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異世界転生ビルドマスター ~チートが無くても俺には土木がある!  作者: 孤狗


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第4棟 プリム工房編① 〜 会社ってどう作る?

あらすじ

 カレンは、ヤマトと共に無理矢理大人の階段を登らされた……?

 株式会社……株式によって株主から資本を調達し運営される会社の一つ。会社とは営利目的に運営される社団法人であり、より広い意味として企業と言い換えることも出来る。その存在の定義は民法並びに会社法を法的根拠としている。つまり……


「……つまり、この世界で俺が作りたい「会社」を立ち上げる為の手順が判らないのが目下最大の課題なんだよなあ」


 ルミナ村を出て数日、隣接領シャトランの郊外にて、草原の切り株を椅子代わりに、木製テーブルに腰掛けたヤマトが結論付けた。


「はぁ……」


 気の無い相槌を打ちながら、向かい側に座るカレンが水筒の水を飲む。


(どう考えても最大の課題は私達の生活だと思うんですが)


 心に思っても口には出さない。具体的な対案無き愚痴は空気を悪くするだけだ。


「えっと……ヤマトさんは元の世界の会社っていうものを作りたいんですよね。話を聞く限り「組」や「商会」が近いと思いますけど、それにはしないんです?」


 提案しながら少し失言したと悟る。それらの仕組みは知っていても、立ち上げる方法はカレンも知らない。


(魔法学校で法学の単位も取っておけば良かったかな?)


 漠然と過ごした学生時代に今さら後悔を覚える。何のために勉強をするのか、その意味を社会に出てから痛感する後悔は、古今東西あらゆる異世界でも変わりはしないのだろう。


「やらないよ。仮に商会や組で組織してもあくまで名義は『会社』にする。俺は社長になりたいからね」


 ニッと笑う金髪の青年。爽やかさや夢を追うひたむきさの中に、どことなく執着心が見え隠れしているように見えるのはカレンだけだろうか。


「ヤマトさ……社長は、具体的に何がしたいんです?」


 一応相手の希望に合わせて社長呼びはしてあげようとカレンは気を遣った。今二人の目の前にあるテーブルを、ヤマトが即興で自作してくれたことへの礼のつもりだった。


「そりゃあ建設会社らしく、でっかい工事が出来るように会社をでかくしたいさ。人手も大勢いるし、お金だって無限に欲しい。あとモテたい」


「まあそういう得意なことで生計を立てたいというのは理解しますけど……」


 何やら最後に変なノイズが聞こえたが、他はカレンとしても共感できる内容だ。実家の近くに階段と橋を一晩で作って見せた手腕。目の前の丸太を切り出して作った簡易テーブルといい、彼の工作能力は素人目に見ても抜きん出ている。きっと元の世界ではとても活躍できたのだろう。


「ヤマト社長が凄いのは認めますが、貴方は魔法が使えません。魔力がない世界の技術で、魔法使いが幅を利かせるこの世界での成り上がりはかなり不利だと思います。何か他に武器がないと……」


 我ながらどの口が、と思いながらもカレンは助言する。


「だよねぇ……」


 否定するかとも思いきや、案外素直に頷くヤマト。彼としても思うところはあったらしい。


「一応1個()()はあるんだけど、それを活かすにも足場の基礎を固めないとな」


「武器?」


 カレンが訊ねようと口を開きかけたとき……


― カーン!……カーン! ―


 町の方から鐘の音がする。ヤマトは慌てて立ち上がる。


「あ!あれ昼の鐘だっけ?」


「はい、多分……」


 この世界でも1日は一昼夜を区切り24時間らしく、地域によって刻みは2時間か1時間の差異はあれど、正午の区切りの鐘は共通らしい。格安で買った乾パンの残りを口に入れて水筒の水で流し込むと、ヤマトは駆け出した。


「ち、ちょっとヤマトさ……社長、また仕事ですか!?」


「うん、さっきのマクスウェル爺さんのとこ」


 慌てて荷物を纏めるカレン。午前の仕事は終わったのではなかったか?


「昼からはアフターサービスを引き受けてたんだよ」


「サービスって……まさかタダ働きですか!?」


 労働経験がないカレンでも普通じゃないことは判る。まだ住むところすらなく、その日暮らしがやっとの自分達がやることではない。

 だができ損ない勇者は気にせず手を振りながら駆け出した。


「将来への投資投資♪じゃっ、カレンちゃんは宣伝宜しく!」


「またぁ?」


 これ重いんですよという文句も聞かずにヤマトは仕事に向かってしまった。カレンはテーブル脇に置いた木と石板の看板を見て溜め息をつく。


― ヤマト建設 ―


 妙ちきりんな重い看板を掲げながら往来で大声を上げての呼び込み。何らかの羞恥プレイではないかという気もするのだが、仕事がないときは彼も率先してするのだから文句は言えない。むしろ……


「自業自得……だよね」


 看板の文字を悲しそうに眺めて指でなぞりながら、カレンは呟いた。


〜〜〜〜〜〜


 建設会社等と夢を語ったところで、金も資材も人手もない者に出来る作業等たかが知れている。腰に提げた工具ベルトに備え付けられた、ドライバーやハンマー、カッター等の限られた道具でやっていくしかない。


「痛っ、やっぱこれじゃあやりにくいなあ」


 曲がったドアの釘を引き抜くため、釘抜きの代わりにジャックドライバーの先端を無理矢理引っ掻ける。梃子の原理も効かないため力もいるし道具への負荷も大きい。


「むんん!……よっしゃ!抜けたッスよ、爺さん」


「……そうか」 


 テラスで安楽椅子に座りパイプを燻らせる一人の老人。噴水のある大きな庭付き赤レンガの屋敷。この世界で見た建築物の中ではザクバのそれよりも立派で大きい。この町に流れ着いて雑用を引き受け続けてきたヤマトに、この館の主であるマクスウェルが興味を持ち、こうして細かいリフォームを頼み続けていた。


「……その扉はもういい、次は……」


 曲がった釘の代わりに新しい釘で蝶番を嵌め直すヤマトに老人は銅のコインを一枚投げ渡す、庭の隅にある倉庫を指差した。


「あの倉庫の壁の一部が崩れているだろう?板でも何でも良いから塞いでおけ」


 ヤマトは倉庫の小屋を外から眺める。赤レンガ造りの1角が確かに砕け、壁に穴が空いている。


(レンガは多分粘土だ。俺らの世界と変わらない)


 砕けたレンガを持ち上げ確認する。水と混ぜて乾燥させた粘土を一定の温度で焼き続けて焼成する煉瓦材は、耐久性には極めて優れている。この造りの建物が崩れるのは……


「やっぱモルタルか……」


 落ちたレンガの一つを手に取り側面を見る。赤い石の腹の面に、薄く灰色のひび割れた接着剤が見える。


(この世界のモルタル技術は粗悪だ。だというのにゴシック建築みたいな高層建築が成り立ってるのは……魔法の力なんかな?)


「……どうした、若いの?」


 じっとレンガを見つめるヤマトに老人が目を細める。


「出来ねぇか?」


「まさか!もちろん板材で塞ぐことは可能ッスよ。ただ……」


 少し考えながらも、ヤマトはクライアントに提案した。


「板で塞ぐんじゃなく、このレンガをそのまま積み上げた方が見映えは良いっすよね。準備含めて工期3日いただければそちらでやりますよ」


「……つり上げたところで報酬は変わらん。銅貨2枚までだ」


「有り難く引き受けさせていただきます!」


 笑顔で即答するヤマトに、今度は老人は値踏みする目で考え込む。


「若けぇの、お前、何考えてる?」


「何って……そりゃ材料調達と工程管理を……」


「とぼけるなよ」


 パイプを口から外し、煙を吐き出す。


「媚びへつらいたいだけの奴は仕事の質を上げようとはしない。金が欲しい奴は安請け合いはしたがらない。お前みたいな腹に一物抱えた奴は昔の部下にも一人いた。そいつは独立して俺の取引相手になった」


 もう一度煙を吹いてこちらを見る。ただそれだけなのに妙に威圧感があるとヤマトは感じた。


「おめぇ……俺の下で働く気はないか?」


「有り難い誘いっすけど……俺は自分の城を持ちたいんすよ」


 内心冷や汗をかきながらもヤマトは笑う。それに呼応し、老人はフッと覇気を消す。


「そうか、おめぇの腕は買ってんだがな、残念だ」


「ご心配なく、この仕事は完遂するし今後もお安くしときますよ」


「ふん……まあいい。今の話は無かったことにしろ」


 老人は再び視線を外しパイプを燻らせた。もう興味は失せたのだろうか?


「じゃあ今日の仕事も終わったんで、明日の仕事に向けて準備してきます。……これ、参考に借りていきますね」


 レンガブロック1個を拾い上げ、残りの工具をベルトにしまい確認する。老人は何気なく聞いてきた。


「準備……買い物か?」


「まあ、釘とか無くなっちゃいましたし。工具店か、良い感じの鍛治師とか知りません?」


 聞けば彼は流れの職人だと言っていた。資材調達先の宛もまだ知らないのだろう。


「工具店は知らねぇが、鍛治師の工房なら俺の仕事絡みで知ってるところがあるな」


「マジっすか!やっぱ持つべきものはご縁っすねぇ」


 喜ぶヤマト。こういう繋がりが商売を円滑に進める秘訣だと彼は信じていた。


「んで、そのお店の名は?」


「場所はグリント広場南側、名は……ナール……いや、()()『プリム工房』だったか」


 新たな世界の新たな町での商売。それは異世界にやってきた出来損ない勇者の新たな戦いの始まりでもあった。

 御読了ありがとう御座いました。

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