53 なんか、事件みたいです
予告してから随分遅い投稿となってしまい申し訳ありません…
これからも少しずつではありますが書いていくため、完結する前に作者が消えるという事だけは避けるようにいたしますので何卒よろしくお願いします
「辻斬り、ですか?」
俺が城に帰ってきて3日目の夕方、メイドさんから昼に辻斬りがあったことを聞いた。
「はい、白昼堂々の犯行だったのですが、目撃者がおらず、捕縛には至りませんでした」
「物騒ですね~、あんまり外に出ないようにし…」
「そこでジュン様には事件が起きた現場で立っていてほしいのです」
おおっと、どうやらメイドさんは注意してくれてるんじゃなく俺に死ねと言いに来たらしい。
「マゾシズムな考えを巡らせるのはジュン様のご勝手ですが、わたくしの評判を貶めるような事を考えるのは遠慮していただけますか?」
「そうやって人の心読むのやめてくださいよ…ってかメイドさんの評判って…」
「ジュン様の思考はゾウリムシ並みに読みとりやすいため、読もうと思わずとも…」
語尾を濁しながら気の毒そうに俺から目を逸らす。ってか
「俺が単細胞生物並みの思考しか持ってないってことですか!?」
「という以前にジュン様はご自分が多細胞生物の中でも高等動物と言われる人だとでもお思いで!?」
メイドさんは苛立ちを隠そうともせずにぶつけてくる。
「何で怒ってるんですか…どう見ても俺は人でしょう」
「ですが城内の皆様方はジュン様を新種の生物だと信じて疑っていません」
「何故っ!?」
「わたくしが信じ込ませたからに決まっているではありませんか。やはりジュン様は単細胞生物ですね」
おっと…このやるせない気持ちは何なんだろうか。
「因みに最近では女王様も信じ始めてます」
追い討ちまで仕掛けてきましたよ、このドSメイドさんは。
「だからこの前廊下ですれ違った時に気まずそうに目を逸らしたのか…」
「そのようなことはどうでも良いのです。話を戻しますが、ジュン様には犯行現場で犯人が現れるまでひたすら立っていてほしいのです」
どうでも良くはないんだけどな…ってか何故満足そうな顔してんだ?
「それはさっき聞きましたよ。なんで俺なのかが聞きたいんです」
「今回犯人は腕が立つようですので、なるべく死傷者が出ないようにと熟考した結果、ジュン様が有事の際にも対応出来ると判断致しました次第でございます」
一応信用されてるという事でいいのかな?
「まあ、そういうことなら。俺がやらないせいで他の誰かが傷つくのも夢見が悪いですし」
「ありがとうございます。では明日の午前8時にカタルス通りに来てください」
「・・・カタルス通りってどこですか?」
あんまり外に街の中を歩き回ったことが無いからメインストリートくらいしか分からん。
「はぁ…これだからジュン様は単細胞生物だと言われるのです」
「広めたのはメイドさんですけどね」
「私は明日忙しく、ジュン様の相手などしている暇はないのでご自分で何とかしてください。では失礼します」
そう言うとメイドさんは部屋の外に出て行ってしまった。
ってか冷たくない?俺だって好きで行くわけじゃないのに…
((おい、KY女神))
・・・・・返事が無い。ただの屍のようだ。
せっかくの出番を自ら潰すとは、いよいよあいつもレギュラー落ちだな。
「ふむ、セレンにでも聞いてみるか」
セレンならある程度この街のことも知ってるだろうしな。
ってわけでセレンの部屋に行ってきますか。
「セレン~、ちょっといいか?」
「ジュン?入っていいわよ」
許可がおりたのでドアを開けて中に入る。
「おぉ、セレン。久しぶりに見た」
「何言ってんのよ。ついさっきも廊下で会ったでしょ?」
「あぁ、いや、小説的な意味でな」
セレンから怪訝な顔で見られるが構わず続ける。
「それで本題なんだけど、明日カタルス通りって所に行かなきゃいけないんだけど、何処にある?」
そう言うと今度は呆れたような顔で
「カタルス通りって辻斬りがあった所でしょ?また危ない事に首を突っ込む気でしょう」
「まあ、その、な?」
「まったく、勇者迎撃の時も私がどんな思いで…」
「ん?心配してくれてたのか?」
「だ、誰がジュンのことなんかっ!また無茶されて怪我の手当をするのが面倒なだけよ!」
顔を真っ赤にして言われてしまった。うむ、ツンデレは健在なようで何より。
「それで?カタルス通りがどこにあるか知ってる?」
「止めても無駄なんでしょうね…分かったわ。カタルス通りは・・・」
と、渋々ながらも地図を広げて場所を指差した。
「中央広場から色んな通りが伸びてるのか。サンキューセレン、んじゃ一旦部屋もどるわ」
「えぇ・・・・・気をつけてね」
セレンが心配そうな瞳で見てくる
「分かってるって。じゃ、また」
そう言って自室に戻る。
そういえばまだハリンテの街の構造について話してなかったな。
ハリンテは中央に噴水の広場があって、これを中心に街が出来てる。
中央広場の北通り「城通り」。この通りがハリンテ城に通じてる通りで、特に民家も商店もない石畳の通りだ。
次に東通り「レイジング通り」。名前は格好いいが、民家しかない何という事も無い通りだ。少し前にこの通りにあるコンビニでバイトしたなぁ。
そんでもって西通り「カタルス通り」。こっちは東通りと違って商店が並んでおり栄えている。バイトしたレストランがここにある。あそこがカタルス通りだったのか。
最後に南通り「リバルテ通り」。ここは行ったこと無いからよく分からんが、ゲームセンターやら野球場やらの娯楽施設やイベント会場が多いらしい。
辻斬りが起きたのはカタルス通りの末端に近い場所にあるデパートの前だったらしい。
「とりあえず事件現場でも見てくるか」
そんなわけでカタルス通りに赴くことにした。
事件現場は侵入禁止になっているわけでもなくすんなり入れた。流石に事件が起きた周辺に人はいなかったが。
「広さは、まあまあだな。デパートの前だし人通りもそこそこだったんだろうが、目撃者はいないんだよな」
見た感じでは寂れたデパートでもないし、昼ならそれなりに人がいたと思うんだけどな…だとすると・・・
「犯人はかなりの手練れ、かな?」
不意に背後から声がした。少し驚きつつも振り返ると、そこにいたのは20歳を少し過ぎたと思われるノートを持った女性。
「誰ですか?ここは事件があったので無闇に近付かない方がいいですよ」
「無闇に近づいてるわけじゃないんだけどね。私新聞社の人間だし。わたしとしては現場にあなたみたいな少年が彷徨いてる方がよっぽど怪しいけどな」
新聞社の人間か。あんまり俺の事は知られたくないな…記事にされても困るし。
「俺は……軍関係の人間です」
魔王ですなんて言えるわけがない。ってか頭のおかしい人にみられてしまう。こんな時は嘘を吐くに限る。
「へぇ~、その若さで凄いな。わたしはルイン。よろしく」
「いやいや、よろしくじゃなくて危ないんで帰って下さいって。さっきルインさんが言ったように相当な手練れかもしれないんですよ?」
「大丈夫大丈夫。危なくなったら逃げるし。それに目の前にネタが転がってるのに取材しないなんてわたしには耐えられないからね」
目を輝かせて話している。こういう仕事loveな人には何を言っても無駄か。
「はぁ、分かりました。とりあえず今日は帰って下さい。日が暮れ始めたので」
溜め息を吐きつつ言う。まあ、邪魔さえしないなら別にいいよな?
「はいは~い♪それじゃ、明日からはバッチリ現場を見せてもらいますからね~。えぇっと…」
「ウェルです」
「ウェル君、それじゃあね」
スキップでもしそうな足取りで元来た道を帰っていった。
本名を言わなかったのは勿論俺の事を調べられないようにだ。ん?どっかで聞いた偽名だって?14話でも見直してくれ。
「さて、下見もしたし暗くならない内に帰るか」
俺がそう呟き、踵を返した時…
「そこにいるのはおにいさん?久しぶりだね~」
そこにはヴェルが立っていた。
「ヴェルか、久しぶりっていっても3日しか経ってないけどな。それで、どうした?」
「今日ここで事件が起きたでしょ?それでちょっと様子を見に来たの。こう見えても鼻と耳は良いからね」
そう言って耳をピクピクと動かす。忘れた人のために言うが、ヴェルは人狼族っていう所謂獣人だ。まあ、獣人っていっても見た目は普通の人間と変わらない。唯一耳が獣耳になってるくらいだな。
「そっか、でも気を付けてくれよ?まだ犯人が近くにいるかもしれないからな」
頭を、いや、耳を撫でながら言う。うむ、癒される~。
「また耳さわる~。大丈夫だって、犯人がきてもよっぽどの事がなければ負けないから」
なんだかんだでヴェルが闘ってるところは見たことがないが、多分俺よりも強い。
「流石、頼りになるな~。俺が事件の調査するよりヴェルがした方が良いんじゃないか?」
「う~ん、でも犯人との相性はおにいさんの方がいいかな?」
「相性?どういう事?」
会ったことも見たこともない犯人との相性?ってか相性ってなんぞや?
「えっと、相性っていうのは攻撃方法と属性で決まる攻撃の通りやすさの事なの。攻撃方法は物理的な攻撃と魔法があるのは分かるよね?」
「まあな」
「それで物理的な攻撃は弓みたいな遠距離タイプと剣みたいな近距離タイプに別れて、魔法は遠距離タイプには強いけど近距離タイプには弱いの」
「まあ、間合いを詰められたらまともに詠唱出来ないからな」
「そういうこと。そしてあたしはオールラウンダーってやつで物理的な攻撃も魔法にも対応できるけど両方使える代わりに薄く広くって感じで特化したものは持ってないんだよね~」
プロミネントギルダーの言う薄く広くってのは俺でいう深く広くって感じなんだろうな…おそろしや。
「それで、おにいさんもオールラウンダーではあるけど詠唱の要らない特別な近距離魔法が多いから近距離タイプに近いと思う。犯人は辻斬りっていうくらいだから多分近距離タイプだね。まあ、攻撃方法については本人の技量次第だけど、相性的にはおにいさんの方がいいね」
「ふ~ん、じゃあ属性は?」
「属性は主に火、氷、土、風、雷があって、生まれつき1つ持ってるんだよ。氷には火、火には土、土には風、風には雷、雷には氷って感じで相性が良いんだ。他には極希に他の属性、おにいさんやサナトスは闇、ヘクトや勇者は光、あたしは無とかがくっついて2つの属性を持ってる人もいるよ」
「無?闇とか光とかは何となく分かるが無ってなんだ?」
「無はその名の通り、属性を持たない魔法で、相性が無くなる代わりに特殊な魔法が使えるようになるの。主な使い手はあたしと最聖賢、あと3人くらいいたって聞いたことがあるんだけど、誰だったかな」
「ふむ、それでその事と相性がどう関係してるんだ?」
「これはあくまであたしの予想なんだけど、犯人は光属性だと思うんだよね」
「なるほど、それで相性の良い俺ってわけか。でも何で犯人は光属性だと思うんだ?」
「光属性と闇属性はそれぞれ特性があって、光属性は日の出ている間魔力を感知されず、闇属性は日が沈んでから昇るまで魔力を感知されないの。犯人がわざわざ昼に犯行に及んだって事はそういう事なんじゃないかなぁってね。現場からは魔力が感知出来なかったらしいしね」
「なんていうか、素晴らしい推理力だな」
見た目はただの中学生なのに…
「このくらい当たり前だよ。頭が悪いようじゃ複雑な魔法は使えないもん」
恥ずかしそうにはにかんで答えるヴェル。う~ん、癒される。
「おっと、話し込んでる内に真っ暗になっちゃったな。早く帰んないとメイドさんに怒られちまう」
いつの間にか空は暗くなり、事件があったこの通りの商店は早くに店じまいしたらしく、見える光は街灯のみとなっていた。
「あのメイドさん恐そうだもんね~。お城まで転移させてあげよっか?」
「いや、転移なら自分で出来るしいいや。それよりヴェルこそ送らなくて大丈夫か?」
「大丈夫だよ~。んじゃ、また明日ね」
そう言うと俺の目の前から溶けるように消えてしまった。
どう見ても普通の転移魔法じゃない。どうなってんだ?
それにまた明日って・・・
そこまで考えていたところで城の方から殺気を感じたため、転移魔法で急いで戻ることにした。
次回予告
潤「特に盛り上がりも無い説明回だったな…そういえば、久しぶりに書いたからリハビリついでにボロの出にくそうな説明回にしたとかいうお告げ的な事を昨日夢で言ってたな。ん?気にするな、こっちの話だ。そろそろ次回予告いかないと時間が無いな。さて、次回は 【字数が上限を越えました】