ただの、番外編です(クリスマス編2)
クリスマスの続きです。
クリスマスが終わってからの投稿ですが、許してください。
「メイドさん、プレゼント見つけましたよ」
そう言って携帯電話をメイドさんに見せる。
「あの場所が分かりましたか、跡は残さなかったはずなんですが…悔しいです」
そうは言いつつも、まったく表情を変化させていないメイドさん。
「あんまり悔しがってるようには見えませんが…っと、本題を忘れるところだった。メイドさんに会いに来たのは、これを渡そうと思ったからです」
俺はメイドさんにメイドが使いそうなフリフリのついたカチューシャをプレゼントした。
実はこのメイドさん、服はメイドのそれだが頭に例のカチューシャをしていないのだ。
「何ですか?この恥ずかしい曲がった棒は」
「あれ?この世界にカチューシャって無いんですか?」
まあ、元の世界でもあんまり見なかったけどね。
「このような形状の棒は初めて見ます。どのように使うのですか?」
表情には現れないが、興味を持ってもらえたようだ。
「一言余計です」
だから心を読まないでって…
「はぁ、カチューシャはですね、こうやって頭に付けるものなんですよ」
そう言って俺はカチューシャを頭に付ける。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・よくお似合いで…」
「ダウトォォォ!!別に似合わないのは分かってますから、変に気を使わないでください。もともとカチューシャは女物だし」
「なるほど、ジュン様にはそんなご趣味があったのですね」
納得がいったという感じで言っていた。
「いやいや、違います!断じてそんな趣味は持ってません!付け方が分からないであろうメイドさんの為に実演しただけです」
「分かっております。何を当たり前な事を言ってるんですか?」
何か平然と返された…え?これって俺が悪いの?俺の勘違いだったの?
「はい、勘違いでございます」
もう心を読まれた事に対して突っ込まないぞ。なんせメイドさんだからな。
「はぁ、もういいですよ。んじゃ、俺はまだ用事があるんで」
そう言って俺はその場から離れた。
「プレゼント、ですか…人から貰うのはなかなかに嬉しいものですね」
そう呟いてそっと自分の頭にカチューシャをかけたのは、きっと誰も知らないだろう。
「ヴェル~、居るか~?」
メイドさんにカチューシャを渡した俺はヴェルにプレゼントを渡すため、庭に出た。
「おにいさんから声を掛けてくるなんて珍しいね~、どうしたのさ」
虚空から突然声が聞こえてきたかと思ったら、俺の目の前にヴェルが現れた。
毎回思うが、どうやってんだ?
「今、女王様が国民にプレゼントをあげたのは知ってるよな?」
「うん、あの場には居なかったけど、皆がプレゼント探しに夢中なのは気付いてるよ?」
ヴェルは広場には居なかったのか、何でだ?まあ、聞かない方が良さそうだな。うん、俺大人。
「それで俺もヴェルにプレゼントをあげようと思うんだ」
「え?ホント~?なにくれんの~?」
ヴェルは飼い主に遊んでもらう犬のように(実際は狼だが)目をきらきらさせて俺を見てきた。
「実はな、服を買おうかと思ったんだがサイズが分からない上にどんなデザインが好きなのか分からなかったから、今度一緒に買いに行かないか?」
「うん!約束だよ~」
「おう!約束だ。いつ買いに行くかはまた連絡するから」
「楽しみにしてるよ~」
俺は手を振ってそれに応え、城の中へと戻っていった。
まだまだやる事はあるからな。
「セレン~?入っても大丈夫か?」
俺はセレンの部屋の前まできて扉をノックする。
「ジュン?入っていいわよ」
中から声がして、入室の許可を得る。
「私の部屋に来たってことは、もう女王様からのプレゼントは見つかったの?」
「ああ、バッチリだ。俺は携帯電話がプレゼントだったんだがセレンはどうだった?」
「へ~、良かったじゃない。私はこの剣だったわ」
そう言って俺に見せてきたのは、もとの世界でいうフランヴェルジェという剣によく似ていた。刀身が波打っていて、傷口を治りにくくすることが特徴の恐ろしい剣だ。
「クリスマスに武器をプレゼントって…しかも女の子に」
無粋な気がしてならないな。
「そう?私は気に入ったわよ?今までのユリナント兵が使ってた大量生産の安物じゃないし」
「まあ、本人が気に入ったのなら良いんだけどさ」
「で?ジュンは何しにここに来たのよ?」
セレンが剣を壁に立て掛けて尋ねてくる。
「ああ、そうそう。今日はクリスマスなんで俺からもセレンにプレゼントをあげようと思ってね。はい、どうぞ」
俺はそう言ってセレンにブーツを手渡す。
ブーツって言ってもヒールの高いような物じゃなく、動きやすさを考えてあるようなブーツだ。
「な、なによ突然。変なジュンね」
そうは言いつつもブーツを受け取るセレン。
「照れるな照れるな」
「て、照れてなんかいないわよ!」
だんだん顔が赤くなっていくセレン。分かりやすいな…
「はいはい、んで、そのブーツだけど、風の魔力と俺の黒い魔力を一緒に付与しといたから機動性は今の靴よりも良いと思う」
「そ、そう。……ありがと」
真っ赤になりながら俺に礼を言うセレン。プレゼントされただけでこんなに赤くなるもんなのか?
「どういたしまして。んじゃ、俺はこの辺で」
そう言ってセレンの部屋から出ていく俺。え?もうプレゼントは渡し終えたんじゃないかって?あと1人居るだろう。
「シリチナさん、メリークリスマスです」
そうだよ、瞬息剣シリチナだよ。この人にもお世話になったからな。プレゼントを渡す相手が必ずしも女性とは限らないぜ?
「やあ、ジュン君。なんだいそのメリークリスマスというのは?」
ああ、そういえばクリスマスについては言ったけど、メリークリスマスとはこの世界では言ってなかったっけ?
「え~っと、クリスマスおめでとうって感じです」
「へ~、じゃ、メリークリスマスジュン君」
見た目オッサンなシリチナがイケメンボイスで言ってくる。なんかややこしいな…
「ありがとうございます。で、早速ですがシリチナさん、プレゼントです。どうぞ」
そう言って俺はシリチナに剣を渡した。
まあ、騎士(軍人)だし、剣でもいいだろ。
「これは?変わった色の剣だね」
俺が渡したのは緑のロングソード。これは
「癒しの力が付与されていて、剣の腹を傷にあてると傷が治るんです。騎士団長ともなれば必要になるでしょ?」
怪我をするのは必ずしも自分とは限らないわけだし。
「なるほど、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「では、俺はこれで」
そう言って俺は城の自分の部屋へと戻った。
「すっかり懐が寒くなっちゃったな~」
ヴェルの服を買うことも考えると、ギルドの依頼で貯めた金が無くなっちまうな~。まあ、たまにはこんなのもいいかな。
「はあ、なんか疲れたな…寝よ寝よ」
そう独り言を呟いて、ベッドに潜った。
《とある2人の会話》
「サンタクロースとしてじゃなく、友人としてプレゼントを渡すのはアリかの?」
「はい、アリだと思われます。ところで、わたくしも、1人の友人にプレゼントを贈りたいのですが、これもアリでございましょうか?」
「アリじゃの」
そう言って笑う1人と無表情な1人の会話。
《とある庭での独り言》
「おにいさん、何が欲しいかな~。人にプレゼントを渡すなんて初めてだな~、楽しみだな~」
そう言って虚空に消えた少女の独り言。
《とある部屋での独り言》
「ジュンは何が好きだったかしら。べ、別に私がプレゼントを渡すのはお返しとしての意味しかないからね!って、1人で何言ってんだろ私」
そう言って物思いに耽る少女の独り言。
《とある練習場での独り言》
「プレゼントなんて何年ぶりくらいだろうか…ふ、オレも年をとったんだな。さて、ちょっと城下に行ってくるか」
そう言って城の外へと向かう男性の独り言。
その晩、潤の枕元にはプレゼントが5つ置いてあったとさ…