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ENDLOSS 〜終焉日記〜  作者: fars
第一章 オレン王国編
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005. 今度こそ王都へ!

 




「ははは、すまない。まさかあんなに上手くいくとは思っていなかったんだ」


すぐにステラさんを追いかけようとした俺の腕を、ルナが固めて動けなくしてから約10分。

ステラさんはとても良い笑顔で部屋に戻って来た。


「ステラさん、一体どういう事ですか……!」


「どういう事も何も、聞いた通りさ。君とそこの女は今日から家族だ。おめでとう」


そう言いながら、ステラさんは芝居掛かった動きで手を叩く。口調も何時もとは違い、何となく悪の幹部に寄せてるような気がするが、言ってる内容は本心だろう。

その一見馬鹿にしかしていない態度を見て、少し冷静になった。


「なんで、こんな事をしたんですか」


「いや何、君がどんな事情を抱えていて、その口下手がどんな言葉を尽くして説得しようと結果は変わらないんだ。なら効率化を図っても良いとは思わないかい?」


「そんな事「ない。と言うのなら、君は素直に家族になるって提案に頷いたかい?断言する、それこそ絶対にない。それは君が一番分かっている筈だよ?」


まるで台本通りでもあるかの様に、出鼻を挫かれる。だが実際、ステラさんが言っている事は間違っていないのだ。俺はルナさんに家族になろうと言われても、生半可な理由じゃ頷かない。それは今までもこれからも、何があっても変わらない事実だ。

だが、だからと言ってそれをはいそうですねとすぐに飲み込めるならそもそも俺は既にルナさん乃而ステラさんと養子縁組なり何なりをして家族になっている。人は言葉だけで渓谷を埋める事は出来ないのだ。


「でも!「なら、ポーターになって君がずっと憧れそして怨んでいるそこのパーティに入ると良い」



それは、それだけは、踏んではいけないと皆が避けていた虎の尾だっただろ



「すみません、私はやらなければならない事があるのでこれで失礼します」


「待って……!」


後ろから事の成り行きを黙って見ていたルナさんの声が聞こえたが、反応する事なく部屋を出る。

ステラさんは黙って扉の前を開けてくれたが、彼の顔を見たら1発殴る位はしそうだったから顔を見る事は無かった。




§§§




「1発は殴られると思っていたんだけど、彼も随分と大人になったようだ」


ベントが去った後の隊長室。ステラは、さっき迄とは打って変わってとても優し気で慈愛の籠った声で呟きながら、部屋の主の目の前に腰を下ろす。


その部屋の主はと言えば、普段の感情が薄い顔が見る陰も無い程に哀しみと自己嫌悪に染まっていた。


「殴られれば良かった……」


「おや、それは手厳しい。あぁそれとも、自分がって事かな?」


それの発言で、ルナの中で怒りが占める割合が少し増える。


ルナは言葉と感情が表に出ないだけで、感情の起伏は人並みにはある。それは、長い時を生きたエルフには珍しい事であった。


「なんで」


「ははは、そんな短い言葉で想いが伝わる訳ないだろポンコツめ。そんなだから何時迄経ってもベント君との溝を埋めれないと分かっているでしょう?」


「…………ん」


「それに、僕は他の奴らよりも貴女を見てきているから言いたい事が伝わるし、口が悪いのが素だとアンタは知ってる筈だ。……あと、ベント君にあんな事をしたのは悪いと思っている」


ステラはルナの「なんで」に込められた意図を全て察し、淀みなく答えた。それは、この2人が今まで積み上げて来た時間と信頼の深さを窺わせるものだった。


「なら……」


「その“なら”をした結果が、ナハトさんとベント君の関係であり今までの僕らの関係でもあった。そして2人の関係が特に歪だったのは、一番近くで見てた僕らが分かっている筈だよ」


「うん……」


「それでもあの子と家族になるというのなら、これは仕方のない……いや、しなければならない事だったんだ」


2人のその様は、まるで年齢が逆になったかの様だった。

ルナはそれを言われたきり不貞腐れた様に黙り込んでしまうし、それを見つめるステラの眼差しは子供を見守る親のそれで、今この場を切り取って誰かに見せれば間違いなくステラが親だと答えるだろう。


「さて、僕はそろそろ職務に戻るよ。やらなきゃならない仕事が溜まっているからね」


言いたい事は全て言ったと言わんばかりにステラはサッサと部屋を出て行ってしまう。

1人取り残されたルナは、始めから座っていたソファの上で身動ぎ1つせず、ベントと出会うキッカケの記憶まで深く深く潜っていくのだった。




§§§




「あ゛あ゛あ゛何やってんの俺ぇぇぇ」


日が傾き西の空が紅と濃紺のコントラストに染まる頃、俺は最早何度目かも分からない呻き声を上げていた。


あの後、一言も喋る事なく詰所を出てそのまま門まで向かった。門にはザニンさんが居て何か言おうとしていた様だったが、俺の雰囲気を見て何かを察したのか、何も言わずに出街手続きを済ませ門を通してくれた。

そうして、不貞腐れたまま只管王都に向かって歩いてると次第に気持ちが落ち着き始め、それに伴い客観的に己の行いを振り返れる様になり自分のやった事を嘆いているのである。


「なーにが“踏んではならない虎の尾だった筈〜”だよ!いい加減割り切って前に進もうと思ってたのに、やらかしたなぁ」


日が天辺にいた時から何一つ変化してない思考を永遠に繰り返す。

今更街に戻りもう一度同じ話をするなど、心情的にも時間的にも現実的ではない。だからと言って割り切れる性格をしていたらそもそも今まで引きずっていないし、あんな事にはならなかっただろう。


「あ……野営の準備しなきゃ」


完全に日が落ち、宵闇の帷が視界を塞いだ頃に漸くそれに思い至る。

本来なら日が暮れ始める頃に始めて日が落ちた時にはもう火が灯ってる状態にしなければならなかったのに、これでは薪を拾うどころか背負っている袋の中を確認する事も出来ない。


「仕方ない、今日はもう寝よう」


今から道を逸れ森に入り、そのまま地面に這い蹲り薪を何とか拾い集め、それを抱えて焚き火ができる場所を見つけ、背嚢をひっくり返して中から火起こし道具を探す位ならば、寝られるくらいの場所を探して明日すぐ出発する方がよっぽど良い。


「せめて近くに川でもある場所を探すか」


起きた時の事を考え川辺に向かう事にする。当然地図は見えないが、明るい内に見ていた記憶が正しければ左手の森に入って少しした所にあった筈だ。詳しい場所が判らなくても方向さえ合っていればあとは音を頼りに辿り着く位は出来るだろう。




そう判断し早10分、俺は夜の森の中で完全に迷っていた。


原因は、流れる水の音で川の位置を特定できると甘く考えた事だろう。冷静になれば、風で鳴る葉擦れの音と川のせせらぎを聞き分けられる程良い耳を持っていない事に気が付けた筈だ。

その事実には森に踏み入ってすぐ気付く事が出来たが、その時にはもう夜の森で方向感覚を失った後で手遅れになっていた。今ではもう自分が王都に向かって進んでいるのかラントの街に向かって進んでいるのかすら分からない。


「あーもうここ何処だよー!」


「おや、そこに誰かいるのかい?」


「ッッッ!?」


つい発してしまった声にあると思っていなかった反応が返って来て飛び跳ねる。


「ははは、急に声を掛けて済まないね。良ければここで倒れてる美人なお姉さんを助けてみないかい?」


「は?は?は?」


え、なに?何処から声聞こえるの?夢?幻聴?あ、俺死んだのか。だから同族の声が聞こえる様になったって訳かー!


「おーい、聞こえてるかなー?無視はお姉さん傷付くぞ〜?」


「――ッシ!」


聞こえた声の方向に全力でナイフを投げる。これが当たってれば生きてる、外れてたら幽霊……!


「ちょっとぉ!?ちょっと驚かせただけでそこまでするかい!私を殺す気か!」


「外れてる!やっぱり幽霊か!」


「当たってたらそれこそ幽霊が出てたろうねぇ!そうなったらお前さんに一生取り憑いてやろうじゃないか!」


「はっ!こっちには単なる悪霊なんざちょちょいっと除霊出来る聖女様とべらぼうに腕の立つエルフの母親が居るんだよ!やれるもんならやってみろやぁ!」


最早売り言葉に買い言葉で自分が何を言ってるのかも分からないまま、夜の森で騒ぐのは御法度という事さえ忘れ言葉が勝手に口を吐く。


敵は恐らく1人!ならばやられる前に殺る!


混乱の境地に達した俺は、腰に掛けてた短杖を抜き声がする方向へ飛び掛かる。その直前、横から飛び出してくる気配を感じ咄嗟にそちらの方向に短杖を振り抜く。


――ドサッ


一撃で首を斬り落とされた闖入者の名前はナイトファング、夜闇に紛れて集団で狩りを行う狼型の魔物である。

この魔物は視力が余り良くない代わりに聴覚と嗅覚が発達している。また火などの明るいものは苦手な為、森で野営する時は火を発すか無理ならば川辺などある程度音が紛れる所でと言われている。

そしてそんな魔物が生息する森で騒げば如何なるかと云えば、いつの間にか周囲を囲まれ徐々に周が狭まってきている現状の通りである。


「そこに居る人!そっち側に来てるのは任せるぞ!」


「あ、ちょっと待って下さい。あのね、いや、ホント冗談抜きでね?実は私今殆ど動けない状況でして、何なら既に足噛まれてて痛いっていうかまぁそんな感じでして」


「はぁ!?」


「端的に言いましょう。助けてーーー!」


「バカやろーーー!」





タイトルと内容の温度差が違うのは気にしないでください。

気になる方は風邪をひいといて下さい


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