13 向上
最適な離陸場所はどこなのか。自宅アパートから飛び上がるのは最も危険と判断した。ここは隠れ家であり、最後の砦でもある。目撃されたら一巻の終わりだ。正体があっというまに露呈し、平穏への回帰が消滅する。
離陸の条件はふたつあった。ひとつめは、地上滞留の制限時間十五分間の許す限り遠く離れ、アパートが視認されない場所まで移動すること。計算上の歩行可能距離は千二百メートル。ゆえに、余裕を持って二百メートル手前の一キロメートル前後の場所が理想的である。
ふたつめは、単純に街灯が少なく、人目につかない薄暗い場所だ。もちろん、目撃さえされなければ明るい場所でも問題ないわけだが、想定されるリスクは当然避けるべきである。
自宅アパートから一キロメートル近く離れた、薄暗く人目につかない場所。消去法で探していくものの、すでに心当たりはあった。その不気味な雰囲気に背筋がぞっとしたのを覚えている。前を通りかかった記憶と、地図アプリのルート検索で照らし合わせ、条件が合致した。
午後九時半、六月末の夜。スマホの天気アプリによると、気温は二十五度とのこと。実際、半袖Tシャツ一枚とデニムで快適だった。
煌希が自宅アパートをあとにしてから五分が経過していた。浮きあがってしまわないように、慎重に歩道のアスファルトを踏みしめていく。昨日に比べれば調子はいい。あれほどの長時間におよぶ苦行に耐えたのだから、多少は強化されているはずだ。すれ違う通行人の視線もさほど気にならず、自分としてもずいぶんとスムーズに歩けている感覚があった。
進行方向は北東へ。商店街方面とは逆の方向で、どちらかといえば栄えていない田舎方面だった。田畑が多く店舗も少ないため、人通りが少ない。好条件といえる。
しばらく進むと、穂をつける前の若い稲が茂る小規模な水田や、野菜を栽培している田畑の姿が目につくようになった。頭上を照らす街路灯の数も、それに反比例していくかのように減少していく。
闇が濃くなっていくはずのなか、ふと、妙な明るさに違和感を覚えた。夜空を仰ぐ。動物模様の月面が、膨大な光量を放っている。その背後を埋め尽くす幾多の星々の明かりも手伝ってか、暗闇が薄らいでいた。空にたなびく薄い積雲も肉眼で見てとれる。
煌希のなかにひとつの懸念が生じた。目撃者出現の可能性だ。いつにも増して明るい夜空。月夜のもと、怪しき飛行物体が自在に飛び回る。日曜の夜といえど、天体観測に勤しむ天文家だけでなく、夜空を眺める一般人も少なくはないだろう。
大丈夫だろうか。いまさらながらに底知れぬ不安が胸のうちに押し寄せる。
はっとして、腕時計を眺めた。予想していたよりも遠くに感じる。制限時間のリミットが近づいていた。焦りだした歩調が小走りへと加速し、ほどなく駆け足へと変貌する。
本来ならこんな場所に来るはずもなかった。性格的にありえないのだ。
水田から響く蛙の斉唱が不気味さを倍増させる。煌希は立ち止まり、その全体像を視界に収めた。目的地の到着だった。
錆びついたプレートに、有限会社宮本鉄工所と刻印が施されている。規模は、見るからに中小企業の小としかいいようがないたたずまいだ。その敷地内には点灯した照明は一切なく、人の気配もない。月光が照らしているだけであった。老朽化の度合いは判然としないが、これだけは断言できる。まだ取り壊されず、放置されている工場跡。そう、廃工場である。正面道路に街灯が一本あり、それが唯一の入り口付近の照明となっていた。
本当に侵入しなければならないのか。足がすくみ、固いはずの決心が揺らぐ。
だが、ためらっている暇はない。まもなく地上滞留は終了する。
廃工場の入り口には学校の校門と同じような、顎の高さまである黒い鉄製のスライド式門扉があった。周囲に人影がないか目を走らせ、門扉を横に引く。施錠はされておらず、重い門扉は鈍いローラーの音を響かせながらゆっくりと開いた。煌希は自分が通れるほどの幅で引くのをやめ、急いで門扉を通り抜けた。
もう後戻りはできない。背後に向き直り、すぐさま開けた門扉を静かに閉める。行きたくはないが行かねばならぬ、と震える唇を噛み締め、敷地内を奥へと進んだ。明かりから遠ざかり、暗闇が濃度を増してくる。
煌希は工場建物を見上げた。鉄筋コンクリート製の二階建て。一階が作業場、二階が事務所と食堂といったところだろうか。煌希の勤め先である荻山精機が従業員百二十人の中小企業であるのに対し、ここは建物と敷地面積からすると従業員二十~三十人規模と推測できる。
人目対策としての道路からの安全な距離、それに伴う充分な暗がりを確保すると、煌希は地上滞留状態を解除し、宙に浮きあがった。天を仰ぎ、呼吸を乱す。息もあがっていた。
後悔ばかりが募りまくる。自分は現実主義者だ。科学で証明できない現象なんてものは、すべて脳に生じた錯覚であり、そもそもそんなものは信じてもいないし、存在するわけがないと確信している。
確信しているが、何度も何度も後ろを振り返った。視界の端にも意識を集中する。
いる。これは、確実にいる。いますぐにでもここから逃げ去りたい気分でいっぱいだ。
暗闇のなかにたたずみ、静かに深呼吸をする。しかし、いまは目的がある。怖がってばかりはいられない。勇気を振り絞って、前に突き進むのだ。
だが、それでも、背後の気配と視界の端にちらりと映り込むそれを完全に無視するのは不可能だった。自分は現実主義者であり、そんなものは信じてもいないし、存在するわけがないと確信している。認めない。そこに確実にいるが、認めない。認めないといったら絶対に認めない。それはなぜか。怖いからだ。そう、怖いものは怖い。幽霊は怖いのだ。
背筋が凍りつくなかでの小休憩を終え、煌希は意を決し、移動を開始した。ふわふわと、そしてびくびくと、牛歩さながらに宙を前進する。
工場の一階は、大型のシャッターが閉まっている。その横に正面玄関とでもいうべき扉があった。ドアノブを回してみる。施錠されていて開かない。
煌希はとりあえず、工場を一周した。他に扉が二箇所あったが、どちらも開かなかった。常識的に考えれば、施錠されていてもそれは当然である。仮に扉が開いたとしても、怖くてなかに入れたかどうか自信がなかった。
これで屋内から屋上へ出ることは不可能になった。しかし、準備運動にちょうどいいとも思った。このまま直接、屋上へ行くとしよう。
煌希は工場の裏手へ回った。この敷地の周囲は畑であり、左右の民家とは二、三軒分の隔たりがある。工場裏側のフェンス先には畑のみが広がっており、人目を避ける条件が揃っていた。
外壁に接近し、屋上を見上げる。高さ十メートルほどといったところか。自宅室内の空中移動とは規模が違う。本格的な上昇はこれが初めてになる。
大きく深呼吸をし、全身の浮力をゆっくりと強めていった。一メートル、二メートルと、地面がどんどん離れていく。上昇に意識を集中する。外壁の半分を越え、屋上が眼前に迫ってきた。
ここでいきなり落下したりしないだろうか。そんな恐怖心に煽られる。
外壁が眼下に消える。上昇はなんら問題もなく、あっという間に屋上に到達した。
常時浮遊がデフォルトであるこの身体が、急に落下などするわけがない、と冷や汗が出る思いで内心力説するものの、結果論であるが、仮説が実証されたことに一抹の安堵感を覚える。
煌希は屋上の中央へ移動した。想像していたよりもずっと広い。暗闇に目が慣れてきたのか、屋上の床一面がくっきりと見えた。廃墟の雑多なイメージとは裏腹に、放置物のない殺風景な空間だった。
上空を見上げる。あの疑問が胸を熱くする。
果たして自分は、妖怪・浮かびあがりのように天高く舞い上がることができるだろうか。
軽く柔軟体操をする。数回の深呼吸のあと、目を閉じ、しばし精神統一をした。
顔を上げ、再び頭上を見つめる。雑念は消え去り、高揚の気分だけが満ち溢れていた。
「さあ行こう」煌希は暗闇のなか、ひとりささいた。「いざ上空へ」
煌希は抑圧していた本能の声をすべて解放した。浮力を強上昇へと転じる。重力を払いのけ、垂直に上空を駆けのぼった。屋上の床が足もとから遠く離れ、蛙の鳴き声も身体が空を切る音に取って代わっていく。
飛行の馬力に鞭を入れるべく、奥歯を噛み締める。全身の筋肉が唸りをあげるようにぷるぷると震えた。ほどなく最大であろう速度に達し、煌希の肉体はさらなる上空へ一直線に上昇していった。
夜の暗闇を掻き分け、身体が大気を押しのけていく。地上では味わえない、生まれて初めての感覚だった。
頭上からの気流が強まってくる。順調に高度が上昇している証なのだろうか。
顔を上げ、上方を仰ぐ。その瞬間、目を見張った。ただ眺望していたときの偽物とは違う。星が、月が、本物の空が近づいてくる。もはや力んではいなかった。脱力に等しい。吸い込まれていくように、肉体がひたすら上昇を続けていた。
どれくらいの時間が流れたのかわからない。酸欠のように喘ぐ自らの息遣いに気づき、我に返る。呼吸が苦しくなっていた。
煌希は浮力を弱め、上昇を停止させた。ほどなく肉体はふわふわと微細な躍動を残し、空中静止状態に移行した。呼吸を荒らげながらも、心地よい疲労だと感じる。これが噂のランナーズハイというものなのか。
自分の知らなかった上空の姿。出発時の地上とは違い、ここは強めの風が吹いている。両手を広げ、全身で受けてみる。爽快だった。息が穏やかになっていくとともに、火照った身体を、肌を撫でる風がほどよく冷ます。全神経が研ぎ澄まされているようだった。
上昇中に我慢していた、あえて後回しにしていた事柄がある。高高度の空気をたっぷりと吸い込み、ゆっくりと吐きながら、もったいぶるように視線を足もとに移した。眼下に地上の世界が見える。
「うおおお! すげええ!」煌希は心の底から歓喜の声をあげた。
暗闇の大地を灯す小さな宝石のごとき輝きが、広範囲にちりばめられている。ひときわ明るい光の密集地が商店街だろうか。街路灯の連なりが光の道となり、街を縦横に区切っている。クルマのヘッドライトが極小の点として現れ、きらめきながら光の道を滑っていく。煌希はただうっとりとそれを眺めた。圧巻、この一言に尽きる。
ふと、線路と駅のホームらしき建造物に目が止まった。その外観と周辺の地形からしても記憶と合致するものがある。岩槻駅とそっくりだった。
それならばと、そこから逆算して自宅アパートを探してみる。あった。きっとあれに違いない。勤務先の会社は見えるだろうか。遠方を見下ろすと、工業団地の煙突群らしきシルエットが、闇のなかにうっすらと浮かんで見えた。自分にゆかりのある場所を次々と特定していく。
上空からの眺望は見飽きることがない。すべての光ひとつひとつに人々のぬくもりがあると思うと、感極まるものがある。
上空は涼しい。そう感じたのは、夜景に見とれてからしばらく経ってのことだった。
冷静になり、思考が巡る。いまの時点でどのくらいの高度なのだろうか。初体験で、しかも夜間の暗闇だ。推測は難しかった。ただ、雲の上というほどの高度ではないことは明白だった。煌希は頭上を仰いだ。
真円が放つ強い月光のもと、その姿が明瞭に浮かびあがる。いまの高度よりも、さらに数百メートル先の高度に、白く巨大な綿の遮蔽物があった。正体は霧の集合体なのであろう、夜空に浮かぶ積雲である。
再び上昇を開始した。眼下に広がる無数の光の粒が少しずつ小さくなっていく。
熱き疑問のひとつが脳裏をよぎる。すでに解答は見つかっていた。たぶん、上昇高度の限界はないのだろう。極論を言えば、成層圏まで行ける。実際、上昇していく肉体に不調は微塵もない。絶好調だった。
高度が上がり続けることに興奮冷めやらないが、顔を叩く風が妙に冷たく感じる。徐々に気温が低下しているようにも思えた。涼しいというより、もはや寒い。全身がぶるっと震え、冷え込みが増してくる。どのくらい上昇したのか判断つかないが、明らかに気温は下がっていた。湿り気を帯びた冷気が肌を刺した。
思わず上昇を急停止させる。ひんやりとした水蒸気を吸い込んだ気がした。とっさに周囲を注視する。辺りがわずかに煙って見える。間違いない。感覚で確信に至る。雲だ。雲の高度に到達したのだ。
このまま突き抜ければ、雲上の世界に出られる。まだ見ぬ別世界は目の前だ。
だが、それ以上の上昇は許されなかった。全身がかじかんで、本能が生命の危険信号を発している。地上での熱気はもうここには存在しなかった。
「ああ、寒い! もうだめだ!」煌希はそう叫び、両腕を抱えてがたがたと震えた。
完全なる想定外。半袖Tシャツ一枚で来たのは軽率だったかもしれないが、それでも冷え込みのレベルが違いすぎる。上空は防寒着必須だったのか。
急ぎ下降を開始する。さっきの高度まで戻らなければ凍死してしまう。浮力を最小まで弱め、その身を勢いよく滑らせる。上昇時よりも圧倒的に速度が速かった。当然のことだった。下降とは意味を異にする。これは、落下なのだから。
下方からの急激な気流が体温を一気に奪う。それは、極寒の風に煽られているかのようだった。
大慌てで浮力を強上昇にシフトする。次第に落下速度が緩やかになった。煌希は空中静止をすると、膝を抱えて丸くなった。
急降下は危険だ。しゃれにならない死の恐怖を肌に感じる。これ以上体温を奪われたら本当にアウトだ。
身体を丸くしたまま、ゆっくりと慎重に高度を落としていく。気圧……か、と唐突に思い出した。そういえば中学の理科の授業で習ったような気もする。この気温の変化はその気圧の影響なのだろうか。
無知って怖い、本気でそう思った。底冷えした全身をぶるっと震わせ、両腕を強く抱えてさらに身体を丸くする。
高度が下がってきたおかげか、肌を刺す冷気が穏やかに感じられるようになってきた。徐々に体温が戻ってくる。寒さに強張っていた全身を伸ばせるようになると、煌希はやっとの思いで上体を起こした。
散々な目に遭った。正直なところ、上空を甘く見ていたようだ。苦笑さえ浮かべられない。真顔にならざるを得ない。地上と上空にはかなりの温度差があるという事実を身をもって知った。対策が必要だ。それも急務である。
深いため息をついたのち、夜景を再び眺めながら体温調整に入った。今日のメインイベントが始まろうとしている。体温が上がり、ボルテージも上がってくる。煌希はお題を脳内で読み上げた。
――地平線を目指して、颯爽と華麗に空中飛行をしてみせること。
顔を上げ、遠方に視線を送る。眼下よりも広大な光の密集が目に飛び込んできた。赤い明滅がいくつもある。ビルの航空障害灯だ。煌希の街にはほとんどないものだった。
煌希は思った。検証といえども、どうせ飛ぶなら華やかな上空の方がいい。
右手の親指と人差し指で銃の形をつくり、遠方の光の密集地に狙いを定める。決めた。記念すべき初回の目的地は、隣の地区である大宮区上空に決定だ。
煌希はゆっくりと宙を滑りながら身体を水平にしていった。両手両足をしっかりと伸ばし、推定高度千メートル上空を大地と平行に飛行を開始する。
皮膚を覆う衣服がばたばたと暴れる。肩で切り裂く気流の衝撃が、ほとばしるようにつま先へ抜けていく。向かい風になっていた。押し戻そうとする負荷が全身にかかる。望むところだ、昂然とそう思った。
力がみなぎっている。体温とともに体力の回復が成功した証だろう。煌希は次第に飛行速度を上げていった。地元の街の光が視界から流れ、遠ざかっていく。
刮目するのだ。自分の真のチカラを。本能が放つ浮上欲求のすべてを推進力へと変換し、奥歯を噛み締める。こめかみに血管が浮き出るほどの内なる咆哮が、やがて最高速度へと導いた。
見よ、これが全身全霊の全速力だ。
むむっと、唸り声が勝手にあがった。はじめの上昇時は無我夢中で気が付かなかったが、これは、非常に、なんとも……。がっくりとうなだれ、肩を落とした。
遅い。遅すぎる。これじゃただのノロノロ運転だ。ハリウッド映画のスーパーヒーローのような飛行速度には遠く及ばない。自転車に追いかけられたら、あっというまに捕まってしまうだろう。それぐらいのスピードだった。
残念すぎる結果だが、あくまでもまだ検証段階であるため、ここは黙って目をつぶるしかない。意気消沈のため息は止まらないが……。
目標に向かって、ひたすら真っ直ぐに飛んだ。時間を忘れ、延々と直進すると、やがて気分に変化が訪れた。
ずっと飛んでいたい。いつまでも地平線を追いかけたい。
空にいながらにして、空を見上げる。なんとも不思議な感覚だった。わずかに青みを帯びた夜空に、満天の星が煌々と揺らめいて見える。同じ色はひとつもない。すべての星が各々に独自の光彩を放っている。
壮大で無限に広がる天空。手をかざすも、掴みきれないほどの星屑に圧倒される。空と宇宙の境界線は依然として判明しない。いつしか成層圏を越えて、宇宙に辿りついてしまうのではないか。そんな錯覚に似た感覚にとらわれる。
突如発生した浮力の謎。不安定な自分の存在。そんなことは、もうどうでもよくなった。
遠目に見ていた街の夜景が少しずつ巨大化していき、その趣きも壮麗なものへと変貌していく。目的地が近づいている。地元の岩槻区とは比べものにならないくらいの、まるで別天地のような眺望が迫っていた。
高度を緩やかに落としていく。光の密度が違った。まばゆいばかりのネオン群が、人の息吹を彷彿とさせる。赤の明滅が立ち並ぶそのさまは、埼玉のなかで最も都会然としたものだった。眼下にH型の広大な駅の姿が見てとれる。大宮区の中心、目的地上空の到着を告げる街の光が燦然と輝きを放つ。
航空障害灯を頭上に据える高層建築物、大宮ソニックシティビル。意識せずとも視線は自然とそちらに向いていた。上空から見ても、その存在感はひときわ群を抜く。煌希は小さくうなずき、そのまま水平方向に移動していった。
ソニックシティビルの屋上が遠く足もと越しに確認できる。街のなかで最大級のビル直上で不服はない。宙であぐらをかき、大宮区の全景をうっとりと眺め始めた。
満足感と心地良い疲労感が混ざり合い、胸のうちを満たしていく。
虚空のなかにおぼろげに浮かぶ、碧眼の青年が笑顔でこちらを振り返る。煌希も穏やかにうなずいた。
これでいい。いや、これがいい。そう、僕は、妖怪・浮かびあがりだ。
煌希は口もとをにやつかせながらつぶやいた。「さて、明日はどこの上空を飛ぼうかな」




