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気まぐれセカンドライフ  作者: 誰かの何か
第5章 学校に行こう
62/78

56 なんか、全然分かりません

まあ、気分転換の学園編です



「え~、諸君らは今日からこの私立ミュート学園に入学するわけだが…」


 講堂のステージに立つ校長と思しき人がなにやら話している。

 え?急展開すぎて何のことだか分からない?うん、俺もどうしてこうなったんだかよく分からない。とりあえずここ1週間の事でも回想してみましょうよ?





~1週間前~

 辻斬り事件から2日後の夜、俺はメイドさんに呼び出された。醤油の種類を間違って買ってしまったかとビクビクしながら指定された場所まで行くと、


「明日の午前9時、この紙を持ってミュート学園という所に行ってください」


 って言われた。とりあえず命の危機でないことだけは理解できたからホッとしたね。

 精神をすり減らした俺は部屋に戻って寝ることにした。


 さて次の日、俺は8時に城を出てミュート学園に向かった。未だに用件は分からないが、メイドさんは行けば分かるって言ってたので、とりあえず行くことにした。

 道中、メイドさんから貰った紙を見てみるが、書いてあるのは35374の数字。何かの暗号かとも思ったが、この紙についてもミュート学園に行けば分かるらしいので気にしない事にした。




「受験票を見せてもらえますか?」


 ミュート学園に到着すると、職員と思われる男性にそう言われた。


「受験票、ですか?」


 何のことだ?メイドさんは俺にミュート学園までおつかいを頼んだとかじゃないのか?


「その手に持ってる紙ですよ。ちょっと失礼」


 まだ何のことだか分からない俺から職員は数字が書かれた紙を抜き取った。


「35374ですね。3階のD教室に行って受験してください」


 受験だって?そういえば周りには俺と似たような年頃の人が多くいる。もしかしなくてもこれって、


「今日はミュート学園の受験日ですか?」


「はい、そうですよ。時々いるんですよね、長い受験生時代が今日で終わるのが信じられなくてあなたみたいに尋ねる人が」


 俺は別にそういう意味で尋ねたんじゃないんだが…受験する気なんて無いから帰るか?いや、恐らくメイドさんは俺に受験させるためにここに来させたのだろう。帰ってしまっては後が怖い。


「そうかもしれませんね。会場は3階のD教室でしたよね?」


 ここは受けとくが吉だろう。


「合ってますよ。では、試験頑張ってください」


 俺は適当に応じ、試験会場に向かった。このミュート学園の外装内装はそのうち話すかもしれないから今は省かせてもらうな。




 D教室とやらに着くと、中には既に人がたくさんいた。席が2、3席しか空いてないから俺がほぼ最後の受験生なんだろう。


「やべ、筆記用具持ってない」


 受験番号に応じた席に座り、元の世界の高校受験を思い返していると、不意に重要なことに気づいた。

 どうしよう…職員にこんな事言えねぇしな。魔法で創り出せないかな?まあ、無理ですな。あ~、どうしよう。


「あの…」


 隣に座る茶髪の女子が声をかけてきた。


「俺ですか?」


「はい。もしよかったら筆記用具、貸しましょうか?」


 蚊の鳴くような声、とまでは言わないが、小さな声で俺に言う。


「いいんですか?貸してもらう立場の俺が言えるような事じゃないですけど、ここで貸さなければライバルが1人減るんですよ?」


「一緒に合格すればいいんですよ。そうすれば入学したときには友達です」


 天使がいらっしゃる!ここに天使がいらっしゃるぞ!メイドさんとは正反た…これ以上言うのは怖いからやめとこう。


「優しいんですね。ではお言葉に甘えて貸してもらえますか?」




「はい、席に着いてください。教科書、参考書、ノートの類は鞄の中にしまってくださいね」


 俺が筆記用具を借りた直後、試験官と思われる人が入ってきた。


「今日の試験は筆記試験と実技試験があります。筆記試験はこの教室で行い、時間は60分です。実技試験はグラウンドで行い、剣術と魔術の2種を受けていただきます。実技試験に関しては筆記試験後に説明があるのでよく聞いてくださいね。では早速筆記試験を行います。問題用紙2枚、解答用紙1枚が手元にあることを確認してください。・・・・・では、試験開始」


 まくし立てるように言われ、試験が始まった。開始と共に全員が問題用紙をめくる音を聞くと高校受験を思い出すね。さて、俺も取り掛かりますか。


第1問 雑務・護衛・討伐などの依頼を受諾し、会員に仕事を与える団体を何というか?


 ギルドでいいのか?まあ、1問目だし、大丈夫だろう。


第2問 256年に起きた、サナトス率いる魔の軍とケーニッヒ率いる人の軍の戦争を何というか?


 歴史系は知らんな。一切勉強してないし。飛ばそ。


第3問 3大魔術において、最も発動に魔力を必要とするものは何か?また、魔術係数を4.765とした時の必要魔力を答えよ。


 3大魔術って何ぞ?魔術係数とかも意味分からんし。

 飛ばすか。



「時間です。筆記用具を置き、回ってくる試験官に解答用紙を渡してください」


 お、終わった。2通りの意味で。結局解けたのは第1問だけだ。全部で40問程あったから筆記試験は絶望的だ。


「試験どうでした?」


 筆記用具を貸してくれた天使が俺に尋ねる。


「驚くほど出来ませんでしたよ。こりゃよっぽど実技試験を頑張らないと無理そうです。あなたはどうでした?」


 苦笑いしながらそう答える。周りの人がどのくらい出来たかは知らないが、俺よりは高いだろう。


「私もあまり出来ませんでした。半分出来たかどうかって感じです」


 半分であまり出来なかった、か。分かってはいたが1問しか出来なかった俺は論外だな。


「お互い実技試験で挽回しましょう」


 恐らく俺は無理だが、彼女には受かってほしいね。


「そうですね。ではグラウンドに行きましょう?」


 彼女も苦笑いしながら応えながら席を立つ。俺もそれに続いてグラウンドに向かった。




「実技試験は剣術から行います。試験内容は職員との模擬戦です。自己強化魔術の使用は許可しますが、直接攻撃となるファイアなどの魔術は使用禁止です。なお、剣は学園が用意したものを使用し、試験時間はおおよそ1分です。では、受験番号35301から始めてください」


 俺の受験番号は35374だから大分先だな。


「私たちの番まではまだ1時間程ありますね」


 筆記用具の天使は俺の1つ前だからお互い暇なのですよ。


「軽く身体でも動かします?」


 いきなり試験では普段出せる力も出せないからな。


「お相手お願い出来ますか?」


「俺で良ければお願いします。剣は…貸し出してくれなさそうだから、この剣でいいですか?」


 そう言って俺は黒い魔力で作った刀、黒刀の2本のうち1本を渡した。

 黒刀なんて久々の登場だな。オルギヌスを手に入れて以来使わなかったからな~。


「こんな真っ黒な剣、初めて見ました。使わせてもらっていいんですか?」


 黒刀を眺めながらそう呟く。


「幾らでもあるんで使っちゃっていいですよ。では始めますか」


 そう言って黒刀を構える。久々の握り心地に懐かしさを覚える。


「はい、よろしくお願いします」


 彼女も同じく黒刀を構える。そういえばまだ名前聞いてなかったな…後できいておこう。


「ハァァァッ!」


 先に動き出したのは彼女。お世辞にも速いとは言えない。怪我をしないように配慮してくれているのか黒刀は逆刃にしている。


「ホイッと」


 彼女の黒刀を捌き距離をとる。打ち込むことも出来たが、決着はこのウォーミングアップの終わりでいい。


「やぁっ!はぁっ!」


 彼女は一歩踏み込んで打ち込んだり横凪ぎに振るうが俺は悉くを弾く。


「とぉっ!・・・やぁっ!」


 段々力強さがなくなり、速さも失われてきた。息も上がってきてるみたいだし、そろそろ終わりにするか。


「はぁはぁ……やぁぁぁっ!キャッ!」


 俺の脳天目掛けて振るわれる彼女の黒刀を避け、そのまま黒刀を打ち落とし地面へと沈める。


「勝負ありって事でいいですか?」


 未だに黒刀が抜けないでいる彼女に尋ねる。


「完敗です。強いんですね」


 諦めたのか黒刀から手を離した。


「他の人より少しだけ、ですけどね」


「この分だと実技試験も私ダメそうです。あなたは頑張ってくださいね」


 彼女は力なく笑い、そんな事を口にする。

 ウォーミングアップは裏目に出てしまったが、まだ想定内。


「一緒に合格するんじゃないんですか?」


「私にはまだ早かったみたいです。また来年頑張ります」


 それだけ言って彼女は踵を返そうとする。


「そう言わずに、受けるだけ受けてみてくださいよ。合格のおまじない掛けてあげますから」


 俺はすかさず彼女の目の前に回り込む。


「おまじない?」


 ちょっと興味を持ってくれたみたいだ。


「そう、おまじない。ちょっと握手させてもらいますよ」


 まあ、おまじないとか言いつつ、要は身体能力強化を彼女に掛けてあげるだけなんだけどな。他人に掛けるなんてやったこと無いが身体が触れた状態でなら出来ると思う。


「あ、あの、まだですか?」


 そんなに顔を赤らめないでおくれ。俺まで恥ずかしくなる。


「も、もう少し待ってください。1分間手を繋ぐことでおまじないが成立するんで」


 想像以上に難しい…対象が光か闇属性なら簡単なんだけど、それ以外の属性だと魔力を同期させてその人の体質に合った魔力を使って魔術を掛けなければいけないみたいだ。


「受験番号35370~35379までの方はそろそろ並んでください」


 おっと、試験官が俺たちが含まれている番号を呼び出した。


「と、とりあえず並びましょうか」


 顔を赤くしたまま彼女は俺を引っ張っていく。

 う~ん、あと3%で同期が完了するんだけどな。


「受験番号35372、始めてください」


 彼女の番は次か。あと1%、間に合うか?


「受験番号35373、始めてください」


 おっと、彼女の番だ。


「おまじない、ありがとうございました。では行ってきますね」


 彼女は微笑みながら手を離し、試験へとむかう。

 魔術はどうなったかって?ふっふっふっ、きっちり成功しましたよ。急いでたから本来の7割程しか効果はなさそうだが、それでも十分だろ。


「よろしくお願いします!」


 緊張した面持ちで彼女は試験官と向き合い、走り出す。

 さっきのみ5倍はあろうかという速さで一気に距離を詰め、剣を振るう。試験官はそれを剣でガードするが、腕力も強化されてる中で中途半端にガードしたせいで、試験官の剣が根元から折れてしまった。


「そ、それまで!」


 呼び出し係の試験官は慌ててストップをかける。


「おまじないが効きましたよ。ありがとうございます!」


 試験会場から戻って来ながら彼女は嬉しそうにしている。うんうん、苦労した甲斐がありましたよ。


「あれはあなたの本来の力ですよ。じゃ、俺も試験受けてきますね」


 ちょうど試験官が剣を取り替え終わったので会場に入ろうとする。


「少しだけ待ってください。私からもとっておきのおまじないを掛けてあげます」


 チュッ


 そんな擬音が正しいだろうか。え?ってか今何されたの?ほっぺたにキス?


「え?あの…」


「えへへ、頑張ってくださいね」


 気恥ずかしそうにそれだけ言うと、呆ける俺を置いて走って行ってしまった。

 俺は顔が火照るのを感じながら身体能力強化を掛け、会場に入った。背後から「受験中に何イチャついてんだよ」という視線が突き刺さるが、気にしたら負けだ。


「それでは受験番号35374、始めてください」


 とりあえずさっきのことは置いといて、サッサと決めますか。







次回予告


潤「回想長いな~。どうやら次回も回想が中心になりそうだし…ってか何で俺が受験しなきゃならないんだ」

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