58 なんか、貧しいです
「どれどれ、時間割はあとで見ればいいか。寮があるらしいが」
《学生寮案内 D,E組用》
ご入学おめでとうございます。
ご存知の通り我がミュート学園は全寮制の学校であり、学生は皆勉学に励むとともに自己管理能力を磨いています。
D,E組の生徒は基本的に2人で1つの部屋を使用するものとします。
部屋割りは成績順とし、クラスの1と2、3と4のように組んでもらいます。
寮での規則は生徒手帳を参照してください。
だそうだ。ってか寮生活かよ…暫くは城に戻れなさそうだな。
ちなみに紙の下半分は見取り図となっており、どうやら俺の部屋は寮の入り口のすぐそばみたいだ。
「入り口から近いのはいいが、廊下が五月蝿そうだな。そういう事も考えられてるのか?」
まあ、別にいいけどな。
「私は五月蝿いの好きじゃないです」
「俺だってそうさ。だがあくまで実力主義の学校みたいだからな。しょうがな…って、ハルさん!?」
俺の隣でハルさんがニコニコしながら立っていた。考え事してたせいで気付かなかった。
「私はずっとここにいましたよ。クラスの皆さんが寮に向かう中、ジュン君が残っていたので気になって一緒に残りました」
「ちょっと考え事してたので…じゃあ一緒に寮まで行きます?」
「はい!それとジュン君、私のことはハルって呼び捨てにしてください。敬語も不要です」
ズイッと鼻と鼻が当たりそうな距離まで詰め寄り、そう言った。
いちいちドキッとさせる人だな…顔が熱いぜ、まったく。
「あ、あぁ、分かった。ハルさ…ハルも俺のこと呼び捨てでもタメ口でも好きにしてくれ」
思わずハルさんと言いそうになってしまった。普段ならこんなこと無いのに。動揺って恐ろしい。
「私はこのままがいいですから今まで通りにします」
顔を離して再びニコニコとする。やっと解放された…
「じゃあさっき言ったとおり、寮に行こうぜ」
「はい。行きましょう」
寮は学園内にあり、グラウンドを挟んで校舎の反対側にある赤レンガ造りの重厚感溢れる建物だった。
「良いルームメイトだといいですね」
「そうだな。んじゃ、俺はもう部屋に戻るわ・・・ぐぇっ!」
俺が入り口すぐにある部屋に入ろうとすると、ハルに後ろから襟を掴まれた。
「あ、あの、もし良かったらなんですけど…一緒に学園内を見て回りませんか?」
顔を俯かせながら呟く。
ふむ、学校見学か。やぶさかではないが、
「もちろん、よろしく頼むよ。けどとりあえず部屋で荷ほどきしちゃおうぜ」
荷物って程の荷物は無いが、ルームメイトに挨拶したりしなきゃいけないからな。
「分かりました。では3時に寮の玄関でどうでしょう?」
「それなら大丈夫だな」
それだけ言って、俺たちは各々の部屋へと入っていった。現在1時20分。3時まではまだ時間がある。
「よう、お前がルームメイトか。最下位同士仲良くやろうな」
部屋に入った途端、銀髪ツンツン頭のイケメンにこう言われた。
「おう、よろしく。俺は潤って言うんだけどお前は?」
とりあえずフレンドリーに接する。第1印象って大事だからな。
「ジュンな。僕はレイシス・カイ・ヴランマイルだ。呼び方は自由にしてくれよ」
レイシスはイケメンスマイルを浮かべながら手を出す。
「もしかしてレイシスは貴族か?」
俺も手を出し、握手をしたあと尋ねた。
「まあね。と言っても国の端っこに住んでる小貴族だから、この街に住んでる人たちよりも財力はないな」
そう言って肩をすくめるレイシス。
確かに、レイシスからは城で見る貴族のように趣味の悪い貴金属をジャラジャラ着けたり、相手を見下すような傲慢さは感じられない。言っちゃ悪いが、むしろ幸薄そうなイケメンだ。
「上流貴族みたいのは取っ付きづらそうだから俺としてはその方が話しやすいよ」
「まあ、僕の事話してても詰まらないからこの話は終わりっと。そういや明日から早速講義が始まるけど教科書とか買った?」
「いや、まだだけど。販売は今日か?」
普通入学式前に販売するもんじゃないのか?しかも朝日から講義だってのに。
「いや、販売自体は合格発表の日にしてたぞ。今日は買い忘れた人のための予備日だ」
「そうだったのか…買い損ねるとこだったわ。レイシスはもう買ったのか?」
「僕もまだだったんだ。よければ今から買いに行かない?」
今は1時50分。まだ時間に余裕があるな。
「ああ、じゃ行くか」
「1年生の教科書は15冊で5250ワロになります」
ほう、思ったより安いな。こっちの世界ではこんなもんなのか?
そうそう、忘れてる人もいるだろうから言うけど、ワロってのはこの世界での通貨単位だ。現在俺は依頼やら何やらで稼いだワロが80万程ある。
俺は5250ワロを渡して教科書を受け取り、レイシスを見ると、
「5250ワロだと!?僕を騙してるのか?教科書がそんなに高いわけないだろう!」
何やら販売員に文句を付けていた。何やってんだアイツは。
「皆さんこの価格で買われておりますので…」
販売員も困った顔で言う。
「そんな事いっても僕は騙せないぞ?だいたい上流貴族でもない人がそんな大金持ってるわけないだろう!なあ?ジュン」
おっと、俺にふられてしまった。販売員も縋るような目で俺を見ている。
「教科書の相場はよく分からんが、高くはないんじゃないか?」
「ジュン、君の金銭感覚は狂ってるぞ。5250ワロもあれば1週間は豪遊出来るほどの大金だぞ!?」
いや出来ねぇよ!1週間分の食事で精一杯だよ!
ついでに言うと、1ワロはだいたい1円と思ってくれて構わない。
「お前の気持ちは分からなくもな…やっぱり分からねぇけど、仮にも貴族なら細かいこと言わないで5000ワロくらいだせよ」
「5250ワロだ!250ワロを笑う者は250に泣くぞ?だいたい僕はそんな大金持ってない」
コイツは本当に貴族か?まあ、ここでレイシスを見捨てるのは流石に可哀想だから貸してやるか。
「足りない分は貸してやるから。いくら足りないんだ?」
財布を取り出して尋ねる。
「5000ワロ足りない」
えっ・・・・・えっ?
「つまり所持金は…」
「250ワロある」
何でドヤ顔なんだよ。ちょっとは恥ずかしそうに言え。
「仕方ないな。貸してやるからちゃんと返せよ?」
財布から1000ワロ札を5枚渡しながら言う。念の為30000ワロ持ってきておいて良かったな。
「助かる。何年かかってでも返すから」
「今年中に返せよ…休みの日にギルドで依頼受けたりすりゃすぐに貯まるだろ」
ホントにどんだけ貧乏なんだよ。
「依頼受けたりするのは面倒くさいんだよな~」
「討伐依頼とか受ければ1回で済むじゃねぇか」
教科書の束を持って寮に向かいながら言う。
「あ~、無理だわ。俺ここの試験、全教科合格ラインギリギリで受かったんだよ。ほら、器用貧乏ってやつ?そんなわけで剣も魔法もからっきしでさ」
器用貧乏って言葉が妙にしっくりとくる。主に貧乏ってところが。
「なら一緒に依頼受けるか?報酬は山分けって条件になるが」
「俺より下の点数で合格した奴に言われてもな…ジュンは試験どうだったんだよ?」
そういえば見てくるの忘れたな。ハルと会ってそのまま寮に来ちゃったからな。
「まだ見てないな。まあ、人並みには強いはずだから安心していいと思う」
「ホントかよ。寮の入り口にも張り出されてるらしいから見ていこうぜ」
「「まじかよ…」」
レイシスは俺の得点と総受験者中の順位を見て唖然としている。
俺も自分の得点を見て唖然としているのだが、レイシスとはおそらく違った意味で唖然としている。
羽山 潤
筆記 0点 972位
実技・剣術 100点 1位
実技・魔術 100点 1位
総合 200点 204位
ってわけだ。俺筆記0点だったの!?1問目間違ってたのかよ…
「ジュン、お前凄いんだな・・・色んな意味で」
「うるさい。少なくともお前には言われたくない」
ちなみにレイシスは、
レイシス・カイ・ヴランマイル
筆記 67点 221位
実技・剣術 67点 197位
実技・魔術 67点 193位
総合 201点 203位
オール67点って、調整したかのように揃ってるのもある意味凄いわっ!しかもそれでギリギリ合格してんだからまさにミラクルだ。
ついでにハルのも見ておくか。
ハルシエスタ・リアメント
筆記 54点 471位
実技・剣術 88点 21位
実技・魔術 76点 113位
総合 218点 167位
剣術は88点か。どうやって採点してんだか知らないが、上には20人あれより凄いのがいたんだな。
「いやぁ、まあ、実力ってやつ?」
そんな実力いらねぇわ!
「勝手に言ってろ。そんじゃ、俺は帰るぞ。また明日な」
「いやいや、ジュンは僕と同じ部屋じゃないか」
おぅ、そうだった。毎日コイツと一緒に過ごさなきゃならんのか…大丈夫か?俺の財布。
「はぁ」
「そんなあからさまに嫌そうな顔しないで!?泣くぞ?」
泣いてろよ。
「俺は3時から用事があるから、5時頃帰るわ」
そう言って踵を返す。どうせすぐ後に部屋で会うんだろうけどな。
次回予告
潤「金って大事だな。うん。使おうと思えばいくらでも使えちゃうからな~。さて、次回は皆さんの予想通り、ハルと学園巡りだ。要は学園の内装外装を説明していくって感じかなぁ)