02:案内者
雪国の春は遅い。
今年は特にそうだった。
4月も中旬になろうかというのに雪が降ったりと寒暖の差が激しく、天気の移り変わりも激しかった。
しかし、ようやく天気も落ち着き、春真っ盛りとなった今日この頃。
家中の掃除洗濯を済ませてしまおうとどこの家も窓を開け放ち、ベランダには洗濯物が心地よい風に吹かれていた。
掃除洗濯を終えた一人の若い主婦が近くのスーパーまで買出しに出るため玄関に鍵をかけ、
門扉を出ようとしたところに一台の車が横付けされたのは、夕暮れ前のことだった。
「すいません。青葉台南高校はどう行けばいいですか?」
一人の若い男が車から降りて道を聞いてきたとき、主婦はとっさにどう答えていいものか分からなかった。
普通に受け答えすればいいだろう。と思われるだろうが、この時の主婦の頭の中は真っ白で、何も言葉が思い浮かばなかったのだ。
「あの、青葉台南高校はどこですか?」
何も反応が返ってこない相手に男は少し焦れたようにもう一度道を訊いた。
「あ、はい!青葉台南高校ですよね。あ、えっと・・・、この道をまっすぐ行って。え~と、三つ目の信号を左に曲がって、橋を渡ってまっすぐ行くと確か右手に見えると思います」
顔を真っ赤にしながらも、主婦はなんとか道案内をした。
「そうですか、助かりました。ありがとうございます」
にこやかに礼を述べると車で男は去っていった。
「うわぁ~、海外のトップモデル並みにいい男見ちゃった!お隣に話しに行かなきゃ!!」
家を出た本来の目的を忘れ、ミーハー主婦は隣家に駆け込んで行った。
「ったく。今時ナビも付いてないなんて一体誰に車手配させたんだよ」
先ほど道を訊いたのとは別の男が不満気にハンドルを指で叩いた。
黒髪を無造作にオールバックに撫でつけ、サングラスをした男は苛立たしげに助手席の男に問いただした。
「仕方ないだろう。緊急で手配させた車だ。そこまで気が回らなかったんだろう」
「おかげで時間食っちまった。急がねぇとやばいぞ」
男は信号が青になったのを確認すると、車を急発進させ先ほど教えてもらった道順を猛スピードで走っていった。