006. 出遭い
お待たせしました。本編更新です
最初のナイトファングの首を落としてから約5分、漸く周囲にいた全ての魔物を殲滅しきった。
途中から、血の匂いに釣られたのか他の魔物達が現れた時は辟易としたが近付いて来たのは少しだけだったみたいでそこまで手間にはならなくて良かった。
「おーい、周りにいた魔物達はは全部倒したんだからいい加減出て来て良いんじゃないですかー?」
動けないとか宣って戦闘を全て此方に放り投げた人物に声を投げる。
最初こそ本当に動けないのだと思ったが、戦っている途中で俺以外に人間の気配がしない事に気付いてからは、此方の不意を突いた攻撃をされないかと終始警戒しながら戦う羽目になり少々疲れた。
まぁそれも、何故か熱烈な視線を送ってくる存在に気付いてからはバカらしくなり辞めて普通に戦っていたが……。
その熱視線の方向を見やると、丁度木から降りて姿を現したところだった。
そして、その姿は予想していた通り耳が尖っていた。
「やっぱりエルフだったかぁ。それで?何で俺に声を掛け「ねぇ君、私の人生は要らないかい?」
………………はい?
「ん?ごめん、もう一回言って貰っても?」
「あぁ、勿論大丈夫だよ。ねぇ君、私の人生は要らないかい?」
よし、逃げるか
笑顔で世迷言を宣うエルフに背を向け全力で駆け出す。急に声を掛けて来た時は不審者認定をしていたが、漸く姿を見せたと思ったらいきなり人生を渡そうとする人物を不審者と同列に語っては不審者に失礼だ。
心の中でそっと世の不審者さん達に詫びながらあのエルフから全力で距離を取る。最早何処に向かって何処を走っているのか全く見当が付かないが、取り敢えず真っ直ぐ進めばいつかは道か川に着くだろう。そこで夜を越して、明るくなってから現在地を把握し再出発する。それが今取れる最善択だろう。
「おーい、そんなんじゃまた道に迷うだろう。一旦戻っておいで」
声が聞こえたと思った瞬間、目の前に植物の門が出来上がる。
そして、全力疾走中の人間は急停止する事も急旋回する事も出来ない。
為す術無く其れに突っ込んだ俺は、元いた場所に戻されていた。
「はいお帰り〜。夜の森は何があるか分からないんだから気を付けないと」
「えぇ、貴女みたいなのには出遭いたくないのでこれからは気を付けようと思います。それでは、これで失礼しますね」
顔に笑顔を貼り付け、ちゃんと挨拶もしたし、後はこの場を離れれば完璧だな!ウン!
「ちょっとちょっとぉ!?もう少しお姉さんの話を聞こうという気は無いのかね!?」
無視だ無視。ここで反応したら今度こそ逃げ切れない気がするし、そもそも反応する義理も無いし。
「無視かい……。それならしょうがない、あんまりこの手は使いたくなかったんだけどねぇ」
何をするかは知らないが、こういうのには大抵反応しない方が良いと相場が決まってるんだ。変わらず無視し続ければいい。
「私実はハイエルフみたいなものでね、エルフに対して絶対的な命令権を持っているんだよ」
はっ、エルフに対して命令権を持ってた所で此処らにエルフは住んでいないし、仮に王都に居たとしても極少数だ。脅しにもなってないじゃないか。
「あぁそうそう、デザートだったとしてもエルフはエルフだ。そして、此処らに住んでるデザートエルフが確か1人いた筈だよねぇ?」
……無視だ。どうせ暫くあの街に帰る予定は無い。そしてあの人はあの街を離れないだろうし、何かを命令した所で変わる事なんて一つも
「君の言っていたエルフの母親とは、もしかして彼女の事かな?」
「あの人に何をするつもりだ」
彼女の口からその言葉が出ると同時に、それの喉に短杖を突き付ける。
どんな経緯を辿って、如何に納得してなかったとしても、ルナさんは現状俺の家族だ。
そして、俺はもうみすみす家族を失くす事はしない。その為なら何だってする覚悟で、この5年間を過ごしてきた。
だから、例え相手がハイエルフとやらでも俺の家族に手を出すというのなら全力を持って排除する。
「おっと、そう警戒しないでおくれ?私は単に君のお母さんに、「息子さんとの仲を認めて下さい」と言いに行くだけだ」
……よし、この首切ろう
「わーわーわー!何で君は時々そう思い切りが良くなるんだ!私が死んでしまうだろう!?」
「殺すのを躊躇っては相手を苦しめるだけでしょう?」
「うーん、何とも純粋な眼だねぇ。お姉さん、反論出来なくなっちゃう」
「それじゃあ潔く首を差し出して下さい、痛くはしませんから」
「それなら……ってなる訳無いよねぇ!?まだ死ぬには早いよ!」
「何歳なんですか?」
「乙女に歳を聞くものじゃないよ、少年。私の年齢は1109歳さ」
「ババァですね。それでは、大往生お疲れ様でした」
「待て待て待て、一旦落ち着こうか」
「貴女の首を切れば落ち着けそうです」
「誰かー!助けておくれー!」
閑話休題
「それで?如何してそこ迄して俺に着いて来ようとするんだ?」
ルナさんといいコイツといい、距離感が変に近くて忘れそうになるが、エルフとは本来あまり人族とは関わらない種族の筈だ。過去、その美貌故に人狩りにあった歴史からあまり関わろうとしないらしい。その事件はすぐに解決し、被害に遭った人たちは皆解放されたとされている為か王都など人が多い場所では偶に見かける事もあるらしいが、彼らを人族の領域で見かける事は未だに殆どない。
そんなエルフが人生を渡そうとしてきたり外堀を埋めようとしてきたりして、一体何が目的なのか。
「んー、強いて言うなら一目惚れかな?」
「強いて言わなくて良いし一言で説明しなくて良いから詳しく話してくれ……。じゃないとこっちも対応に困る」
なんか最近、と言うか今日の昼間も似た様な遣り取りをした気がするがエルフは皆言葉が足りないのだろうか?
エルフが排他的というのは実は勘違いで、言葉が足りなくて意思疎通が図れていないだけなのでは?
「詳しく説明と言ってもなぁ、私も抽象的な感覚で突き進んだだけだから此れと云った根拠が無いから説明し辛いんだよねぇ……」
「はぁ?そんなのであんたに何するか分からん男に人生預けようとしたの?気は確か?」
「酷い言われ様だねぇ、まぁコレばっかりは否定出来ないのが悲しいよ。あぁでも、1つ根拠を示すならそれはこの直感が私の、ハイたる血を継ぐエルフの直感だからってのはあるよ」
「すまん、エルフの知り合いは確かに居るがエルフに詳しい訳ではないんだ。それが何で根拠になるのか説明してくれ」
「おや?君の母親に親になった理由を聞いた事は無いのかい?きっと彼女も同じ理由で君の母親になる事を決めたのだと思ったけどねぇ」
ルナさんは、そんなのではなく責任感で親になると言ってくれてるだけだろう。
そもそも出会う形が違ければ、彼女は俺の事を気にも留めなかった筈だ。
「ルナさんは言葉数が足りないからそこら辺の話は聞いてないんだよ。だからさっさと説明してくれ」
「ふーん、まぁいいか。エルフ族の直感についてだったね?我々エルフ族は一生に一度、己の運命を左右する出来事に遭遇したとき、どうすればいいか直感的に悟ると言われていてね。私は今まで旅をして来た中でそれを経験したというエルフに何度か出会っているし、その直感に従った人も従わなかった人も知っているが、それぞれがそれなりの経験をしていたよ。そんなエルフ族の直感はハイたる血が濃い程種の存亡に関わる時に働き、ハイエルフの直感に至っては世界の存亡に関わる時に働くと伝えられているのさ。そして、私はハイの血を継ぐハイに最も違い存在なんだよね。だから私は、自分の直感が働く事があったら直感の通りに行動しようと思っていたのさ」
話は理解したけど、俺の旅に着いて来る事がエルフ族の存亡、延いては世界の存亡に関わるって何の冗談だ?
俺の今の旅の目的は、思兼に頼まれて一国の王子様を引き抜いて来る事だ。それが世界の存亡に関わるって事はまさか、王国と皇国がそれで戦争して、その結果何やかんやあって人族が如何にかなって、それに巻き込まれてエルフ族等の存亡が危うくなって、それが世界の存亡に繋がるって事か……!?
いや、無いな。そもそも王子様が皇国に行く件は話が通ってるって言ってたし、それで戦争になる事は無いだろう。
それなら俺がこれから何かそういうのに巻き込まれるって事か?いや、たかだか一般人が1人巻き込まれて、その一般人が世界の存亡を左右する結果を生むなんて事は起こる訳がない。そんなのが起こるのは物語の中だけだし、そもそもその場合巻き込まれてるのは絶対に一般人では無い。
うーん、いくら考えても全く分からん。一体この旅の先に何が待っているんだ……。
「“悩んだ所で結果は変わらないなら効率化を図る”か……。よし、決めた!一緒に旅をしよう」
「色良い返事を貰えて良かったよ。それじゃあ改めて、私の名前はフェル・フォレス・セフィル。フェルと呼んでくれ」
「俺の名前はベント。これからよろしく、フェル」
「こちらこそ、末永く良しなに」
Side F の F はフェルの F でした。