35 なんか、冥土、いや冥府に行きます
「ジュン、今日はお主に頼みたいことがある」
「嫌です」
「うむ。それはじゃな、ちょっと冥府レーテルンまで国書を届けて欲しいのじゃ」
「だから嫌ですってば」
「うむ。快い返事、感謝するぞ。なにぶ
ん、あの国の王がお主に興味があるらしくての」
「えっ!?俺の事無視?俺の意見は?」
「よいか?メイドよ」
「はい、問題ないかと」
「何でメイドさん!?俺の保護者!?」
「では頼んだぞ、ジュン。1人での旅路はつらいじゃろうがへこたれずにの」
「しかも1人で!?誰か連れて行っちゃダメですか?」
「城にいる者は皆忙しくての。セレンにも頼み事があるからダメじゃ。ギルドに仲間がいるならそやつを連れて行け」
「・・・・・セレンに危険な事はさせないで下さいよ?」
「分かっておる、引き受けてくれるかの?」
「はぁ、分かりました。行ってきますよ」
「そうか、これが国書じゃ。これを1ヶ月以内に届けてくれ」
「へ~い、じゃあ行ってきます」
そう言って俺は謁見の間から出た。
「さて、準備するか」
まずはセレンにこの事言っておかないとな。
「セレン~、居る~?」
セレンの部屋をノックすると中からセレンが出てきた。当たり前か、これでセレン以外の人が出てきてもビックリだしな。
「どうしたのよジュン、部屋に来るなんて珍しいわね」
「いや~、実はかくかくしかじかで」
そう言うとセレンはジト目で俺を見てきた。
ん?もしかして、
「かくかくしかじかで通じるのは小説の中だけよ」
「え?だってこれ小せ…」
「ダメよジュン!そこから先は言ってはいけない気がする」
「あ、あぁ。作者を倒せばいつでもあっち(現実)に行けるんだけどな」
「そういうことも禁句よ!で、結局何の用なの?」
「そうだ俺、女王様に頼まれてレーテルンに国書を届けて来なきゃいけなくなってさ~、しばらく会えないからそのつもりで」
「べ、別にあんたなんか居なくても何とも思わないわよ!」
久しぶりのツンデレだな。思わず微笑んじまうぜ。
「そっか、セレンにも頼み事があるそうだから頑張ってな。じゃ、行ってくる」
そう言って俺は歩き出した。
「サッサと行ってきなさいよ」
ヘイヘイ、と俺は手を挙げて応える。
「仲間を連れて行きたいところだけど、誰か居たかなぁ」
案外俺って人見知りだったのかも…
「この国で城に仕えてない奴・・・・・ヴェルか」
そうと決まればギルドへレッツゴー。
「ヴェルってギルダーは居ますか?」
ギルドに着いた俺は受付に行き、聞いてみた。
「ヴェルさんですね、少しお待ち下さい」
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「申し訳ありませんが、ハリンテ国ギルドには所属しておりません」
「そんなはずは、赤髪で獣人の…」
「やあ、おにいさん。呼んだ?」
振り向くとそこにはヴェルが立っていた。
「お、おう。ちょっと頼み事があってな」
「あ、あなたはノル…」
「お、おにいさん!あっちで話そ!」
な、なんだ?ヴェルが慌てるなんて珍しいな。受付の人も何か言ってたし。
ヴェルにギルドの端っこまで連れてこられた。
「どうしたんだ急に」
「い、いや~、あそこで立ち話しても受付に用がある人に迷惑かなって」
「あぁ、そういうことか。気が利く奴だな~」
そう言ってヴェルの頭を撫でる。
「や、やめてよ~、恥ずかしいよ~」
ヴェルが顔を赤らめて言う。
可愛い奴めっ!
「ハイハイ、んで、ヴェルを呼んだ理由だけど、付き合って欲しいんだ!」
俺がそう言うとさっきよりも顔を真っ赤に染めた。
「そ、それは…」
「おう。ちょっとレーテルンに届け物があってな、一緒に来て欲しいんだ」
「お・・・」
「お?」
「・・・おにいさんのバカ~!!!!!」
ヴェルが泣きながら俺を叩いてくる。
え!?俺が悪いの?
「あぁ、え、えぇっと、その、ご、ごめん!何か気に障ったのなら謝るよ」
ヴェルは依然泣きやまない。
うぅ、周囲の視線が痛い…
「ちょっと失礼するよ」
そう言ってヴェルを抱きかかえ、俺はギルドから逃げるように出て行った。
俺は街の東側に位置する河原までヴェルを運び、降ろした。
「おにいさんの鈍感!無神経!でくのぼう!」
早速すごい罵声が飛んできた。
「無神経とはよく言われるな」
鈍感でもでくのぼうでもないと俺は思うが。
人からの好意にはよく気付くし、セレンやヴェルが俺に親しみを持ってくれてるのも分かってる。
「おにいさんにあたしがどんな気持ちか分かってないでしょ!」
「ごめん」
「・・・・・はぁ、いいよ。おにいさん反省してるみたいだし、許してあげる」
「はい」
「で?あたしにレーテルンまで一緒に行って欲しいんだって?」
ホッ、説教タイムは終了したか。少しは反省しろって?俺は無神経で有名だからな。そういうのは理解できないんだわ。
「おう。是非ヴェルに付いてきてもらいたい」
「そういう言動が勘違いをさせる元なんだけど…いいよ。一緒に行ってあげる」
「んじゃ、これから頼むな」
俺がそう言って右手を差し出すと、ヴェルは俺に人差し指と中指を立てて、俺に見せてきた。
「あ、2つほど条件、っていうかお願いがあるんだけど…」
「俺に出来ることなら」
「1つは、もしも戦闘があった場合はあたしに全部任せること、もう1つは……その、移動中はあたしを隠して」
「ん?どういう事?」
「1つ目は特に気にしないで、もしもの為だから。2つ目は、ちょっと今ある人たちに追われてるんだよね。だから」
「追われてる!?大丈夫なのか?」
「直接接触はしてこないからね。暴力を使うような人たちじゃないし。おにいさんのローブの中に入れてあたしを隠してよ」
あぁ、言い忘れてたけど俺はローブを着ている状態だ。剣とかは必要ないから身に着けてない。
「そんなんで大丈夫ならいいけど」
「大丈夫、監視されてたらわかるし」
「そっか…俺は準備出来てるけどヴェルはどのくらい掛かりそう?」
「旅の準備はいつでも出来てるから今からでも大丈夫だよ」
「んじゃ、早速行きますか」
そうして俺たちはレーテルンへ向かうべく、ハリンテを出た。
「ところで、レーテルンってどっちだ?」
「しっかりしてよ、おにいさん。レーテルンはハリンテの北西だよ」
次回予告
潤「次回はレーテルンまでの旅路だな。何があるかは俺にも分からない。それが旅というものだ。・・・今の格好良くない!?え?そうでもない。さいですか」