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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

漫画。描いた・描いてた

作者: 孤独

「「漫画描くの楽しい」」


小学校の隣同士の席で漫画を描くのが好きな男の子が2人。


「将来は漫画家になりたい」

「将来は……」


1人は漫画家を強く志した。もう1人は……この時はまだ答えを出してはいなかった。


やがて、2人はクラスが変わって離れる。

そして、小学校から中学校、……高校で別々のところへ行った。


漫画家を目指した子はずーっとずっと、漫画を描き続けた。その道のプロになる事を目指した。

まだ答えを出していない子は勉強をしながら、空いた時間を見つけては漫画を描いた。

どちらも漫画を描くのは楽しい。


高校を卒業し、漫画家さんのアシスタントとして雇われた。

高校を卒業後、大学に進学した。この頃には、薬剤師になろうと思っていた。


「いつか俺も先生達のような立派な漫画家に……」


憧れを傍に置きつつ、色んなところに応募を出した。これが夢。成功して世に認められたら、人生最高なんだと思って、まさに血が滲むくらいペンを握った。

自分の・夢のための仕事。


「いつか私も薬剤師の日常でも描いてみようかな」


薬剤師の免許を取得し、薬剤師の仕事に励んでいた。これが夢……という思いこそなかったが。遣り甲斐のある仕事なのは違いない。大半は困っていたり、辛そうな顔をする人達でも元気になってもらいたい。そんな仕事。

人の・必要であるための仕事。



「やった!連載を勝ち取った!!」



25歳の漫画家。色んな賞をとり、出版社から認められての出来事。だが、ここでは絶対に終わりたくない。嬉しさは受け取りつつ、褌をきつく締めるくらいに慢心はしなかった。今まで以上に向き合った。



「……!……凄いなぁ」



面白い漫画を発見した、25歳の薬剤師。興味を抱くと同時に小さい頃から続けていた漫画作りに、今の仕事を落とし込もうと考え始めた。

ほのぼのと、ちょっと可笑しくて、少しリアルな感じ。



ガンッ



「クソッ!クソッ!!」


27歳の漫画家。人生で最も大きい挫折だった。周囲の期待に応える事はできず、人気は勝ち取れなかった。なんとか再起を図りたいと、再び出直す……が。

多くの読者という世間の声は、少しばかり辛いもの。


「え?ホームページに載せるとか、本気で言ってます?」


27歳の薬剤師。最初はただの面白半分であったが、自分の漫画を同僚や後輩に見せたところ好評だった。それは同じ職場だから、という共通の認識はあったんだろうが。

少ない読者の口から出された声は、少しばかり嬉しいものだった。


「認められなきゃダメなんだ。認めてくれなきゃ……」


読者に合わせるため、自分の中で折り合いをつけた。自分は読者を楽しませるエンターティナー。それがあるべき漫画家の姿。なんでも取り入れようとした。

本当に自由な漫画家は、この世にはいない。成功した人達だけがそうなれるんだ。



「薬の紹介をお客様に伝えられて良いか」


なんか店にも貼られる事になって恥ずかしさがあるが。概ね、好評。自分の絵柄や話を褒めて頂けるのはホントに嬉しい。それでいて、自分も楽しいのだ。

漫画家でもないし、成功している感じでもない。

分かっているのは子供の頃からある、漫画を描くのは楽しい。



グググッ



「なんでこいつの人気が出ないんだ。……というか、読者はこのキャラ好きなのか?」


折り合いはつけたが、葛藤はする。ペンを握って目の前に手にしている、新たな新連載に感じる。

でも、言い聞かせる。これが俺の目指した漫画家の姿だ。

成功すれば、認めてくれるんだ。

自分は変わったんだ。



やがて、その作品はアニメ化となってテレビを賑わせた。



「薬局のWEBアニメの原案を?」


周りが言うからと、自分の描いてて楽しいからってのがあった。しかし、そこからオファーまで来るとは思っていなかった。小さな動画制作の会社と、薬の大切さなどを伝えるためにと、ショートアニメのいくつかを自分の漫画から選ばれるとは思いもよらなんだ。

そこに夢がないなんて言ったら、ウソだ。それに


「みんなのためになるなら、引き受けてみたいです」



それは人のためになる。



そして、アニメ作品は完成。動画サイトで公開され、賑わせた。



◇        ◇



「俺は漫画家なんだ。漫画家なんだ……」


40を過ぎた。エンターティナーとしたら、古い時代の人かもしれない。

それを認めても自分にはこれしかない。だから、しがみつこうとする。そして、


「俺の作品はアニメ化だってしたんだ。若い奴等に負けてなんかない……」


しかし、若い存在を危惧しているんじゃない。それを理解していた。

作品が飽和している事を感じている。どれもこれも自分や読者達が知っているようなこと。それをいかに飽きさせず、人を魅了させるか、……見てもらうための努力。

それはやがて、



「今はこんなのが流行ってるなんてオカシイ!」



不満・焦り。自分の大きな成功が動かして、流行を動かそうとする。それは見るなというような、少し脅迫染みた同業者潰しも交えた。

周りだってやっていたんだ。自分がしても別に構わない。

漫画を描く時間を削ってでも、流行を見極めつつ、ライバルは蹴落とさなければ……。

夢には敵が多すぎる。


「私のアニメを見て、薬剤師を目指したって?」


40を過ぎた。薬剤師として働いているし、今でも漫画を描いている。

お客様としてWEBアニメを見たという声はいくつか届いていたが、よもや自分の作品を見て薬剤師を目指したという後輩が現れた事に驚いた。



「アニメよりシビアな現実だよ……ははは」



薬剤師と、漫画を描くのを続けて良かったものだ。



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