40 なんか、ギャップがあります
ちょっとずつ明かされていきます。何がとは言いませんが…
俺たちは普通の(ちゃんとチェックしたか?)定食屋で食事を済ませ、何事もなく、翌日出発した。
歩くこと2時間、レーテルンの首都、ミューレンに着いた。
ここが邪神王サナトスの居る場所か……なんて言うか、ラスボスのいる魔王城みたいだな。まだ昼間だっていうのに空は星がでているものの真っ暗で、住民は魔族やスケルトン、ゾンビばかりが目に付く。街の中心にある城は壁が黒く、窓らしい窓が見当たらない。
「ヴェル、割とマジで帰りたいんだけど」
「あたしもこの街は好きじゃないんだから、ほら一緒に行こ?」
ヴェルに手を引かれて俺は街の中へと入っていった。
もしかして俺って今非常に情けない?
「ハリンテ国からサナトス様に国書を預かっているんですけど」
なるべく住民や風景を見ないようにして、一目散に城を目指し、今は門番に話を通している。
「ジュン殿で間違いはないか?」
ちなみに門番はスケルトンだ。めっちゃ怖いぜ。今も膝がガクガクしてる…
「か、勘違いしないでよね!これは武者震いなんだからね!」
「何を言っとるんだ。ジュン殿で間違いないかと聞いているんだ」
おっと、つい口に出しちゃったぜ。恥ずかしい。
「はい、潤で間違いありません」
「よし、では城の中に入ったらまっすぐ進み、突き当たりで待っているとよい」
「分かりました。あ、連れがいるんですが一緒に入っても大丈夫ですか?」
「その者の身分証明ができれば大丈夫だが、その連れはどこにいる?」
「いや、どこって、さっきから俺の後ろに……って、あれ?ヴェルはどこにいった?」
門番と話す直前までは俺の後ろにいたはずなのに…どうなってんだ?
「訳の分からない事を言ってないでサッサと入りなさい」
門番にそう言われ、納得出来ないながらも城の中へと入っていった。
さて、言われたとおりまっすぐ進み、突き当たりで待機してると不意に目の前の壁が開いた。
「ジュン殿ですね、どうぞお乗りください。サナトス様のお部屋まで案内させていただきます」
箱状の部屋の中から魔族の女性が現れて俺に話し掛けた。
「よろしくお願いします」
そう言って俺はその部屋に入った。それを確認すると、女性は壁に取りつけられたボタンを押して、部屋が上昇した。
これってもしかしてエレベー…いや、何でもない。もう俺は気にしないんだ。別にファンタジーな世界に科学的な物があってもいいじゃないか。
チンッという百貨店でなりそうな音とともにドアが開いた。
「この廊下の突き当たりにサナトス様のお部屋があります。どうぞ、実りのある話が出来ますよう」
一礼して俺を見送る女性。
実りのある話って、手紙を届けて終わりじゃないのか?
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って俺は廊下を歩いていった。
部屋の前に着いたはいいけど、威圧感っていうか存在感っていうかが半端ねぇ!!怖い人だったらどうしよう。いきなり戦いとか挑まれないよな?
あ~、サッサと手紙渡してサッサと帰ろう。
「サナトス様、ジュンです。ハリンテ国から国書を持って参りました」
ノックをして用件を述べる。機嫌を損ねるような事言わなかったよな?俺。
「あ、入っていいよ~」
中から渋い声で返事が聞こえる。
ってか、え?俺の聞き間違えか?めちゃくちゃ軽い返事が聞こえたような…
「し、失礼します」
そう言って部屋の中に入ると、サナトスと思われる5メートル位あろうかという巨大なスケルトンとその隣にヴェルが居た。
ってヴェル!?いつの間に城に入ってたの?
「あ、おにいさん。思ったより遅かったね~」
「急にヴェルが居なくなって戸惑ってたからな」
「こいつは転移魔法でいきなり現れてさ~、ワシもビックリしちゃったよ」
骨をカタカタ鳴らして笑っている。
サナトスってこんなにフランクなのか?
「ちょっとオジサンに用事があってね、先に行かせてもらったの」
サナトスをオジサンって…
「サ、サナトス様…」
「あ、サナトスでいいよ」
「い、いや、そういうわけには」
王族でプロミネントギルダーでもある相手にそんな事言えねぇよ。
「大丈夫だよおにいさん、オジサンはこんな姿だけど優しい人だから」
ヴェル、お前この人苦手って言ってたじゃねぇか。
「いきなり呼び捨ては流石に俺の方が無理があるので、サナトスさんでよろしいですか?」
「まあ、いっか。好きなように呼んで」
「では、サナトスさん、これがハリンテ国からの国書になります」
俺はサナトスに女王から預かった国書を渡す。
「サンキュー、どれどれ…」
サナトスは受け取った手紙を早速読み出した。
「ふ~ん、やっぱりか。ジュン、手紙を持ってきてくれてありがとう。ところで、中身は見てみた?」
「いえ、滅相もない」
国書なんて盗み見れないだろ。
「手紙にはね、ジュンが今代の魔王と書かれている」
あっさりと重要なこと漏らしたァ!
「えっ!?いえいえ、俺が魔王だなんて」
「う~ん、でもジュンから感じる黒い魔力は普通の悪魔の魔力とは雰囲気が違うし、それにその背中に背負った魔剣は先代魔王が使ってたものと特徴が一致するんだよね」
そういえばこの剣をもらった時にそんな事言ってたっけ?
「俺が魔王だとして、何をすれば良いんですか?」
面倒事なんてゴメンだ。
「恐らく、勇者が現れて魔王であるジュンを倒しに来るだろうね」
面倒事キタ~!
「何で勇者が現れるんですか?」
「これは本当か嘘か分からないんだけど、どうやらバーラン共和国が勇者を召喚する特別魔法を持ってるらしくて、魔王を倒した勇者を召喚した国として他の国よりも優位に立とうとしているらしい」
「腐ってますね」
「まったくだ」
はぁ、と溜め息をついてイスの背もたれに寄りかかるサナトス。
「そういえばオジサン、この国に入った頃に魔天剣がちょっかい出してきたんだけど、どうにかしてよ~」
ヴェルが思い出したように言い出した。
「アイツもまだ若いからな、遊びたい年頃なんでしょ」
「オジサンから見たらみんな若くなっちゃうよ」
「そりゃそうだ」
ハハハハハ、と笑いあう2人。
仲良いじゃねぇか。
「あ、もうこんな時間だ。おにいさん、早く帰んないと夜までにピテルンに着かなくなっちゃうよ?」
「そうだな、ではサナトスさん俺たちはこれで」
「夕食くらい食べていきなよ。ハリンガルまではワシが転移魔法を使って返してあげるから」
「ん~、ならいいかな。どう?おにいさん」
「あ、ああ。では、お言葉に甘えて」
断るのは何か悪いしな。
「そう、よかった。んじゃ、早速夕食にしちゃおっか?食堂に行くからついて来て」
そう言ってイスから立ち上がり廊下に向かって歩き出すサナトス。
うわ~、やっぱ滅茶苦茶デカいな~。
「行こ?おにいさん」
おう、と応えてサナトスについていく俺たち。
・・・・・夕食が虫料理でないことを切にねがうね。
次回予告
潤「次回は夕食が何かによって俺のモチベーションが変わってくるな…テンションの低い文章が読みたいなら夕食が虫料理である事を祈ってくれ」