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42話 正解のない問



 「兄さん、うまくいったね!」


 「あぁ!そうだな。

  父さんのあの慌てた顔見たか!?」


子供部屋に戻ったキリアンとブラット。

二人は、ミルクで祝杯をあげた。

 

 「今頃、父さんはイネスさんの

  裸を見たから、怒られている

  はずだ!」


二人は意地悪な顔をしながら、ミルクを飲み干した。


一方その頃、二人の話し合いは激しい応酬へと変わっていた。

 

 「イタズラをしてしまったことを

  叱ることより、二人がなぜ

  そうしてしまったのか……

  その理由を考えることが大事だと

  思うの。」


イネスは寝着の紐をきゅっと締めた。


  「理由などわかりきっている。

   ――俺への抗議だろう」

 

キリアンが怒っているのは、ノアのことだ。

そしてブラットは、今朝の出来事に不満を抱いている。

 

 「過去の自分は、確かに――

  父として、あまりにも情けない姿

  ばかりを見せてきた」

 「だからこそ、それを正すためにも、

  これからは“本来の自分”として、

  あいつらとは向き合っていく。」

 

これは、主にノアのことを指していた。

理性を失い、平民の愛人を優遇し、正妻を顧みなかった愚か者――

その姿を重ねるようにして、ダニエルを嘲る者も少なくなかった。

そして――身近にいた子供達を混乱させたのも自分だった。


今のダニエルの胸にあるのは、羞恥と悔恨が入り混じった感情だった。

その思いが、彼の表情に影を落とす。

  

 「二人に、そのことは、

  ちゃんと謝ったの?」


暖炉の火が小さくなり、ダニエルは薪を数本追加した。

 

 「……謝る。なぜ俺が?

  父親として、子に頭を下げることなど

  あってはならない。」


 「"不甲斐ない姿ばかり見せてきた"

  あなた今、そう言ったわよね?」

 「ここには鍛練場もない……

  汗を流しながら、話をする機会も、

  これから減っていくわ……」

 「このままだと、わだかまりは

  深くなって……」


 「――わだかまり、か……

  父親である俺が、子供の機嫌を

  わざわざ取る必要があるのか?」


イネスは大きくため息をついた。

子供達にたいして、まさかこんな傲慢であるとは思っていなかった。

夫婦となって長いが、ダニエルのこんな姿は、初めて目にする。

 

 「――いいえ。

  わたしは、機嫌をとってほしい

  なんて、一言も言っていないわ。」


 「悪いことをしたとは思っている……

  だが――」


 「……それに、あの少年たちも

  可哀想だったわ……」


イネスは思い出し、胸を押さえた。


 「ああ……確かにな……」

 「だが彼らには、あの後、部下に命じて

  服を着せ、馬車でしっかりと送らせた」


 「……え?

  そうだったのね……

  わたしはてっきり……」


 「君は、どれだけ俺のことを

  非情な男だと思っているんだ……」


 「なら、なぜ……ブラットにそれを

  教えてあげなかったの?」


ダニエルは立ち尽くすイネスを見かね、

棚に飾られていた鉢植えを下ろすと、それを椅子代わりにして彼女を座らせた。

 

 「……平民の彼らと、

  断ち切らせるためだった。

  友の、あの残酷な姿を目にした

  ブラットが、彼らに近づくことは、

  きっと、もうないだろう……」


イネスの前に膝をつき、ダニエルは彼女に履き物を履かせた。

  

  「……君だけには理解してほしい」

 

険しい顔のダニエル。

イネスはそれに黙って耳を傾ける。 


 「金も後ろ盾もなく、正しい分別を

  教えられずに育った者は、

  悪意がなくとも、ブラットを

  傷つける存在になりうる。」

 「そして、身分が対等でない友情は、

  どちらかを歪める。

  だから俺が、線を引いた。」


貴族と平民。

同じ罪であっても、平民は死罪となり、貴族は罰金で済む――

そんな話は、決して珍しいものではない。

その明白な線については、

かつて裕福な暮らしに身を置いていたイネスにも、理解できることだった。

 

  でも、ノア……

  彼女は平民なのに……


これほどまで、貴族と平民を分けて考える人が、

ノアにだけは例外だったのは何故だろうか?

その考えが、イネスの胸の奥で小さく引っかかっ

た。


暖炉の火が、静かに音を立てて弾けた。

 

一方その頃、子供部屋では――

 

 「なぁ……ブラット……

  そろそろ、鍵を開けに行こうか……」


 「……うん。でも、きっと……

  すごく怒ってるだろうね……」


 「……そうだな」


考えるだけで気が重い。

晴れた気分だったのは一瞬であった。

 

いつまでも閉じ込めて置くわけにはいかない。

二人は、迷いながらも歩きだした。


 「兄さん……僕、怖いよ……」


 「………」


――進む足取りは、ひどく遅かった。

足音を立てないようにしているつもりなのに、一歩ごとに床板が軋む気がして、二人は肩をすくめる。

 

それでも、一階の浴室扉の前へと、ついに辿り着いてしまった。

 

生唾を飲み込み、無意識に袖を掴み合う。

逃げる理由は、もうどこにもない。

震える手で鍵を差し込み、

祈るような気持ちで、ゆっくりと回した。

 

   ガチャッ……。

 

扉を開けた、その瞬間。

そこに、父がいた。

湯気の名残もない浴室の前で、腕を組み、動かずに立っている。

 

一瞬、空気が凍りついた。

二人は息を呑み、

次に来る言葉を覚悟した。

 

  「……腹、減っているだろう?」

 

低く、抑えた父の声。

怒鳴るでもなく、問いかけるでもない。

ダニエルは一拍、言葉に迷うように視線を逸らし、それから、ぎこちなくキリアンの前に立った。

  

伸ばした手は、一度ためらい、

それでも、思い切ったように頭に置かれる。

撫でるというより、

「触れて確かめる」ような、不器用な動きだった。

 

  「……すぐ食事にしよう」

 

それだけ言うと、今度はブラットへと視線を移す。

言葉を探しているのが、はっきりと分かる沈黙。

 

   「今朝の少年たちは……

   ……きちんと服を着せて、

   馬車で、住むところまで

   送っていった。」


ブラットの頭にも手を伸ばし、告げた。

叱責はない。


二人は、呆然と口を開け、恐る恐る顔を見合わせる。 

――怒られない?

――終わり? 

そんな戸惑いが、そのまま表情に出ていた。

 

イネスはその光景を、少し離れた場所から見ていた。

胸の奥に、かすかな溜め息と、言葉にできない安堵が染みる。

彼はきっと、自分が言ったように、子供たちに頭を下げることはしない。

それでも――

怒鳴らなかった。

罰を与えなかった。

 

これが、彼の今の「父」としての姿なのだ。

変わろうとしている、その途中。

人の価値観は、簡単には塗り替えられない。

まして、親であることの在り方など――。

 

正解は、まだ誰にもわからない。

父としても、母としても。

 

イネスは、二人の子供に向けられたダニエルの背を見つめながら、自分は「母」として、どう在るべきなのかを思う。

答えは出ない。

だが、この問いを、手放すことだけはできなかった。


 

 ――次話予告

君を苦しめる存在は、すべて排除へ。


キャラ達の台詞増やしていいのかな……

いや、でも小説でそれしていいのかな?

 

「…………」


漫画や映画大好きなわたし。

小説をほとんど読んだことがなくてわからない。


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