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ENDLOSS 〜終焉日記〜  作者: fars
第一章 オレン王国編
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002. 雑貨屋Myo

 




少しして思兼が頭を上げた後、そこにいたのは何時もの雰囲気に戻った思兼だった。


「それでは、詳細の説明とこれからの打ち合わせをしましょうか。ハク、新しい紅茶を。ベントは何時ものもので良かったかしら?」


「うん。ハクさん、お手数おかけします」


「これが私の仕事なのでお気になさらず」


思兼は紅茶を、俺はハクさん特製のハーブティーを飲みながら話を進め、一通りの話が終わったのは2杯目を飲み切った頃だった。


「それでは、よろしくお願いしますね」


「承知しました」


思兼はこの後別件が有るらしくそのまま残って、俺は先に部屋を出る。受付にいたステラさんに俺との用事は終わった旨を告げそのまま詰所の外に出ると日はまだ高く、何をするか迷ったがまずは腹拵えをしてからこの先の準備をする事にした。


詰所を出てすぐの街のメインストリートを進み並んでる出店で遅めの昼を済ませた後、そこから幾つも伸びる細い路地の1つに入る。

そこを少し進んだ所に目的の雑貨屋があった。


そこは街の人間でも知ってる人は少なそうな位置に店を構えている上に看板も出しておらず、客が来なさそうに見えるが何故か店内には必ずお客さんがいる不思議な店である。


今日も店内には1人先客がいたが、あまり気にせず店主のところに向かう。最初母さんに連れてこられた時は、奥まった場所にある上に雰囲気も怪しげで少し怖かったが、今では街に来る度に顔を出すくらい馴染んでいる。


「久しぶりフォレス。元気にしてた?」


「おう、変わりはねぇよ。必要そうな物はそこに見繕ってあるから、確認だけしといてくれ」


店に入って真っ直ぐ店主のところまで声を掛けに行くと、店主のフォレスは手短にそれだけ答え作業している手を止める事なく近くを顎で指す。そこには少し小振りな背負い袋が置いてあり、言われた通り中を確認すると中には1人用にしては大きめなテントと、明らかに2人分の野営道具が入っていた。

フォレスは不思議な事に、何時も店を訪ねた時には既に必要な物を用意してくれており用意された物が不足した事も余った事もない。不思議に思い聞いた事もあったが、企業秘密だと言われて終わった。それ以外にも、この店には不思議な事が沢山ある為最早そういうモノだと考えていたのだが、流石に2人分の道具が用意されてると疑問に思う。


「フォレス、2人分入っているみたいだけどこれは予備?」


「いつも通り必要な物を必要な分だけ入れてある。詳しい事はその時になれば分かるさ。」


確かに、今までも店に居る時には分からなくてもいざその時となったら分かった経験は何度か有るし、今回もそうなのだろう。

釈然としないものはあるが、フォレスは必要最低限すら喋らない為疑問は諦めて飲み込むか放り投げとくのが吉とこれまでの付き合いで学んでいるのだ。


「ありがとう。今日の分はちゃんと代金を払っていくよ。幾ら?」


何時もはちょっとした日用品だけだし、フォレスも昔母さんに代金を貰っているからと言って受け取ろうとしないが、今日の物は流石に料金外だろうと思い財布を出す。旅に必要な資金は思兼が出してくれると言われているし、何時ものお礼も含めて高めの金額でいいとフォレスに伝える。


「そうか……、少し待っててくれ」


するとフォレスは、少し何か悩んだ後、急に立ち上がり奥へと消えていく。手持ち無沙汰になり店の棚を見ながら待っていると、程なくしてフォレスが何かを持って戻って来た。


「これをこのまま、直接聖女様に渡してくれ。それでこれからの代金もチャラでいい」


フォレスから預かったのは、中身が入った細長い布の袋だった。それは花の緻密な刺繍が施されている見るからに高そうな布袋で、口が縛ってあり中は見えなかったが渡されて持ってみるとずっしりと手に重みが掛かった。


「分かった、これをこのまま聖女様に届けるよ。すぐに渡した方がいい?」


「次会った時に渡せばいい」


「了解。それじゃ、暫くは会えないと思うけど次来た時はまた宜しくね」


「あぁ、そうだな。気を付けろよ」


「うん、ありがとう。行ってきます」


そのまま預かった布袋と荷物を持って店を後にする。外に出ると、そろそろ日が傾き始める頃だった。早めに今日の宿を取っておかないともうすぐ日が完全に落ちてしまう。その前までに今晩の宿を取っとかなければ。


メインストリートに一度戻った後、そのまま宿屋が集まっている区画に移動する。すると、一つの宿の前で見知った顔を見つけた。変装しているようだから、今はお忍びで出歩いているのだろう。

次に会う時までこの重い荷物を持ち歩かないといけないのかと思っていたが、そんな事は無かったようだ。


「ヤミ、さっきぶり。今時間ある?」


ヤミというのは、思兼がお忍びで出歩いている時に呼ぶ事になっている偽名だ。名前の由来は夜考えたかららしい。


なんと安直な


まぁ、思兼の艶やかな濡羽色の髪を想わせるその名前はとてもよく似合っていると思う。


「えぇ、さっきぶりね。――中に入って話しましょうか」


「了解」


そのまま思兼の案内で宿の中に入る。入る時に思兼が受付に行き少し話をした後、鍵を1本預かって戻って来た。


「隣の部屋を借りたから今日はここに泊まって行って。料金はこちらが持つから安心してね」


どうやら部屋を取ってくれていたようだ。タダで高級宿に泊まれるならと、そのまま鍵を預かり思兼の部屋について行く。

思兼が部屋に入り変装を解いた瞬間、何処からともなくハクさんが現れてお茶の準備をし始める。

急に隣に気配が湧いたが、さっきまで何処にいたのか一切視界に写った記憶がない。

チラッとハクさんの方を見ると、澄まし顔でティーカップを温めているが微妙に口角が上がっている為、驚いた事はバレた様だ。


「それで、なんの用事?さっきの話で何か分からない事があったかしら」


ハクさんに驚かされ気が逸れていたが、思兼に声を掛けられ本題を思い出し、背負っていた布袋をテーブルの上に置く。

思兼と会ってからずっとこの布袋から目を離してない感じ、本題は分かりきっていて話を振ってくれたのだろう。


「いや、それは大丈夫。今回の用件はコレ、さっき雑貨屋に必要な物を買いに行ったら代金代わりにコレを聖女様に渡してくれって頼まれたんだ。中は見てないよ」


よくよく考えれば、中身を確認していない物を聖女様に渡すのは如何なものかとも思うが思兼の様子を見るにサッサと渡す方が吉だろう。

それにしてもこの布袋、よくよく見ると新品のようにも見えるがとても古いようにも見える不思議な布袋だ。


「――ありがとうございます。コレはとても大切な物……そう、私の命よりも大切な物なのです。届けていただき、本当にありがとうございます」


……今日は今まで見たことのない思兼の顔をとてもよく見る日だ


お礼を言いながら布袋を取る手付きはとても優しく思い出を慈しむかのようなのに表情は言い表せない程の哀しみを湛えていて、なのに発した声には一切の熱が乗っておらず無味乾燥としていて。

なんだかとてもチグハグな様子だった。


俺が何を言うべきか言い淀んでいると、目の前にティーカップが置かれる。


「粗茶です。思兼様の分はいつもの物を用意しております。」


「ハクさん、なんで俺のもいつものじゃないの?」


「思兼様以外に出す物など、粗末で十分でしょう」


「急に辛辣になりましたね!?」


「……ふふっ。ハク、ベントにも何時もと同じ物を用意してあげて?」


「畏まりました」


俺とハクさんの掛け合いを見て笑った思兼には、さっき迄の雰囲気はもう残っていなかった。

それを見て少し安心した顔をして俺の分を淹れ直しに行ったハクさんの横顔を見て、ハクさんが気を遣った事を察する。

全く、主を気遣うのは良いが俺を山車にしないで欲しいものだ。


新しくハクさんが用意してくれた物は、今度こそ何時も用意してくれている物と同じでとても美味しかった。


「さて、私は用事があるのでそろそろ出掛けなければならないのですが、ベントはどうしますか?」


「俺は明日の早朝に出発する予定だから早めに休もうかと思ってたところ。そろそろ暗くなってくるし気を付けて」


「はい、ありがとうございます。それではお休みなさいませ」


「うん、おやすみ」


思兼と挨拶を交わし、そのまま隣の部屋に行く。

部屋の内装は思兼の部屋と違っており、高級宿である事を再認識する。何処を向いても非の打ち所がない程洗練された様式美を湛えていて、ただ単に成金趣味な宿ではない事が一目で分かる。


これは思兼が気にいる訳だ


――コン、コン、コン


部屋の内装を一通り見て部屋のソファに腰を下ろしたタイミングで、扉がノックされた。


「ベント様、お食事をお持ちいたしました」


その声で、思兼に料理は部屋に運ばれてくると言われていたのを思い出す。慌てて返事をし扉を開けると、部屋の外には執事の様な見た目をした人がカートを押さえて待機していた。


「失礼いたします。お食事が終わりましたら食器を回収に参りますので、こちらのベルを鳴らしてくださいますよう、よろしくお願いいたします。」


「ありがとうございます」


俺がカートを引き取ると恭しく一礼をして去って行く。


……上流階級ってすごい。


その後食べた料理は盛り付けも凄く凝っていて、まるで芸術品の様だった。しかし、食器も高そうな物ばかりで傷を付けない様に等色々と気を付けていた結果、味は殆ど分からなかった。




 

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