003. いざ王都へ!
説明回です。
以外要約
思兼から身分証を貰ってウッキウキだったのにそれが超が幾つも付くくらいレア物だったせいで衛兵隊の隊長に連行されたってお話です
朝、と言ってもまだ日も登ってないので人によっては深夜と言うかも知れないがそんな時間に目を覚ました。
昨日の夜ベットも高級すぎて眠れるか不安だった筈なのに、包み込まれるかの様な今までにない感触のベットに横になった瞬間意識が落ちていた。
高級宿、やばい
身支度を整えてそのまま受付に行き、出発する事を伝えて部屋の鍵を返す。もう二度と泊まれないと思うと名残惜しいが、何時迄もうだうだしている暇は無い。さっさと出発しよう。
最初の目的地、王都ドレン。この国オレン王国の首都である。生まれてこの方この国に住んではいるが一回も行った事がない。思兼は「オレンは今まで訪れた国の中でもダントツで平和な国であり、王都もそれに倣うように平和で穏やかな気風」と評していたから、初めて行くにはもってこいの場所なのだろう。
そんな王都で探す人物は2人、うち1人は所在がハッキリしていた。……していたがそれが問題だった。
その人物の名前は「エレク・ロ・オレン」。
この国の第一王子である。
「はぁぁぁ……。確かに何でもするとは言ったけど何で初めがこの国の王子なんだよー……。会いさえすれば話は通じるって言ってたけどそもそもどうやって会えばいいのさー!」
宿から出て門に向かう道すがら、最初の任務を思い出して頭を抱える。
思兼は軽く言っていたがそれは思兼が聖女という立場にあるからであって、たかが一般市民の俺が簡単に会える訳ないだろう。
何回かその事を思兼に言ったのに、「大丈夫ですよ?」と何が問題なのか分かっていないかの様に全く取り合ってくれなかった。
「あれは絶対に理解してない……。何で田舎から出た事がない一般市民が王子様に会えると思ってるんだ……」
まぁここで何を言っても決定も結果も変わらないし、なにかもっと建設的な事を考えた方がいいのかもしれない。
建設的な事……そうだ、今日の昼ご飯は街道から少し逸れて森の幸にしよう。夜の分まで採っておけば食料も余裕を持って使えるな。王都まで約10日。そこまで遠出するのは初めてだし、何があるか分からないから備えるに越した事はないよね。フォレスが物を揃えて足りなくなった事はないけど、それでも一応やれる事はやるべきだしね。他には……
「おいベントー!門を通る時は手続きだぞー!」
声を掛けられた方に意識を向けると、気付けばもう門の目の前に来ていた。
「あぁ、ごめんなさいザニンさん。ちょっと考え事をしてて」
「壁の中にいる時はそれでも良いが、こっから先でそれやると死ぬからな。ちゃんと気を付けて行ってこい!」
「はい、行ってきます」
確かに、ここから先少しは歩き慣れた道が続くがすぐに知らない道になる。王都までの道で盗賊や魔物の出没報告は内容だが、居ないとは言い切れない。気を引き締めて行こう。
「おう。それじゃ、いつも通りこの紙に名前を書いといてくれ。そっからの手続きは今日だけ特別に俺がしといてやるよ」
「それなんですが、私とうとう身分証が出来ました!」
「何だって!?あんだけ作るのを渋ってたお前がとうとう身分証を作ったのか!?」
「あははは……」
まさかそんなに驚くなんて……俺が身分証を作るのはそんなに驚く事なのか……
この世界の身分証は大きく分けて3つある。
1つ目は今まで俺が使っていた仮身分証。これは身分証を発行しているどの街・組織にも所属しておらず、身分証を持たない者が街に入る時に所定金額を払って受け取り、出る時に返すその街限定の身分証である。最低限の保証しかなく、街の中での公共福祉を利用するのにもお金が掛かるし宿の部屋など受けられる福祉の等級に制限が掛かる事もある。
これを使うのは、街の外に住んでいて街を利用する機会が少ない者たちである。
2つ目は街に住む者たちが大抵持っている特定身分証。これはその街に税金を納めている者が街から支給される身分証であり、街の公共福祉を無料で使う事が出来たり、それを発行した街であれば自由に出入り出来る身分証である。これを発行するには同じ身分証を持っている者が保証人になる必要がある。
母が亡くなってから何度か、ステラさんや衛兵隊隊長のルナさんに保証人になるからこの街に住まないか?と言われていたが、ずっと断っていた為この身分証は今まで持っていなかった。
そして3つ目が、汎用身分証である。これは開拓者協会、通称ポーターと商業共同互助組合、通称ギルドのどちらかの組織に所属していたら貰えるものである。その2つの組織は世界中に広がっており、なんと亜人族と魔族の領域にも存在するらしい。この身分証はその組織が設置されている街なら何処にでも自由に出入りでき、街の公共福祉も無料で使える優れ物である代わりにその組織に納める税金は街に納めるより高く、しかも1年単位で更新があり規定に満たない場合即失効し、失効したら再取得まで一定期間かかる上に厳しい審査がある。
そして、俺が今回貰った身分証はそのどれらにも含まれない第4の身分証“神聖皇国証”という物らしい。思兼に貰って初めて存在を知ったが、これは「税金を一切納めなくていい上に汎用身分証でできる事も全て出来る身分証」らしい。思兼が笑いながら言っていたから、神聖皇国に行けば宿が無料で取れる位の特典はありそうな気がする。
「それで、誰に保証人になって貰ったんだ?てか、この街に住むことにしたのか!ちょっと待ってろ寝てる奴らも叩き起こして呼んでくるからよ!」
「ちょっとちょっと、待ってください!私はこの街に住む予定は今のところ無いですし、保証人は居ません!落ち着いてください!」
何でいきなり皆んな呼ぶ話になってるのさ!?そんなに俺の身分証が出来るのは重大案件な訳!?
「は?保証人無しで身分証作ったってこたぁベント、お前さんポーターになったのか!?いやぁ、ナハトさんが血と泥に塗れてお前さんを抱えてきた時には何事かと焦ったが、あん時の赤ん坊が今や立派にポーターになりやがってねぇ……。こうしちゃいられねぇ!仮眠取ってる奴ら叩き起こして非番の奴たちも全員呼ぶからちょっと待ってろ!なんなら出発1日ずらせねぇか!?パーっとやろうぜ!」
「ほんっとうに待ってください!?俺はポーターにはならないってずっと言ってるでしょう!?あと仮眠取ってる方たちの事すぐ起こそうとしないで!」
「お、おぉぅ……急に大声で叫ぶな、落ち着けや。な?」
「お前が言うな!!!」
閑話休題
「んでベントよ、保証人付きでこの街の住人になるでもなく然りとてポーターになるわけでもないって……身分証詐欺にでも掛かってねぇだろうな?」
「なんですかそれ……。おれが貰った身分証は“神聖皇国証”って名前の歴とした物って聞いてますよ」
「あー、それは詐欺だな。んな物30年門番やってて1回も見た事ねぇぞ」
最初は疑うように見てたのに、名称を言った瞬間哀れむような目で見て肩を叩いてくる。
「いいか、門を通れる身分証は昔教えた通り3種類だけだ。それ以外の身分証に代わる通行証なんて物はないし、身分証だって受付にある魔道具に反応しない物は偽物だ。なんて騙されたかは知らんが、俺らが犯人をふん縛って金は取り戻してやるからあんま気落とすなよ。な?」
うん、これようなじゃなくて普通に哀れまれてるわ
このままでは詐欺に引っ掛かってウッキウキだった哀れな奴認定されるどころか、今度こそこの街に引っ越す事になかねない。
そうなる前に俺が貰った物が本物だと証明する為、上着の内ポケットから件の身分証を取り出す。
「ん?それが騙された身分証か。って、この身分証表も裏も何も書いてねぇじゃねぇか。形は確かに身分証と同じだが、材質はなんだ……?ベントよ、こんなので騙されるならやっぱこの街で暮そう。俺だけじゃねぇ、副隊長と隊長だってお前さんの事心配してるのは分かってるだろ?」
「結論は一旦それを魔道具に掛けてからにしてくれませんか?」
「お前さんがそれで納得するなら幾らでも掛けてやるが、これで反応が無かったから今すぐ副隊長のとこに行って「家族にして下さい」って言いに行くんだ。分かったな?」
どれだけ俺に対する信用がないんだ……
「分かりました。それで良いので早く試してみてください」
「おう。んじゃちょっと待ってろ」
まだ若干渋い顔をしているが、なんとか魔道具に掛けてもらう。幾ら笑っていたとはいえ、思兼も偽物を渡す訳ないだろうしコレで門を通れるだろう。
初っ端から少し躓いてしまったが、特殊な身分証っぽいしこれからこんな事はちょくちょく起こると思えば、最初がここで良かったと思えてくる。
なれば今は穏やかな心持ちで待っていようではないか。
と、思って待っていた時期が私にもありました。
「帰ってこない……。ザニンさん、何してんの……!」
あれから10分。すぐ戻ると言っていたザニンさんは一向に戻ってくる気配がない。
「身分証を魔道具に翳すだけの筈なのになんでこんなに時間が掛かってるの〜!え?まさか偽物だった……!?いやでもそれならすぐに戻ってくるんじゃ……」
「ベント、こっち」
「っ!?……て、ルナさんですか。心臓に悪いので気配を消して話しかけないで下さい……」
「ん、来て」
気配を消して後ろから声を掛けて来たのは衛兵隊隊長のルナさんだった。
ルナさんは思兼とはまた違った色合いの綺麗な黒色の長髪で、そのスラっとした体型は見る者に儚げな印象を感じさせるが、その実戦闘になるとその線の細い身体の何処にそんな力があるのかという程武骨で巨大な大剣を踊っているかの様に振るい、その長い黒髪がまるで夜闇のドレスを纏っているかの様に身体の周りを靡く様から“夜叉姫”と呼ばれているらしい。
しかし本人の性格は苛烈とはかけ離れていて、独特なペースの上に言葉数が少なく何時もステラさんを振り回している。
「すみません、それが今はちょっと動けなくて……」
「これ、本物。来て?」
そう言いながらルナさんが懐から取り出したのは、俺の身分証だった。
全く何も分からないけど、ザニンさんに渡してた身分証はルナさんが持ってるしその事で呼ばれてる……?ならそっちに行っても大丈夫かな?
「分かりました。ルナさんに着いていきますね」
「ん」
問題は戻ってくる筈のザニンさんだけど……うん。ザニンさんの上司からの呼び出しなんだから行き違っても俺は悪くないって事でいっか!それに俺も放置されてたしね!