椿の花
枝先にしがみついていた赤が、ある朝ふいに重力へ身を委ねた。
風に流されることもなく、
迷うこともなく、
ただ静かに。
鮮やかな色だけを残して、
それは地面へと辿り着く。
終わりを告げるにはあまりにも唐突で、
けれど、その落下はどこか美しかった。
誰にも気づかれないまま、
ひとつの季節が幕を閉じる。
けいたはみらいの親友で、みらいにはなんの興味もない。
みらいはしょうというバスケ部のエースに恋をしていた。
ほんと、困ったものだ。
いっつもみらいはしょうの話しかしないのだから。
なんか大事な話かな?と思ったらしょうの話。
恋ってすごいな。みらい、前まで恋愛とか興味なさそーだったのに。
「それでねけいた、しょうせんぱいがね〜」
「またしょうの話かよ…ほんとあいつのこと大好きだな。」
と、言いつつもけいたはそんなに嫌そうじゃなかった。
親友の恋バナは聞いてて嫌じゃない。
「当たり前よ、かっこいいんだもん!」
「あーんもうしょうせんぱいと付き合いたいー!」
「はいはい、がんばれ。」
「あ、そういえばしょうパイがバスケの試合出るらしいぞ?」
その言葉でみらいがぱっと顔を輝かせ、目をキラキラさせながら身を乗り出す。
「えっ、うそうそ!ほんと!?」
「ほんとらしいよ。今週末見にいこうぜ。」
「行く行く!絶対行く!」
「じゃ約束な。」
しょうはなにかとけいたのことを気にかけてくれるので、けいたもしょうのことは友達だと思っている。
でも。
三日後の金曜日、みらいは学校を休んだ。
体調不良らしい。
明日はしょうの試合を見に行くってのに。
けいたは放課後、そんなみらいの自宅へ行く。
ピンポーン
チャイムを鳴らしてから10分ほど。
やっとドアが開く。
しかし出てきたのはみらいではなく、みらいの母、みなみさんだった。
「あ、みなみさん。」
「あら、けいたくん。みらいのこと?」
「はい。体調不良で休んだって聞いたので、見舞いにきたんっすよ。」
「それはありがたいけど…あの子どうかしら。」
「まあ、お茶くらいは出すわよ。とりあえず入って。」
「じゃあお言葉に甘えて…お邪魔します。」
けいたがみらいの家に入る。
「じゃあ、あの子に聞いてくるから。」
「お願いします。」
けいたが出された緑茶とケーキを嗜んでいる。
すると、みらいが降りてきた。
あの長髪を切っていた。いつのまに。
「…なに。けいた。」
「あ、みらい。今日具合悪いんでしょ。ゼリー持ってきたから。」
「あ、てかしょうパイの試合いける?」
「………その話しないで。」
「…え?なんか、ごめん…。」
「なんか、髪切ったね。」
「…帰って。」
「え?」
「もう帰って。」
「…なんで?」
「いいから帰って!」
みらいの大きい言葉に、けいたの肩がびくりと跳ねた。
「…ごめん。でっかい声出して。」
「いや、いいよ。…嫌な気分にさせたの俺だし。」
「わかった。今日は帰るね。」
「いけるならきてね。明日。」
みらいが嫌そうな顔で返事をする。
「うん。」
「なんか、今日はごめん。ばいばい。」
「…ばいばい。」
ひとつが地に還り、
ひとつが芽吹く。
季節はそうして巡っていく。




