第5棟 プリム工房編② 〜 未亡人ドワーフ、プリム
あらすじ
なんでもやります←(金がないから大したことはやれない)
ヤマト建設←(法人としての法的根拠無し)
― シャトラン市街地、グリント広場 ―
「お家やお庭でお困りのことは御座いませんかぁ!」
(私は何をやっているんだろう)
昼下がりの大通り、声を張り上げながらカレンはそんなことを考えていた。
「水回りのトラブル、家具壁門扉の修繕何でも請け負います!」
(いや何をやっているかは分かりますよ。会社?の仕事の宣伝ですよね。茶屋の前で売り子さんが『お団子いかがですか〜』っていうのと同じで)
声量に反し、光の灯らぬ瞳で何処か他人事のように心の中で自問自答する魔女。ブロンドのロングヘアが映える魔法使いらしいマント姿の格好をした20代半ばの女が、妙な看板を掲げての宣伝活動。羞恥心が限界を超えた結果、自分の中で何かが擦りきれてしまった気がする。
「お値段は基本1件銅貨1枚から、しかし交渉次第 では更に安くいたしますよ!」
(問題なのはどうして私がここで売り子みたいなことやってるのかって話ですよ)
エリートな両親に憧れ、とりあえず就職に有利な進路を選び魔法学校へ進学。しかし大した才能はなくやりたいことも見つからないまま卒業。恋もしない内に結婚は嫌だと無駄に時間を過ごしていたら、呆れた親の縁談を受けまさかの人身売買。逃げようと見様見真似で転生魔法を試してみたら、変な異世界人に連れられてこの有り様だ。
(私別に土木とか建築とか興味持ったこと無いんですけど、このまま一生あの人と働くの?)
ヤマトに悪感情はない。というか一応命を助けてくれたのだから感謝すべきである。それが出来ないのは何か彼に思うことがある気がする。
「だからっ、お前らが勝手に決めるんじゃないよ!」
「あ〜、あの人強引に決めるからか。御父様もだけど私のこと全っ然考慮してくれてない」
歩きながらふと気付く。
「やかましいぞこのアマ!てめぇが金がねぇのが悪いんだろうが!」
「お金がないのはその通りですが、私に当たらないでください。大体アマって口が悪すぎ……ん?」
我に返り周囲を見渡す。人が行き交う大通り、その一角に数人の人影が揉めており、付近の通行人はそこを避けているようだった。
「金が欲しいなら仕事で返すからちっと待ってろってんだ!まだ期限は先だろ?大体あの人が死んじまった原因はお前ら何じゃないのかい?」
啖呵を切るのは大人の半分程の背丈しかない、褐色の肌にツインテールの赤髪、上はタンクトップ、下はハーフパンツ型作業着姿の少女だ。彼女を取り囲むように数人の黒服男が睨み付けている。
「ああ!?金払わずにイチャモンかこら!次はテメェが痛い目みるぞ」
「やってみろよ!その証拠見付けたら今度こそお役所に駆け込んで……」
「誰かー!人攫いです!」
会話に割り込んで突如大声が響き渡る。
「へ?」
「あぁ!?」
幼女とチンピラが共に困惑して背後を振り返ると、石の看板を持った魔法使い風の女が、彼らを指差しながら物凄い声量で叫んできた。
「小さな女の子を白昼堂々と拐おうとしてる変態がいまーす!自警団か冒険者を呼んでくださーい!」
呼び込みの要領で腹から声を出し、周囲に響き渡る高い声。男達が慌ててカレンに向かってくる。
「ま、待て!俺達は人攫いじゃねぇ!大体コイツは……」
「きゃああああ!」
更なる大絶叫の悲鳴にチンピラは思わず耳を塞ぐ。
「今度は私に襲ってきましたぁぁぁ!助けてくださああああい!乱暴されちゃいまあああす!」
「ウルセェ!てか話聞けよてめぇ!この女はなぁ……」
凄む男達だが、彼らの言い分は大絶叫の前に物理的にかき消される。そうこうしている内に通りの向こうから、腰に警棒や剣を提げた集団が走ってきた。彼らの腕章には『自警団』と書かれている。
「やべぇ、コイツのせいで呼ばれちまったよ」
「待てよ、ここで逃げたら俺ら本当に人攫いに間違われて」
「それよりチビババアにチクられたらアニキに殺されるだろ!」
何やらヒソヒソ(カレンの絶叫のせいで割と聞こえる位の声で)話し合いをしていた男達は……
「また明日来るぞ!覚えてろ!」
少女とカレンに指差しして捨て台詞を吐くと、一目散に逃げ出していくのだった。
「……ふぅ」
息を付くカレン。声出しの仕方を習っておいて助かった。……またヤマトに借りを作った形なのが何やら引っ掛かるのだが。
「どうした?何があったんだ君達」
自警団のおじさん達が心配そうに駆け寄ってくれたので、カレンは笑って普通の声量で応える。
「私は大丈夫です。拐われそうになったのはこちらの小さな女の子で……」
「アタシはガキじゃないよ」
「へ?」
愉快そうに不敵な笑みを浮かべる赤髪の少女。いや、本人の弁の通りなら少女ではなく……
「アタシはプリム。近くで店を構えてるドワーフの鍛治師さ」
〜〜〜〜〜〜
ドワーフ、それは神話の時代より神に仕えた妖精種族と言われている。火の神の加護を受けており神々の戦いのための武器を作る使命を帯びている。
……というお伽噺に歴史的な根拠はない。現代では彼らは妖精ではなく亜人と定義され、人間社会ではマイノリティとはいえ立派にコミュニティを築いている。神話どおりの神の加護かは定かではないが、小柄ながらも筋力は平均的な成人男性より強く、熱に対する耐性は人間より高い。結果的に鍛治や製造業に携わる者が多くなっている。
(……って学生時代の教科書に載ってたのに、しくったなあ)
内心溜め息を付くカレン。彼女と並び歩きながらプリムと名乗る女ドワーフが笑う。
「いや〜助かったよ、カレンだっけ?アンタ良い娘だね」
気前が良さそうな声で快活に話す女ドワーフ。小柄な体格ながら力強さを好むドワーフでは男は顎髭を伸ばす文化があるが、髭のない女性ドワーフは人間の少女と見た目が変わらないようだ。
「はあ……あの……プリムさん?のお店って……」
トラブルから守ってくれた礼にお茶をご馳走すると言われ、なし崩しに歩いてきたカレン。呼び込みを投げ出すことになってしまっているが、ぶっちゃけ効果があるのかないのか分からないので罪悪感はあまり感じていない。
「ここさ」
広場を南に抜けた通りにある高い煙突と鉄拵えの二階建ての建物で、煙突からは黒煙が出ていた。二階部分の正面には「プリム工房」と刻まれた鉄製の看板が掲げられているが、カレンの目にはプリムの文字の部分が妙に新しいように見えた。
「プリム工房、基本は鍛治なんだけど、それだけじゃ従業員食わせていけないんで、製品も売ってるんだ。アンタ建設系だろ?道具サービスするよ」
玄関部分は商品が展示されたエリアで、鉄の柱や壁の上から木製の板を打ち付け、武骨さを和らげている。宝石店のようにショーウィンドウや棚が並べられているが、中に展示されているのは様々な工具や道具である。
包丁やハサミ、その他剣や槍等の武具は安全性と見映えを考慮してか、カウンターの背後の壁に掛けられ展示されていた。
そのエリアの更に奥は薄暗く広い空間が続いている。金属音が響いてくるので、あちらが製鉄や鍛治をしているエリアだろうとカレンは見当をつけた。
見たところ客は居ないようで、店員も見当たらない。「帰ったよー」とプリムが声をかけると、中から「お帰りなさいませ、姐さん!」と数人の若い男が出てきた。バンダナやら手袋や厚手の服など、見るからに作業着を着た職人という出で立ちだが、全員人間の男性であり、ドワーフは居ないようだった。
「遅れてすまないねぇ、また商会の奴らが絡んできてさ、こっちのカレンて子のおかげで……」
「それどころじゃないですよ姐さん!何か変な奴が来てて参ってるんです」
職人の中ではリーダー格と思われる煤だらけの青年が、困り顔でアピールしていた。
「何か売場の方で品定めしてるかと思ったら、いきなり工房に入ってきて『責任者に会わせてくれって』……」
「クレーマー?」
カレンが首をかしげる。飲食店で難癖を付けて料金を踏み倒そうとする輩の話は聞いたことはあるが、鍛治師に対してのクレームは珍しい。プリムも困惑した様子だ。
「なんだいそりゃあ?ボイルの手下からの新手の嫌がらせかい?」
まあいい、と小さな体躯ながら鼻息荒く女ドワーフは指を鳴らす。
「その変な奴はアタシが相手しようか。アンタらはカレンにお茶と菓子を出しといてくれ。八百屋のハチ爺さんからマン十焼貰った奴があっただろ」
指示を受けた職人達がテキパキと商談用のテーブルに接客用の準備をし、カレンを座らせてくる。
「あ、あの……大丈夫なんですか?プリムさんお一人で」
出会ったばかりだし自分が何か出来るわけでもないが、思わず心配し声をかける。年上で姉御肌で経営者な姿を見せられても、見た目は幼い少女なのだ。
「なぁに!借金みたいな負い目がないならアタシがチンピラ一人に負けるわけがないよ。すぐに片付けるから茶を飲みながら待っときな」
小さな胸を叩きプリムが工房に入っていくと……
「何だい?アンタがアタシに文句ある客かい?」
「文句なんてとんでもない!お嬢さんがここの責任者のプリムさん?」
金属音が響く工房の奥から声が木霊する。鉄を叩く音に邪魔されて判りにくいが、プリムと話しているのは男性のようだ。
(あれ?なんか聞き覚えあるような……?)
カレンが疑問に思うなか話は進む。
「貴女もここの社員さん達も物凄く腕良いっすね。俺感動しましたよ」
「はあ……?」
文句がある奴かと思いきや、急におべっかを使われ戸惑うプリムの声。だがドワーフ鍛治よりも遥かにカレンが戸惑っていた。
「え?な、何でここに……」
慌てて席を立ち、工房に駆け込む。見覚えのある作業着姿の男が笑顔で口説いているところだった。
「俺の名はヤマト、大和 築って言います。プリムさん、俺の会社で一緒に働かないっすか?」
「へ……」
爽やかな笑顔でウインクする男。言われた意味が分からず固まるプリム。そして……
「はああああぁぁ!?」
戸惑い困惑嫉妬驚愕怒り呆れ……あらゆる感情を内包したカレンの叫びが工房の中に反響していった。
御読了ありがとう御座いました。
プロローグからも分かると思いますが、ヒロインは薄幸美人を自認しているけど何かがおかしいヤバイ奴です。
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