のんちゃんとたっくん 二
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望たちが地球から見ている月は、実は大魔女様が作った月のバリアであると聞かされたのは、ついこの前の十五夜ことだった。
そのバリアを支えている柱というものが、月のいたるところにあるらしい。柱の正確な数はわかっていない。数百本と言ううさぎもいるし、数千本と言ううさぎもいる。
その中でも一番大きく精密な模様が描かれている柱が、神殿の中央に鎮座している。その柱は、大魔女様が初めに創造した柱だという。うさぎたちは大魔女様に敬意を表して、ここにお供物をしていく。
森で採れた木苺や、川で拾ってきた綺麗な形の石など、大魔女様のことを想ってお供えする物ならなんでもオッケーだそうだ。望たちが餅つきで作った餅も、お供物になったとのことだ。
初めて望がその柱のある神殿に連れて行ってもらった時のことは、今でも印象深く覚えている。月の楽園は空気が澄んだきれいなところだけれど、その中でも神殿は格別というか。とても神聖な気持ちになったのだ。
占いでは都合のいいところだけスピリチュアルなものを信じる望でも、「ここは空気が違う」と思わず呟いたくらいだ。
「そうなんです。我々うさぎたちの心の支えなんです」
ほっとしたような、褒められて嬉しいような顔をしたのは、望たちが月に降り立ってからずっと世話をしてくれているルナだ。
「のんちゃんをお連れしたいところがあります」と緊張した声で言われた時は、どうしたんだろうと心配になった。行き道も言葉少なめだったルナは、望が神殿に入ると泣きそうな顔で微笑んだ。
「……すいません、その、のんちゃんのことを疑っているわけではないのですが、人間をここに連れてきていいものか、迷いまして……」
ルナはしどろもどろに話す。
「そっか、それだけうさぎ達に大切な場所なんだね。連れてきてくれてありがとう」
望はルナの前にゆっくりとしゃがむと、ルナの頭を撫でた。緊張したように耳を立てたルナだったが、すぐに耳をへにゃりとさせて望の手を受け入れた。
おそらくだが、ルナは地球で人間に酷い目に遭ってきている。
ルナは地球のことに詳しい。すごいねと望が言うと、「何度か私も地球のうさぎとして生まれ変わったことがあります」と答えが返ってきた。どうだったか聞こうとして、望はそれ以上聞くことをやめた。ルナがとても悲しそうな顔をしていたからだ。
詳しいことはわからないけど、望はルナがもう怖い思いをしなくていいように願いながらルナに触れている。
「のんちゃんー!」
神殿の中まで進んでいたらしいサリーが望を呼ぶ。望とルナは柱が続く通りを抜けて、サリーの声のする方へ向かっていった。
神殿の中央には、存在感のある大きな柱が立っていた。望が両腕を回しても一部しか囲えないほど太い柱は、神殿を突き抜け、はるか上空の月のバリアまで伸びているのだそうだ。
望は柱を見て思わず「おお!」と仰け反ってしまった。威厳あふれるこの柱が昔からずっとここにあって、うさぎたちの楽園を守ってきたと思うと、ありがたやありがたやと拝みたい気持ちにもなるというものだ。
望は両手を合わせて柱にご挨拶をした。
サリーとルナは、そんな望を見てじっとしている。
「あの、よかったら、触っていただいて」
ルナがおずおずと切り出す。
「え、いいの? 神聖なお守りなんでしょう?」
「のんちゃんなら大丈夫です。邪悪な者ならとっくにブラックホールまで蹴り出されていますから」
望はひきつった笑いを浮かべながら柱に近づいた。ルナは時々、ブラックジョークなんだか、本気なんだか分からないことを真顔で言うことがある。どうか弾き飛ばさないでくれと心の中で拝みながら、望はそっと柱に触れた。
ひんやりと冷たいかと思われた柱は、ほのかに温かかった。象牙色の柱は、陶器より柔らかい感触がする。
望が触ると、ほわんと柱が光った。
なんだろう、感知センサーみたいなのかな? セキュリティーチェック? え、いや、私、怪しいものではございません!
冷や汗を掻きながら望は固まった。動いていいのか、いけないのか。手を離したとたんに「ドカン!」となったり……え、しないよね?
「さすがのんちゃんです!」
ルナの大きな声に、望はびっくりして手を離してしまった。「あ」と思って柱を見るも、特に怒っている様子はなさそうだ。柱が怒るっておかしいけど、意思がありそうな気がするのだ。
「これほどまでに柱が光るなんて、近年稀に見ない現象です!」
ルナは熱心に首を振ると力説する。
「そ、そうかなあ。ありがとう。えへへ」
褒められて嬉しいのと、そんなに大事なのかとビビリながら、望は行き場を無くした手で頭を掻いた。ルナは時々こうして、大袈裟に褒めてくれる。これも本気なんだか気を遣ってくれているのか、いまいち掴めない。
「サリーもごあいさつする」
サリーはぴょんと飛び跳ねて柱にぺたりと掴まった。
なんかちょっとバッタみたいだなと思ったのは口にしないでおく。
柱に無事認められたらしい望は、それからお参りに来るようになった。




