04:帰宅者
キーンコーンカーンコーン・・・・
背後に学校のチャイムを聞きながら、だるい体でなんとか紫は自転車を漕いでいた。
いつもなら自転車で20分も行けば家に辿りつけるのだが、今日はそうもいかなかった。
5分も自転車を漕いだところで力尽き、紫は近くの公園のベンチに倒れこむように座った。
「もう一歩も動けない・・・・・・・」
ベンチに座ってどれくらい経っただろうか。
公園は夕方ともあって賑やかな子供の声で溢れていた。
遊具で遊ぶ子供たちを紫はぼんやりと眺めていると、突然視界が暗くなり無音の世界になった。
「ここは?」
紫は闇の中の水面に立ち尽くし、何が起きたのかわからなかった。
『だめだ!今こちらに来てはいけない。すぐに――――』
急に背後から左腕を引かれ振り返った次の瞬間、紫の視界はもとの公園に戻っていた。
「え・・・・・・、何?」
気が付けば、紫は頭をベンチの背もたれに預けどうやら眠りこけていたようだった。
今のは夢?
夢のはずなのに、強く引かれた左腕には感触が生なましく残っていて、紫は右手で左腕をさすった。
「み~つっけた♪」
不意に男の子の声がして紫がそちらを見ると、10歳くらいの男の子が一人にっこり笑って立っていた。
男の子がじっと紫のほうを見てはいたが、紫は自分が座っているベンチの後ろの茂みにだれか隠れているのだろうと思いベンチから立ち上がると、自転車が置いてある公園の入り口に向かおうとした時、男の子が紫の手を取り、引き止めた。
「お前が紫華だろ?」
シィファ?
知らない名前で呼ばれ、振り返ると男の子が紫を見上げていた。
見れば子供は東洋系の顔立ちをしていたが、顔の彫りは深くとても日本人には見えなかった。
きっと、誰かと人違いしてるのだろう。
「わたしはそのシィファさんって人じゃないよ。どうしたの? はぐれちゃったの?」
腰を屈めて紫が男の子に問うと、男の子は顔を真っ赤にして怒り出した。
「子ども扱いするな! 隠しても無駄だ。お前の影からは対獣の気配が微かだがしているからな」
声を荒げ、紫の影を指差す男の子につられて、紫は自分の影を見たがそこにあるのはただの影で、何も変わったところはない。
紫には男の子が言っていることがさっぱり分からなかった。
男の子はどこかの宗教の信者で、これは新手の勧誘なのだろうかと紫は疑いだした。
もしそうなら早くこの場から立ち去ったほうがよさそうだ。
そう考え、紫は男の子の手を振り払った。
「そろそろ帰らなきゃいけないから・・・・・・・」
そう言って、紫は身を翻して公園入り口目指して走り出した。
「待て! 跳鵬捕らえろ」