50 なんか、最強の矛と盾です
実は次の話が復帰後初の小説なので、次回の方が少し変かもしれません…
兎にも角にも、お待たせしました
~時は遡り、2階空中回廊にて~
「守護天使だかなんだか知らんが、そんなもんなのか?」
悪魔の姿をして空中回廊に浮かぶクラウが、翼を破られ地に這いつくばる竜の姿をしたヘクトを見下ろす。
「くっ…悪魔の力ですか…」
そう言ってクラウをにらみつけると同時に、竜の姿から元の人の姿へと戻る。
「所詮守護天使は戦闘じゃ使えねぇってこった。そういやいいのか?人の姿に戻っちまって」
「あなたの心配など無用です。翼を失い機動力の無い状態のあの姿ではただの良い的でしょう」
広範囲攻撃が多いクラウにとって身体が大きければ大きいほど与えるダメージも増大する。
「てっきり死ぬ覚悟が出来たのかと思ったぜ。まあ、どちらにせよ、お前は死ぬんだがな!」
クラウは悪魔力を球状にして相手に発射する最も簡単な無詠唱悪魔法を発動する。
「死ぬのはあなただと何度言えば気が済むのですか?白の聖域」
ヘクトの周辺を白い霧が覆い、それに触れた悪魔力の球体が霧散した。
「ふん、まだ力は残ってるみてぇだな。だが俺の方もタイムリミットが近づいてるみてぇだからな。そろそろ終わらせてもらうぞ。ナイトメア・ヴァンパイア!」
無数の針がヘクトの周囲を囲む。魔法無効化が付加されているらしく、ホワイト・サンクチュアリに触れても消える様子がない。
ヘクトの表情は兜の下にあるので見えないが、少し驚いたような雰囲気だ。
「魔法無効化の霧を無効化するとは、口だけではないようですね」
「ったりめぇだ。貫け、レクイエム!」
クラウがそう言った途端、全ての針がヘクトに向かって飛んでいく。
「この程度…!」
ヘクトは手に持ったランスを高速で振り、針を打ち落としていく。
しかしそれにも限界がくる。針の何本かは打ち落とせずに装甲を破壊していく。
「ぐっ、防ぎきることは出来ませんでしたか」
手や足の鎧が壊れ、露わになった肌からは血が流れている。兜に至っては完全に壊れ、中からは長い金髪と作られたかのように整った顔立ち、そして人間のものよりも細長く尖った耳が現れた。
「お前、エルフィンか?」
エルフィンとは女のエルフを指す言葉だ。男のエルフとは違い、魔力が異常に高いことから区別してそう呼ばれる。
「ばれてしまったようですね。そうです、私はエルフィン。最後の3人のうちの1人」
エルフでは女性の出生率が低く、100人に1人産まれてくればいい方だ。そんなわけで、どんどんエルフィンの数が減り、今では3人になっている。
「なら今日で残りは2人になるなッ!」
クラウが三つ叉の槍、トライデントをヘクトに突き出す。
「私に接近戦を挑むとは、愚かな…インビジブル・スタブ!」
ヘクトはランスでクラウの突きを払うと、目に見えない高速の突きを繰り出す。
咄嗟のことで対処できなかったクラウは突きをもろに受ける。
「グアッ!聞いてねぇぞ…攻撃も出来たのかよ」
防具のおかげでダメージを軽減は出来たものの、出血し、激しい痛みがクラウを襲う。
「当たり前です。防御だけでは敵に討ち勝てないでしょう。そんなことより、突っ立っていては格好の的ですよ?ゴーストランス!」
クラウは突き出されてくるランスを防ぐべく、トライデントを前に構える。が、
「グッ、後ろから、だと?」
ランスは確かにクラウの前から突き出されているが、痛みは背中に走る。
ゴーストランスはどこにむけて放っても必ず対象の背後を突き刺す技だ。
「まだまだいきますよ…」
突き、突き、払いと、巧みにランスを操り確実にクラウの体力を削っていく。
「調子に、乗るなァ!!」
クラウが悪魔力を放ってヘクトを吹き飛ばす。
「まだですっ、グングニル!」
空中で体勢を立て直し、白い魔力で象った槍を超高速でクラウに投擲する。
「防御無視、魔法無効化の魔槍か?だが甘ぇ…ブラックミラー」
グングニルはクラウの発動した黒い鏡に吸い込まれ、ヘクトに向かって跳ね返された。
「反射操作まで…避けきれそうにありませんね。絶対防御の盾、イージス」
ヘクトはそう呟き、グングニルを正面から受ける。いや、ヘクトの正面でグングニルが消滅した。
「あ?あの槍には防御無視、魔法無効化がかかってたはずだぞ?」
悪魔力で形成した球体を飛ばしながら言う。
「このイージスこそ、私が守塞壁と呼ばれる由縁ですよ。全解除が付加された私の特別魔法です」
対するヘクトは避けることなく、イージスが全てを消滅させていく。
「クソッ、だがそれほどの魔法だ。消費魔力は半端じゃないんだろ?」
「そうですね、通常の人間であれば5秒程発動して魔力が尽きるでしょう。ですが私はエルフィン。この意味が分かるでしょう?」
「時間切れは狙えねぇか…なら俺の渾身の魔法だ。喰らいやがれ。ζμνξηεδδμγζη、ηκλβπροαιπ(神殺しの魔剣、コーテルローク)」
ヘクトの頭上100メートル位の所からジャイロ回転をしながら落下してくる。
「1層では少々心許ないですね…ネオイージス!」
赤い膜がヘクトを覆う半球体となって現れる。
「次から次へと…いいだろう、お前の最硬の盾と俺の最強の剣、どっちが強ぇのか試してやるよ」
そう言った途端、コーテルロークとネオイージスが激しい音を立ててぶつかり合った。
コーテルロークはネオイージスにぶつかってもなおジャイロ回転を続け、ネオイージスはコーテルロークを消滅させるべく輝いている。
「このままやってても埒があかねぇな…天を統べる龍の紋章、ナチ・クラウン!」
潤と闘った時にも発動した技だ。空から無数の剣がコーテルロークを援護するようにネオイージスに向かって飛んでいく。
「いくら防御無視を付加してもネオイージスの前では無意味です。ゴーストランス!」
ヘクトの言うとおり、ナチ・クラウンはネオイージスの前で脆くも消滅していく。そして自らも攻撃すべく、ヘクトは再びゴーストランスを放つ。
「そうそう同じ技を喰らってたまるか!ブラックミラー」
今回は背後からの攻撃を背後に跳ね返すだけなので正面にいるヘクトには攻撃を加えられず、防御としての役割しかなかった。
「ふむ、ではこれはどうですか?ゴーストランス・零式」
頭上ではコーテルロークとネオイージスの激しいせめぎ合いが続く中、さらにヘクトが技を繰り出す。
「何回やったって結果はおな……グッ!!」
背後にブラックミラーを張ったクラウだが、ゴーストランス・零式は通常のゴーストランスとは違い、対象に向けて全方向からランスが突き出される。結果、悪魔の姿のクラウの角や翼が貫かれた。
「これであなたもデモナイズを解くしかなくなったでしょう。これで形勢逆転です」
ランスをクラウに向け、まさしく天使のように微笑むヘクト。
「この状態を解くわけねぇだろ?それに思い上がるなよ?お前はもうすぐ俺に殺される」
血まみれになりながらもニヤリと笑うクラウ。
「威勢だけはいいみたいですね。いや、この場合虚勢と言うべきでしょうか?いずれにせよ、もう終わりです。グングニル!」
「クソッ、ブラックミラーを発動すると魔力がほとんど無くなっちまう。しょうがねぇ、大蛇に守られし神の剣、天叢雲剣!ジェットブラッククロス、3連!消し去れ、魔天・断罪!!」
いつしか発動した技だ。自分の目の前に三角形になるように魔法陣を展開し、グングニルがその上を通過している瞬間に空間ごと消し去った。
「時間稼ぎをしたところで助けはこないでしょう。大人しく消えなさい」
ヘクトが再びグングニルを形成しだす。
「助けなんて期待してねぇよ。そんなことより、お前こそ消える時間がきたようだぜ?」
クラウがヘクトの頭上を見て笑う。
「ッ!まさかっ……」
そう呟いた瞬間、ミシミシッという音と共にコーテルロークがネオイージス、イージスを突き破ってヘクト目掛けて落下してきた。
ドーンッと激しい音がしてヘクトがいた場所が跡形もなく消し飛ぶ。
「終わったな」
クラウが悪魔の姿から人の姿へと戻る。
「戻っても呪いにはかかってねぇし、奴は死んだみてぇだな」
コーテルロークが空けた穴をみて呟く。
「グッ…力を使いすぎたみたいだな。少し休むか」
そう言うと倒れるように横になり、寝息を立て始めた。
~時は戻って現在~
「お~い、生きてるか~」
空中回廊に来た潤は寝ているクラウを発見し、頬を叩く。
「あぁ?うっせぇな。こっちは疲れてるんだよ」
「おぉ、無事か。相手は…この様子じゃ殺したみたいだが、かなりギリギリの闘いを強いられてたみたいだし、しょうがないな。魔力も使い切ったみたいだし、レーテルン城に転移しようか?」
「1人でべちゃくちゃと五月蝿ぇ奴だ……頼んだ」
実際、転移をするだけの魔力は残っておらず、渋々といった感じで言った。
「了解、今日はありがとな。お疲れさんっと」
クラウの周りに魔法陣が浮かび、転移された。
「あとはサナトスさんだな」
1人残された潤は下の階へと向かった。
次回予告
潤「クラウって強かったんだな…小者っぽいキャラだったけどな~、ってクラウ!?そ、そんなに怒るなって、いや、マジで剣とか持ち出さないで!?危な…ギャァァアッ!!」
※次回はサナトスのお話らしいです