03:看護者
どうして・・・。
「・・お・・・さ・・。し・・んさん。身隠さん」
「っ・・・・・!」
「あぁ、よかった。大丈夫?」
心配そうにこちらを伺う女性と白い天井が目を開けた瞬間飛び込んできて、
紫は一瞬ここがどこだかわからなかった。
あぁ、そういえば午後から気分が悪くて保健室に駆け込んだのだった。
そう思い出すと、未だに心配そうにこちらを伺う保険医になんとか微笑み返した。
「すみません。なんだか夢見が悪かったみたいで・・・」
「ん~・・・、顔色が悪いわねぇ。少し微熱もあるみたいだし。早退する? もうあと5限目しか残ってないし」
そう言われて、時計を見れば4限目も終わろうかという時間だった。
今から授業に出て担任に事情を説明するのも億劫だし、
このまま無理に5限目に出たとしても体調は逆に悪くなるだろう。
そう思い紫は早退することに決めた。
「そう、じゃぁ担任の先生に伝えてくるついでに荷物取って来てあげるわ。身隠さんクラスどこだっけ?」
「2組です」
「あぁ、三山先生のとこか。じゃぁ行って来るね。あっ、顔洗いたかったらそこの洗面所使ってもらっていいからね」
そう言い残して保険医は出て行った。
ふと手をおでこにやると前髪がビッショリと濡れていた。
そういえば胸元も汗で濡れていて気持ち悪い。
紫は遠慮なく洗面所を使わせてもらうことにした。
「うぅ・・・・・・、汗でベタベタしてて気持ち悪い」
手持ちのハンカチを濡らし首元の汗を大まかに拭くと、顔は水で洗った。
顔を上げると、丁度備え付けられた鏡に写された自分と目が合った。
ヒドイ顔だ。
髪はバサバサで目の下にはクマが薄っすらと見えるし、血色も悪い。
これでは心配するなと言う方が無理だろう。
「目・・・・・黒いよね」
目元のクマをなんとかしようとマッサージしながら、紫は鏡の中に映る自分の目の色を確認した。
つい2週間前から見るようになった夢の中の自分の目は金色。
通常人間では在りえない話だ。
そして最後はいつも聞き取れない言葉。
どんなに足掻こうと毎回聞き取れないのだ。
来るぞ。次だ!と待ち構えて聞き逃さないようにどんなに頑張ってもだめで、
最近では諦めが付いてきた。
「はぁ・・・・・・、いい加減別の夢がみたい」
同じ夢の繰り返しで飽きてくるし、夢ばかり見ているせいか眠りが浅く睡眠不足状態。
そろそろ体力の限界に近かった。
フラフラしながら洗面所を出てベッドに腰掛けた時、
ふと視界の端で動くモノを捕らえた。
校門から猛スピードで入ってきた車は校舎の玄関口に急停車した。
危ないなぁ。
普通、校内であそこまでスピード出す?
一体どんな奴が降りてくるのかと窓に近づこうとした時、丁度 保健室のドアが開いた。
ガララ・・
「お待たせ身隠さん。荷物はこれでいいかな?」
受け取った荷物にちゃんと財布が入っていることを確認すると紫は保険医にお礼を言ってベッドから立ち上がった。
「ホントに一人で大丈夫? お家の方呼ばなくていいの?」
「はい、大丈夫です。お世話をお掛けしました」
ペコッとお辞儀をして保健室を出て行く紫を苦笑しながら保険医は見送った。
「身隠 紫。今時の女子高生にしては珍しい子よね・・・・・・」
今時の女子高生ならスカート丈を短くしたり、ばれない程度に化粧をしていたり、髪を染めたりしているものだが、そんなことも一切ない。
セミロングの艶やかな黒髪、学校の規定通りの丈の制服、顔は化粧っ気は一切ない。
いつも礼儀正しく、手の掛からない生徒だ。
校門を出ようとしている紫を窓から眺めながら保険医は仕事に戻っていった。