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異世界転生ビルドマスター ~チートが無くても俺には土木がある!  作者: 孤狗


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第二棟 誰が為に才はある?

あらすじ

 悪徳商人の屋敷からの逃走を図るヤマトとカレン。追手を振りきるため、カレンは自身の練金魔法で泥を石化させてみせるのだった。

 雨足が森の木々を激しく叩く。僅かな水の反射の光を頼りに、比較的澄んだ水溜まりに両手を浸けるカレン。


「練金……解除……」


 呼吸が浅く激しいのは走っていたからだろうか?魔女が呟くと杖を握ったまま石に固められていた両手の甲にヒビが入る。


― バキン! ―


 砕けた石が砂になり浸した水に撹拌されていく。中からは白魚のような手が……


「つっ!!」


 思わず悲鳴を上げてカレンは左手だけを水面から引き上げる。震え軽く握られた左手、唯一伸びた人差し指からは血が滴り落ち、割れた爪周辺は真っ赤に腫れ上がっていた。


「どうした?大丈夫……うわっ!」


 ジャポッ!と間抜けな音が魔女の後ろから聞こえる。暗闇で泥濘に足を取られたらしい。


「だ、……大丈夫ですか?」


 息を切らしながら振り向き訊ねる。暗闇の中、自分とは違う不自然な金髪パーマが浮かび上がる。


「いやこの程度は平気、君こそ……ってうわっ!化膿してんじゃん!」


 近付いてきた青年……ヤマトとか言ったか。彼はカレンの左手を手に取ると、腰から小さな筒を取り出した。その筒は大雨の中だと言うのに火種もなくとても強い光を放ち、泥に触れ爛れた指先を照らし出した。


「顔色悪いね、もしかして熱ある?」


「ちょっ……」


 いきなり歳の近い成人男性に顔を近付けられ額を触られる。彼の黒い瞳に金髪碧眼の女の顔が映っている。拒絶したいが、ふらつく身体はまともには動かなかった。確かに熱があるらしい。


「ごめん、消毒液切らしてるな……血も止まらないし……」


 男は腰のベルトをガチャガチャとまさぐる。


「とりあえず止血すっか。痛かったら言ってね」


 何やら黒い紐のような物を取り出す。それは柔らかく異様に伸びた。その謎の素材で指の付け根を強めに縛ると、化膿の痛みは引かないまでも出血は治まった。


「あ……ありがとう……ございます」


「いやただの応急処置だよ」


 気まずそうに頭をかき周りを筒の光で照らすヤマト。


「お医者さんに診せたいとこなんだけど、ここの地理わっかんねぇからな」


 周囲は川と林と坂、灯りもなく雨雲のせいで月や星の明かりにも頼れない。もっとも明かりがあろうが、今日召喚されたばかりの異世界人に地理もへったくれもないのだが。


「医者は……いませんが……私の母は……治癒魔法が出来ます」


 熱にうなされながら答えるカレン。経緯からいって両親を頼るのは気が引けるが、今は藁をも縋る思いだった。


「カレンちゃんのお母さんか!良し、行こう!」


「えっ?ちょっと……!」


 突如彼女に背を向け密着するヤマト。彼が膝を曲げ、カレンのひざ裏を抱えながら立ち上がると、必然的に彼女の身体も持ち上がる……おんぶである。


「や、やだ!……止めてください」


「いや君怪我してフラフラでしょ。道案内だけしてよ、俺が担いで進むから」


 確かに合理的な判断だ。だが交際はおろか異性の友人がいたわけでもないカレンからしたら、恥ずかしいことこの上ない。


「あ、あまりくっつかないでください!」


「えっ……あっ!わわっ、わ、わかった!」


 振り返り、少しずれた反応をしてからキョドるヤマト。今さら濡れた服で女性と密着していることを意識し出したらしい。カレンは墓穴を掘ったことを悔やんだ。


「えっと……じゃあこっちでいいのかな?」


 いろんな意味でなるべく彼女を揺らさないようにしながら、ヤマトは歩き出す。山の斜面と川に挟まれた小さな土手の尾道。川の上流に向かい少しずつ坂道を登っていく。ベルトに備え付けた小型懐中電灯の明かりがなければ、いつ川に落ちるか分かったものではない。


「あのさ……さっきのあれ、魔法?」


 暫く歩き、話題欲しさに話を振る。雨音だけが響く環境に自分の集中力が持たなくなりそうだった。


「……はい、私の……唯一の魔法です」


 自慢気ではなく、その真逆の感情を込めて話す。


「水を混ぜた土砂を石化・解除する……それだけの……役に立たない魔法」


「それだけって……凄いじゃん」


「慰めは止めてください」


 ヤマトとしては本心からの称賛だったが、カレンはきっぱりと拒絶した。


「練金魔法は……本当はもっと社会的貢献度が高い筈なんです。虚空から物質を生成したり、元素を組み替えてより稀少性の高い物質に変えたり……」


 その名のごとく、金を作り出すことも可能なのだろう。カレンは悔しそうに、まともに動く右拳を握りしめる。


「石化でも著名な冒険者の"メデューサ"さんみたいに、遠隔から発動できれば攻撃でも出来るんです。……何なんですか、泥を石にするって。学校に通ってやるのが泥遊びかって、そりゃ私も思いますよ!」


 すすり泣きが混じる嘆き。恐らく誰かに言われたことなのだろう。ヤマトはとりあえずごめんと謝罪した。暫く会話は無くなったが、ある地点に差し掛かった時、カレンが切り出す。


「……そこ、階段です。滑るから気を付けて」


 川が支流と本流に別れる横、河原側と山側で道も別れていた。山の道は極めて狭く、斜面から生えた笹に似た植物がはみ出しているが、避けようものなら崖から落ちそうになる狭さだ。


「確かに……手摺か柵が欲しいな」


 ヤマトは地面に石を打ち込んだだけの階段を踏みしめながら坂を上る。もうびしょ濡れの泥まみれだ。汚れる分には構わないと斜面側に身体を預けながら登る。階段の上にはいくつかの家が立ち並ぶ集落があった。


「あそこ……私の両親の……」


 ゴムの止血帯で縛った指である一軒の家を指すカレン。安心したのか、そこで急にぐったりとしてしまった。


「ちょっ、カレンちゃん!?」


 ヤマトは舌打ちしながらも、急いで家に向かい戸を叩いた。


〜〜〜〜〜〜

― ザクバ邸 ―

 雨が強くなったことを理由にパーティはお開きになる。客人達はやたらと増えた兵士や、ところどころ変な打ち付けがなされて開かなくなったドアや窓を、使用人達が修理するのを怪訝に眺めながら帰路に着く。


「全く……何なのだあの若僧は!」


 額青筋と脂汗を同時に浮かべながらザクバは愚痴る。側で跪く部下に向き直る。


「本当に外部から侵入された形跡は無かったんだな?」


「はっ、地下牢には窓はなく、門番や使用人達もあんな目立つ姿の人間は居なかったと……」


「だから言っただろう?」


 笑いながら割り込む男にザクバは目を細める。もう一人の悪徳商人ボイルは、面白そうに告げる。


「転生魔法の反応を感じたと。あの女は勇者の召喚に成功したんだよ」


「……何なのですかな?それは」


 自分を半ば嵌めた男にすがるのは屈辱だったが、今は何より情報が欲しい。


「異世界から人間を呼び寄せ、自分の願いに応じて改造・再構築した「勇者」という人間兵器を作り出す禁術だ。もしあの魔女がアンタに殺意を抱いていたなら、何がなんでもアンタを殺すためのスキルを持ったバケモンになってるだろうさ」


「なっ……ば、ばかなっ」


 狼狽えるザクバ。だがこのままカレンが逃げ、人身売買で王都の裁判所にでも駆け込まれたら、勇者以前に契約魔法で殺されてしまう。


「報告します。召集した兵士30名、捜索準備出来ました」


 兵士が報告に来た。


「逃げた女の行き先は学校か生家……ルミナ村のアリューナ川上流の集落ですね」


「あの辺は確か……!川は、雨はどうなっている!」


 兵からの解答を聞きザクバはほくそ笑む。なんたる僥倖。あの近辺は大雨が降ると容易く道が冠水し渡れなくなる。雨が止むまでカレンは確実に家にいるはずだ。


「馬で進めるところまで進んで待機だ。水が引くと同時に娘を連れ出すぞ。男は……勇者とやらは殺してしまえ!」


 十数分後、数十騎を引き連れザクバは出陣する。もう一人の闇の商人ボイルは、屋敷の二階から面白そうにその様を眺めていた。


〜〜〜〜〜〜

 大雨の夜分に突如知らない男に訪問されカレンの両親は面を食らったようだったが、流石に疲労出血感染症の高熱で意識のない娘を放り出す真似はしなかった。彼女をバスタオルでくるんで寝かせ、栗毛だが顔立ちは良く似た母親であろう女性は杖を向けた。


「治癒魔法……【ヒールライト】」


 白い光を受けカレンの指の傷が癒え、顔色も良くなる。意識は眠ったままだったが、呼吸は実に安らかなものだった。


「典型的な症状でしたので初級治癒魔法のみで大丈夫でしたわ」


「……そうか」


 母親の報告を受け、ソファーに座る男性が頷く。父親であろうか、綺麗な金髪碧眼はカレンと同じ。だが雰囲気はどこかどんくさく幸薄い彼女とは似ても似つかぬ、厳格そうな空気を纏っていた。


「まずは……礼を言おうか。娘を助けてくれて感謝する。名は……」


「ヤマトっす。大和築!カレンち……カレンさんに喚ばれました」


 何となく面接を受けている気分になりヤマトは床に正座しながら背筋を伸ばす。直感が告げている。この人は身分が高い。それも家柄が良いとかではなく叩き上げで上り詰めた感じの上司タイプだ。


「喚ばれた……だと?」


「はい、転生魔法……とかってやつで」


「馬鹿な」


 吐き捨てるように男は目を細めた。


()()にそんな才はない。だから就職を諦めて縁談を頼み込んだのだ」


 ヤマトは言葉の節々に引っ掛かりを覚えた。だが初対面で喧嘩を売るわけにもいかない。とりあえず事実の確認に努める。


「いや、本当に転生ですよ。だからほら、俺皆さんの言葉判るでしょ。それに俺の世界の道具」


 腰のベルトからネイルガンや小型懐中電灯を取り出して見せる。防水仕様なので雨でも平気だが、充電しないままこの世界に来たからバッテリーは少ない。出来れば使わせないで欲しいと願っていた。

 だがカレンの父親は若者の言動よりも己で判断することを選んだようだ。杖を取りだし一言呟く。


「"サーチ"」


 教師の指揮棒のように細い杖の先に淡い光が灯る。光はすぐに消え、ヤマトには変化が判らない。ただ目の前の魔法使いには何かが見えたようで、興味深そうに目を細めた。


「ほう?珍しい状態だな」


 値踏みをするようにヤマトを上から下まで観察する。


「頭髪や皮膚の一部に()()()がなされた痕跡はあるが魔力はない。付与された術式はオートの認識言語変換だけか……」


 良く判らない単語の羅列を呟いたあと、フッと鼻で笑う。


「確かに異世界人を呼び出したようだが……やはり()()()は出来損ないだな。()()の定義を満たしていない」


「あなた、そんな言い方……っ」


 母親が割って入ろうとするが、父親がキッと一別すると女性はいすくみ沈黙してしまった。


「転生魔法を行使できたなら関係各所に口利きしてやっても良かったが、今のままなら彼に迷惑をかけただけだな」


 そこで父親は表情を緩めヤマトに微笑む。いかにも営業スマイルという感じの笑顔に、ヤマトは言い知れぬ冷たさを感じた。


「自己紹介がまだだったな。私はギルバート・コーネリア。アルト共和国魔法局南部支部局長だ……といっても、異世界から無理矢理連れてこられた君には意味のない肩書きだな。とりあえず君の味方だと思ってもらいたい」


「……」


 特に間違いや騙す意図は感じない。ただヤマトは違和感を感じ続けていた。


「この度は不肖な娘が大変な迷惑をかけた。君には申し訳ないと思っている。明日にでも君の術式を全て解除し、元いた世界に送還しよう」


「ちょっと待ってく……ださい」


 家には帰れる。人生設計どおりの仕事にも戻れる。それ自体は望ましいことなのだが……


「あの子は……貴方の娘さんはどうなるんすか?」


「君には関係のないことだ」


 営業スマイルにややヒビが入る。


「君の世界がどうなっているかは知らないが、この国では働く上では魔法が使えるかどうかは大きな意味を持つ。そうでない人が居ないわけではないが、基本的に使用人や小作農だな」


「……」


「いずれにせよ、高い金を払って魔法学校を卒業しておきながら、魔法使いにも非魔法使い(ノーマル)にもなりきれないカレンは家の汚点だ」


 彼は気付いているのだろうか、背後の部屋のドアの隙間から、当の娘が起きている気配があることに。


「故に私は名士ザクバ殿の側室にしたいという提案を了承したまでだ。仮に君がいうとおり人身売買の流れがあったとしても、穀潰しのままよりは社会に貢献できる」


「正気か!?」


 思わず立ち上がるヤマト。


「アンタ……あの子を……自分の娘を奴隷にされても構わねぇのかよ!」


「落ち着け、言っただろう?君の世界とは違う。社会に貢献できない穀潰しよりは、正式に契約された被差別階級の方がこの世界では身分が上だ」


 そしてその身分階級の更に上位に魔法使いのカーストがある。そういうことなのだろう。


「それに君は()()()というが、アイツは世間知らずで言動が幼いだけで25だ。魔法が使えない女性の平均婚姻年齢を過ぎている。自分の人生を切り開けないことが不満なら、それは無才なアイツの責任だ」


「カレンは無才じゃない」


 はっきりと言い切る。もう遠慮もクソもない。


「彼女が魔法使いなのは俺は見てるし知ってる」


「使えるだけで役に立たねば意味はないよ」


 ヤマトの怒りを受け流し、ギルバートはやれやれとジェスチャーをする。


「君は随分と私を責めるようだが、父親として娘の人生の介添えをしてるだけだ。雨が上がる朝には君を戻して上げるし、ザクバ殿には改めて慰謝料を払いつつ口添えはするさ」


「なっ……」


 今、何と言った?そういう前にギルバートはこちらの胸中を先読みする。


「そうだ。先ほどザクバ殿には連絡しているよ」


 この男の社会的立場がどの程度なのかは知らない。だが名士とされる男と取引出来るなら低いものではないのだろう。おそらく娘を死なせないような斡旋をして、ヤマトを返すことにも嘘はあるまい。だが……


「判った……俺達はここを出る」


「ほう?」


 興味深そうに呟くギルバート。彼に、そして彼に従い傍観に徹する母親に、ヤマトは断言する。


「俺はカレンちゃんに魔法で召喚された勇者だ。俺の功績は彼女の才能の証明ってことで良いよな?」


「何をする気だ?」


 ギルバートの杖を持つ手が僅かに震え気配が変わる。喧嘩の経験が少ないヤマトだが、それが()()と呼べるものだと本能的に悟る。


(彼と争うのは得策じゃない)


 あくまで自分とカレンが生き残り、最大利益を獲得できる立ち回りを考える。


「別に喧嘩したい訳じゃないっすよ、カレンちゃんのお父さん。アンタは娘に手に職つけさせたいんだろう?なら()()()()()()()()。その為に朝までにザクバから逃げ切る策を考えるだけさ」


「なぜそこまでする。あの落ちこぼれに惚れでもしたか?」


「ああ、あの子の()()にな」


 ピクっとギルバートの額に血管が浮かぶ。娘が欲しいと言い寄られたことより、己が無才と断じた彼女の才能を見いだされた事の方がプライドに障ったようだ。


「良いだろう、やってみたまえ。だがザクバ殿の使者がここに来たなら予定どおり婚姻と送還だ。そして使者に危害を加えるようなら……庇い立てはしない。君は罪人として裁くぞ?」


「承知しました。契約成立っすね」


 不敵な笑みを浮かべるヤマト。経緯は独特だがこれは仕事そのものだ。工期は夜明けか雨が上がるまで、報酬はカレンと自分の自由、工事の条件として怪我人を出さない……


「この仕事引き受けたっすよ、あ!1個だけ工具貸して貰って良いっすか?あと確認したいことがあるんすけど……」


 契約を受けたからには相手は敵じゃない。ヤマトは人懐っこい調子でギルバートに取り入っていった。


〜〜〜〜〜〜

 雨足は少し弱まり、外からは何やらガリガリトントンと音が聞こえてくる。布団から上体だけ起こし、カレンは己の体を見た。


(私は……どうしたら……)


 父とヤマトの口論は部屋の中まで響いていた。父を恨むつもりはない。彼なりに、この世界ではマシな生き方のレールを引いてくれたに過ぎない。

 ヤマトは……自分が無我夢中で拉致してしまった相手だ。既に危険に晒してしまったし、父がいう通り元の世界に帰して上げるべきなのだ。義憤に駆られて父に歯向かってくれたのは嬉しいが、魔法もスキルもない彼と逃げたところでジリ貧になる未来しか見えない。だが……


― カレンは無才じゃない ―

― あの落ちこぼれに惚れでもしたか? ―

― ああ、あの子の才能にな ―


 出会ったばかりの相手に恋愛感情など抱くはずがない。ましてや人生の墓場になる結婚願望なんて……だが彼の言ってくれた言葉には、言い様のない温かみと、光を感じてしまった。


「……」


 何とはなしに周りを見る。部屋には自分だけだ。幼少期から育った自分の1人部屋。カレンの将来を期待し、買い揃えてくれた高級な学習机や本棚。部屋と卓上には、父が自作した光球の魔法陣が刻まれている。夜でも勉強できるようにだ。


「よいしょっと」


 手に力を入れて起き上がる。怪我は感知し痛みはない。服は既に着ていた。濡れた服の着替えと洗濯は母がしてくれていたらしい。


(私、子供みたいだ)


 1人では何にも出来ない無能。そんなだから両親も子供として全てを管理しようとするのだ。


「……」


 カレンは静かに部屋を抜け出し、玄関に向かう。その様子を、台所からこっそり母が見ているのも知らずに……


〜〜〜〜〜〜

 一方外では、ヤマトが人知れず焦っていた。


「やべ〜、急げ急げぇ!」


 借りたノコギリで切り落とした太めの笹の幹をトンカチとノミ代わりのマイナスドライバーで割り、細い棒状にしていく。雨は小雨になりあまり濡れない。それが不味かった。


(まだ使者は来れねぇよな、けど急がないと……)


 この世界の物理法則は知らないが、流石に夜が数十時間もあるわけではないだろう。懐中電灯のバッテリーが持つことを信じて、不眠不休で複数の棒とその辺に生えている丈夫な蔓を組み合わせて型を作っていく。


「次は……」


「何してるんですか?」


「おわぁ!」


 作業を確認するために()()を見ていると、突如女性に話しかけられた。雨傘を差したカレンだ。手にはもう一つ雨傘を持っている。


「体調はもう良いの?」


「はい、まあ……それより貴方も傘差しましょうよ。今度はそっちが風邪引きますよ?」


 カレンは傘を差し出すが、ヤマトは首を横に振った。


「手が塞がるからいい」


 話しながらも彼の手は止まらない。確かに彼の周りにはいくつもの木の枝や板を組み合わせた工作物がいくつも出来ていた。


「これ、何なんですか?」


「今日の仕事で使うやつ。あっちにあるのは時間稼ぎ用かな」


 ヤマトは一際大きな型を持ち出した。四角い枠のように組んだ棒の対角線上に、沢山の蔓が巻き付けられている。かなり複雑な作りをしているとカレンは感じた。父と喧嘩してからそう時間も経っていないのに、恐ろしく手が早い。


「カレンちゃん、手を貸して」


 彼についていくと、村と外部に繋がるあの細い坂道に向かう。そこにもいくつかの型が既に置かれていた。カレンは察する。


「時間稼ぎって……この道塞いじゃうんですか?」


「うん、来るときも感じたけどこの坂を使わないとザクバの屋敷からは何時間もかかる。或いは川を渡るかだ」


 ただし増水した濁流を夜に渡ることは自殺行為だ。追手は必ず雨が上がってからここに来るはずだ。


「そんなことをしたら、村が孤立します!」


 カレンは声を荒げた。自分を自由にしようという彼の気遣いは嬉しいが、両親や村の人に迷惑はかけたくない。


「ふふふふふ、大丈夫♪」


 ヤマトは不敵な笑みを浮かべて計画を話す。カレンは仰天した。


「……そんなこと、出来るはずが……」


「出来るから俺はここに居るんだよ」


 型を嵌め終えたヤマトは次の作業に入る。ここに居る、それはこの世界に残る決意を意味していた。


「俺には夢がある。その為に前居た世界では死ぬ気で勉強して、技術を磨いてきた」


「なら、早く戻ってくださいよ……」


 言いながら胸にチクリと痛みが走る。命欲しさに彼を無理矢理この世界に召喚したのは誰であろうカレンだ。


「ここに残ったら貴方の夢が……」


 見ているだけで判る。彼には技能と確たる目的がある。何も出来ない自分とは違う。家族も友人もいない世界に居ることは、彼の人生においては損失に他ならない。


「確かに、前居た会社での夢は叶わないけどさ……」


 別の型を取り出して再び()()を見るヤマト。坂道とは別の、切り立った斜面に向かう。


「俺はこっちの世界で夢を叶えるチャンスを見つけたんだ。それを見逃すのはポリシーに反するね」


 そして語る彼の夢。カレンはその言葉に目を見開くのだった。

 御読了ありがとう御座いました。

 作者は建築業ではありませんので、嘘が多分に含まれているとは思いますがご容赦願います。

 もし本作を気に入った本業の方がいらっしゃいましたらご意見、ご感想を言っていただけると助かります。すぐに反映いたしますので。

 その他の方も評価、ブックマークをしていただけたら幸いです。

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