澄まされし鋭さを!シャープエッジッ!」
マワターがグレストとナルシストに武器の鋭化魔術をかける。本来1回の詠唱では1つの対象しかかけられない筈だが、流石は学年トップクラスといったところか?
「ストームスラッシュ!」
鋭化魔術を確認すると、ナルシストが剣で空中を凪ぐ。するとその場から竜巻が起きて5体程のライトドラゴンが切り裂かれる。鋭化魔術のおかげか、攻撃を受けたライトドラゴンはその一撃で絶命した。
「おぉ、リーダー、魅せまんなぁ。んじゃオレも…」
それまで槍で突いたり凪払ったりして1体ずつ倒していたグレストが槍の先を地面に向くように持ち替えて、
「グラウンドショック!」
そのまま槍を地面に突き刺すと、グレストの周囲の地面が針状に隆起し、10体程を串刺しにした。
「・・・グランドアイス、ピアシングアイス」
ラステルは無詠唱でグランドアイスを発動し、20体程のライトドラゴンの足元を凍らせて動きを封じた。続けて地面から氷柱を発生させるピアシングアイスでライトドラゴンを貫いた。
「いやぁ、楽でいいね」
目の前で繰り広げられる戦闘ともいえない一方的な攻撃を見ながら呟く。このペースならあと数十秒の間に殲滅し終えるだろうな。
だが普段単独行動をするはずのライトドラゴンが何で群れてるんだ?それに群をなしてるってことは、それを纏める…
『ギャァァァォオッ!』
一際大きな咆哮を放ったソレによって、俺の疑問は解消される。
奥から現れたのは幅3メートル長さ20メートル高さ4メートルはあろうかという4本足の赤黒いドラゴン。翼が無さそうだから地面を這うのだろう。
「アースドラゴンかっ!?何で農村級がこんな所に?」
何だよ農村級って…平和そうじゃねぇか。
「そんな事より、逃げた方がえぇんとちゃう?」
グレストが槍をアースドラゴンに向けて牽制しつつ提案する。
「だが、逃げるにしても広間の入り口まで凡そ20メートル。気を引きつける奴が必要だ」
確かに逃げてる最中に背後から襲われる可能性が高いからな。囮は必要かもしれない。だとすれば、
「あぁ、その囮役、俺がやるわ」
全員が生き残る事を考えたら俺が最適だろう。別にナルシストみたいに自分の力に過剰な自信を持って言ってるわけじゃないぞ?本気を出したら人を殺しかねないこの力の恐ろしさは俺が一番分かっている。それに、今まで戦闘に参加しなかった俺はそろそろ役に立たないとだしな。
しかし、他4人は動こうとしない。
「それは出来ない相談だ。この場合君の選択は勇敢ではない、無謀なだけだ」
ナルシストがそう告げる。俺って信用ないな…
そうこうしてる内にアースドラゴンは俺たちまで残り5メートルという所まで迫って来てしまった。
「はぁ、もう逃げるのは無理そうじゃねぇか…じゃあリーダー、この状況では全員で闘った方が生存率が高いと思うんだがどうよ?」
もう転移魔法は間に合いそうにないし、パーティを組んでの戦闘なんて殆どやったことないからやり辛いかもしれないが、この際しょうがない。
「そうだな。よし、みんな、死ぬんじゃないぞ!」
ナルシストがそう決断し、各々が武器を構える。
俺も空間からオルギヌスを抜き放ち、早速技を繰り出す。
「いくぜっ!黒鴉ッ!」
黒い魔力波が迸り、アースドラゴンの顔面を直撃する。しかし、
「無傷、だと?」
アースドラゴンは一瞬怯んだが、それだけだった。
「ジュン!アースドラゴンは弱点の腹以外剣戟、魔術完全防御や」
グレストが槍で周囲に残っていたライトドラゴンを一掃し、そう叫ぶ。
「マジか…リーダー、他に情報は!?」
「弱点の腹でさえ魔術耐性が異常に高いって位しか分からない。何せ目撃情報が200件程度、その中でも討伐数は50そこそこだ」
俺が身体能力強化をしている内にナルシストが早口にそう言った。
「・・・ピアシングアイス」
ラステルが地面から氷柱を発生させ、腹を貫こうとする。
しかし、アースドラゴンに触れると同時に氷柱は消されてしまった。
更にアースドラゴンは大きく息を吸った。
「あれは…ブレスが来るぞっ!マワターッ!」
ナルシストがそう叫ぶ。
「分かったわ。清き精霊の加護を!マジックバリア」
俺たちの周りを囲むように、半透明の球体が覆われる。
『グォォォオッ!』
アースドラゴンが口から赤い魔力波を放った。
「よいせっと」
俺はブレスを俺の魔力に塗り替える事で対応する。
「グッ」「グァッ」「クッ」「・・・」
呻き声が聞こえて振り返ってみると、マジックバリアがブレスに耐えきれなかったのか、4人は吹っ飛ばされ壁に激突。気絶してしまったようだ。
「クソッ!ちょっと待ってろ!ブラックホールッ!」
アースドラゴンを超重力場で動きを封じる。魔術耐性のせいでダメージは与えられないがそれでもいい。
「今のうちだな……………よし」
俺は4人に転移魔法をかけ、学園まで飛ばす。
『グギャァァァアッ!』
超重力場から解放されたアースドラゴンが、獲物を逃がされたからか怒りに満ちた咆哮をあげた。
「そんな顔しないでも相手してやるよ。弔い合戦だ」
あいつら死んでないけどな。
「弱点は腹だったな…闇針!」
アースドラゴンの下の地面から腹に向けて闇針を放つ。
『グォォォオッ!』
闇針は魔法とは少し構造が違うのだが、やはりあまり効果はなかったみたいだ。
お返しと言わんばかりに回転しながら尻尾を俺に叩きつける。
「おわっ…」
咄嗟にジャンプする事で避ける。残像が見えそうな速さで俺の下をゴツゴツとした尻尾が通り過ぎ、再びアースドラゴンの顔が俺の前に来る。
『ギャァァァッ!』
未だ空中にいる俺を前足で殴りつける。
「グファッ」
オルギヌスを盾にして衝撃を緩和したが、壁まで飛ばされた。
あぁ、滅茶苦茶痛い。こんなに痛いのは2ヶ月前に城で足を捻った時以来だよ…あれ?それって大したことないんじゃね?
「久しぶりに攻撃を食らったから滅茶苦茶痛いのかと思ったんだが…身体能力強化は偉大だな」
ローブに付着した砂埃を払いつつアースドラゴンに向き直る。
「ったく、ちょっとばかりおいたが過ぎるんじゃないか?」
律儀に俺が向き直るまで手を出さずにいたアースドラゴンも俺に向く。
『グォォォオ!』
雄叫びをあげ、アースドラゴンは今にも突進してきそうな勢いだ。
「そう焦るなって。心配しなくても受けた痛みは1000倍にして返してやるから。覚悟しとけ?」
それから約3秒後、俺とアースドラゴンは同時に地面を蹴った。
次回予告
潤「要らない要らないと思いつつもやってしまう次回予告。最近に至っては予告じゃなくて雑談になってることも多々あるんだよな…ホント、何か考えないとなぁ」