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異世界転生ビルドマスター ~チートが無くても俺には土木がある!  作者: 孤狗


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第7棟 プリム編④ 〜 出来ることを考えよう

あらすじ

 プリムの鍛治師としての腕を見込み業務提携を持ち掛けるヤマト。だがそこに悪徳商人ボイルが現れ、プリムに対し借金の担保に店を差し押さえようとする。

 抗議するヤマトに対し、ボイルはカレンの身柄引受けを証明する書類を提示し、引き下がるよう強迫する。ゴルトー商会からの圧力に抗うべく、ヤマト達は知恵を出し合うのだが……

― ザクバ邸 玄関 ―


 主だけが居なくなった屋敷には、未だ多くの人々が詰めかけていた。何も知らずに働きに来た従者や住み込みで働く使用人、財産相続の噂を聞き自分達もと絡みに来た強欲な商人、そして魔法局職員だ。


「お疲れさまです、支部局長!」


 権威を示すマントと汚れ一つない黒の制服姿。ギルバート⋅コーネリアが()()に入ると、作業を進めていた部下達が敬礼をする。


「検分はどこまで進んだ?」


 他の部下達には仕事を続けるよう手でジェスチャーしつつ、先着していた部下の一人に確認する。


「はっ、現場記録(ログ)魔法は屋敷全てに掛けており再現は可能です。到着時点でこの場にあった契約書と使用人達のアリバイは確認中ですが……全てを把握するのは数日かかるかと」


「遺体は?」


 ギルバートが訊ねると、部下は別室に……結界で封鎖された小部屋に案内された。結界を一時解除しつつ、部下が報告を続ける。


「第一発見者はモーニングコールをしに来たメイド長のメリッサです。主が朝食にも来ず寝室にも居ないので書斎に探しにくると……この形相だったとか」


 床に敷かれ膨らみを持った白いシーツ、部下がそれを捲ると、恐ろしいものを見たような顔で硬直したザクバの亡骸があった。


「屋敷の者がすぐに呼び寄せた町医者の見立てでは死亡してから数時間、目立った外傷はなし。朝食や早朝業務をしていたメイドや警備の兵達は誰かしらのアリバイはあります。……共謀していなければ、ですが」


 先程述べたアリバイ確認中とはそういう意味かと納得し、ギルバートは死体の元に向かい片膝をつく。医者も原因不明が判らぬ不審死、魔法関係の死である可能性があるため、魔法局に通報がなされたのだ。


「私もこの男とは数日前に会っているが、取り調べるか?」


「ご冗談を」


 部下は笑う。


「被害者がルミナ村に立ち寄ったことは把握しています。しかしその後に彼が商談で関わった人数は数十人に上ります。仮に局長に話を聞くとするならば、その全ての人の潔白が証明されてからです」


 その前に怪しいものや疑惑が出るだろう、そういう楽観を感じとり、ギルバートは軽く嘆息する。


「私を信用しようとしてくれるのは感謝する。だが魔法犯罪捜査では先入観を持つな」


 魔法使いは懐から杖を取り出すと死体に向かい2、3言呟いた。部下は軽く微笑んだ。


魔法感知(カウンターマジック)魔力感知(センスマジック)はやりましたよ。いずれも効果無しです」


記憶解読(サイコメトリー)は試したか?」


「はい、そちらも何もでませんでした。やはり死後時間が経過していたので……」


「確かに死体は時間が経つと記憶が消える」


 部下の回答を遮りギルバートは立ち上がる。


「だが消え方には時間差がある。本能に根付くルーティンが消えるのは、脳神経の腐敗が始まってからだ」


 ザクバの身体からは全ての記憶が読み取れなくなっていた。無論内蔵や脳神経にも外傷はない。


「それに確かに魔法感知には反応しないが……この男は全て紙と口約束でしか契約していないのか?」


「えっ?」


 部下はようやく疑問に気付いたようだった。今屋敷にはザクバとの契約が突然途絶えて大勢の商人が詰め掛けている。その中に魔法契約をしているものが一人も居ないのは不自然だった。


「この魔法社会で大規模な商談は魔法契約で担保をとるものが多い。金か才能のどちらかがあれば魔法で高跳びや隠蔽出来るんだからな」


 だがザクバが死に、彼が刻んでいたであろう契約は全て読み取れなくなっている。

 そこから導かれる推論を、ギルバートはハッキリ口にした。


「こいつは違法()魔法による呪殺だ。被疑者は何らかの契約違反を咎めてザクバを殺し、財産を魔法で奪ったあと全ての魔法状況を消去したんだ」


「そんなこと……可能なのですか?」


 部下は納得したいがまだ何か引っ掛かるようだった。薬物や書類偽造、本人の意思等では決して改竄できないよう極めて強度が高い作りをしているのが契約魔法である。


「外部からの契約解除なんて行政機関が時間と人員をかけてやるような大規模な……」


「その行政機関と同等の技量を持った魔法使いがいるというわけだ。規範意識0のな」


 吐き捨てるように切って落とすギルバート。彼が非常なまでに才能主義であるのも、この才能が支配する魔法社会の構造が原因だ。才あるものが反社会的な立場になった時、より強い力がないと対処が不可能になる。


「関係者のアリバイ確認と並行して被害者の財産や直近の取引記録を全て確認しろ。何か極端に無くなっているものがあるはずだ」


 敵は契約魔法に干渉できる程度には力が強い。だが裏を返せば自分の契約だけを器用に消す程の技量は持ちえていないのだ。必ずどこかに解決の糸口はあるとギルバートは踏んでいた。


(敵の実力は2級以上1級以下といったところか) 


 しばらく思案していた男のもとに、指示を受けた別の部下が書類を持ってきた。


「屋敷の従者達に当たらせた備品財産台帳の突合書類です。全ての書類がここに揃っているかはまだ確認中ですが……」


 部下からの書類束を受けとり、速読で確認していく。現金、金の延べ棒、宝石、債券、権利書、保証書……

 様々な項目の中で、あるものがないことにギルバートは気付いた。


「婚姻の身分証明書、又は使用人待遇の奴隷契約書はないか?」


「えっ?いや……貰ってませんが、それらは個人で作らず役所に委任する場合も多いのでは?」


「いや、彼にはあったはずだ。少なくとも()()()()()()娘の婚姻に伴う身分証明書がある」


「「えぇっ!」」


 部下達が仰天する。だが隠すつもりもなく、ギルバートは事情を話した。


「そ、それじゃっ!局長の娘さんの身分証が何者かに盗まれたんじゃ……大変ですよ!」


「……或いは、カレン⋅コーネリアが被疑者かもしれんがな」


 父親としては非情すぎる可能性をあっさり口にするギルバート。だが内心、娘に契約を破壊し人を呪殺する技量は無いとは確信していた。


「もし被疑者が奴隷等の人身売買に携わっていたなら、身分証明書の名義変更手続きをしているはずだ。すぐに各自治体に問い合わせろ」


 急げよ、と部下達を急かさせる。時間が経つと他にザクバと合法的に取引していた商人達の名義変更等の記録が混ざり追跡が困難になってしまう。


(まさかアイツらが関係者として浮上するとはな)


 ギルバートは嘆息しながら、捜査を進めていった。


〜〜〜〜〜〜

― プリム工房 ―


「旦那と……ナールと出会ったのは6年前かねぇ」


 ヤマトとカレンと共にテーブルを囲み夕食を取りながら、プリムは自身の来歴や亡き夫との馴れ初めを話していた。


「アタシが働いてた鍛治の里にいきなり人間の若いのがやってきてさ、『鍛治の勉強をさせてくれ!』って来たんだよ」


 事前の紹介も何もない裸一貫での修行の申し出。ドワーフ達にメリットは少なく信用も出来ないので、最初は雑用だけさせてバイト程度の報酬を渡して帰らせようとしていたらしい。


「ドワーフは小さいけど力は強いからね。貧相な人間のガキなんかすぐに根を上げるだろって大人達は思ったのさ……けどあの人はついてきた」


 半年間石や貴金属を運ぶ重労働。青年の身体は小麦色に焼け、体つきは筋骨隆々となっていく。


「根性を見込んだウチの親父が修行中のアタシの対抗馬にって面白がってねぇ……ま、そこからは色々さ」


 グラスに注いだホットティーをスプーンでかき混ぜるプリム。彼女から切り出したことだが少々照れ臭くなったようだ。カレンは何となく、最初はライバル視していたプリムが切磋琢磨していくうちに段々惹かれていったのではないかと妄想した。


「ま、そこであの人が婿入りしてくれればめでたしめでたしだったんだけど、そうはいかない」


 まるで漫談の如く話を切り替えるドワーフ。


「あの人はどーしても()()に店を構えたかったらしくてね、里を飛び出しちまったのさ」


「あっ、プリムさんもついていったんすね駆け落ち♪」


 面白そうに横槍を入れるヤマト。プリムは何も言わなかったが、デリカシーの無い男の足をカレンはテーブルの下で軽く蹴る。


「まあオバサンの馴れ初めはここまでで……こっからは詰まんないけど大事な金の話さね。旦那は潰れてたこの土地の小屋を大規模改装して、高給を提示して従業員を集めた。当然初期資金なんかないからあちこちの金融から融資を募ってね。

 旦那の腕も従業員たちも頑張ってたから毎月の返済はまあまあやれてたし金貸しも別に急かしちゃこなかった」


「え?じゃあどうしてゴルトー商会は……?」


 カレンが疑問を呈する。ここまでの話にあの悪徳商人が絡む気配がない。


「アタシらはアイツから金を借りたことはないよ。けどウチの融資先の一つが突然不渡りをしてね。債権が奴らに流れたのさ」


「んな無茶苦茶な」


 ヤマトが思わず口に出す。彼の居た世界では早々起きない事態だ。だがこの世界での法律は異なる。他人の借金を勝手に請求できる抜け道があるのだろう。


「今日のやり取りを見て何となく察しがついたよ。アイツは狙った相手を契約で縛って、財産やら何やらを自分の物にしてるんだ。そしてあの人が……ナール工房が『()()』にないといけない理由をアイツは知って、狙いを定めてきた」

 

「絶対お店渡しちゃダメですね、それ」


 カレンは身震いする。人を殺すことに躊躇がない奴が狙う程、或いはナールが人生をかけてここで働かなければならない理由がこの場所にはあるのだろう。

 ヤマトもいつもの軽さが消え、真剣に考えこんでいた。


「俺らとしてもカレンちゃんの事があるからますます引けなくなりそうっすね。プリムさん、言いにくいでしょうけど、御主人がこの場所に拘った理由とか亡くなった経緯は……」


 その時だった。


「うわぁ!」


 二階から男の悲鳴と、ガシャンと何かが割れる音がする。三人は驚き顔を見合わせる。


「こっちだ!」


 1mはあろうかという巨大なハンマーを引っ付かんで、ドワーフ鍛治師は階段をかけ上る。ヤマトとカレンも後をついていく。


「大丈夫かい!?」


 明かりが点いていない薄暗い部屋に駆け込んだプリムは、入口付近で尻餅を付き、顔を苦痛に歪める従業員に話しかける。


「姐さん!俺よりアレを……」


 男が指差す先を見てプリム、カレンは驚愕する。


「え?」


「アイツは……っ!」


 最後に部屋を覗き込んだヤマトもそれを見た。


「は?犬!?」


 暗闇に光る()()双眸。夜の闇に溶け込むが如き漆黒の体毛。体躯は大型犬であるが、元の世界には絶対に居ない異様な存在感を放つ獣が3匹、部屋のデスク回りに集まり何かを貪っている。


「ブラックドック!」

 

 叫ぶプリムに、獣の一体がこちらを向いて涎を垂らす。


「下がんな!」


 カレンとヤマトは職人の男を引きずって部屋から出す。灯りのある廊下に出して判ったが、ジーンズの右足部分に噛み痕があり、血が滴り落ちていた。


― ガルルルル! ―


 ブラックドックが威嚇し、プリムに飛びかかる。少女程の体格であるドワーフではとても太刀打ち出来ないように思えたが……


「ふん!」


 ドワーフ鍛治は己と変わらぬ大きさのハンマーを素早く振り、槌で魔犬の爪と牙を受け止める。そして……


「どりゃあああ!」


 魔犬を担いだままハンマーを振りかぶり、割れた窓ガラスの方向へ叩き付けた。


― ギャイン! ―


 ガラスを囲んだ枠が砕け、外の屋根が室内からも見えるようになる。1階屋根に吹き飛ばされた魔犬が悲鳴を上げる。獣の反射神経ですぐに立ち上がるが、胴にはガラス片が複数突き刺さり、普通の犬ではあり得ない真っ黒い血が滴り落ちていた。


― バウ! ―


 仲間がやられたことに警戒した残る二頭も、何かを咥えたまま、壊れて広くなった窓から外に飛び出た。カレン達に介抱されていた若者が叫ぶ。


「逃がしちゃダメだ!そいつら書類を食った!」


「何だって!?」


 プリムが叫び外に飛び出るが、そこにはもう魔犬の気配はない。


「プリムさん!」


 カレンが杖を構えて部屋から出てくる。この状況で彼女が使える魔法など何もないが、それでも何かをしたかったようだ。


「大丈夫ですか?」


「ああ、アタシはね。ただ……」


 プリムはチラリと部屋の中、荒らされた机付近を見て苦々しげに呻く。


「裁判で提出しようとしてた証拠書類をやられたみたいだ」


「そんな……」


 杖を握り締めるカレン。プリムは表面上は冷静を取り繕うように、だが闇を睨み付けながら呟く。


「あの人が死んだ時と同じだ。……あのブラックドッグは、きっとボイルが……」


 ()()()自分が側にいてやれれば、或いは彼が逃げてくれていれば……何度も繰り返した後悔が去来するが、ドワーフは頭を振る。


「書類の事はどうにでもなる、まずはアイツを医者のところに連れてくよ!」


「は、はい!」


 騒ぎを聞き付けた他の従業員達の助けも借りて、怪我をした職人を二階から下ろしにいくカレン。そんな彼女を尻目に、ヤマトは屋根のある場所で片膝をつく。


(これは……)


 墨汁を垂らしたかのような黒い液体、それは屋根に点々と、そして隣接した建物の屋根伝いに続いていた。


〜〜〜〜〜〜

 片付けや医者を連れてくるのにバタつきはしたが、日付が変わる前には一通り騒ぎは収まっていた。


「やれやれ、大事にならなくて良かったよ」


「すみません、迷惑をかけます」


 プリムが職人に声をかける。足を包帯で巻き、暫くは松葉杖ではあるが、骨や腱にダメージはないそうだ。


「裁判書類の整理してたら、急にあの犬どもが窓を突き破ってきて……」


「良いよ、事情は判りきってる。昼間の話で裁判になってることを話したから、ボイルが妨害に出たんだ。アタシが迂闊だった」


 彼女曰く、旦那が死んだ時にもブラックドックを見かけたので、ボイルの使い魔ではないかと裁判所や魔法局に掛け合ったのだが、彼やゴルトー商会には使い魔登録やブラックドッグの飼育届け出はなく、証拠不十分となっていた。


「今回の件ではっきりしたが、やっぱりアイツはしらばっくれるだろうね……こうなったら、()()()に依頼しようか」


 プリムの提案にカレンも頷く。


「そうですね、明日の朝イチで私達も一緒に……ってあれ?」


 今更ながらに魔女は気付く。あの喧しい転生者の姿がない。


「ヤマト社長……?」


〜〜〜〜〜〜


 カレンの呼ぶ声が聞こえるはずもなく……


(ここが……)


 暗闇と静寂が支配する森の中、枯れ葉を踏む音にすら注意を配りながら、ヤマトは視線を上げる。

 点々と続く魔犬の血痕を辿った先、月明かりすら届かぬ山肌の洞窟が、男を待ち受けるかのように口を開けていた。


 御読了ありがとう御座いました。

 判りにくい点について一点補足します。

カレンの身分についての契約は、

⋅1 ギルバート→ザクバ(当事者間契約成立)

⋅2 ザクバ→ボイル(当事者間契約成立、呪殺は契約後の不備をついたものでカレンの身柄は正式にボイルのもとになっている)

⋅3 2の契約書をボイルが行政機関に正式登録中(成立したら行政機関の強力な魔法でカレンとヤマトを縛ることが出来るように)


 という形です。 

 これにカレン側が対処できないのかについては次回をお楽しみください。

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