ハサミ
咲いた花のふもとには枯れた花があった。
高校の屋上は、昼休みになると少しだけ静かになる。
風が抜けて、遠くの校庭の声がぼやける。
翔真は柵にもたれていた。
呼び出したのは、自分だ。
少し遅れて、足音が聞こえる。
「……なに、急に」
恵梨が立っていた。
いつも通りの顔。
いつも通りの距離。
それなのに、今日は違って見えた。
翔真は一度だけ息を吸う。
何度も練習したはずの言葉なのに、喉の奥で引っかかる。
それでも、言うしかなかった。
「俺さ」
恵梨が首をかしげる。
「恵梨のこと…が、好きだ」
風が一瞬だけ止まった気がした。
恵梨は瞬きをする。
すぐには返事がない。
翔真は逃げなかった。
逃げたくなかった。
数秒後、恵梨は小さく息を吐く。
「……ほんとに?」
「うん」
短く、頷く。
やがて、恵梨は視線を少しだけ逸らした。
「そっか」
それだけだった。
拒絶でも肯定でもない声。
でも翔真にはそれで十分だった。
「返事、待ってる」
そう言って、屋上の扉へ歩き出す。
その日の放課後。
教室はいつも通りだった。
黒板の文字も、笑い声も、全部いつも通り。
その中で、恵梨は一人、窓際に立っていた。
何度もスマホを見て、また伏せる。
呼び出されていたから来ただけの場所。
そう思っていた。
「恵梨」
後ろから声がした。
振り向く。
そこにいたのは瑠花だった。
幼なじみで、よく翔真の話をしていた子。
いつも少しだけ、笑いながら。
「さっきさ」
瑠花は、少しだけ笑う。
でもその笑い方は、いつもと違った。
「翔真に、なんか言われた?」
恵梨は一瞬止まる。
そして、小さく頷いた。
「うん」
「そっか」
瑠花はそれ以上聞かなかった。
聞けなかった。
沈黙が落ちる。
窓の外では、部活の掛け声が響いている。
やがて、瑠花がぽつりと言う。
「……いいなぁ」
その声は、冗談みたいに軽かったのに。
軽すぎて、逆に重かった。
恵梨は何も返せない。
ただ、胸の奥が少しだけざわついた。
翌日。
翔真は屋上に呼び出された。
今度は、恵梨の方から。
同じ場所。
同じ風。
同じ距離。
違うのは、空気だけだった。
恵梨は立っている。
少しだけ視線を落として。
そして、ゆっくり顔を上げた。
「……あのさ」
翔真は待つ。
「私」
言葉が途切れる。
一度、息を吸う。
そして。
「私も――」
教室の窓際。
瑠花はカーテンを握っていた。
視線の先は、屋上。
誰がいるのかなんて、見えない距離。
でも、分かってしまう。
何が起きているか。
唇を噛む。
そして、小さく声が漏れる。
「……え?」
彼に触れることはもうできない。




