深夜0時、星が降る夜に。
わたしは、わたしの誕生日が嫌いだ。
夏は暑いし、夏休み中だから学校で祝ってもらえないし、お盆だから誕生日パーティーも友達を呼べないし、わたしの“誕生日”なのに田舎の親戚の家に行く。
“親戚の家に行く”なら、隣町のばーちゃん家に行くだけでいいのに。顔も名前も知らない、ちょー田舎に行ったってつまんない。楽しいのは、お酒飲んでゲラゲラ笑ってるおっさん(わたしのとーさん、含む。)達ばっかりじゃん。
なんで、8月13日なんだろう。
弟も同じ夏なのに、七夕生まれだから学校で祝ってもらえるし、給食のデザートだってゼリーが出る!
ずるいよ。お家に帰って来たら、ケーキだってあるんだもん。
昼間やってたオリンピックの決勝戦みたいに、リビングの方から大きな声がする。
何個も何個も離れた部屋なのに、酔っ払った大人達はゆー○ゅーぶの広告みたいにうるさい。
なんだかむかつく。みじめだ。
じわりと溢れてきた涙をこぼさないように、怒りで冴えた目にギュッと力を入れた。
すごい顔してるけれど、誰も見てない。この部屋に放り込まれたわたし達子ども組は、わたし以外みんな寝てしまっている。
「……せいら。起きてる?」
違った。わたしと真反対の襖側にいる、そーまにぃが起きてた。
「……とーさん達がうるさくて、眠れないもん」
「あはは。お酒飲んでるからね」
「そーまにぃも?」
「うーん……俺は、いつも遅くまで起きているから」
確かに、“お受験”をしたそーまにぃは、夜遅くまでべんきょーしてるっておばちゃんが言ってた。わたしにはできない。べんきょー嫌い!
「ね、星蘭。起きてるなら、少し外行かない?」
布団から起き上がったそーまにぃが、わたしを誘う。
「毎年毎年、見飽きてるかもだけど。今年は星蘭が起きれているみたいだし。星を見よう」
「うん! 見に行くっ!」
思わずあげた大声に、弟がふがふがと寝言を言いながら寝返りをうつ。シーッと人差し指を唇にあて、クスクスと2人で笑った。
大きな家の中をそーまにぃの案内でしばらく進み、リビングの喧騒からも子ども部屋の静寂からも、離れた場所にいたる。広がる闇とシンとした空気に、ぶるりと体が震えた。
「足元に気を付けて。ここから、庭に出られるから……」
雨ざらしのつっかけが、石段にのっている。そーまにぃに支えられながら両足を通し、庭に降りて空を見上げた。
「わ、あ……!」
見渡す限りの紺碧に、銀の星々が広がる。まるで星の世界を泳いでいるみたいだ。
「お家から見る空と違う。すごい! お星様の海みたい!」
「都会は明るいから、普段は見えない星も、ここからは見えるんだ。……おいで」
上を向いたままのわたしを、そーまにぃは導いた。じゃり、じゃり、と砂とつっかけの奏でる音だけが響いている。
庭の中ほどまで来ると、そーまにぃはごろんと寝転んだ。
「おいで、星蘭。地面に寝たくなければ、頭は俺の腕に乗せて良いから」
そーまにぃが笑って、両腕を広げてくれる。その右側にしゃがみこんで、そーまにぃにそって横になった。
心臓が、ドキドキする。
「空は、全体を見渡すように。ぼーっとリラックスしていると良いよ。多分、すぐ見られると思うか……ほら」
「わぁー!」
きらりと、海の端で星が流れた。
「ペルセウス座流星群って言うんだ。三大流星群の1つで、12日から13日がピークなんだよ」
いつも星蘭は寝ちゃってたから、とそーまにぃが目を細める。
「いつか、星蘭に見せてあげたかったんだ。……誕生日、おめでとう」
光を極限まで落としたスマホを、そーまにぃがわたしの方に向ける。
そこには、8月13日、0:00と数字が並んでいた。
「生まれてきてくれて、ありがとう。来年も、また、星蘭と流れ星が見られたら良いな」
世界から、音が消える。
息の仕方を、忘れた。