Side F 001. 出逢い
大事な設定を忘れるという大ポカをやってポシャった本編を書き直す為のお茶濁し回です。短いですがご容赦ください
――視線の先では、無音の剣戟と眩い魔力の奔流が煌めいていた。
最初、迷いなく夜の森に入って来たのを見かけた時は一目で旅慣れしてない子だと分かったし、実際その後観察を続けて、同じ所をぐるぐる周り始めたのを目にした時は本当にこの子は何も知らずに森に入ってしまったのだと思った。
だから私は、その子が声を上げたタイミングで偶然を装い話かけた。その時の反応が可愛くてつい揶揄ってしまったのは仕方がない事だったのだ。だからこそ声を出していた位置の少し下、普通ならば喉がある位置に唐突にナイフが突き立った時は肝が冷えた。
ただその後は如何にも混乱してますといった感じだったから、錯乱して投げたナイフが偶々その位置に当たったのだと思った。
それが疑問に変わったのはその直後。周りを囲って来ているナイトファングに一瞬意識を向けた隙に、彼は腰に刺していたワンドを抜いていた。
意識を割いたのは本当に一瞬だった。その一瞬で武器を構え終えたのはまた偶然なのか?それとも……?
そして、その疑問はすぐさま確信に至る。
こちらを囲っていたナイトファングの内1体が彼に飛び掛かり、それとほぼ同時に彼はこちらに向けて突っ込んで来る。
その時、彼は確かにナイトファング達に気が付いていなかった。
なのに彼を守る為動こうとした時には、既にナイトファングの首が落ちていた。
今度こそ彼から目は離していなかった。なのに彼が何をしたのか視えなかった。この私が、森の中で、目を離していないにも関わらず、視る事が出来なかったのだ。
ナイトファングに気が付いた彼は私にも戦わせようとしたが、咄嗟に動けない事にして彼に戦いを任せる。
彼の実力なら例え寝込みを襲われたとしても無傷で返り討ちに出来るだろうし、さっきの出来事の後では手を貸すより視る事に集中したくなってしまう。
案の定、彼は悪態を吐きながらも文句は言わずに1人で対処に当たってくれた。それは彼がこの状況でも怪我人を1人守りながら周囲を制圧するのは可能であると自覚しているからだろう。
そこから始まったのは正しく蹂躙だった。
側から見たら何故かナイトファングの動きが鈍り、彼がその側を通り過ぎる時には既に首が落ちている。それだけでも異常だが、何より異常なのは彼の周りは首が落ちる音以外の一切の音がしない事だろう。
彼が通った後は首と胴が離れた死骸の道が残る。
それは最早見るもの全てに恐怖を感じさせる、戦いと呼ぶのも烏滸がましいナニかである。
しかし私の持つ眼は、それとはかけ離れたものを写し出す。
彼が戦闘を開始すると同時に、周囲に魔力が立ち罩める。その魔力は普通の人間が魔法を使う時に発するのとは桁違いに量が多く、密度も異様に高い所為で魔力を餌に活動する筈の魔物があろう事か魔力酔いを起こし動きが鈍る程であった。
そして、本人はその魔力を更に凝縮・硬質化させた物をワンドの先端に集中させ擬似的な刃を造り出し振るっている。
その魔力の運用方法は、コップに水を満たす為に湖1つを引っくり返す様な超が幾つか付く程に効率の悪い運用方法。
その普通なら1秒と持たずに魔力を消費し切る様な余りにも効率の悪い方法を、内包する馬鹿魔力によって無理矢理成立させた結果周囲に高密度の魔力が立ち罩め、戦闘が進むほど溢れ出た魔力が吹き荒れる。
その魔力が吹き荒れる光景はとても暴力的で、そしてそれ以上に言葉に出来ない程幻想的で、戦いと呼ぶには惜しいナニかであった。
気が付くといつの間にか戦闘は終わっていた。
あれだけ吹き荒れていた魔力は姿を消し、そこにあるのは頭と胴が分たれた無数の死骸だけであった。
「おーい、周りにいた魔物達はは全部倒したんだからいい加減出て来て良いんじゃないですかー?」
死骸の山の中で何事もなかった様に佇む姿はまるで現実感がない光景で、いつの間にか夢でも見ているのかと考えてしまう。
いや、いっそ夢だったらどれほど良かっただろう。
あんな輝きを魅せられて、「助かったよ。それでは」なんて出来る訳がない。
彼の行く末を、彼の紡ぐ物語を、そしてその結末を、私は間近で見届けたい!
それを成し後世に遺す事こそが、私が無駄に長いこの生を授かった意味である!
今まで漫然と世界を旅し、それでも尚空虚だった己の胸の裡を興奮が埋めて行く。“この機会を逃すな!逃せば後は空っぽの余生しか残っていないぞ!”と本能が叫んでいるのを感じる。
ここが私の運命の分水嶺、彼の旅に同行させてもらう為に何よりも気を付けなければならないファーストコンタクト。
さぁ、私の半身になるであろう少年に声を掛けようではないか!
「ねぇ君、私の人生は要らないかい?」
Side Fは気分で書いて行く予定です。そんな多くは書かないけど章の最後には纏め的に必ず入れる予定