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結局、十時過ぎまで勉強会は続き、遥の集中力が完全に切れて机に倒れ込んだのを機にお開きとなった。
普段からそこまで真面目に勉強をやるわけでもないのによく頑張ったものだ。
今夜はさぞよく眠れることだろう。
……さて、では宴を始めようか。
夜はまだまだこれからだ。
なんなら昼夜逆転してるのでここからが本番まである。
今日は何して過ごそうかしら。
アニメの一気見か、はたまた話題になってた映画を連続で見まくるか。
せっかくの夏なのでホラー映画なんてのもオツでいいかもしれない。
まぁ、なんにせよとりあえず夜を楽しみたいのであればジュースとお菓子は必須だ。
親に怒られないように今日もこっそり宴の準備を進めなくては。
抜き足差し足忍び足。音を立てないようにゆっくりとドアノブを捻りドアを開く。
ドアの前に、天羽さんが立っていた。
「こんばんは、音無君。夜はここからが本番よね?」
「ホラーは映画だけで十分なんですけど……」
怖い怖い怖い。
さっき遥と一緒に遥の部屋に行ったじゃん。
なんで何の声もかけずに立ってるの?普通に声かけよ?
「声なんてかけたら寝たふりするくせに」
言いながら部屋に入ると我が物顔で天羽さんはベッドに腰かける。
しかし、よくご存知で。たしかに声なんてかけられたら絶対聞こえなかったふりするわ。なんなら爆音で音楽鳴らして言い訳を現実に変えるまである。
……まぁ、それはそれとして、なんか違和感がある。
「……なんか、ありました?」
「……どういうこと?」
「だって、いつもなら二人きりでも誰かが聞いてるかもしれないって警戒して直接言葉にはしないじゃないですか」
天使様のイメージにそぐわないものは徹底的に排除するのが彼女のスタイルのはずだ。
それに何の得がなくとも、それを期待する人がいるなら応えようとして応えてしまえるのが彼女だ。
そんな彼女がこうも隙だらけに思ったことを話すなんて普通はありえない。
つまり、今は普通じゃないということだ。
「……いいでしょ、別に。あんたの家でくらい、思ったことをそのまま話したって」
仰向けに倒れ込むと、そのままの姿で天羽さんは小さくそう呟いた。
どこか拗ねたような声色は普段の彼女からは絶対に考えられない隙だらけの姿だ。
何があったか知らないが、相当ストレスを溜め込んでいるらしい。
しかし……あんたの家でくらい、か。
薄々察してはいたが、どうやら彼女の家ですら彼女は彼女に思ったことを話すことを許していないらしい。
本当に、ストレスのかかる生き方だ。
「……俺、映画を見ようと思ってたんですよ」
彼女が彼女に対して課したルールについてとやかくと口出しをするつもりはない。
面倒な生き方をしているなとは思うし、俺だったら絶対にそんなことはしたくないけれどそれでも決めるのは彼女だ。
夏休みが始まって一週間。
何が彼女を俺みたいな奴に弱ったところを見せないといけないくらいに追い込んだのかは知らない。
彼女がそれを見せようとしない限り詮索するつもりもない。
彼女の選択に、彼女の私生活に、俺が土足で踏み込む理由も踏み込んでいい理由もない。
改めて考えるまでもないことだ。
何度も経験してきたことだ。ろくなことになるわけがない。
「もしよかったら、一緒に見ます?」
……だけどまぁ、映画を見ながら愚痴に付き合うくらいならきっと許されるだろう。
なにしろベッドの上でひっくり返ってる才女にはバカな妹に勉強を教えてもらっているわけだし。




