はじまり、はじまり
むかしむかし、この世界が産まれるよりもずっとむかしのお話です。
そこには、1人のとても明るい女神様がおりました。しかし、その女神様は泣いていました。ずっとずっと、泣き続けていました。
そんなある時、1人の真っ暗な神様がやって来ました。神様は女神様に聞きました。
『貴女はどうしてそんなに泣いているのですか?』
女神様は泣きながら答えました。
『私は、ずっと我が子を殺し続けているのです。私の声から、涙から、心から、存在の全てから我が子が産まれ、産まれたそばから私の光に焼かれ死んでいってしまうのです。だからどうか、私を殺して下さい。貴方様ならそれが出来るのでしょう?』
女神様は泣きながら懇願します。その願いを聞き、神様は答えました。
『確かに私は貴女を殺せます。でもそれは、貴女を救う事にはならないでしょう。貴女が本当に我が子が死んだ事を悲しんでいるのなら、今度こそ死なせない為の願いをするべきです。』
しかし、全てに絶望している女神様にその言葉は届きませんでした。
『今度こそ殺さない為に、私は今ここで私の命を終わらせる事が最善なのです。私はもう我が子が死んでいく事にも、新たな我が子を産み落とす事にも堪えられないのです。どうか、どうか私を殺して下さい。』
それを聞き、神様は考えました。
今、百の言葉を尽くし千の想いを伝えようとも、彼女の考えを変えることは出来ないだろう。しかし、彼女の望みのまま今ここで殺してしまうのは何の解決にもならない。ならば私はどうするべきか。
悩んだ神様は、刹那の間に膨大な時間をかけ一つの答えを出しました。
『私は、貴女は今ここで死ぬべきではないと考えています。しかし貴女は、今ここで死ぬべきだと考えている。なので、間をとりましょう。私は貴女を半分殺し、そして私を半分殺します。私は、自分を殺した分の力で貴女の子に貴女のもとで生きる力を授けましょう。貴女は、子と子らが生きる世界を産み落とし、残った半分で子らの行末を見守りなさい。その子らの最後を見届けた後、その時にまた貴女の意思を問いましょう。その時にまだ、貴女が死ぬことを望むのなら、その時は貴女を完全に殺しましょう。』
女神様は、それで殺してもらえるならと条件を呑み神様と誓いを立てました。
そうして、世界と人々が生まれ、女神様と神様が死に、昼と夜が生まれました。
今でも、昼は女神様が、夜は神様が見守っているのです。