30 なんか、良い手触りです
いつの間にか30話
あの後女神2人組は帰って、俺は部屋に1人になった。う~ん、暇だ。
「風呂でも入るか…」
って事でやってきました大浴場(脱衣 場)。ちゃんと男湯だから心配すんなよ?
「さて入りますか」
と服を脱ぎ扉を開けると…
「メ、メイドさん!?何で風呂入ってんの!?」
普通にタオル1枚のメイドさんが入浴しておりました。
「失礼なジュン様ですね。わたくしだって入浴ぐらいします」
「いや、そうじゃなくって、ここ男湯ですよね?何で居るんですか?」
「掃除をしております」
即答された。
「え?どう見てもただの入浴じゃ…」
「たった今、掃除が終わりましたので、入浴した次第ですが何か?」
「そんなに堂々と言われても…男が入ってきたらどうするんですか?」
「現に入ってきました」
ごもっとも。って、そうじゃなくって!
「いや、俺は…」
「ところでジュン様、そのような所に立っておりますと風邪を引いてしまいます。入ってはいかがですか?」
「え?いや、それは…」
ヤバい、完全にメイドさんのペースだ。
「わたくしが居ると入りづらいですか。では出て行くとしましょう」
そう言ってメイドさんは出ていった。
後に残された俺は、
「え?何これ…」
とただただその場に立ち尽くしていた。
何とも言えない気持ちで入浴を終えた俺は自分の部屋へと戻った。
「もう9時か…」
寝るには少し早いかな。
「ちょっと外の空気を吸ってくるか」
「ほう、これはなかなか」
このハリンガルは大都市にもかかわらず、この城の庭の空には満天の星が輝いていた。
やっぱり科学の世の中じゃないからかな~。
「おにいさんもこの星空、綺麗だと思う?」
「あぁ、俺が生まれた所じゃこんな星空見えなかったからな」
「ふ~ん、星空が見えないって事はレーテルン辺りかな?」
「いや、もっと遠くの…って誰っ!?」
自然な流れで会話しちまった!
今俺の隣には血のように紅い髪を尻尾のように頭の後ろでまとめ、中学生くらいの顔立ちの少女が無邪気な笑顔でこちらを見ていた。
「遠い所?・・・ふ~ん、なるほどね。この世界の人はね、他の世界の人と違ってこの星空が当たり前になっているからね。もっとよく見れば新しい発見もあるかもしれないのにね」
この世界?それに他の世界って、まさか俺の事を知ってる?
「何故その事を…」
「今時星空の見えない所なんてレーテルンの障気に満ちた渓谷ぐらいだからね~。そんな所に人は住めないし」
なるほど。墓穴を掘ったってわけか。まぁ、バレてそこまで困る事じゃないんだけど。
「俺の事は分かっただろ?君は誰なんだ?」
「あたし?あたしは人狼族の……えっと、ヴェル。そう、人狼族のヴェルだよ」
何故名前で詰まった?何か裏がありそうだな…いや、今はそんなことより、
「人狼族!?って事は、み、耳とかあるんですか!?」
「何で急に敬語になったの?う、うん。耳は普通に付いてるよ?」
ほら、と言って頭を見せてきた。
あ、あった!頭の上には犬のような耳がちょこんと。
「さ、触ってみてもよかとですか?」
「今度は変な訛りがついた!?いいよ、触って」
「し、失礼しま~す」
そう言ってゆっくり、ゆっくりと手を耳に近づける俺。
ファサッ
そんな感じの手触りだった。
・・・・・狼サイコ~!!この前(第3話参照)はキツネの方が良いなんて言ってごめんなさい!キツネ?ハッ、そんなのは時代遅れさ!狼こそ最も可愛らしい生物だ!
「あぁ、あぁ、可愛いなぁ。癒される~」
そんなことを言いながらヴェルを抱き寄せて頭を撫でる。危ない人になってるって?この際そんな事どうでもいいさ!
「ちょ、おにいさん?流石にちょっと恥ずかしいというか、その…」
「あぁ、すまん。つい夢中になっちゃってな」
そう言って少女を解放する。見ると、顔を真っ赤にして俯いている。女の子にあれはマズかったかな…
「いや、気持ちよかったから良いよ」
ヴェルは赤い顔のまま俺を上目遣いで見ながら言った。
やべぇ、めっちゃドキドキする。もしかして俺って上目遣いに弱いのか?
「あ、もう行かなくちゃ。またね、おにいさん。あたしは毎日此処に来てるからたまにはおにいさんも来てね。あとあたしの事は誰にも言わないでね」
「あぁ、分かった。またな」
そう言うとヴェルは微笑んで、消えた。
えっ!?消えた?どういう事?実は全部俺の妄想でした。ってオチじゃないよね?
「ジュン様でしたか」
俺がそんな事を考えていると不意に後ろから声がした。
「メイドさん、どうしたんですか?」
そこには表情のほとんど無い、いつものメイドさんが立っていた。
「いえ、庭から話し声がしたので謁見の間から来ましたが…どうやらジュン様お1人のようですね」
謁見の間から聞こえたって、ここから謁見の間までかなり離れてるぞ?本当にこのメイドさん何者だ?
「ハリンテ城に仕えるただのメイドです」
また心の中を読んだし…
「さっきからずっと1人でしたよ?何かの聞き間違えじゃないですか?」
「・・・そうですか。ではわたくしはこれで。ジュン様もお身体が冷える前に部屋にお戻り下さい」
一瞬目を細めて、メイドさんは踵を返して城の中へと戻っていった。
ばれたかな…秘密にしてくれって言われたから一応言わなかったけど。
「寒っ!もう戻るか」
その事はとりあえず置いといて、夜風で風邪を引く前に部屋へと向かう。
部屋へと戻った俺は、メイドさんから温かい紅茶を1杯もらって床についた。
明日は何をするかな~。ギルド行って移籍届出して、戸籍移して…
次回予告
潤「一体あの娘は……俺の妄想じゃないと思うが…まぁ、いいか。さて、次回は予定通りギルドに行くぜ!最近戦闘がないな~。うん、平和って素晴らしい」