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異世界転生ビルドマスター ~チートが無くても俺には土木がある!  作者: 孤狗


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第6棟 プリム編③ 〜 とにもかくにも金がねぇ!

あらすじ

 町中で呼び込み中のカレンは、チンピラに絡まれていた合法ロリドワーフ鍛治師のプリムを助ける。彼女が経営する工房にいくと、何故かヤマトがいて……

 街の一画に佇むプリム工房。その作業場で店主のプリムを勧誘していたヤマトは、駆け込んできた魔女を見て爽やかな笑みを返す。


「あっ、カレンちゃん偶然だね」


「何暢気してるんですか!」


 ずんずんと詰め寄るカレン。彼女の圧に気付いているのかいないのか、ヤマトはマイペースに話を進める。


「いやあ、手持ちの釘やら何やらが切れたからさ、お客さんからの紹介でここに来てみたんだよ。そしたらほら……」


 右手に数本の釘、左手に小型のハンマーを持ってカレンの目の前に突きつける。


「釘は傷一つなく真っ直ぐだし、長さも均一、ハンマーなんて重心がちゃんと芯になっててグリップも物凄く持ちやすい」


「そ、それが凄いんです?」


 剣幕をいなされて未知な分野の感想を求められ一瞬たじろぐカレン。側にいたプリムは呆れ顔で呟く。


「いやそんなの鋳型で同じに作れば当たり前だろ……」


「それが凄いんすよ!」


 目を輝かせてヤマトは叫ぶ。彼の中ではよほど感動することらしい。


「この世界の鋳型も職人さんが手作りなんでしょ?、3Dプリンタとか工場のラインじゃなく!」


「意味分からんし……ともかく」


 ドワーフは溜め息をつくと話を仕切り直した。


「要するにアンタはアタシの鍛治の腕を買ってくれてるわけだね。そいつは感謝しとく」


 問題はその後の発言だ。


「それで、何が目的なんだい?「一緒に働きたい」ってのは。ウチの職人になるってんなら分かるが」


「そのままの意味っすよ、俺は土建屋をやりたいんです。ゆくゆくはゼネコンの社長!……けどまあまずは業務提携からさせて貰えればなあって」


「はあ……」


「も、もうやめてくださいってば!」


 フリムとの間に割り込みヤマトを店の外に押し出そうとするカレン。


「頭おかしい人に思われるでしょ、私まで!」


「え〜、カレンちゃん。社員なんだからそこは社長である俺の肩もってよ」


「何で私が貴方に従わなきゃならないんですか!?亭主気取り?何なら私の方が主人なんですよ!(魔法的に)!」


 店主そっちのけでわちゃわちゃ言い合いを始めた男女を眺め、プリムは今日何度目か分からない溜め息をついた。


「ハイ二人とも、ちゅうもーく!」


 手を叩いて呼び止めると二人の若者は同じタイミングでドワーフを見下ろす。


「アタシさぁ、アンタらのこと何も分かんないんだよね。だから……」


 鍛治師はピッと親指で工房の外を……来客用テーブルを指した。


「ゆっくり話しようじゃないか。茶でも飲みながらさ」


 愉快そうに小さな職人は笑うのだった。


〜〜〜〜〜〜

― ゴルトー商会、シャトラン支部 ―


 日の入らない路地裏の奥、石レンガ2階造りの建物が一棟あった。玄関のガラスには「ゴルトー商会 即日融資承ります」と磨られているが、その手前には「本日定休日」と黒板に書かれた小さなプレートが置かれていた。元々日照条件が良い場所ではないが、昼間だというのに全ての窓にはカーテンが引かれている。

 別にこの建物の主人が無類の日光嫌いというわけではない。ただ()の仕事の話をする時は、人目につかないようにするのがここの習わしだ。


「……それで、あの女が裁判所に訴状を出すのも止められず、資金回収の約束も取り付けずに帰ってきたと」


 薄暗い部屋の一室、部屋の上座に置かれた椅子とテーブルに、一人の男が座っている。この店の主ボイル・ゴルトーである。シックで上質な革張りの椅子に腰掛けた彼の前には、3人の男が立たされていた。

 真ん中の一人が恐る恐る口を開く。


「そ、そりゃあ裁判所裏に泊まり込みで朝イチから乗り込むとは思わねぇし、それに帰りは変な女に自警団を呼ばれて……」


「言い訳なんざ聞いてねぇんだよ!」


 ダン!と男が机を拳で叩くと、ビクッと3人が震え上がる。


「あの工房が先代から引き継いだウチの借金は200万ゴールド……あの店の年収丸々だ。保険もなしに亭主が死んで稼げる額じゃない。そりゃ死に物狂いで裁判所に駆け込むだろ」


 ボイルは黒スーツの胸ポケットから葉巻を一本出して咥えると、ただ一言呟く。


「燃えろ」


 直後マッチも無いのに葉巻の先端が燃え落ちて煙が舞う。金融業を営む彼の前歴は謎に包まれているが、高位の魔法使いであることは間違いなかった。


「それにカツアゲすんならまずは場所を移すだろ。通りでバカ正直に女を取り囲めばそりゃ人を呼ばれるわな、子供でも判ることだ……てめぇらはガキ以下か、あぁ!?」


 男の額に青筋が浮かぶ。部下達はバラバラに「すみません!」と叫んだが、ボイルの怒りは収まらない。


「こっちはバカ殺って300万稼いできてご機嫌だったのによ……帰って早々クソみたいな報告されてどう思う?」


 ヒュボッとボイルの左掌に火球が灯る。男の一人が腰を抜かし、尻餅をつく。


「す、すいません、アニキ!ど、どうか命だけは……」


「……ふん」


 目を細め数瞬部下を睨んでいたボイルだったが、やがて火球を消して手を下ろす。


()()殺さねぇよ。一人殺したばっかりだ。暫くは魔法局の狗どもが煩いからな。……そういう意味では、手を出してないお前達の判断は慎重だったといえるか」


 頭を冷し、部下達を擁護するよう頭を切り替える。ボイルは己が短気なのは自覚しているが、同時に癇癪に任せて部下を処罰しては人が居なくなることも理解していた。


(カスにはカスなりに出来ることをさせねぇとな)


「裁判所に行かれた以上は向こうの出方を待つしかねぇな。債務不履行か、俺達への訴訟か……或いは法人名義を()()変更してまた時間稼ぎか。それでこっちの動きも変わる」


 改めて部下を立たせ方針を説明する。裁判所からの通知がくるまでは直接の手出しは厳禁だ。と……


「そういえば自警団呼んだ奴はただの通行人か?まさか奴の身内じゃないだろうな?」


「いえ、それはないかと思います。あのアマも知らないみたいでしたし……変な看板持った魔法使い風の若い女でした」


「変な看板?」


 目を細めるボイル。部下は斜め上を見上げながら思い出す。


「ええ、石で出来た馬鹿みたいな看板だかプラカードだか……確か「ヤマト建設」とか書かれてました」

 

「ほう?」


 怒りに満ちていたボイルの口角が上がる。


「どうやら悪いことばかりではないらしいな」


 悪徳商人は葉巻をくゆらせ、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。


〜〜〜〜〜〜

「へぇ、転生勇者ねぇ……噂には聞いてたけど実物見たのは初めてだよ」


 テーブルの上でヤスリ掛けしたドライバーの先端を片目を瞑って見つめ、溝の深さを確認するプリム。今日知り合った二人の男女に茶菓子を馳走しながら、異世界人だと名乗る男の工具の手入れをしていた。


「私の話……信じていただけるんですか?」


 マンドラゴラ焼……通称マン十焼と紅茶に舌鼓を打ちながらカレンが訊ねる。数日前から極限状況が続いていたが、本来はスイーツやティータイムが好きな20代である。久々の贅沢でかなりリラックス出来ていた。


「信じるさ……こんなものをみせられちゃあな」


 グリップを嵌め直し、これまでに調整し直した工具を並べて男に……勇者ヤマトに返す。


「こんな材質と精度の工具は見たことがない。異世界人か、嘘だとしてもとんでもない技術力を持つ聞いたこともない異国から来たことになる」


「うわぁ!新品みたいだ!」


 歪みが真っ直ぐに矯正され、ヤスリ掛けと布磨きで傷が塞がれ再び金属光沢を取り戻したドライバーセット。新入社員時代からの付き合いである相棒の復活に、ヤマトは目を輝かせる。


「俺からすれば、プリムさんの腕こそ異世界の職人技ってもんすよ!マジ感謝ッす!」


「よしとくれよ、煽ててもマン十のおかわりはでないよ」


 ただ、とプリムはいくつかの工具を揃えて自分の手元に寄せる。


「こっちのはアタシの腕と知識じゃ修理できないね。これ磁石だろ?」


 それは鉄の芯の先端が磁石になった工具達だ。釘やネジを落とさないように作業できる優れものだが、一度破損したり磁力が失われたら修復は困難だ。ヤマトもそれは理解しているから求めてはいないという。


「磁石とか錆びない鉄(ステンレス)とかいうのは無理だけど、最低限の機能は真似た贋作はアタシが作っとくよ」


「良いんすか!?」


「ああ、カレンに助けて貰った礼さ。ウチも入り用だから、材料費だけはいただきたいけどね、5クロネ」


「あっ、お会計!」


 マニアックな話にポカンとしていたカレンだったが、お金の話になり我に返る。というか、プリムを助けたのは自分なのに、何故この男がサービスを受け、あまつさえ代金は自分達の共同の稼ぎからなのか。


(また喧嘩しても仕方がないか)


 何を言っても安定した仕事と金がないのが悪いのだ。ならばヤマトの仕事道具に投資するのは悪いことではない。そう自分に言い聞かせ、カレンはテーブルの上に一枚の銅貨を置いた。

 

「カッパね、ちょい待ちな」


 プリムは彼女にはやや高い接客用の椅子から降りると、カウンターにまわり引き出しを開ける。


「あいよ、お釣り」


 再びテーブルに着いたドワーフは5枚の小さな紙を置いた。どれも同じ規格、同じ色で同じ数字と文字が刻まれた……紙幣である。


「え?増えた?」


 そんなはずはないとすぐに理解するが、ヤマトは反射的に口に出してしまった。プリムは笑う。


「10クロネは1銅貨(カッパ)だよ、算数は苦手かい?」


 どうやらこの世界では金貨→銀貨→銅貨→紙幣の順に価値が高いらしい。考えてみれば貨幣の価値は人間の共通認識で成り立つ経済学の不思議のひとつだ。異世界ともなれば違う価値観もあるだろう。

 そのことを話すと、プリムは興味深そうに聞いていた。ヤマトの言動に引いてばかりなカレンもだ。


「紙の方が銅より価値が高い……そんな不思議な世界があるんですね」


 お互いに意見交換しながら、ヤマトは今の経済状況を確認する。サービスしまくりで日中雑用を引き受け続けて1日銅貨3枚、日本円にして概ね3〜5千円の収入だ。物価はかなり安いのでパンと水で食い繋ぐことは出来そうだが、定住先も決まっていないし、まだまだ事業を拡大する必要があった。


(ま、プリムさんに会えたから今日のところはプラスかな?何人かの顧客の人からは次の仕事貰ったし)


「……何ニヤニヤしてるんです?」


 脳内の人生設計図を眺めて満足げなヤマトに引くカレン。と……


「はっ、やっぱいたか。偶然は怖いな」


 入り口から男の声と共に複数の足音。テーブルの3人が振り向くとそこにいたのは……


「あっ、さっきの人達!」


 カレンが立ち上がり警戒する。昼過ぎに広場でプリムに絡んでいたチンピラ達である。だが当のプリムが睨み付けたのは、その中央にいる黒髪オールバックに黒スーツ姿の男だった。


「ボイル……何しに来やがった?」


 小柄なドワーフ鍛治は右手で腰に提げた小型ハンマーの柄を握る。左手は心配そうに工房から顔を覗かせた職人達に、制止し仕事に戻るようハンドサインを送る。


「部下が恥かいたからって、今度はアンタ直々に店を荒らしに来たのかい!?」


 幼い少女のような外見からは予想もつかないほどの敵意と圧を発するプリム。だがボイルと呼ばれた男はやれやれと大袈裟に肩を竦める。


「まさか、その逆ですよ。プリム()()」 


 慇懃無礼な態度でボイルは恭しく頭を下げる。


「昼間はいささか意見の食い違いがあったようで、部下が大変失礼な物言いをしたこと、深く謝罪したいと思います」


 緊張した面持ちで昼間のチンピラの一人が菓子折りを持ってくる。反射的に貰おうとしたカレンだったが、ヤマトに肩を掴まれ止められる。


『貰っちゃダメだ』


『え?』


 小声で囁く勇者。いつもふざけたハイテンションの彼がかなり真剣な表情をしているので、カレンは面を食らう。


「ハッ」


 頭を下げる男を女ドワーフは鼻で笑った。


「謝罪・訂正して誠意を見せた……それで裁判所へのポイントを稼ぐつもりかい?」


「ポイントだなどと……そもそも奥様は勘違いをしている。我々は心配しているんですよ」


 ボイルは頭を上げ穏やかな口調で微笑む。だが口元に反し、その目は全く笑っていない。


「融資をされていたご主人が不幸な事故でお亡くなりになり、返済の目処が立たないまま奥様が職人達を養っていく。……大変でしょう」


 その言葉にプリムの目が見開かれ、ハンマーを握る手が震える。


「どの口が……あの人が死んだのはアンタらが……!」


「そこは!」


 激情に駆られそうになったプリムの言葉を一喝して遮るボイル。脇で聞いていたカレン、そしてボイルの配下達までもがビクッと震えるほどの圧があった。だが会話のイニシアチブを握ると、ボイルの雰囲気は再び柔らかいものに戻る。


「失礼……ですが魔物に襲われた事故であり我々ゴルトー商会は関係無いとあの時申し上げたはずです」


「……そいつはお上の前で言うんだね」


 プリムは男を睨み続ける。


「アタシが裁判所に出したのは債務整理でも支払い猶予でもない。旦那がアンタらに殺された事への被害届さ」


 どうやらこの世界では司法は裁判所が全て統括しているらしい。ヤマトは一言一句を注意深く聞き、状況を見守る。


「なる程、やはりそうですか」


 ボイルはニヤリと笑う。


「どうぞご自由に、どうせ何も証拠はないんだ。そして何もなければ、債務返済を免れるために訴訟を起こしたとしてそちらが更に不利になる」


 舌打ちするプリム。男の言葉は続く。


「まあ話を戻そう。我々は別に貴女や職人達を追い詰めたいわけでも心中させたいわけでもない。ただ、債務の担保としているこの店と工房をいただきたいと提案したいだけだ」


「店を……奪い取る気かい!」


 驚くプリム。端から聞いていた経済音痴のカレンでも判る。借金する時に店が担保となっているため、返済不履行になれば店を差し押さえられるというわけか。


「奪い取るだのと人聞きが悪い。書類上の経営者が我がゴルトー商会になるだけですよ。貴女方は今までどおりの商売を何ら変わりなく続けていただければ良い。マージンは一定額いただきますが……我が商会の流通網を使えるメリットを加味すれば、返済のやりくりをする今よりも遥かに経営が楽になるはずだ」


 懐から細い杖を取り出して、指揮者のように振るうボイル。中空に魔法陣が描かれ、パワーポイント資料をプロジェクタで投影したかのような立体映像が浮かび上がる。


「店の名はプリム工房のまま、従業員もそのまま、何なら給料も今より良い。ご主人の不幸故拗れてしまったが、金融業は本来こうした相互利益を理想として……」


「理想に食い付いた人を離れられなくして言うことをきかせる……っすよね」


「お前は……」


「ヤマト……社長」


 椅子から立ち上がった男にカレンとボイルが驚く。

 プリムのような怒気ではなく、ただただ毅然とした態度でヤマトはボイルに対峙する。


「俺はヤマト。プリムさんの……友人っす。ゴルトー商会さんでしたっけ?アンタの提案、要は店を強請(ゆすり)の種にするんでしょ?」


「ち、ちょっとヤマトさん!」


 慌ててカレンが飛び出す。


「何でいきなり……」


「法律で決められてる争点は借金と店が担保にされてるところまで、今アンタが提案した話はここでだけの口約束……でしょ?」


 魔女には目もくれずに畳み掛ける。ボイルは張り付いた笑みで(ただし額には青筋が浮かんでいる)落ち着いて返す。


「君は部外者だろう?何故そんな分かったように……」


「分かりますよそりゃあ……俺がいた世界でも同じような輩はいた」


「世界……だと?」


 その言葉にボイルはハっとなる。


「貴様、その女が召喚した転生者か!」


 バックステップを踏み杖をヤマトに突き付ける。プリムも慌ててハンマーを手に持った。


「アンタ!魔法を使う気かい!?魔法局を呼ぶよ!」


 狼狽えるカレンやボイルの配下達。数秒の睨み合いの後、ボイルは杖を納めた。


「失礼、つい動揺した。勇者とやらには危険人物が多いからな」


 おい、と合図して踵を返す。部下達はそそくさと帰っていく。


「勇者と喧嘩をしにここに来た訳じゃないのでね。今日のところは引き上げます。残念だがプリムさんとは次は法廷で会うことになりますな。ああ、ただ……」


 再び張り付いた笑みを浮かべたボイルは、視線をプリム以外の二人に向ける。


「アンタ……確かヤマトとか言ったな。アンタらは訴訟が始まる前にこの街を出た方がいいかもな。そっちのカレン嬢もだ」


「え?何で私のこと……」


 ギョッとするカレン。ゴルトー商会が来てから名乗った記憶はない。クックッと笑いながらボイルは新しい魔法陣を描き出す。


「何故って……アンタの身柄は俺のものになるからだよ、カレン・コーデリア」


 男が映し出したのは一枚の書類の映像だった。身元引受人という様式で、カレンの名前の下に取り消し線が引かれた婚姻のチェックが入り、次にチェックのない使用人のチェックが入っている。


「お前を父親から買ったザクバさんに()()があってな。契約を交わしていた関係で財産の一部を俺が相続することになっている。()()も含めてな」


「不幸って……アンタまさか」


 プリムが戦慄する。どんな手を使ったかは知らないが、人を殺して財産を奪い、更に他人を奴隷にするつもりか。


「役所での名義変更の手続き中だが、それが終わればカレン嬢は俺の()()()、そして魔法使いが魔法で使役する貴様はその付属品扱いだな」


 ヤマトは静かに睨み付ける。カレンの父ギルバートの言葉が脳裏をよぎる。この世界では魔法使いのヒエラルキーが高い。魔法を使えるものが法的手続きを踏めば、合法的に他者の人権を踏みにじれるというわけだ。


「まあ名義人変更手続きは慣例として2日はかかる。それまでにこの街を離れられたら俺も探しに行く気はないさ」


 肩を竦めるボイル。暗に二人には裁判が始まる前にこの店から手を引けと言いたいらしい。


「生憎だけど」


 迷うカレンを下がらせ、ヤマトは再びボイルの前に立つ。


「俺はプリムさんの才能を見込んで業務提携を持ちかけたんだ。引くつもりはないね」


「そうか」


 顎を上げ、勇者を見下しながらボイルが返す。


「なら教えてやる。勇者と言えど法には逆らえない。裁判でそちらの訴えが棄却されれば借金は確定し、店は担保として差し押さえる。……もっともその前にお前は奴隷の奴隷として、魔法局に掛け合ってありったけの拘束魔法をかけてやるよ、二度と魔法も勇者のスキルも使えないようにな!」


 捨て台詞を残し男達は去っていった。カレンはヤマトに詰め寄る。


「ちょっと、何こっちから喧嘩吹っ掛けたんですか!向こうの心証最悪じゃないですか」


「いや……そいつの行動が正しいよ」


 店の前に立ち、ボイルらが帰ったことを確認したプリムがハンマーを片付ける。


「アイツら……悪党なのは知ってたけどあんなに堂々と殺しを匂わせてくるなんてね」


「それが狙いなんだ」


 暗いトーンでヤマトが頷く。固く握りしめた拳が少し震えているのがカレンには見えた。


「地上げ屋、ヤクザ、総会屋……あの手の奴らは恐怖でこっちの判断力が鈍るのを狙ってる」


「……どうするんですか?」


 カレンも尋ねる。プリムだけでも大変な事態なのに、まさか自分達が別件で巻き込まれてしまった。


「勝つしかないよ」 


 ヤマトはカレンとプリムを見た。裁判に例え勝っても奴はカレンを買うのだろう。そしてヤマトが逃げれば手段を選ばすプリムに妨害を仕掛け、何がなんでも店を手に入れるつもりか。


「手続きがいるってことは条件があるはずだ。カレンちゃんも、プリムさんも助ける方法を考えたい」


 時間はない、金も、スキルも、魔法もない。だが底知れぬ悪意に立ち向かおうとするヤマトの姿は、確かに勇者と呼べるものかもしれないと、カレンはひそかに思うのだった。

 御読了ありがとう御座いました。

2026のイベントテーマが偶然にもお仕事だったので、便乗させていただきます。

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